首都近郊の独立機動群中央合同隊舎。その一室でルシアは情報端末を操作していた。定例の部隊状況の報告を終え、今は個人宛メールのフォルダを確認している最中だ。大半が軍事企業からの新兵器の採用願、残りの数通は頭の小さい一般部隊からの求愛メールだったが、彼女はそれらを少しも確認せず、まとめて削除した。企業関連のメールは隊長にも届いているし、恋愛などというくだらない遊びに興じる気もない。それ以前に、平和ボケした一般部隊と関係を持ったところで、自分の方がすぐに飽きるのを十分理解していた。彼女はメールブラウザを閉じると、端末をスタンバイ状態にした。そして、椅子にもたれ掛かるように座り直し、小さくため息をつく。
「平和なんて退屈・・・。兵士の、私の唯一の娯楽は戦いなのよ・・・」
また大きな戦争でも起こらないかな、と物騒な事を考えつつも、同時にそれが不幸を生み出す事を承知していた。わかってる・・・戦争はゲームじゃないって。銃を撃てば人が死ぬ。ナイフを急所に刺せば、当然血が噴き出す。でもそれが何?人が殺され死ぬ度に祈りを捧げろとでも言うの?そんな事を律儀にやってたら、きっと狂ってしまうだろう。それよりは・・・単なる娯楽と思えばいい。そう、例えばチェスやカードゲームのように。敵はみんな標的だと思ってしまえば・・・。
「ルシア大尉は随分と退屈そうな表情ですねぇ」
隣の席にいた薄紅が、いつもの皮肉のこもったような口調で言うと、彼女は起き上がり冷静な口調で言い返した。
「別に。それより、隊長が何処に行ったか知らない?一時間後に独立機動群の合同ミーティングがあるのに」
「どうせ自分の屋敷ですよぉ。貴族らしく身なりを整えて、といった感じでしょうかねぇ?」
「どうだか。他隊の隊長に喧嘩でも売ってるというのが現実かもね」
彼女はそれだけ言うと椅子から立ち上がった。
「大尉もお出かけですかぁ?」
薄紅が尋ねると、彼女は一旦立ち止まり、しかし何も言わぬままその場を立ち去った。ドアが閉まった後で、薄紅はニヤリ、と意地悪そうな笑みを浮かべた。
「まったく、近頃の隊員は怠け過ぎですよぉ」
CyberChronicle
第五話『二度目の覚醒』
レオンは照明を消した部屋の中でベッドに寝転がっていた。暗い天井を見つめたまま、彼は黙って考えていた。クレア達には、しばらくの間ゆっくり過ごせ、と言われたものの、今日は何か落ち着かない。何と言っていいかわからないが、とにかく何かが起こりそうな気がするのだ。彼はため息をつき、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「気のせいだ・・・多分」
同時に、そうだといいが、と心の中で思っていた。この一週間というもの、身の回りで様々な事が起こった。おそらく、そのせいで疲れているんだろう。そう思った方が幸せな気がしていた。彼はもう一度ため息をつくと、ゆっくりと目を閉じた。
「もうそろそろ寝ないと・・・」
そうつぶやいた瞬間、ベッドのすぐ脇を一筋の閃光が掠め、天井を貫いた。彼が直感でベッドから飛び降りると、ベッドを複数の閃光が貫通し、ほぼ同時に爆発を起こした。両手でベッドの破片を防ぎつつ、彼は煙の立ち込めた部屋と、その中央付近に開いた直径2メートルほどの穴を黙って見つめた。
「一体何が起きて・・・」
そう言った時、穴から何かが勢いよく飛び出し、彼を窓へ向けて強く弾き飛ばした。強化ガラス全体に蜘蛛の巣状の亀裂が入り、彼の身体は更に強く押し付けられた。
「う・・・ぐぅっ」
彼の首筋を、アサルトグローブをはめた右手がしっかりと掴み、左手に握られた大型のライフルの銃口が、彼の頭部をまっすぐに捉えていた。このままじゃ・・・殺・・・される!?そう直感した瞬間、相手の口元が微かに動き、殺気を帯びた声が静かに響いた。
「悪いが死んでもらう。悪く思うな、旧式」
「何の事だ・・・?俺は普通の」
そう言い掛けた時、銃口の奥が赤い光を放った。爆発とともにヒビの入ったガラスが粉々に割れ、爆発による煙が窓だった場所から溢れ、ゆっくりと流れていく。黒一色の翼をまとった兵士はそこから飛び出すと、手に持っていたライフルを格納した。入れ替わりに両刃の剣を展開し、右手で掴み取る。
『至近距離で一撃浴びせた。Ⅷ、目標の抹消を確認しろ』
彼が左耳に取り付けた無線機で状況を報告すると、上方で武装を展開したままのⅧが返事を返した。
