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風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾弐

2010-05-04 23:15:07 | 大人の童話

六小と三十六年ぶり再会してから二年後の平成二十一年、夢は再び六小に会いに

行きました。実は、前に六小に会った時、資料室でもう一つ、夢にとっては重要な

発見をしていたのです。それは、やはり二十周年記念誌に載っていた、夢の在学

当時の先生の文章でした。そこには、夢たち第四回卒業生が植えた卒業記念樹

「タイサン木」のことが書かれていました。しかし、夢には卒業にさいして記念樹を

植えたという記憶はありません。なので、他のクラスが記念として植えたのでしょう。

今回、六小に会うのは、その樹が今もあるかどうかを確かめたい、ということも

あったのです。


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾壱

2010-05-03 23:22:21 | 大人の童話

夢がうれしそうに言うのを聞いて六小も言いました。

「へぇー、そうなんだ。わかったんだ。よかったね、夢ちゃん。」

「うん。」

六小は、夢が6年の時、自分のチャイムをほめてくれたのを思い出し、夢に

言いました。

「夢ちゃん、昔、わたしのチャイムのことを、いいってほめてくれたよね。」

「うん。」

「わたし、自分では、いいかどうかよくわからなかったんだけど、夢ちゃんにほめて

もらえてすごくうれしかった。そのことだけはよく覚えてる。」

夢がにこっと笑って、

「うん、あの時の六小さんたら、ふーん、ふーんとしか言わなくて、わたし、

おかしかった。」

と言うと、六小は、

「うん、だってわからなかったんだもの。でも、ほんとよかった。夢ちゃんの長い間の

疑問がわかって。」

と、自分の疑問が解決したかのように喜んで言いました。

「うん、ありがとう。」

「今日は、もう遅くなっちゃったね。」

六小が言うと、

「そうね。ごめんね、六小さん。あまり、お話できなかったね。」

と、夢は、資料を見るのに夢中になって、六小と話せなかったことを謝りました。

「う・ん、まあ、いいよ、今日は。そのかわり、また来てくれる?夢ちゃん。」

「うん、もちろん。」

「その時は、いっぱいお話しようね。」

「うん。」

夢と六小は、それからしばらく、お互いに見つめあっていました。やがて、夢は

「またね。」というように視線をそらし、長年の疑問がとけた思いからか、晴れ晴れと

した表情で六小から離れていきました。六小は、夢のその姿にひときわ大きな光を

放って見送りながら、「また来てね。絶対・・・来てね。」と、小さく呟いていました。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾

2010-05-03 15:35:25 | 大人の童話

夢が、長年の疑問が解けて一人感激に浸っていると、またまた六小の大きな声が

響きました。

「ちょっと、夢ちゃん!今行くって言ったくせに、どうしちゃったのよ。もう夕方だよ。

わたしと話す時間、なくなっちゃったじゃないのよ。ん、もう!」

六小は、資料室に入ってから全然自分を相手にしてくれない夢に、とうとう完全に

怒ってしまったようです。夢は、

「ごめん、ごめん。」

と謝りながら資料室から出てくると六小に言いました。

「懐かしくて、つい夢中になっちゃった。でも、おかげでいいものを見つけたよ。」

「何?いいものって。」

六小は、夢の「いいもの」と言う言葉に強く興味を持ったようで、体全体に光を

あふれさせ、キラキラしながら訊いてきました。

「うん、あのね、六小さんのチャイムの疑問が解けたの。」

「えっ、チャイムの疑問って、あの時、夢ちゃんがいいって言ってくれたわたしの

チャイムの。」

夢の言葉を聞いて、六小は驚いたようですが、とてもうれしそうでした。光をさらに

大きくして体全体を包み込み、キラキラとまぶしいほどに光っています。夢もそんな

六小の姿を見てうれしくなりました。

「うん、あの時は何のメロディーかわからなくて、今までずっと気になってたんだけど、

わかってよかったわ。今日、六小さんに会いに来てよかった。」

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の拾九

2010-05-02 11:13:45 | 大人の童話

六小のいらいらしているような声を聞いても、夢は、まだ資料室でいろいろと見て

いました。そんななか、ある台の前で何かを見ていた夢の顔つきが変わりました。

その台には、各周年記念誌が置いてありました。夢は、読んでいた周年記念誌の

なかの一冊、二十周年記念誌に、夢が子どもの頃に何のメロディーかと気になって

いた『チャイム』に関する文章を見つけたのです。それは、夢が卒業した後に六小に

来た先生の書いた文章でした。そこには、こう書かれてありました。「六小の

チャイムは、今でも『田園』でしょうか。」と。この文を読んだとたん、夢のなかで

何かがストンと落ちました。そう、夢は腑に落ちたのです。「ああ、あのメロディーは

『田園』だったんだ。曲の冒頭部分を、チャイム風にアレンジしたものだったんだ。」

と。夢はその日、家に帰って早速『田園』を聴きました。確かにそうでした。六小の

チャイムは、確かに『田園』の冒頭部分をアレンジしたものだったのです。夢は感激

で言葉も出ませんでした。無理もありません。六小にいた頃、大好きだった

チャイムの音、いつも何のメロディーか気になっていたチャイム、それが、やっと、

卒業して三十六年たってやっと何の曲かわかったのですから。しかし、現在の

六小で、もうその音を聞くことはできません。それを知った時、夢は、ちょっと残念に

思いました。でも、あの頃の、あの六小独特のチャイムの音は、大人になってからも

ずっと耳に残っており、夢に時々、懐かしい響きを聞かせてくれています。そして、

夢には、六小のチャイムになぜ『田園』が使われたのか、わかるような気が

するのでした。夢のいた当時、六小の周りは家もほとんどなく、畑と林ばかりでした。

そんな田園風景から、当時、チャイムを決めるにあたって、係りの人の頭に

『田園』が思いうかんで、六小のチャイムに使われることになったのでしょう。ただし、

これはあくまでも夢の推測です。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の拾八

2010-04-29 23:01:15 | 大人の童話

台の上に置いたアルバムには、開校・三周年記念式典、一周年・三周年記念

運動会等、当時のいろいろな学校の様子を写した写真がありました。その中には、

夢が見覚えのあるものもあります。それは、『開校記念誌』に載っている各学年

各クラスの写真でした。撮ったのは、そう、確か、新校舎に移って間もない

昭和四十一年の九月末頃のことだったと思います。夢は、「すみません。ちょっと

写真を撮らせて下さい。」と言って教室に来た人が、教室の後ろから何枚か写真を

撮っていったことを覚えています。当時は、『何、撮ってるんだろう。』ぐらいにしか

思わなかったのですが、今になってその訳がわかりました。夢はアルバムの写真を

見て、『ああ、あの時の、開校記念誌に載ってるやつだ。』と、なぜかうれしくなり

知らないうちに顔が微笑んでいました。資料室には、他にも懐かしいものが多く

ありました。当時使っていた教科書・校歌制定の時に児童ももらった校歌の楽譜・

各周年記念誌・当時の学校周囲地域の写真等です。夢が、懐かしさからそれらを

夢中になって見ていると、急に六小の大きな声がしました。

「何、ずっと見てんのよ。さっさと見ちゃってよ。わたしと話す時間がなくなるじゃない。」

六小はどうやら、夢がいつまでも自分をほったらかしにして、一人で昔を懐かしんで

いることに不満のようです。夢は、急に大きな声で話しかけてくる六小に、

『相変わらずだな。』と思いながら、

「はいはい、わかったわよ。今、行くから。」

と言って、六小の言葉を軽く受け流していました。