スペインサラマンカ・あるばの日々

スペイン語留学の街、サラマンカより、地元情報とスペイン文化、歴史に関する笑えてためになるコラムをお届けしています。

老舗バルに行きたくなる日~スペインバル雑感(1)

2017-05-31 23:18:22 | サラマンカのタベモノ・バル情報

「元祖チョイ飲み天国」なんだな、スペインは。

そもそもチョイ飲みだのという言葉が作られる前から、

おしゃれ立飲みなどができる前から、

ふっつーにバルなるものは市民生活にはかかせぬ存在だった。ここでは。

そして嬉しいのは
「バル≠酒場」、つまり“酒を飲まなきゃいけない所”ではないこと。
(これ結構誤解されてる方、多し)

基本的に老若男女問わず、飲酒あるなしを問わない。
緩い感じにて、各々のスタイルで飲食を楽しむ場所。

職場の飲み会のごとく、無理して飲む必要もなく、
後ろめたさを感じながら昼ビールをこっそり飲むこともなし。
飲む人にも、飲まない人にも優しい。いいね~



とにかくあちこちに、ある。
ここサラマンカにいたっては、住民一人に対するバル軒数が全国一を誇る。

地元情報発信基地であり、観光案内所であり、また簡易スペイン語レッスン場
にもなりと、ヘタなコンビニより便利だったりする、この愛すべき立ち寄りポイント。
これは一度でもこの国を訪れた方は実感されたことと思う。

…と語りたいことは多いのだが、近年、どうもこの現地バル関連に関して、「ぐぬぬ…」と腑に落ちない傾向がある。

ちょっとしたグチみたいなものを、少しだけ書いてみようか…
(もしかしてスペインバル指南を期待して読み始めた方、いきなり現状グチで失敬!)

● ガストロ・バルなるものの“ふんぞり感”

バルセロナ出身の料理人、フェラン・アドリア氏と、そのレストラン「エル・ブジ」。
まさに料理界の革命児としてその名は日本を含む世界に轟き、その栄光を極めること90年代後半から2000年前半。
彼が代表者のように語られる、同時代のスペイン国内のグルメブームは大きな社会的な動きであった。



食に対する人々の意識が目覚め、料理に携わる者の社会的立ち位置も変わり、「カリスマ・シェフ」なるものに憧れ、
この世界を目指す若者がぐっと増えた。-それはいい。

今までの土臭い、古臭い内装のバルに、変わり映えのしないタパスを並べたバル…なんてのに代わり、
「ガストロ・バル」なる、洒落た内装の店内にて、注文ごとに作る“創作タパス”をサーウする店、というのが増えた。
-それもいい。

しかし…流行りもんには、大量のアホが便乗する。

「ふっつーのオカズを小洒落たデカい皿に乗せて、倍以上の値段を取る。」
「焼いた肉片横に、既成のソースをアートな感じで散らして終了。」
…などというアホをする、エセ・ガストロバルの大量産出に至ってしまった。

それらは大抵どーでもいいレベルの味。
ドヤ顔でご大層に「Teriyakiソース添え」のうんちゃらを、ワイン1杯と共に供され、お会計がフルコース・
ランチメニューの金額だったと知った時の、私の疲れをまとった眩暈経験を想像して頂きたい。

もう最近では「ガストロ・バル」という看板を見るだけで(そして店内内装も、流す音楽もどこもすごい似てる)、ヒッとなる始末だ。

●フランチャイズ系バルの、地上げ屋的展開

いや、別に憎むとはいわない。
しかし…どの都市に行っても、中心街のどれかの道は、“彼ら”の店だらけ通りに成り果てている。
日本の繁華街がどこもファーストフード店で埋め尽くされてるのと同じ。



(おまけに隣の道は、あのZARAで知られるインディテックス・グループのブティックで占められている…)

