スペインサラマンカ・あるばの日々

スペイン語留学の街、サラマンカより、地元情報とスペイン文化、歴史に関する笑えてためになるコラムをお届けしています。

春の訪れを知らせる、小さなハーブ

2017-02-24 19:36:01 | スペインのタベモノ

「情熱の国スペイン(←もう飽きたw)」にも冬はある。

日本全国が南国九州・沖縄の気候でないのと同じ。

南の一部を除くほぼ全国において、はっきり「冬」と呼べる季節は存在する。

イベリア半島北部、山間地区においては、道路が遮断される程の積雪量を見る地域が多い。



中部のメセタと呼ばれる広大な高原地区においては、積雪量は少ないものの、
乾いた冷たい風が吹き付ける厳しい冬が毎年繰り返される。

スペイン全国で年がら年中、こんな状態↓ではない(キッパリ)!

ここサラマンカのあるカスティージャ地方の冬は厳しい。

頬を切るような冷たい風に毎日さらされてると、なんでこんなに傘地蔵みたいに
耐えなきゃいけんのだ!?とさすがに当り散らしたくなる。
なおかつ冬から春への移行時期、「三寒四温」の日々が長すぎ…

“なんかもう春じゃ~ん!”と半袖で1日歩き回った翌日吹雪、とかあまりにもなフェイント
が多すぎの日々が続く。5月に雪振りました~とかもう笑えないサプライズも、何度も経験した。

だからこそゆえなのか。

冬という季節が、時々垣間見せる美しさに敏感に反応するようになる。

キリキリと締め付けるような寒気の中で見上げる空の青さ、
冷たい廊下の窓の下にできた、蜜色の陽だまり、
早朝、聖堂の塔をまったり包む、乳白色の霧…なんてのにうっとりしてたりする。

そしてのーんびりやってくる春の訪れ。
これを示す“小さな報せ”に、ふと心を緩ませたりする。

例えばスイセン

ちょっと前までは、少し寒さが緩んだかな…と感じる頃、市場やスーパーの前に
小さなスイセンの花束を売る人を見かけたものだった。
(可愛らしい女の子のお花屋さん…と思うだろうが、大抵村から今来ました、見たいな風情のジャンパー男だった)

薄暗い天気の中に、あの花の黄色が目が覚めるように鮮やか。
ああ、ちょっと春の匂いがしてきたな~としみじみ感じる。
(今では花やで↑こんな感じの小さな花束を売ってる。)

また、いつも横を通る八百屋の店先が、随分彩り賑やかになっているのに気がつく。


いちごの木箱が並び始めるのもこの頃。但し最近はハウス栽培が
ほとんどなので、やたら早くから並び、季節感もないけど…それでもこの赤を見ると嬉しくなる。

そしてその横になんだか普段はみない、カイワレ大根の親戚みたいなのが…↓

この緑の小さなハーブが、食卓に春の兆しを呼ぶマルーハだ。

● カスティージャの春の兆し


その名をマルーハ、パンプリーナ、ボルーハ、レガホと、地方によって変える。

ここサラマンカからエクストレマドゥーラ地方北部、アビラ、サモーラあたり、
またアンダルシア地方一部でポピュラー。日本でいえばハコベの親戚らしい

2月の末頃から3月、清流の流れる小川のほとりにポコポコと群れて生える。

これの先っぽだけを丁寧に摘み取り、よ-く洗い、
塩、オリーブオイル、お酢、ちょいニンニクとタマネギみじん切りでさっと合える。それだけ。


今回は私の料理の師匠Mさんのアドバイスに従って、お酢のかわりに
みかんを絞り入れてみた。

お味の方は~うん!優しい緑の香りと茎のシャワ感が素敵!
みかんのおつゆがお酢のように尖ってないので、うまい具合にまとまってる~

これに生ハムだの茹で海老だの入れたレシピは一杯出てくる…
気持ちはわかる!あんまり素直すぎる素材だからなんかいじりたくなっちゃうのよね!
でもそこは最初やっぱ我慢してみて~と思う。

