例えばそろそろ汗ばむ日が続く、初夏のある日。
(こういう景色はほんとスペインやな~と思う)
茶色の、でも緑がうっすらと引かれた地平線を
随分車で走り、やっとここか…と止める。
土埃が舞って、ドアを開けるとブンブンと夏虫の羽音。
放牧された牛たちが静かに草を食んでいる。
牛飼いの男の子しか人はおらず、人っ気なし。
なんか拍子抜けした気分で、車を降り、
背伸びをしてふと後ろをみると、ちゃんとそれはあった。
サン・ペドロ・デ・ラ・ナベ教会(Iglesia de San Pedro de la Nave)
その建立は680~711年、西ゴート王国時代後期のものとされ、スペイン国内
にある最古の教会建築について語る際、その内の1つに必ず名が挙げられる
重要文化財なのだ。
外観、小ぶり。素朴そのもの。
時代の流れに沿って身廊が建て増しされたのがわかる。
しかしそれにしても、スペインの教会建築といえば、
いわゆる有名であるところの、
こーんなのとかに圧倒され、ひれ伏し、(トレドの大聖堂)
こーんな感じの圧迫建築をどどーん!を見せられた後に、
(サグラダファミリア)
カスティージャの野原に、まさにぽつーんと佇む
小さな教会の前に立っても、
「…はぁ…」と微妙な感想しか口にできないだろう。
最初は。
●薄明りに息を潜めるモノたち
中に入ってみると、こぢんまりしながらも左右に開けられた
袖廊が小さな部屋を作って、拡がりをみせる。
馬蹄型のアーチ。
奥の聖壇の後陣は丸みのない角形。
小さな窓から入る光が柔らかい。
その光のなかに浮き上がってくる壁面、柱頭の
レリーフを見つけて、皆思わず息をのむ。
●小さな中に情熱。込められた熱意。
壁面を帯状に飾るレリーフは、独自のうねり、
歪みを躍らせて連なる。
それは十字架だけに限らず、太陽であり、植物、木々、鳥
などの動物、それぞれが神の力を象徴し、神の世界を説くという。
プレ・ロマネスク様式、また西ゴート様式といわれる、
教会建築によくみられる文様。
(西ゴート族が基本人物表現を禁じていたことから
生まれたデザインらしい。が、それがなんとも可愛らしく、
クッキーや和菓子の型に見えて仕方ないw)
柱頭には旧約聖書の逸話“息子イサクを生贄にする聖アブラハム”、
“獅子の穴のダニエル”などが描かれている。
「ヘタウマ」。
…いいじゃないか。むしろ、だからこそよい。
この柱頭。文様。装飾としての馬蹄形アーチ。
すべてが素朴ながらも、その時代に「綺麗なもの」、
「清らかなる、聖なるもの」と思うものをこつこつと
熱心に作り上げた人々がいたのだ。
生きていくこと自体が大変であっただろう、時代に。
その情熱をを支え、熱意をたぎらせた
元が、他でもない、純粋な宗教心だったのか。
…都会から随分離れた村にある古い、古い教会。
そこに深い精神性をさえ感じ、シンとした気持ちになる。
そんな小さな旅、続けていきます。
*おまけ
(この教会は元々あった場所でのダム建築に伴い、
1931年に村民らの手よって現在の場所に丁寧に移築されている。
まさに組石を一つずつ運んでの作業だったそう。また未だ現役の
教会として機能してるのもすごいです。)
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