そしてどのタパスをとっても“万人に受ける”、“おしゃれにみえる”、“でも味凡庸”なんだ。
ようは前出ガストロ・バルの、めちゃ安価版。コンビニのオカズみたい。

オーブンとフライヤーしかない厨房とか。
行く度に働いてる人が新人とか…。
でもビールだけは妙に安いとか(←ビール会社のチェーンだったりする)



なんか…悪くはないんだけど…なんなんだろう、この微妙なだまされた感。

●若い世代のバル離れ

最近スペイン人の大学生とバルに行って、“え?どうやって頼むの?”的なことを
初めて訊かれた時の衝撃といったらなかった。

留学生時代、小汚い学生御用達のバルに同行し、安くて山盛りのじゃがいもフライ
のブラバスソースかけを、これまた安いだけが取り柄のマズいビールやワインで流し込みながら、
大いに社会情勢についてのレクチャーをしてくれたのは、当時のビンボー大学生らだった。

しかしながら…現在の大学生はどうかというと。
週末ともなると、いそいそとデリバリーのピザとコカコーラを抱え込んで
友人宅に集い、ネットゲームに一晩中耽るというのが結構なスタンダードだ。

彼らが最後にバルに行ったのは、恐らく両親親戚との集まりの時と思われ。

自分が経験した、「カルチェ・ラタンでのカフェー談義体験」なぞは、もう過去のもの。
そんな談義なり、情報交換なんぞぜーんぶネットでできちゃうんだもの。
そもそも家から出る必要なし。

あぁもう次世代がいないんやな…となると、もうバル文化自体の将来が薄々見えてくる…

●そんな時に行ってしまうバルがある

 …なんだかここまで書いてしまうとジジイのグチ的に終わってしまいそうですがw

じゃあスペイン・バル文化が消滅の途にあるか?!
いや別にそんなことをワタシが憂いてどうするんですかねw
知らん。もう気持ちは行く川はなんとかうんたら…by鴨長明ですよ。


こういう遠い目をしたくなる時はもうね、なんか「ブレない」バルに行く。
クラッシックな感じの。微妙に方向が吉田類氏と同じなんだけどw
そのうちの一つがここ、「レストラン・バレンシア」のバルコーナー。



1954年創業。小さな飲み屋から始めて、今は代がかわりつつも、地元郷土料理を変わらぬ
美味しさ提供している、と定評のレストラン。
客のほとんどが地元民、常連客で占められ、観光客らしき人々は少ない。

ここのこじんまりしたバル内装が…外国人の自分からみたら正にベタな「ザ・スペインバル」!
闘牛界と強い繋がりを持つここ、サラマンカらしく、壁一面に闘牛士関係の写真が貼られている。
(かなりのお宝モノも多いらしい)

(TVでは常時闘牛番組が放映中)

(は~この聖人ブロマイドコレクション…)

隅に置かれたレトロな秤や、生ハム吊るし台なんかもいかにも~の雰囲気を醸し出す。



タパスも、別に飛び上がるほどの逸品があるわけではない。
安定の…わかりやすい…ふっつーのおつまみ、オカズ達なんだ。
決して「○○の××風味、季節の△△ソースを添えて」などの長い名前はついてない。



1つ、最近ではちょっと珍しいタパスがある。
「生サーディン(ヨーロッパマイワシ)のレモン風味」



イワシの生にニンニクをちらし、オリーブオイルとレモンを絞っただけという、
現地にてお肉食傷気味の、日本人の心を躍らせる一品。
実はクラッシックなタパスの一つなんだが、近年のアニサキス騒ぎで出すところがほとんどなくなってしまった。

しかしながらこの店では結構人気。随分鮮度にも気をかけてるんだろう。

ふっつーの食べ物、飲み物を。
あまりお財布が泣かないお値段で。
ゆったり自分のペースで楽しむ。

…簡単に聞こえるこんなことが、この国でも難しくなっていってるんだろうか?
何がそんなにさせるんだろう?
…まあそんな哲学的なことを、チラと考えつつ、せめて自分はこの今を楽しみたい…と次に行く店をいそいそと探しだすわけでw