Operation Ragnalok
第三話『戦いのためだけに』
エリア66。そのほとんどの都市は廃墟となり、現在はそのほとんどをBAI社が管理している。
もちろんエリアを管轄する部隊はいるものの、戦力はほとんどと言っていいほど持っていない。
それに、BAI社の方から「治安についてはこちらで解決する」と言ってきたものだから、
ほとんど仕事はないと言っていいほどだった。その日までは。
管轄部隊の基地には今、次々と各地の地上攻撃部隊が集結していた。戦車や装甲機動車、
自走砲などの車両が輸送機から降ろされ、指定された位置へと移動していく。
しかも兵士の数も相当なもので、基地の至る所に集まり、武装や作戦の確認などを行っていた。
いつもの寂れた基地ではなく、非常ににぎやかな、しかし張り詰めた雰囲気が漂う状態だった。
管轄の部隊は雑用よろしく、集結した攻撃部隊にこき使われていた。一人が愚痴をこぼす。
「・・・ったく、何で俺たちがこんな雑用をさせられてんだよ?普通なら俺たちも出撃だろう?
何で基地に残れって事になるんだよ」
「そこの君!ごちゃごちゃ言ってないでこの車両を移動させろ!」
普通の軍人ではなさそうな雰囲気の女性、いや女っぽい男性が彼を怒鳴りつけた。
彼は一瞬そちらを睨んだが、しぶしぶ車両に乗り込みエンジンをかけた。
その医務室ではさくらがベッドの上で上半身だけを起こし、外の様子を見ていた。
彼女は気を失ったままこの基地に運び込まれ、そして先ほど目を覚ましたばかりだった。
「戦争か・・・。一体どれだけの人が戻ってこられるんだろう・・・?」
窓の外にいる兵士たちを見て、彼女はぼそぼそとつぶやいた。救出された他の兵士は外にいる。
どうやら戦闘には出ないが、基地内でいろいろと手伝っているようだ。さくらはベッドから出た。
彼女の頭には包帯が巻かれてはいるが、出血はもう完全に収まっている。彼女は軍服を着ると、
部屋の外に出てみた。そこにも衛生兵たちが集まり、携行する医療器具などを確認していた。
そのうちの一人がさくらに気がつき、彼女に声をかけた。
「さくら上級衛生兵、無事で何よりです。あなたはここに残って、搬送されてきた負傷者の
手当てを行ってください」
「はい。みんなも必ず生きて帰ってきてください」
彼女がそう言うと、他の衛生兵たちは彼女に敬礼した。生きて帰ってきてほしい、
彼女は心の底からそう願っていた。
外では、先程の男性が車両内に入って部下に指示を出していた。その車両内は最新の
電子機器が所狭しと積み込まれ、水冷装置が静かに音を立てている。
「全システムの起動を確認後、戦況監視システムと通信システムをオンに。その後は敵の
遠隔攻撃システムをワームで叩く。おそらく敵側にもそれなりの技量を持った奴がいるはず。
一瞬でも油断は禁物だ。わかっているな?」
彼がそう確認すると、部下はすぐに返答した。
「はっ。全システム起動。起動確認後に戦況監視システム、及び通信システムをオンに変更」
「目標、遠隔攻撃システムサーバー。隠しポートの検索を開始します」
「ワーク制御プログラム起動準備開始。今回の作戦に最適なワームを選択」
ワームとは、仮想サーバーを攻撃するための単純型ウイルスの事だ。仮想サーバーが現実世界
で言うコンピュータなら、ワームはコンピュータウイルスということになる。
当然ながら、ワームに具体的な形は存在しない。仮想サーバー上に存在する一つのプログラム
でしかないのだから。とそのとき、他の部隊の隊長が車両のドアをあけた。彼がそちらの