『了解。・・・それにしてもあっけない死に方ね。武装の展開さえなかったのは、戦士としてある意味寂しいわ』
『確かにそうだが、付随被害が殆ど発生しなかっただけマシ・・・ん?』
突然バイザーの画面に警告表示が映し出され、彼はとっさに後退した。と同時に、赤色の閃光が先ほど頭部のあった場所を通過した。彼は剣を構えると、真っ赤な金属の翼をまとったレオンを睨みつける。
「なるほど・・・やはり一筋縄ではいかないようだ・・・」
そうつぶやきながら、彼は背面の翼に格納された鋏状の武器を片手で掴み、目標に目掛けて投擲した。放たれた武器がスラスターを噴射し、一気に加速する。そして、レオンの手前まで接近したところで鋏が開き、その内側にエネルギー刃が一直線に展開された。が、レオンも右手にエネルギー刃を展開すると、鋏を目の前で受け止めた。
「さっさと落ちなさい!」
叫び声とともにⅧが両肩のビーム砲を発射するが、レオンはとっさの判断で左手に金属の盾を展開し、砲の射線をさっと覆った。二筋の白色の閃光は盾とぶつかり、その熱で盾の表面を溶かしつつ消滅した。そしてⅦが放ったビームを巧みに回避しつつ、彼に急接近して刃を振り下ろした。
「くそっ」
Ⅶはとっさに剣を構え直すと、顔の手前で刃を受け止めた。やはり暴走状態か・・・。鮮血のように赤く染まったレオンの瞳を睨みつけながら、彼はそう確信した。IWS実験の負の遺産とも言うべきものを負わされるとは、何とも哀しい事だ。
「この際、付随被害が出るのは仕方がない・・・」
独り言を言いつつ、彼はレオンを蹴り飛ばすと同時にライフルを発砲した。レオンはとっさに盾を構えたが、先ほどの砲撃で既に半壊状態になった盾はたった数発を防いだだけで破壊された。それでも、十分な間合いを取るだけの時間を稼ぎ、彼はビームの熱で溶けた盾を捨てると、代わりにあの時と同じライフルを左手に展開した。Ⅶも剣を格納してライフルを右手に持ち替えると、彼に向けて発砲した。それを紙一重で回避しつつ、レオンも負けじと応戦する。高速で移動しつつ、彼は上方で待機しているⅧに指示を出した。
『Ⅷはアウトレンジから援護しろ。それと・・・出てきた民間人は殺せ』
『了解。これで迷う事無く殺し合いができるってところね』
Ⅷはニヤリと笑みを浮かべ、戦いの輪から離れた。さて、とⅦはレオンの撃った弾を軽々と回避しつつ考える。今の奴は完全に本能の操るままに戦っている。とはいえ、いつ暴走状態が解けるかわからない状況での長期戦は望ましくないな・・・。彼はバイザーに表示されたエネルギー残量を確認した。エネルギー兵器を使用しての戦闘が可能な時間は、長く見積もってあと一時間程度。問題は、奴の仲間が介入してくる事位か・・・。
「クルナ・・・コッチニクルナ・・・」
ライフルを乱射しながら、レオンは唸るようにつぶやいていた。敵のビームが肩や頬を掠める。彼は混濁した意識の中で、意識の奥底にある何かが命じるままに腕を動かし、機械的に引き金を引いていた。時折、黒一色の装甲服を着た兵士の姿が視界の片隅に映り、すぐに消え去る。一体今、自分が何をやっているのかなどわかるはずもなく、彼はほとんど無意識に近い状態で飛び回っていた。ビームが左足を掠め、火傷のようなヒリヒリとした痛みが伝わってくる。一体・・・何が起こって・・・。その時、風の音に混じって誰かの声が聞こえた。それは、なんとなく聞き覚えのある声。
(IWSE-05、コードネーム:レオン。これが現在開発中の兵器の最新試験型だ)
(何故レオンなんです?兵器ならもっと凄い名前をつければ・・・)
(僕以外には理解できない理由さ。それに、君が知る必要もない)
誰だ・・・?何で俺の・・・それに実験体・・・何の事・・・?
(実践に近い形で評価試験をやる事になった。回路の設計上、問題はないはずだ)
(・・・一般兵士を相手にした評価試験の結果なんですが・・・、かなり順調です)
(じゃあ、今度は対AW戦闘かな)
A・・・W・・・?回路・・・設計・・・?彼の引き金にかけた指が突然止まった。と同時に翼のスラスターが停止し、地表に向けて落下していく。
(回路の制御が・・・!だめです!完全に制御不能!!)
(四機ともやられただって!?・・・Ⅵを出撃させろ!大事になる前に奴を落とすんだ!!)
(ですがⅥもほぼ同型の回路設計を・・・)
(いいから早く出せ!早くしないと・・・これまでの苦労が水の泡だ!!)
