甘辛というのか、甘じょっぱ味というのか。
甘さとしょっぱさのコラボ。
賛否両論ありつつも、この麻薬的な味トーンに惑わされぬ人は無し。
我ら日本に至っては、そもそも伝統的に砂糖を調理に使うことから、
醤油+砂糖、味噌+砂糖からはじまる、目くるめく甘辛ワールドを広げている。
みたらし団子のたれ、田楽味噌…また照焼ソースに至っては海外にて、大人気を誇るジャパニーズソースとなった。
世界あちこちのグルメワールドを見てみても、
この魔法の味は、どこにいっても愛されてる感あり。
米国なぞ、かのBBQソースの発明のみにとどまらず、ベーコン+ドーナツだの、
ワッフル+フライドチキンなど、破壊力満タンの甘辛味が人気と聞く。
…しまいにはお鮨に照焼ソースだの、うなぎのタレをぶっかけてうまい、うまい、という国なんだ。
↑この味蕾を爆撃するような、乱暴マリアージュ(?)流行も、まあそれらしいといえばそうだが…たはは…
●スペインの甘じょっぱ事情は?
この国においても、伝統的に愛された甘辛味、というのは多々ある。
ベーコンとなつめやしのピンチョ、というのは、昔“ちょっと気の効いたおつまみ”として
流行っていたような気がするが、最近あまりみない…すでに昭和のオカズになったのかな?
生ハム+メロンは未だに不動の人気。ここでは、メロンは季節になるとやっすい値段で出回るので、
実は日本ほど高級感なし。昼定食メニューにも出る、庶民の味方。
メンブリージョ(カリンの実)を煮詰めて作った固めのジャム+チーズは…
嫌いなスペイン人はいるんだろうか?という位の人気。
チーズの質もタイプも問わず、安物でよし。
この2つをグイっとパンに挟み込んだものを、オヤツとして渡された子供時代を懐かしむ人、多し。
(プラスくるみもいけます!)
ナスのフライにさとうきびの糖蜜をかけまわしたもの、というマラガ付近南部の代表的甘辛オカズもあり。
あとはシビエ(狩猟による野生鳥獣の肉)の付け合せソースにベリーソース、
なんてのは結構クラシックなレシピに入ると思われる。
思いつくままに上げてみたけど…
近年流行のヌエバ・コシナ(新創作スペイン料理)に辿り着くまでもなく、
甘辛味-主に果物の甘みを添えるものが多いが-は伝統料理の中にも結構あることがわかる。
●そして出遭う、謎のマリアージュ?(かき混ぜ)料理
サラマンカ市から南の方に下っていくと、イベリア半島中部を東西に走る、セントラル山系にぶつかる。
ここいらになると、乾いた平地とはうってかわり、緑豊かな山地が広がる。フランス山地(アスティアーラ峰1,735m)、
べハル山地(カンチャル・デ・ラ・セハ峰2,430m)が連なり、現在ではアウトドアスポーツ、狩猟で人気の地域。
この地方の村々は美しい。
石や粘板岩を重ねて素朴、しかし頑丈に作り上げた古い田舎屋が寄り添うように集結し、
山間に張り付くように、静かに沈んでいる。
…しかしながら、朝晩の寒暖の差は激しく、夏はまだしも、冬は骨身に染みる寒風が走り、
村間の距離も遠く、昔は相当に厳しい暮らしを強いられたかと思われる…
1955年の名画「汚れなき悪戯」に“出演”のアルベルカ村
と、まあNHKなんとか紀行トーンで続けたいとこなんだけど、
ようは、厳しい暮らし→ゼイタクゼロ、食べ物にも困る→もうあるもんで頑張る!
という流れで生まれたと思われる逸品がここにはあるのだ。
それが「リモン・セラーノ」。直訳“山レモン”。
この地方の郷土料理のナンバーワン!
原材料
▼卵(ゆで卵もしくは目玉焼き。ここでどっちが正しいか、で激しく小一時間議論要)
▼レモン
▼オレンジ*果実は皮を剥いて輪切り、もしくは櫛切り
▼にんにくのみじんぎり
▼チョリソを軽くソテーしたもの。
▼生ハム(レベル不問、切残し歓迎)、その他に家に残る腸詰類、焼肉の残り等
▼塩、ワイン少々またオリーブオイルやビネガーなどはお好みで。
調理法
上記のものをボールに入れてわさわさ激しくかき混ぜる。
終了。
パンですくってガツガツ食べる。
もとは羊飼いのごはんだったという説もあるが…どうみても
「とりあえず手元にあったものを放り込んで混ぜたら奇跡の光が!」
的なレシピにしかみえない。(ワイン酒蔵にてわいわいする時に供されるともいう)
そこで笑ってるあなた。
特に酢豚にパインが入ってるのが許せないあなた(←自分)。
…気持ちはわかります。チョリソ、生ハムに柑橘類!
現地ネット民でさえ「いやないし!」「何が嬉しくて…」などとコメントする始末。
しかし食べた結果。
(まあこれはレストランのハイレベルの山レモンですが)
いやこれありです!
ううん~あれ?あれ?といううちに箸がすすむレベル。
いやほんとに美味しい!さっぱりしてて…でもいろんな味のコラボで…妙にあと引く!
サラダではない…野菜料理でもなし、肉でもなし、位置不明。
チョリソや肉類の塩味+オレンジの甘味+レモンのすっぱ味。
ようは、「甘味+辛味+酸っぱ味」の黄金比率を完璧に完成させているという…
なんなんだ?この完成度!
ちなみにTVE(スペイン国営放送)の番組はこの山レモンレポートを放映したのでココみてね。
(どーやっても貼れんかった…)
そしてこの山レモンなるもの、どこでも食べれます~というわけでは
ないんだけど…自分が美味しく頂いたお店はサラマンカ郊外の「トラスオゲロ」。
薪火焼のお肉を提供するレストラン。
…まああまりにも郷土オカズ的なもんでもあり、どこかでいつも売ってるもんでもなし、
でもね、なんかこの「山レモン」のような黄金レシピというか、
「貧困極めて、無い所からひねり出したレシピ」
「もうこれしかないから、何とかできないか?からできたレシピ」
「でもやってみたらすごいのができて、今では誇る伝統料理」
というのが、自分が今住んでるスペインに多く散見される。
(もちろんスペインだけではないよ。日本の地方をみても同様)
有名パエリヤ、ガスパチョしかり、
にんにくスープ、
トリッパを始めとする数々のスペイン臓物料理。
名物ミガスなんぞ、“古パンとラードとかにんにくしかねぇ!”から生まれた極貧料理。
「貧しては鈍する」やってる場合じゃない!
「もう貧はわかったから、そっからなんか生み出すのっ!!」の情熱パワー。
私はこんな感じで生まれたこの国の伝統レシピをこよなく愛す。
…そんな感じでブログをこつこつ続けております~