方に顔を向け、どうした、と尋ねる。
「いや、君たち情報担当部隊の仕事が少し気になってね。しかし私が見てもさっぱりわからんね」
そのやや年老いた隊長はそう言いながら車両内を見渡した。
「ところでロゼリィ情報担当官、コーヒーは好きなほうかね?」
彼が尋ねると、男性―ロゼリィ情報担当官―は別に嫌いではない、と一言だけ答えた。
年老いた隊長はそうか、とうなずくと車両から出て行った。コーヒーを一緒に飲もうとでも
思っていたのか、あの隊長は。私にそんな物をゆっくりと飲んでいる暇はない。たとえ飲む
としても、この場所で眠気覚ましのために飲むぐらいだ。彼はそう考えながらも、さっきの
年老いた隊長が果たして生きて戻ってくるかどうか、少し気がかりだった。
「タイムリミットまであと35時間か・・・」
高く聳え立つ構造物の上層部、一人のための部屋とは思えないほど広い部屋の中心に蒼は立ち、
その周囲を取り囲むディスプレイに映し出される光景を眺めていた。それは構造物の周囲に
集まった彼の私兵部隊、そして無人戦闘車両と無人戦闘ヘリコプターの映像だった。
「治安維持軍が攻めてきたところで、時間内にここを落とせるかどうか。彼らは無駄な事を
しているに過ぎない。まあいいだろう、多少は彼らの遊びに付き合ってやらなければな」
彼はそう言って冷たく笑う。その目にはただならぬ狂気が映し出されていた。
一方、下層部には四賢人のうち二人がいた。
「クリア、お前は地上の敵を一掃してくれ。俺は空にいる奴らを片っ端から落とす。
もちろん紅が現れたら、お前が戦え」
鎌を持ったAAは、半透明の剣を持つAAにそう言った。
「わかっている。ルクス、貴様は絶対に俺の邪魔をするな!」
クリアがそう怒鳴ると、ルクスは彼に一応の返事を返した。
「はいはい。じゃあそういう事でいいな」
そのとき、敵の接近を知らせるアラームがけたたましく鳴り響いた。ついに戦闘開始だ。
二人は互いの顔を見て軽くうなずくと、戦いの場へと飛び出していった。
「ついに始まりますか・・・」
中層部には、四賢人のうち一人が待機していた。彼は落ち着いた物腰でそうつぶやくと、
そばに置いてある金属の8面体を拾い上げた。そして八面体をいじり、手を離すとそれは
自動的に宙に浮き、彼の周囲を回転し始めた。彼はもうひとつの八面体も同じように起動し、
彼の周囲を二つの八面体が浮かんでいる状態にした。彼はまたつぶやいた。
「さて、私はとりあえず見物でもしますかね・・・」
場所は変わってレモン屋宅。レモン屋は軍にいるある人物の仮想サーバーにアクセス
していた。というのも、今回の作戦に関する情報を一番持っているのがその人物だからだ。
いつものように自作のツールを使用し、相手の仮想サーバーに新しくポートを作る。
そしてそこから気づかれないようにアクセスし、情報を次々と引き出していく。
「それにしても、情報を扱う人間が簡単に情報を盗られるのは情けないな」
彼は思わずそうつぶやいた。引き出すべき情報をすべて抜き取ると、彼は別のツールを使って
先ほど作ったポートを隠蔽した。定期的に情報を抜き取れば、戦闘情報が楽に把握できる。
そして相手がこちらを見つけられないよう、さらに偽装をかけた。
「これでよし、と。さて、早速確認するか」
彼は抜き出した情報を瞬時に分類していき、重要なものに一通り目を通した。
「これはすごいな。治安維持軍のほぼ全戦力を一点に投入するなんて前代未聞じゃないのか?