俺は一体・・・一体何者・・・なんだ・・・?地表が霞む視界の中で迫ってくる中、誰かの声が何度もこだまし、そして唐突に止まった。と同時に、誰かの姿が一瞬だけ脳裏に浮かんだ。それは彼自身に似ているようで、しかし何か違っている気がした。それが消えると同時に、再び声が、しかし今度は全く別の声がはっきりと聞こえた。
『死にたくなければ起きろ。そして、戦え』
次の瞬間、頬の刺青が赤い光を放った。
Ⅷは突然停止し、落下したレオンに照準を定めていた。垂直射撃により、レオンを貫通して地上に損害を与える可能性があるが、さほど問題にはならないはずだ。万が一予想以上の被害が発生したとしても、おそらく何らかの隠蔽操作が行われるため、市民の多くには事故として認識される事になる。二つの照準が彼に合わさると、彼女は口元に微笑を浮かべた。
「つまらなかったけど、これで終わりよ」
そうつぶやいて引き金を引いた瞬間、目標の推力が戻った。だが、もう手遅れだ。姿勢を制御する事さえままならないまま砲撃を受け即死、あるいは回避してもどこかに衝突して死亡する以外には・・・。二本の太いビームが地上にぶつかり、熱風とともにその周囲を破壊した。しかし、彼は回避したらしく、その隙間をかいくぐって彼女へと向かってきた。
「避けられた!?くそっ、墜ちろぉっ!!」
彼女は叫ぶと、彼に向かって両肩のビーム砲を立て続けに撃つ。だが、さっきまでと違い非常に巧みな動きで立て続けに回避していく。そして、両手にそれぞれエネルギー刃を展開すると、彼女に斬りかかった。
「ちぃっ!」
Ⅷは舌打ちしつつ砲を格納し、両肩の盾を彼の前にかざした。一瞬の間を置いて刃が接触し、激しく火花を散らす。彼女は二つの刃を連続で受け流すと、すぐさま後方に下がった。そして、入れ替わるようにしてⅦが二人の間に割り込み、レオンに向けてライフルを連射した。彼は砲撃を左右に回避しつつ、刃を格納して再びライフルを展開して両手で構えた。
「暴走状態が解けた、か・・・」
彼の攻撃を盾で受け止めつつ、Ⅶはつぶやくように言った。ならば、こちらも本気を出すまでのことだ。彼はライフルを格納すると、再び剣を展開して右手に構え、左手でウイングの鋏を掴んだ。そのとき、ビルから数人のAAが出てきたのが視界の端に映った。
『Ⅷ、地上側を頼んだ。民間人とはいえ油断は禁物だ、いいな』
彼が命令を出すと、彼女は多少ふてくされつつ応答した。
『それくらいわかってるわよ。じゃあ、その出来損ないの始末は任せるわよ』
『了解』
盾を格納し、代わりに湾曲したエネルギー刃を両手に展開した彼女が降下していくのを一瞬だけ確認すると、彼はレオンに向かって鋏を発射した。
「ここからは真剣勝負だ。覚悟しろ」
そして、飛んできた鋏を目の前で受け止めつつ、レオンもまたつぶやきを漏らした。
「俺は戦う。俺自身を・・・仲間を守るために」
直後、二人は同時に斬りかかった。互いの刃がぶつかる度、黒色の空に閃光が激しく散る。そして、周囲一帯もまた、徐々に戦いの色へと染まり始めていた。
「おいおい・・・、一体何が起こってるんだ?」
正面エントランスから飛び出したジェストは、時折閃光の走る夜空を見上げて驚いた。赤と青の閃光が飛び交っている事からすれば、戦闘であることに間違いはない。だが、戦っているのは大きさからして明らかにAAだ。
「よくわからないが・・・とにかく安全を確保した方が良さそうだな」
彼は視線を前に戻し、懐から拳銃を抜き放った。こういう状況にいると、軍にいた頃を思い出すんだよな・・・。彼はそう思いつつ、クレアとサラがやや遅れてやってきた事を察知して振り返った。サラも業務で愛用している自動式の拳銃を握っている。そして、クレアは両手の甲にフックショットのような武器を一基ずつ装備し、背中にショットガンを背負っていた。
「気をつけて。敵は少なくとも二体いるはずよ」
「二体?何故それがわかった?」
彼が尋ねると、彼女は携帯端末を取り出して彼に掲示した。その画面に、二つの黒っぽい何かが映った画像が表示されているのを見て、彼は納得する。
「部屋を出る直前に見た限りでは、何か特殊な武器を使ってるようね。職員の何人かも起こしたから、ビルの方は心配ないわ」
「そうか。それなら集中力を裂かなくていい・・・伏せろ!」
突然叫ぶと、彼は二人の頭を地面に押さえつけた。ほぼ同時に、赤色の刃が三人の頭上を切り裂く。ジェストは伏せたまま敵に向けて発砲し、すぐさま後退したその敵を睨みつけた。
「何なんですか・・・アレは?」
少し怯えた声でサラが訊くと、ジェストは険しい表情のまま、小さく返した。
「俺にもわからない。だが、こっちに好意を持ってない事だけは確かだな」
その時、敵が再び斬りかかってきた。彼は刃をすばやい身のこなしで回避すると、敵の懐で銃を連射した。が、銃弾は装甲服に受け止められ、敵に到達する事はなかった。銃弾が尽きると同時に敵の足蹴を食らい、彼はクレア達の脇に突き飛ばされた。片膝をついた状態で、彼は血の混じった痰を吐き出し、つぶやきを漏らした。
