生ハムじゃない。
チョリソーなんだ。
そもそも生ハム!生ハム!とやたらちやほやする昨今、
チョリソーの立ち位置は微妙、いつまでたっても庶民の味方感がある。
日本においては「ちょと味が違うウインナー」位の扱いで、
お安い居酒屋でも、“ピリ辛チョリソー鉄板焼”なんてのが出てんだけど。
ここスペインのチョリソーは
「豚肉などの食肉に、主にパプリカパウダーなどの香辛料を入れて腸詰にし、干したもの」
でこんな感じ↓
*以下、現地の呼称に従い、「チョリソー」じゃなくて「チョリソ」でいきます。
そのまま切っておつまみに、おやつに、
焼いてもよし、煮てもよしと、
八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をみせる、まさにスペイン庶民の味方の一つなんだろう。
このあとを引くしょっぱさは、実にパンにあう。
個人的には「明太子とごはん」のコンビネーションに近く、
「パン、チョリソ、パン、チョリソ」のワンツーパンチで
永遠に食べ進めてしまうアイテム。
そして生ハムよりはお安い気軽さ。
「チョリソ、チーズ、パン」は三種の神器と呼ばれるw。
新鮮な肉など、普段手の届かぬ庶民の食卓を支え、
この国の胃袋を支えてきた立派なアイテムの一つといえよう。
チョリソたちのひしめき合うスーパーの棚。
●貧乏チョリソたちとは?
…さて、その庶民の味方の、更にもっと安価版?
ずばり「肉なし貧乏チョリソ」的なものが実は長年、
イベリア半島のあちこちでせっせと作られ、消費されていたという歴史あり。
そして今でも結構愛されている由。
肉なしの腸詰?
…じゃあ…何が入ってるの?
市場のぶらぶら歩きってのは、実に楽しい。
サラマンカの中央市場。内地らしく肉屋さんが競うようにあり、
それぞれの軒に生ハムだの、チョリソがワサワサとぶらさがり、
熟成臭をプンプン匂いをさせているのを眺める。
そこで見つけた3種の貧乏チョリソをを試食の上ご紹介~
★サラマンカ代表選手、「ファリナト」
原材料…豚ラード パン クミン アニス酒 小麦粉 パプリカパウダー
たまねぎ ニンニク 塩
サラマンカ市から南西86キロ程、ポルトガルとの国境に
近いシウダ・ロドリゴの名産品。
チョリソと比べて色がオレンジがかっているのは香料のせいか。
これは基本「軽く押しながら焼いたものに目玉焼を添えて」食べる。
クミン、そして香り付けのアニス酒が利いており、味は“すごく濃厚なパテ”感。
これが熱いうちに卵の黄身をすくいあげ、パンに絡めて食べる。
想像以上にイケる。…が、数切れすでに満腹感が。恐ろし、ラード。
★じゃがいもベースの「モルシージャ デ パタテラ」
原材料…豚ラード じゃがいも 豚赤身肉少量 パプリカパウダー ニンニク 塩
イベリア半島西南、ポルトガルに隣接、過去数多くのアメリカ征服者(コンキスタドール)を
産んだエストレマドゥーラ地方で作られる、貧乏チョリソの一種。
「そのままパンに塗って食べる」のが主流とのこと。さっそく買ってきた
それを切って皮を剥き、無骨にちぎったパンに擦り付けて試食。
…うん、かなりチョリソに近い!少量でも肉が入ってるせいか、
割と固さがあり、ニンニクが結構効いてる。黙って食べさせられたら
チョリソと思うかも?ただこれもさっと炙った方が良いかと。
★かぼちゃと合わせた「モルシージャ デ カラバサ」
原材料…豚ラード かぼちゃ パプリカパウダー オレガノ
たまねぎ ニンニク 塩
こちらもエストレマドゥーラあたりでよく作られるとのこと。
前出のじゃがいものヤツより、かなり柔らかめ。味も少し優しめ。
これは…他に調理方法ないかと、豆料理に入れてみた。
しまった!溶けて無くなってるww
形状がチョリソにそっくりなので、つい鍋に入れて放置したところ、とけて崩壊(涙)
ただおかげで豆料理のお味がぐっと濃厚になり、おばあちゃんが作ってくれたあの味に!