それだけふんわり、デリケートなハーブ。
「同じ清流に育つ、あくの強いクレソンの、気の弱い友達」というか…(←説明微妙w)

●それでも人は色を希求する

…まあそれでもこんな小さい菜っ葉を食べて何が面白いんだ?
それも微妙に安くないし。
最近では衛生面に関する憂慮もあり、すべて栽培管理がされており、望めは真冬でも手に入る。
(ちょっと前までは八百屋さんの休日バイトだった。弁当と鎌をもってマルーハ狩り?に近郊へ出かけたもんだったらしい)

なのに、店先にマルーハの木箱がだされるとおっ!となり、
レストランで「マルーハあります」といわれると、いそいそと頼む人がいる。

スイセンの黄色。
イチゴの赤。
マルーハの緑。

もうこれは人間の本能なんだろうな。
色の無い、白茶けた高原の長い冬を何ヶ月も越して、最初に目に付く
原色に飛びつくようにできてるんだろうか。昔から。

今年の冬も厳しかった。
ヨーロッパ全域を襲った歴史的な寒波は、ここスペインでも甚大な被害。
野菜の価格、大高騰。

…はやく!はやく!と春の訪れを心待ちにする声が日に日に大きくなっているようで。

★参考資料 "Ven a La Vera"Turismo rural en la comarca de la Vera de Cáceres
★Special Thanks a Masami de Restaurante Japonés SAKANA


Wagyuの向こうを張るサラマンカ産「モルーチャ牛」、うまし!

2017-02-14 00:11:07 | サラマンカのタベモノ・バル情報

グルメ界のブームだの流行ものの出現率、まさに怒涛のごとし。

やれパンケーキだ、キノアだ、チアシード、ココナッツオイル…次々出てきて
小うるさいことこの上ない。

そんな中、近年WAGYUなるものをちらほら聞くようになり、何かと思ったら和牛
アンガスビーフと並んで、やたらとこの国のメディアに出現するようになった。

ここサラマンカでも、「和牛フェアー!」なるものをやってるレストランも見かけた↓

https://www.hosteleriasalamanca.es/fotos/1478605957.2006.jpg

「こないだ食べたよ、ワギュー。旨いなあれ、フフ…」 などと、
ど-考えても“グルメに敏感なオレ”自慢にしか聞こえないコメントを仲間のおっさんにされ、
なんか憮然としてしまった自分だ。

(以前、シイタケがこっちの市場でも気軽に買えるようになった頃、八百屋のおっさんに
「このきのこはね、シイタキというんですよ!シ・イ・タ・キ!とレクチャー受けた時の
ムカ感と似ていた)

…まあいい。

しかしここサラマンカには地元の人はもちろんのこと、その品質の高さから、
全国的にその名を知られる地元原産牛種がある。それがモルーチャ(Morucha)牛だ。

1.モルーチャ種とは

ヨーロッパ、ここスペイン産野牛を原牛とする牛種。
サラマンカから南はカセレス付近、北はサモーラあたりにおいて、
のびのびと放牧されている。

がっしりとした肉付き、その灰色褐色肌から、モルーチャ
(=ムーア人/北西アフリカのイスラム教徒)と呼ばれるとのこと。



スペイン産の牛肉において、アビラ産、ガリシア産に並び、
原産地呼称保護指定(DOP)を受けている。

なんだか闘牛を思わせるりっぱな角といい、猛々しい感じ…
しかし現在は主に食用として飼育されている。さてお味の方は?