・・・。なるほど、特務隊のほぼ全員が最前線に投入されるのか」
そうやって情報を見ていくうち、彼はとんでもない事に気がついた。それは、ある兵器に
ついての情報だった。その兵器は直接戦闘には関わらない。
「軍が特殊なワームを開発、使用するだと。いったいどこにそんな頭のいい野郎が・・・」
彼はそこで考えてみた。俺の知り合いでそういったものを開発できる奴は・・・。
とりあえず数人はいるな。でも軍にいる奴は確かいないはずだ。ということはあいつか。
彼の頭の中には、ロゼリィの姿が浮かんでいた。たしかロゼリィは情報担当官で、情報戦に
最も慣れているはず。
「・・・なんでこういう時に俺の敵になってるんだ」
レモン屋は舌打ちした。軍にとっては、彼の存在をあまり好いてはいないからだ。
しかもよりによって情報担当官が相手となると・・・。
「まあいい。どうせ俺が捕まってもあいつが何とかするだろうし」
もちろんあいつとは、いつも情報をほしがる奴のことだ。レモン屋はそう言って再び作業を
始めることにした。
治安維持軍の地上部隊は蒼たちのいる巨大構造物へと向かっていた。車両の巻き上げる
土煙が視界を茶に染める。そして車両内ではまもなく始まる戦いに向け、気を張り詰めていた。
そのうちの一人は、緊張のあまり手に持った銃が震えていた。彼の隣にいた兵士が声をかける。
「そんなにビビるなよ?少し落ち着いたらどうだ?」
「そんな事言われても・・・、勝手に手が震えるんです」
彼は普段よりも緊張した声で返事した。
「じゃあこれとかどうだ?手のひらに『人』と書いて飲み込めば落ち着くって聞いた事が
あるぞ」
「そんな事で直るわけないですよ」
「いいからやってみろよ。気分だけでも楽になるって」
隣の兵士が必死に勧めてくるので、彼は仕方なくやってみた。先ほどと緊張は変わらないが、
先ほどよりは気分が楽になったように感じた。要は心の持ち様か・・・、と彼は思った。
「な?ちょっとは落ち着いたろ?」
隣のやつはそう言って笑った。車内が少し明るい雰囲気に変わった。
「まもなく展開地点に到達する。全員無事で帰ってこい」
運転席にいる兵士はそう言いながら、車両をその場所で停止させ、後部ドアを開いた。
ドアが開くと同時に兵士たちは外へ飛び出し、車両の周囲に散開した。彼らの顔は非常に
引き締まった表情になっていた。先ほど乗っていた装甲車は全員が降りた事を確認すると、
後方へと下がっていった。入れ替わりに戦車隊が前進してくる。隊長ははるか先にある、
敵の構造物を見つめ、そして彼の部下たちに振り返って命令した。
「これより攻撃を開始する。各自、絶対に隊から離れるな!」
「はいっ!」
彼らの返事とともに、その部隊は構造物の建っている方向へと進撃を始めた。
「敵部隊を確認。無人機を発進させ、戦車隊を撃破する。クローンAAは歩兵を攻撃」
たくさんの物理サーバーが並べられた部屋で、BAI社の職員たちがせわしなく動き回っている。
その中央で指示を出しているのは四賢人の一人、ホッシュ系のAAだった。
彼はキーボードを叩きながら職員たちにリアルタイムで指示を送り続けていた。
「敵の現在位置を確認。無人機を直ちに出撃させろ」
「了解」
「クローンたちは敵の射程外よりアウトレンジ攻撃、絶対に寄せ付けるな」
そして外では、無人ヘリコプターが次々と飛び立ち、接近してくる戦車に向けてミサイルを
放った。いくつかの戦車から火柱が吹き上がる。しかし、同時に無人機も戦車からの攻撃で
一機、また一機と落とされていった。どちらも一進一退の攻防を繰り広げる。
そしてクローンAAたちはライフルやロケットランチャーを構え、敵部隊に向けて発射する。
その敵部隊からも銃弾が次々と飛んでくる。爆音、銃声、叫びと怒号が戦場に響き渡る。
その様子を、蒼は上層部のモニタールームでじっくりと『鑑賞』していた。
今のところはどちらも五分五分だ。しかしあの二人が戦闘に入れば、すぐに状況は
一変するだろう。彼の口から笑いがこぼれる。
「せいぜいあがくがいいさ。我々の計画はお前たちに止めることなど不可能だからな!」
彼の笑いが響く中、モニターに爆発が映し出された。その下では幾つもの命が散っていた。
「どれだけ犠牲を見ればわかるのだ、お前たちは。守るものはそこまで争うほどのものか?」
否、と彼は思う。彼らが守ろうとしているものは幻想でしかなく、意味はない。
ここで兵士たちの命が散っていく事は完全に無駄なのだ、と。
「無駄な事をして、結局は何も守れない。それが現実なのだよ」
彼はモニターの中にいる兵士たちを見ながらそう言い放った。
次回予告
全てを守るために、彼は戦いを挑む。
次回『悲しみのチカラ』
ひとこと
うわー、もう第三話まで書いちゃったじゃないか!
このペースで行っちゃうとさっさと終わってしまう!(嫌じゃないけど
というわけで次回は第四話です。彼が戦闘開始です。
※この物語は明らかなフィクションであり、今現在は現実とはまったく関係がありません。
最近FC2にも登録したんで。
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