『・・・次のニュースです。世界的に高い人気を誇る歌手、セレス・マークヘルトさんがエリア116での戦没者追悼コンサートを終え、本日昼前にマークヘルトグループ所有の専用機で首都に到着する予定です。セレスさんはマークヘルトグループ会長の長女で、幼少の頃から声楽等を学び、2年前のデビュー以降幅広い世代から多大な支持を・・・』
つけっ放しのテレビの前で、クレアは酷い頭痛のする頭を押さえながら、ソファーに寝転んでいた。無理もない、昨晩はシャンパンを最低でも5本たった一人で飲み、さらに他の酒も飲んだところで意識が飛んでいるほどだ。おそらく、最後まで残っていたであろう所員達の大半も、酷い二日酔いに悩まされているだろう。
「それにしても、あの三人はいつの間にかいなくなってたわね・・・」
日頃の睡眠不足の相乗作用で再び眠気に襲われながら、彼女は誰もいない部屋でつぶやいた。しかも、朝から姿を見ない所からすると何処かへ出かけたようだ。彼女は目を瞑りつつ、独り言を言う。
「どうせ買い物か何かでしょ・・・もうちょっと寝るか・・・」
彼女は足元に落ちていたブランケットを拾って掛け直し、そして、テレビの音声に混じって小さないびきが聞こえ始めた。
第二話 -歌姫と野獣-
首都郊外の空港には、国営、民間問わず多数の放送局の記者が集まっていた。その山を無理矢理押し退けるような形で、レオン達は護衛の控え室へと向かっていた。つま先を誰かに踏まれて転びそうになりながらも、そこを抜けた彼はジェストに尋ねた。
「別に関係者用の通路を使えばいいんじゃないですか?その方が早そうですし」
「あー、残念ながら無理だ。ここの通路は改装工事のせいで迂回路が多くて、今は普通に行った方が早いんだよ」
ジェストはそう言って、多少乱れた服装を正した。そして、黒というよりは茶色に近い色のレンズが入ったサングラスを着用した。レオンとサラも、同じようにサングラスを取り出して着用する。こういう関連の仕事では、なるべく顔がわからないようにしなければならないからだ。
控え室に着くと、他社から派遣されてきた護衛数人が煙草を吸っていた。彼らは三人が入ってきたのに気がつくと、そのうちの一人が片手を差し出し、握手を求めた。握手をしながら、ジェストは今回の依頼についての詳細な情報を確認した。
「運が良かったな。俺達はあの歌姫の車に乗れる」
握手を終えて振り向くと、彼は二人に向かってそう言った。その途端、レオンは少し焦ったような表情になった。
「え・・・!?ど、どうやって接したらいいんでしょうか?」
「いつも通りでいい。いつもの依頼のように、相手が官僚だと考えれば楽なもんさ。・・・それとも憧れの人に会えて嬉しいってか?」
彼がそう言って軽く冷やかすと、彼はますます慌てた様子でブンブンと首を横に振り、部屋を飛び出した。
「まったく・・・仕方ねえな。じゃあ俺とサラは後部座席に、レオンは落ち着いて仕事ができるよう助手席にするか」
彼が笑いながらつぶやくと、サラもつられたように笑った。そのとき、ジェストのポケットから彼女の歌が流れ、彼は慌てて端末を取った。
「はい、こちらはレーテルセキュリティエージェンシーの・・・、はい、了解」
端末の電源を切り、代わりにインカムを取り出して耳に装着すると、彼は部屋にいる全員に向かって指示を出した。
「依頼主の旅客機が到着したそうだ。行くぞ」
そしてドアを開けると、緊張を必死に抑えようとしているレオンの肩を叩き、声をかける。
「行くぞ、作戦開始だ」
「え?・・・あ、はい」
彼は慌ててインカムを装着し、彼らの後を追った。
誘導路をゆっくりとタキシングする小型の旅客機の中で、セレスはコンサートの時とは異なり、やや軽めの服装で窓の外を眺めていた。
「今日もマスコミの方々が沢山待っておられるのでしょうね。私としては早く屋敷に戻り、くつろぎたいのですが」
彼女がつぶやくと、傍にいたマネージャーが優しく声をかけた。
「大丈夫です。今日を含め数日間は、プライベートな時間を過ごせると思いますからね。報道関係の方も、あなたが疲れておられるのが多少なりともわかっている筈ですし、記者の数も前回よりは少なくなっています」