2.モルーチャ・デビューはここにて

さてこのビーフをちょいとお試ししてみたいと思うものの、いざ自分でステーキを焼く自信もなし、
レストランで頼んでみたら広辞苑サイズでてきました、というサプライズも欲しくない…

という方にお勧め、中心街にあるとあるレストラン「Aldabaアルダバ」



お店の名前の「アルダバ」とは扉のノッカーのこと。
店内にコレクションとしていくつも飾ってある。



1996年創業の非常にクラッシックな店内は割と小ぶり。
お客は常連っぽいミドルエイジの方多数のせいか、落ち着いた雰囲気。
それでも夜営業スタートの8時となるとサワサワとお客が増え、気がつくと満員。



お、モルーチャ・カレンダーまで掛けてあるww
これはやっぱり「試してみる?」的なこといわれてるのかね?w

…いうことでワインのお供として、「モルーチャの串焼きを注文」。



赤味、あっさり、味付け塩のみ。
…噛みしだく程にこぼれる肉汁!うまい具合にレアなので、柔らかい!
そしてうっすらとふくよかな肉の香り…
たちまち一本食べてしまって呆然とする。

「柔らかい、臭みがない=上等肉」という思い込みが自分から抜けていくのがわかる。
食感、香り共に適度に元気で、でもいやみがない。美味しい!
猛烈にお代わりしたくなるのを押さえ、他のタパスも注文



おばけマッシュルームの鉄板焼!
ほっくほくで歯ざわり最高、白ワインにぴったり~

小イカのフリッター。カリッカリ。口中のシャワシャワ感をうっとり楽しむ。

そしてこのレストラン、カウンターでタパスを楽しむ分には随分と
お財布に優しい。上等ワインにタパス1つがついて2.50ユーロ(2017年2月現在)。


お店の方もかなーり親切、てきぱき対応。
学生相手のカフェとは違うので、最初の一歩がちょっと勇気がいるけど、価値あり。

3.ガッツリからあっさりまで

で、話はモルーチャ牛に戻って。
1度「サーロインステーキ」で食べてみる。

筋ばってない上等肉を切ると、ここでは「バターのようにさくっと切れる」というが、まさにそれ。
生部分もまさに刺身の如し。なんで美味しいものはするする入っちゃうんだ…

あともう一つの食べ方はこれ↓カルパッチョ。

https://www.hosteleriasalamanca.es/contenidos/20nov/carpaccio275buena.jpg

上に黒胡椒、粉チーズ、オリーブオイルをかけてくれる。これこそあっさり、
さっぱり、まさに日本人向けの食べ方かな~

あとがっつりというか、どどーんという方にはこれ↓
https://www.hosteleriasalamanca.es/contenidos/20nov/milhoja300buena.jpg

モルーチャ牛、フォアグラとポルチーニ茸のミルフィーユ、
きのこクリームソース。店の看板。
同じ素材ながらあれこれ試してみるのもいいかも。

和牛もよし。
モルーチャ牛もよし。
お店でワインを傾けながら、お国自慢、文化比較論を現地の方
と広げるのもまた楽しいし。

 


スペインの女正月…やがて悲しき聖女アガタの夜

2017-02-03 14:27:06 | スペインがお題のコラム

クリスマス、年末年始のお祭り騒ぎがようやく過ぎ、
なにかぼーっとした気分↑で向かえてしまう2月。

…朝起きても夜。寒い。すぐ日が暮れる。1日曇り空。
なーんにもしなくても自分がどんどんウツ気分に落ちていくのがわかる…

この時期にあるカーニバルという、“ひたすらバカ騒ぎ”というか、“踊らにゃそんそん”的
伝統的な行事というのは、「皆でこのウツウツ気分を晴らそうじゃないか?!」という
気持ちが動いてできたものと思われる。

このカーニバルの前哨戦というか、またバレンタインデーよりも早く、
聖女アガタ(サンタ・アゲダ)祭というのが2月5日~7日まで毎年この国の各地で祝われる。

一言で言えば、スペインの女正月である。
(*地方によって違いがあります)

年末年始、料理や接待に多忙を極めた主婦らを労い、慎ましく祝う
女正月…と聞いてこんな↓場面を想像したあなた、違います

1.スペインでの女正月とは?