「くそっ・・・。豆鉄砲程度じゃ無理か」
「警備会社の社員のくせして、結構弱いじゃない。もっといたぶってから殺した方がいいかしら?」
彼らを馬鹿にするような口ぶりで、敵が笑い声を上げる。クレアは後ろにいるサラに声をかけた。
「あなたはジェストの援護を。私がひきつけている間に、彼を敵の至近距離まで援護しつつ移動させて」
「わかった。その後は・・・?」
「その後は・・・おそらく彼もわかると思うから、あえて言わないわ」
彼女はそう言うとショットガンを地面に降ろし、手の甲に装備した武器のロックを解除した。そして、敵の姿をしっかりと見つめたまま突進した。
「今度は私が相手よ!かかってきなさい!」
「やっぱり頭も足りないようね。でも、暇つぶしには丁度良さそう」
敵が楽しそうな口調で言い返すと、彼女は武器を発射した。尾部にワイヤーが接続されたフック部分が、敵目掛けてまっすぐに飛行する。だが、敵はそれを簡単に避けると、彼女に向かって飛び掛った。
「クレアちゃん!!」
サラが叫び声を上げる。しかし、クレアは避けようともせず、もう一つのフックを発射した。と同時に、飛び出した二つのフックに意識を集中させる。そして、ほぼ一直線に飛び出したままのフックが、突然逆方向に急旋回し、彼女の方へと戻ってきた。
「誘導式フックか!?」
斬りかかろうとしていた敵が気づくと同時に、二つのフックがウイングの先を切り裂いた。バランスを崩した敵に、彼女は再びフックを打ち込んだ。そして、とっさに跳躍する敵を追跡するように、フックの軌道を自在に操る。
「こ、小賢しい!!」
フックに向かって刃が振り下ろされるが、それさえも華麗な動きで回避すると、フックの一つが装甲の継ぎ目を裂いて敵の腹部を貫いた。そして、もう一つが腕にワイヤーを巻きつけ、動きを封じる。
「おのれ・・・民間人だと油断したのが・・・仇になったか」
「さあ!今のうちに止めよ!!」
彼女が叫ぶと、ショットガンを構えたジェストが敵のすぐ目の前に現れると、引き金に指をかけた。そして、ニヤリ、と笑みを浮かべて言い放った。
「相手が悪かったな、御嬢ちゃん」
「・・・っ!?」
そのまま引き金を引き、銃に装填されていた対物用の銃弾が敵の胸部装甲を貫通し、内部を大きく抉り取って破裂した。敵は衝撃で大きく仰け反ると、そのまま後ろに倒れて動かなくなった。ジェストは硝煙の上がった銃口を下に下げると、まだかすかに意識の残っているらしい敵のバイザーを外した。そして、焦点の定まらない瞳を見つめながら、静かに言った。
「悪く思うな。こっちだって死にたくはない」
彼女の口が震えながら動き、その端を血がツーツと一筋、滴り落ちた。筋肉が弛緩し、徐々に瞳孔の広がり始めた彼女の瞼を閉じさせると、彼はバイザーを握って立ち上がった。
「敵とはいえ、死んだ奴には礼儀を尽くすものだからな」
そう言って銃を彼女に返すジェストを見つめながら、クレアは少し悲しそうな表情になり、無言で頷いた。彼は自分の上着を脱ぐと、穴の開いた胸部と顔を覆い隠すようにして敵に被せた。そして、自分の拳銃に新しいマガジンを装填すると、夜空に閃光を放つもう一つの戦場を見上げた。
『Ⅷのシグナル消失を確認した。Ⅶ、今回は失敗だ。一旦退け』
レオンの放ったビームを目の前で回避したⅦは、無線で連絡を受けた。一瞬だけ視線を下に移し、男物の上着が被せられた彼女らしき遺体を確認すると、戦闘を停止した。突然の異変に驚いている様子のレオンに、彼は冷静な口調で言った。
「今回は残念ながらここまでだ。だが・・・次に会う時は死を覚悟しろ」
「待て!何なんだ、お前は一体?それに・・・俺は?」
飛び去ろうとしたⅦに向かって、レオンは大声で叫んだ。それに対し、彼は剣を格納しつつ冷たい声で答えを返した。
「我々は戦う為だけの存在・・・殺戮の為の兵器だ。それ以上言う事は何もない」
「兵器・・・だと!?」
「さらばだ旧式、そして・・・必ず討つ」
そう言って、彼は高速で飛び去った。レオンは記憶の中の方法を呼び覚まし、ライフルを内部に格納すると、ゆっくり降下し始めた。
ビルの前に降り立つと、三人が厳しい表情をして待ち構えていた。
「すみません。・・・どうやら俺のせいでこんな事に・・・」
翼を格納した後で彼が頭を下げると、ジェストはいつもの口調で言い返した。
「お前が心配してるほど、こっちは気にしてない。ただ・・・お前が奴らと同類だって事を除いてはだが」
「でも、無事で良かったです」
サラはそう言って、無理やり笑顔を作った。
「まあ、細かい事は後にして、まずは軍に連絡を入れた方が良さそうね」
「そうだな。あの死体の事もあるし」
ジェストはそう言って端末を取り出すと、治安維持軍の地域管轄部に連絡を入れた。その横で、彼はうつむいたまま考えていた。これからどうなってしまうのだろうか・・・。俺は、俺達は一体・・・?
