今回はサラマンカの小さな観光案内。
スペイン北部の小さな街に洋品店「ZARA」が開いたのは
70年代半ば。
それから大した年月もかからず、日本を含む世界88カ国、2000以上の店舗を
展開する大企業に成長し、現在ではその名を世界に誇るスペイン産の
トップブランドとして、広く知られていることは周知の事実。
スペイン国内の隅々に、400以上の店舗が散らばる。
ここサラマンカにも2000年代初頭に第一号出店。
その後あれよ、あれよという間に同企業関連店舗が
オープンし、気がつくと街中心の通り一本がすべてZARAの本体
INDITEXグループに“占拠”された状態となった。
名前は違えど同じ企業のブティックがずらり…
その通りの中、一番の店舗面積を誇るZARAショップ。
外見は他の建造物と並び、同じキナコ色の砂岩で作られた
目立たぬ趣き。(サラマンカ中心地は、伝統的にこの地元産砂岩による
建築物で統一されており、世界遺産指定後の現在、他の形状の建築は許されぬ)
マヨール広場のすぐそば。
一等地。
バーゲンの時期など、ワクワク顔で出入りする客でごった返す。
ショッピングに夢中になる客らの頭上に
過去、この場所が実は聖堂を含む修道院であった形跡
が静かに在る。
●モードの殿堂
入店してみて、天井への吹き抜けが実に広々と
高くとってあることに気がつく。(約22メートル)
そして突き当たり、左のあたりをみると
おおこれは!
なんと荘厳なる趣き!
そう、現在はモードの殿堂として人々を集める場所ながら、
かつては聖堂であったことをしっかりと残している。
●王立聖アントニオ修道院
正式には「サラマンカ王立聖アントニオ修道院跡」
(Restos del Convento de San Antonio El Real de Salamanca)
という呼称で、スペイン重要文化財(Bien de Interés Cultural)として
1997年に登録されている場所なのだ。
(紋章の王冠が“王立”であることを物語る)
元々は何某伯爵の邸宅としてあったこの場所、
これを老齢となった修道士ら(恐らくドミニコ会)の保護養老施設という
目的で建設計画がスタートしたのが1732年(享保16年)だった。
その土地面積はこのZARAショップの隣、現在リセオ劇場となっている
場所も含むから、相当広い。
この建設計画には、サラマンカ市内の重要な建築に数多く関わっている
ヘロニモ・ガルシア・デ・キニョネス氏が関わっており、数十年の時を
経て随分計画は進んでいたと思われる。
(天井ドームの美しさ)
しかしながら、この修道院はその完成を見ることなく、
廃墟としてその後長年葬られる運命となってしまった。
これは18世紀から20世紀初頭に度々発令された永代所有財産解放令
(Desamortización)によるものらしい。
恐らくスペイン歴史の教科書にその説明があると思うが、ようは
教会や修道院といった非生産的な土地を、政府が没収、競売をすることに
よる公的債務の解消を主目的とした法令。
是非はともかく、これによって実に様々な教会関係の建築物が
廃墟となった。(この国の地方の博物館などに行くと、展示されている
紋章だの、聖人像、石碑などは、大抵この永代所有財産解放令によって
バラされてしまったものを掻き集めてきたものが多い…と思う)
(サラマンカ博物館所蔵。どっかの邸宅に
あったらしきガーゴイル)
● 歴史の遺物を維持すること
さて、この修道院、長らく廃墟であった後に、
近代では個人宅として、またとある銀行の店舗として
利用されていたらしい。その後もまた廃墟に戻っていたのだが…
2005年、8年の年月を改築に費やして、ZARAショップとして
華々しくオープン。
実はこの企業による買収に関しても、現地の保守派から
随分反対の声が出ていたらしい。
…ただね、じゃなかったら誰が金出して修復すんの?
って話でありますわな。(ここらへんで反対派は黙るw)
歴史の遺物の管理維持…ただそれだけではなく、現在の利用価値
をつけなければできない話なのでしょう。難しいね。
完成した店舗の内部は丁寧に歴史的部分を残しながら、
別の近代的素材とうまくマッチさせたデザイン。
美しいと思う。
そして…入場無料じゃないか!
(買い物のふりばっかりでごめん、お店の人ww)
ということで、機会がありましたらぜひ“入場”してみて下さい。
参照資料
https://www.asturnatura.com/turismo/restos-del-convento-de-san-antonio-el-real-de-salamanca/3439.html
https://www.reharq.com/rehabilitacion-convento-san-antonio-el-real-zara-salamanca/