まず役所にて市町村長より、厳かに官杖の譲渡式が行われ、
その日1日の街の権威を女性らが占めることが宣言される。



その後女性の団体は歌い踊って街を練り歩き、運悪く(?)通りかかった
男性らに“お布施”を要求。これを軍資金にして、その日のパーティーが開催されるというわけ。



この日が近くなるとあちこちのレストランやメソンで見る、
「聖女アガタ祭特別ランチ、ディナー団体予約受けます!」の広告。なぜか「ショー付」が多い





この日は「既婚未婚を問わず、女同士でわいわい騒いでOK!無礼講の日」
それを見込んでボーイズストリップショー付ディナーというのも近年流行ったわけで。

2. そもそもこの祭の主人公、聖女アガタ(スペイン名はアゲダ)とは?



3世紀。シチリア島のカタニアの貴族の娘として生まれる。
美しく、教養豊かなアガタは、島の知事からの求婚
を断ったことから恨みを買い、
キリスト教徒であった彼女は法廷に引き出された。ローマ皇帝による厳しいキリスト教弾圧下、

信仰を捨てさせるためアガタは乳房を切り取られる(ひぃぃぃっ!)という拷問を受けた。

衰弱しきってもなお祈り続ける彼女のところに聖ペトロが現われ、その奇跡によって治癒される。
決して信仰を捨てない彼女は、ついに炭火と焼けつく石の上を引きずられ、牢獄の中で息を引き取った。

よって聖女アガタは“女性性の守護神”である…とのこと。

3.女正月、やがて悲しきの理由

この祭、ここサラマンカを含むカスティージャ・レオン州に多く見られる。

街角でおばさん集団に囲まれて、泣く泣く財布を空にしてるおっさんも見たし、
夜にはハデハデスーツに身を固めた女性陣がディスコで沸き返っている様子も見た。

とにかくそのテンションの高さが引くほど。

(写真は聖女アガタにちなんだおっぱいパン)

が…この祭、年々流行らなくなってる気配あり。
参加者はおばあちゃんの年齢域の方々のみになっている。
そりゃそうだ、女性が好きな時に出かけられる自由な時代が来て久しいのだから。

農村出身の年配の男性が、はっきりと「消えて欲しい因習だな」と語る。

「ちょっと前までは、女性が遊びに出かけるなんて本当にこの日しかなかった」
「出かけたのはいいが、帰りが遅いだなんだと旦那に散々叱られ」
「聖女アゲタの日の“おしおき”なる傷跡、やけど跡をかかえた女性を何人みたことか」

…はっきり言おう。この国のマチズモの風潮は未だ根強い。
この話だけでいくらでも書けるが、そもそも“女~”なる伝統がある事自体がそれを語る。

昨年の2016年だけで、パートナーからの暴力で40名の女性が命を落としている。
彼女らが聖女アガタのご加護の元にあらんことを…

http://www.hinojosadelduque.es/sites/default/files/mano_violencia_genero_0.jpg

4.そしておっぱい

女性性の象徴である乳房を切り取られた、聖女アガタは絵画の題材としてしばし登場。



切り取られたおっぱいをにこやかに抱える姿がちょっと怖いが(涙)
このおっぱい型から、昔はパン職人、鐘職人の守護神であったそう。

近代においては乳がん患者の守護聖人となっている。

奇しくも先月23日、この国で有名なアーティスト、世界的なモデルとしても活躍していた
ビンバ・ボセ氏が41歳の若さで亡くなった。乳がんだった。

2014年に手術。その後肝臓や脳への転移が見つかり、闘病生活を
公開し、活動を続けていた。

マニッシュな雰囲気の素敵なモデルで、叔父の歌手ミゲル・ボセとの共演など
なかなかおもしろい活動をしてた人。

…彼女の死後、ツィッターでまさに死者を踏み躙るような嘲笑コメントが散見され、
(訳すのさえ気分が悪くなるような無記名コメント)警察も動いたスキャンダル
となっている。

セクシュアリティをネタに、他人の人生をほじくり返す魔女狩り行為-
おっぱい切られた聖女アガタの3世紀の時代と、なんの変わりがあるのかね?怒

まだまだ遠い春の訪れをじっと…いつまで待つんだろう?
おっぱいパンを齧りながら、ため息一つもでるってもんです…