「いやぁ、なかなか魅力的なデータが取れてよかったよ。それだけでも彼女の利用価値は十分にあった。それに・・・いいものが見つかったしね」
ディスプレイのひとつを見つめながら、男は笑っていた。その画面に表示されているのは拳銃を構えたサラと、その右腕にある腕輪のアップ。男の笑い声は、部屋中に深く響き渡っていた・・・。
次回予告
自らの過去と正体を知った殺戮者。
仲間を傷つけぬためにと採った行動が、
大切な仲間を傷つけ、失わせる。
次回『悲しみの結果』
猛獣の刃は、恋人を貫く。
(C)akkiy
↓↓↓CM↓↓↓
コノリンクオシテクダサイヨォ~(ペリー提督の懇願
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ひとこと:やっほい、一週間遅れ。次回公開後は当分更新できない様子。
「平和なんて退屈・・・。兵士の、私の唯一の娯楽は戦いなのよ・・・」
また大きな戦争でも起こらないかな、と物騒な事を考えつつも、同時にそれが不幸を生み出す事を承知していた。わかってる・・・戦争はゲームじゃないって。銃を撃てば人が死ぬ。ナイフを急所に刺せば、当然血が噴き出す。でもそれが何?人が殺され死ぬ度に祈りを捧げろとでも言うの?そんな事を律儀にやってたら、きっと狂ってしまうだろう。それよりは・・・単なる娯楽と思えばいい。そう、例えばチェスやカードゲームのように。敵はみんな標的だと思ってしまえば・・・。
「ルシア大尉は随分と退屈そうな表情ですねぇ」
隣の席にいた薄紅が、いつもの皮肉のこもったような口調で言うと、彼女は起き上がり冷静な口調で言い返した。
「別に。それより、隊長が何処に行ったか知らない?一時間後に独立機動群の合同ミーティングがあるのに」
「どうせ自分の屋敷ですよぉ。貴族らしく身なりを整えて、といった感じでしょうかねぇ?」
「どうだか。他隊の隊長に喧嘩でも売ってるというのが現実かもね」
彼女はそれだけ言うと椅子から立ち上がった。
「大尉もお出かけですかぁ?」
薄紅が尋ねると、彼女は一旦立ち止まり、しかし何も言わぬままその場を立ち去った。ドアが閉まった後で、薄紅はニヤリ、と意地悪そうな笑みを浮かべた。
「まったく、近頃の隊員は怠け過ぎですよぉ」
CyberChronicle
第五話『二度目の覚醒』
レオンは照明を消した部屋の中でベッドに寝転がっていた。暗い天井を見つめたまま、彼は黙って考えていた。クレア達には、しばらくの間ゆっくり過ごせ、と言われたものの、今日は何か落ち着かない。何と言っていいかわからないが、とにかく何かが起こりそうな気がするのだ。彼はため息をつき、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「気のせいだ・・・多分」
同時に、そうだといいが、と心の中で思っていた。この一週間というもの、身の回りで様々な事が起こった。おそらく、そのせいで疲れているんだろう。そう思った方が幸せな気がしていた。彼はもう一度ため息をつくと、ゆっくりと目を閉じた。
「もうそろそろ寝ないと・・・」
そうつぶやいた瞬間、ベッドのすぐ脇を一筋の閃光が掠め、天井を貫いた。彼が直感でベッドから飛び降りると、ベッドを複数の閃光が貫通し、ほぼ同時に爆発を起こした。両手でベッドの破片を防ぎつつ、彼は煙の立ち込めた部屋と、その中央付近に開いた直径2メートルほどの穴を黙って見つめた。
「一体何が起きて・・・」
そう言った時、穴から何かが勢いよく飛び出し、彼を窓へ向けて強く弾き飛ばした。強化ガラス全体に蜘蛛の巣状の亀裂が入り、彼の身体は更に強く押し付けられた。
「う・・・ぐぅっ」
彼の首筋を、アサルトグローブをはめた右手がしっかりと掴み、左手に握られた大型のライフルの銃口が、彼の頭部をまっすぐに捉えていた。このままじゃ・・・殺・・・される!?そう直感した瞬間、相手の口元が微かに動き、殺気を帯びた声が静かに響いた。
「悪いが死んでもらう。悪く思うな、旧式」
「何の事だ・・・?俺は普通の」
そう言い掛けた時、銃口の奥が赤い光を放った。爆発とともにヒビの入ったガラスが粉々に割れ、爆発による煙が窓だった場所から溢れ、ゆっくりと流れていく。黒一色の翼をまとった兵士はそこから飛び出すと、手に持っていたライフルを格納した。入れ替わりに両刃の剣を展開し、右手で掴み取る。
『至近距離で一撃浴びせた。Ⅷ、目標の抹消を確認しろ』