うんま~い!そしてかぼちゃ風味はゼロw
3種試食の結果、
-軽く炙ってちょっと脂を出したアツアツのがベスト。
-いくら貧乏とはいえ、値段は一番お安いチョリソ位はする。
-数切れでお腹一杯になるので、ある意味コスパよし。
-なんだかんだいって、脂はウマい。
という、恐らく誰も要らない報告を独りまとめ、満足して残った
貧乏チョリソらを若い学生くんらに振舞った次第。
(きっと彼らはこのカロリーを瞬間で消費するであろう故)
●その起源、貧乏人のため…だけじゃなかった説あり
冬の寒さが厳しさが一番つのる頃、あちこちの農村で「マタンサ」
-飼育豚のが行われるのは、この国の長年の伝統だった。
生写真はグロいので中世画を挿入w
解体した豚を丁寧に処理し、ハムソーセージ、塩漬にして
大切な食料として保管される。
その際に出る大量のラードを無駄にするはずもなく、これを
利用して作られた副産物が、これら「貧乏チョリソ」なのだ。
ある地方は古くなったパン屑をふやかして、
他の場所では、じゃがいも、かぼちゃを混ぜ込み、
形、色味を整えてみると、なんとも本物そっくり。
それに本物より倍は作ることができ、日持ちし、なおかつ
熟成が早く、すぐ食べることができた。
これを暖炉の火で炙ったものをパンに挟んで貪り、
コーヒーと一杯の焼酎(アグアルディエンテ)をあおって
早朝の凍てつくカスティージャの野に黙々と出て行く。これが
スペインの労働者の日課だったとのこと。
市民戦争後の食糧難時にあっては、ハムその他、肉と名のつくものは
すべて売り払い、まさにこれら貧乏チョリソにすがって生き延びたという
話も聞く。
(ご高齢の方にこの種のチョリソの話を訊くと、笑いながら懐かしく話す方、
苦々しくいやな想い出を吐き出す方と、分かれることが興味深い)
これらの話は以前お話した「山レモン」レシピができるまで
の話を彷彿とさせる。
…そして…
“貧乏うんぬんだけが理由じゃない、もっと古い”説もあり。
1492年のレコンキスタ(キリスト教による国土再征服運動)以降頃の話。
異教徒追放運動の始まり。
例えばポルトガルとスペインの国境、特にシウダ・ロドリゴには
大きな改宗をしたユダヤ人コミュニティーがあり、その隣ポルトガルには
純ユダヤ人コミュニティーがあったとのこと。
このポルトガル側には「豚肉入ってない、鶏肉チョリソ」であるファリネイラ、アレイラなるものが
未だ残っている。名前、ファリナトと似てる…
ようは踏み絵踏みました~!みたいに
「私改宗しました!ユダヤ教違います!」「ほら豚肉食べてる!」アピ
に利用していたかもとの話。(でもラードは入ってたらしいが)
歴史の本で勉強したことと、市場でふと手に取ったものとつながる…とは
なんともわくわくするもんです。
●貧乏からデリカテッセンへ
そして現代。
これらの貧乏チョリソが、実は全国区に向かいつつあるらしいw
フーディーズと最近では呼ばれる美食家達が、地方に隠れていた
名産グルメ発掘!とかでネットで評判を呼びつつある…とのことで。
また地方活性化ということで、いろいろバリエーションに富んだ
商品化、流通開発をはじめたとのことでいいじゃん!
過去のちょっとトラウマ的物品が、いわゆる村おこしになるとは、正に願ったりですな。
タベモノに罪はなし。
貧乏ならぬ、おいしい記憶を沢山産むタベモノとして記憶されていく
ことを願っております。
参考資料
Farinato, de chorizo de pobres a delicatessen