彼が左耳に取り付けた無線機で状況を報告すると、上方で武装を展開したままのⅧが返事を返した。
『了解。・・・それにしてもあっけない死に方ね。武装の展開さえなかったのは、戦士としてある意味寂しいわ』
『確かにそうだが、付随被害が殆ど発生しなかっただけマシ・・・ん?』
突然バイザーの画面に警告表示が映し出され、彼はとっさに後退した。と同時に、赤色の閃光が先ほど頭部のあった場所を通過した。彼は剣を構えると、真っ赤な金属の翼をまとったレオンを睨みつける。
「なるほど・・・やはり一筋縄ではいかないようだ・・・」
そうつぶやきながら、彼は背面の翼に格納された鋏状の武器を片手で掴み、目標に目掛けて投擲した。放たれた武器がスラスターを噴射し、一気に加速する。そして、レオンの手前まで接近したところで鋏が開き、その内側にエネルギー刃が一直線に展開された。が、レオンも右手にエネルギー刃を展開すると、鋏を目の前で受け止めた。
「さっさと落ちなさい!」
叫び声とともにⅧが両肩のビーム砲を発射するが、レオンはとっさの判断で左手に金属の盾を展開し、砲の射線をさっと覆った。二筋の白色の閃光は盾とぶつかり、その熱で盾の表面を溶かしつつ消滅した。そしてⅦが放ったビームを巧みに回避しつつ、彼に急接近して刃を振り下ろした。
「くそっ」
Ⅶはとっさに剣を構え直すと、顔の手前で刃を受け止めた。やはり暴走状態か・・・。鮮血のように赤く染まったレオンの瞳を睨みつけながら、彼はそう確信した。IWS実験の負の遺産とも言うべきものを負わされるとは、何とも哀しい事だ。
「この際、付随被害が出るのは仕方がない・・・」
独り言を言いつつ、彼はレオンを蹴り飛ばすと同時にライフルを発砲した。レオンはとっさに盾を構えたが、先ほどの砲撃で既に半壊状態になった盾はたった数発を防いだだけで破壊された。それでも、十分な間合いを取るだけの時間を稼ぎ、彼はビームの熱で溶けた盾を捨てると、代わりにあの時と同じライフルを左手に展開した。Ⅶも剣を格納してライフルを右手に持ち替えると、彼に向けて発砲した。それを紙一重で回避しつつ、レオンも負けじと応戦する。高速で移動しつつ、彼は上方で待機しているⅧに指示を出した。
『Ⅷはアウトレンジから援護しろ。それと・・・出てきた民間人は殺せ』
『了解。これで迷う事無く殺し合いができるってところね』
Ⅷはニヤリと笑みを浮かべ、戦いの輪から離れた。さて、とⅦはレオンの撃った弾を軽々と回避しつつ考える。今の奴は完全に本能の操るままに戦っている。とはいえ、いつ暴走状態が解けるかわからない状況での長期戦は望ましくないな・・・。彼はバイザーに表示されたエネルギー残量を確認した。エネルギー兵器を使用しての戦闘が可能な時間は、長く見積もってあと一時間程度。問題は、奴の仲間が介入してくる事位か・・・。
「クルナ・・・コッチニクルナ・・・」
ライフルを乱射しながら、レオンは唸るようにつぶやいていた。敵のビームが肩や頬を掠める。彼は混濁した意識の中で、意識の奥底にある何かが命じるままに腕を動かし、機械的に引き金を引いていた。時折、黒一色の装甲服を着た兵士の姿が視界の片隅に映り、すぐに消え去る。一体今、自分が何をやっているのかなどわかるはずもなく、彼はほとんど無意識に近い状態で飛び回っていた。ビームが左足を掠め、火傷のようなヒリヒリとした痛みが伝わってくる。一体・・・何が起こって・・・。その時、風の音に混じって誰かの声が聞こえた。それは、なんとなく聞き覚えのある声。
(IWSE-05、コードネーム:レオン。これが現在開発中の兵器の最新試験型だ)
(何故レオンなんです?兵器ならもっと凄い名前をつければ・・・)
(僕以外には理解できない理由さ。それに、君が知る必要もない)
誰だ・・・?何で俺の・・・それに実験体・・・何の事・・・?
(実践に近い形で評価試験をやる事になった。回路の設計上、問題はないはずだ)
(・・・一般兵士を相手にした評価試験の結果なんですが・・・、かなり順調です)
(じゃあ、今度は対AW戦闘かな)
A・・・W・・・?回路・・・設計・・・?彼の引き金にかけた指が突然止まった。と同時に翼のスラスターが停止し、地表に向けて落下していく。
(回路の制御が・・・!だめです!完全に制御不能!!)
(四機ともやられただって!?・・・Ⅵを出撃させろ!大事になる前に奴を落とすんだ!!)
(ですがⅥもほぼ同型の回路設計を・・・)
(いいから早く出せ!早くしないと・・・これまでの苦労が水の泡だ!!)
俺は一体・・・一体何者・・・なんだ・・・?地表が霞む視界の中で迫ってくる中、誰かの声が何度もこだまし、そして唐突に止まった。と同時に、誰かの姿が一瞬だけ脳裏に浮かんだ。それは彼自身に似ているようで、しかし何か違っている気がした。それが消えると同時に、再び声が、しかし今度は全く別の声がはっきりと聞こえた。
『死にたくなければ起きろ。そして、戦え』
次の瞬間、頬の刺青が赤い光を放った。
Ⅷは突然停止し、落下したレオンに照準を定めていた。垂直射撃により、レオンを貫通して地上に損害を与える可能性があるが、さほど問題にはならないはずだ。万が一予想以上の被害が発生したとしても、おそらく何らかの隠蔽操作が行われるため、市民の多くには事故として認識される事になる。二つの照準が彼に合わさると、彼女は口元に微笑を浮かべた。
「つまらなかったけど、これで終わりよ」
そうつぶやいて引き金を引いた瞬間、目標の推力が戻った。だが、もう手遅れだ。姿勢を制御する事さえままならないまま砲撃を受け即死、あるいは回避してもどこかに衝突して死亡する以外には・・・。二本の太いビームが地上にぶつかり、熱風とともにその周囲を破壊した。しかし、彼は回避したらしく、その隙間をかいくぐって彼女へと向かってきた。
「避けられた!?くそっ、墜ちろぉっ!!」
彼女は叫ぶと、彼に向かって両肩のビーム砲を立て続けに撃つ。だが、さっきまでと違い非常に巧みな動きで立て続けに回避していく。そして、両手にそれぞれエネルギー刃を展開すると、彼女に斬りかかった。
「ちぃっ!」
Ⅷは舌打ちしつつ砲を格納し、両肩の盾を彼の前にかざした。一瞬の間を置いて刃が接触し、激しく火花を散らす。彼女は二つの刃を連続で受け流すと、すぐさま後方に下がった。そして、入れ替わるようにしてⅦが二人の間に割り込み、レオンに向けてライフルを連射した。彼は砲撃を左右に回避しつつ、刃を格納して再びライフルを展開して両手で構えた。
「暴走状態が解けた、か・・・」
彼の攻撃を盾で受け止めつつ、Ⅶはつぶやくように言った。ならば、こちらも本気を出すまでのことだ。彼はライフルを格納すると、再び剣を展開して右手に構え、左手でウイングの鋏を掴んだ。そのとき、ビルから数人のAAが出てきたのが視界の端に映った。
『Ⅷ、地上側を頼んだ。民間人とはいえ油断は禁物だ、いいな』
彼が命令を出すと、彼女は多少ふてくされつつ応答した。
『それくらいわかってるわよ。じゃあ、その出来損ないの始末は任せるわよ』
『了解』
盾を格納し、代わりに湾曲したエネルギー刃を両手に展開した彼女が降下していくのを一瞬だけ確認すると、彼はレオンに向かって鋏を発射した。
「ここからは真剣勝負だ。覚悟しろ」
そして、飛んできた鋏を目の前で受け止めつつ、レオンもまたつぶやきを漏らした。
「俺は戦う。俺自身を・・・仲間を守るために」
直後、二人は同時に斬りかかった。互いの刃がぶつかる度、黒色の空に閃光が激しく散る。そして、周囲一帯もまた、徐々に戦いの色へと染まり始めていた。
「おいおい・・・、一体何が起こってるんだ?」
正面エントランスから飛び出したジェストは、時折閃光の走る夜空を見上げて驚いた。赤と青の閃光が飛び交っている事からすれば、戦闘であることに間違いはない。だが、戦っているのは大きさからして明らかにAAだ。
「よくわからないが・・・とにかく安全を確保した方が良さそうだな」
彼は視線を前に戻し、懐から拳銃を抜き放った。こういう状況にいると、軍にいた頃を思い出すんだよな・・・。彼はそう思いつつ、クレアとサラがやや遅れてやってきた事を察知して振り返った。サラも業務で愛用している自動式の拳銃を握っている。そして、クレアは両手の甲にフックショットのような武器を一基ずつ装備し、背中にショットガンを背負っていた。
「気をつけて。敵は少なくとも二体いるはずよ」
「二体?何故それがわかった?」
彼が尋ねると、彼女は携帯端末を取り出して彼に掲示した。その画面に、二つの黒っぽい何かが映った画像が表示されているのを見て、彼は納得する。
「部屋を出る直前に見た限りでは、何か特殊な武器を使ってるようね。職員の何人かも起こしたから、ビルの方は心配ないわ」
「そうか。それなら集中力を裂かなくていい・・・伏せろ!」
突然叫ぶと、彼は二人の頭を地面に押さえつけた。ほぼ同時に、赤色の刃が三人の頭上を切り裂く。ジェストは伏せたまま敵に向けて発砲し、すぐさま後退したその敵を睨みつけた。
「何なんですか・・・アレは?」
少し怯えた声でサラが訊くと、ジェストは険しい表情のまま、小さく返した。
「俺にもわからない。だが、こっちに好意を持ってない事だけは確かだな」
その時、敵が再び斬りかかってきた。彼は刃をすばやい身のこなしで回避すると、敵の懐で銃を連射した。が、銃弾は装甲服に受け止められ、敵に到達する事はなかった。銃弾が尽きると同時に敵の足蹴を食らい、彼はクレア達の脇に突き飛ばされた。片膝をついた状態で、彼は血の混じった痰を吐き出し、つぶやきを漏らした。
「くそっ・・・。豆鉄砲程度じゃ無理か」
「警備会社の社員のくせして、結構弱いじゃない。もっといたぶってから殺した方がいいかしら?」
彼らを馬鹿にするような口ぶりで、敵が笑い声を上げる。クレアは後ろにいるサラに声をかけた。
「あなたはジェストの援護を。私がひきつけている間に、彼を敵の至近距離まで援護しつつ移動させて」
「わかった。その後は・・・?」
「その後は・・・おそらく彼もわかると思うから、あえて言わないわ」
彼女はそう言うとショットガンを地面に降ろし、手の甲に装備した武器のロックを解除した。そして、敵の姿をしっかりと見つめたまま突進した。
「今度は私が相手よ!かかってきなさい!」
「やっぱり頭も足りないようね。でも、暇つぶしには丁度良さそう」
敵が楽しそうな口調で言い返すと、彼女は武器を発射した。尾部にワイヤーが接続されたフック部分が、敵目掛けてまっすぐに飛行する。だが、敵はそれを簡単に避けると、彼女に向かって飛び掛った。
「クレアちゃん!!」
サラが叫び声を上げる。しかし、クレアは避けようともせず、もう一つのフックを発射した。と同時に、飛び出した二つのフックに意識を集中させる。そして、ほぼ一直線に飛び出したままのフックが、突然逆方向に急旋回し、彼女の方へと戻ってきた。
「誘導式フックか!?」
斬りかかろうとしていた敵が気づくと同時に、二つのフックがウイングの先を切り裂いた。バランスを崩した敵に、彼女は再びフックを打ち込んだ。そして、とっさに跳躍する敵を追跡するように、フックの軌道を自在に操る。
「こ、小賢しい!!」
フックに向かって刃が振り下ろされるが、それさえも華麗な動きで回避すると、フックの一つが装甲の継ぎ目を裂いて敵の腹部を貫いた。そして、もう一つが腕にワイヤーを巻きつけ、動きを封じる。
「おのれ・・・民間人だと油断したのが・・・仇になったか」
「さあ!今のうちに止めよ!!」
彼女が叫ぶと、ショットガンを構えたジェストが敵のすぐ目の前に現れると、引き金に指をかけた。そして、ニヤリ、と笑みを浮かべて言い放った。
「相手が悪かったな、御嬢ちゃん」
「・・・っ!?」
そのまま引き金を引き、銃に装填されていた対物用の銃弾が敵の胸部装甲を貫通し、内部を大きく抉り取って破裂した。敵は衝撃で大きく仰け反ると、そのまま後ろに倒れて動かなくなった。ジェストは硝煙の上がった銃口を下に下げると、まだかすかに意識の残っているらしい敵のバイザーを外した。そして、焦点の定まらない瞳を見つめながら、静かに言った。
「悪く思うな。こっちだって死にたくはない」
彼女の口が震えながら動き、その端を血がツーツと一筋、滴り落ちた。筋肉が弛緩し、徐々に瞳孔の広がり始めた彼女の瞼を閉じさせると、彼はバイザーを握って立ち上がった。
「敵とはいえ、死んだ奴には礼儀を尽くすものだからな」
そう言って銃を彼女に返すジェストを見つめながら、クレアは少し悲しそうな表情になり、無言で頷いた。彼は自分の上着を脱ぐと、穴の開いた胸部と顔を覆い隠すようにして敵に被せた。そして、自分の拳銃に新しいマガジンを装填すると、夜空に閃光を放つもう一つの戦場を見上げた。
『Ⅷのシグナル消失を確認した。Ⅶ、今回は失敗だ。一旦退け』
レオンの放ったビームを目の前で回避したⅦは、無線で連絡を受けた。一瞬だけ視線を下に移し、男物の上着が被せられた彼女らしき遺体を確認すると、戦闘を停止した。突然の異変に驚いている様子のレオンに、彼は冷静な口調で言った。
「今回は残念ながらここまでだ。だが・・・次に会う時は死を覚悟しろ」
「待て!何なんだ、お前は一体?それに・・・俺は?」
飛び去ろうとしたⅦに向かって、レオンは大声で叫んだ。それに対し、彼は剣を格納しつつ冷たい声で答えを返した。
「我々は戦う為だけの存在・・・殺戮の為の兵器だ。それ以上言う事は何もない」
「兵器・・・だと!?」
「さらばだ旧式、そして・・・必ず討つ」
そう言って、彼は高速で飛び去った。レオンは記憶の中の方法を呼び覚まし、ライフルを内部に格納すると、ゆっくり降下し始めた。
ビルの前に降り立つと、三人が厳しい表情をして待ち構えていた。
「すみません。・・・どうやら俺のせいでこんな事に・・・」
翼を格納した後で彼が頭を下げると、ジェストはいつもの口調で言い返した。
「お前が心配してるほど、こっちは気にしてない。ただ・・・お前が奴らと同類だって事を除いてはだが」
「でも、無事で良かったです」
サラはそう言って、無理やり笑顔を作った。
「まあ、細かい事は後にして、まずは軍に連絡を入れた方が良さそうね」
「そうだな。あの死体の事もあるし」
ジェストはそう言って端末を取り出すと、治安維持軍の地域管轄部に連絡を入れた。その横で、彼はうつむいたまま考えていた。これからどうなってしまうのだろうか・・・。俺は、俺達は一体・・・?
「いやぁ、なかなか魅力的なデータが取れてよかったよ。それだけでも彼女の利用価値は十分にあった。それに・・・いいものが見つかったしね」
ディスプレイのひとつを見つめながら、男は笑っていた。その画面に表示されているのは拳銃を構えたサラと、その右腕にある腕輪のアップ。男の笑い声は、部屋中に深く響き渡っていた・・・。
次回予告
自らの過去と正体を知った殺戮者。
仲間を傷つけぬためにと採った行動が、
大切な仲間を傷つけ、失わせる。
次回『悲しみの結果』
猛獣の刃は、恋人を貫く。
(C)akkiy
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ひとこと:やっほい、一週間遅れ。次回公開後は当分更新できない様子。