「そうだと良いのですが・・・。この前の事もありますし、あまり期待できそうにありませんわね」
機体がターミナルの傍に停止し、タラップが取り付けられるのを見つめながら、彼女はまたつぶやきを漏らした。そして、マネージャーが立ち上がった後に自分も席を立ち、乗降用ハッチへと向かった。
タラップを降りてきた彼女の目の前には、黒塗りの高級車が三台停車していた。その、中央に止まっている車両の後部ドアを開き、ジェストは彼女を丁寧な手つきで乗せ、自分も乗った。ドアが閉まると、三台はそのままターミナルビルの正面玄関まで向かい、そこで一旦停止した。マスコミが円状に囲む中で、ジェストは車を降りてドアを開け、彼女をゆっくりと降ろした。そして、彼女は大量のカメラとマイクを向けられつつ、追悼コンサートや、滞在中の話などをいつもの明るい調子で喋った。
「この映像、クレアが見てたりしてな」
ジェストが小さくつぶやくと、助手席で待機しているレオンはインカムを通して、そうですね、と相槌を打った。30分ほどの間、彼女はマスコミに向かって延々と喋り続けた後で再び車に乗り込み、やがて車列は再び走り始めた。
三台が空港を抜け、首都の中心部へと向かう幹線道路に移る中、ジェストは隣で疲れた顔をしているセレスをチラッと見た。よくここまで、人形のように明るい顔を固定していられるものだな、と彼は思いつつ、小型冷蔵庫からミネラルウォーターを出して彼女に勧めた。
「ありがとうございます」
彼女はそう言って、一口だけ水を飲む。口を潤す程度だけか、と彼は思った。
「ところで、歌手の仕事というのは随分と大変そうですね」
彼が尋ねると、彼女はグラスを置いて軽くうなずいた。
「ええ、見ての通りです。ですが、辛いだけではないので・・・」
「そうですか。・・・ご存知かと思いますが、俺達も結構危険な職業なので大変なんですよ。どの職種でも大変なものは大変、そういう事ですかね・・・?」
彼はそう言って軽く笑いながら、ふと窓の外を確認する。今のところ、不審な車両や人物はいないようだ。彼が彼女に視線を戻すと、彼女はつぶやいた。
「財閥の令嬢で人気歌手。時々この立場が嫌になる事もあります・・・。他の皆にとっては憧れでも、私にとっては苦痛に思えるんです」
「・・・」
彼は黙って彼女の顔を見つめた。そこにあるのは上流階級の表情でも、人気歌手の表情でもなく、憂いに満ちた一人の女性の表情だった。車内にしばしの間、沈黙が流れる・・・。ただ一人、助手席に座ったレオンだけが緊張して喋れなかったのだが。車列は、徐々に都市部へと入ろうとしていた。
『・・・マウスを車両の1キロメートル先に配置しました。まもなく遭遇、戦闘に入る予定です』
薄暗く狭い空間で、白衣を着た一人のAAが壁に並んだディスプレイを眺め、スピーカーから聞こえる状況説明に耳を傾けていた。メガネをかけた彼の顔は、これからまもなく開始される『実験』に興奮した笑みを浮かべていた。
「それにしても不幸な子だね、彼女。あの素晴らしい声で恐怖の叫びを上げる事になるんだから」
彼が冗談気味に言うと、スピーカーから同じく笑い声が聞こえてきた。
『まあ、彼女には色々と疑惑もかかってますしね。噂では『彼』と関わっているという話もあるくらいですし』
「そうだったかな?僕は世間から遠ざかってるから詳しくなくてね。・・・さて、そろそろ開始の時刻だ」
彼はそう言ってディスプレイのひとつ・・・一体のぽろろが路上で立ち止まっている映像に視線を向けた。さあ、その無垢な身体を血で染め上げろ。
「今のところ異常なし。このまま何事もなければ楽なんだが」
ジェストは他人には聞こえぬ小声でつぶやきながら、バックミラーに目をやった。あの後、車内は依然として静まり返ったままだ。といっても、殆どの依頼では護衛と依頼人が喋るという事自体が珍しい。だから彼女が黙り込んでしまっても、彼らにとっては別に問題ではなかった。むしろ仕事に集中できるのだから好都合といったところか。その時、前方の車両が急に減速した。彼の乗っている車両も、それに連動する形でどんどん速度を落としていく。事故でも起こったか。彼はそう考えつつ、前方車両にいる護衛と連絡を取った。
「何かあったのか?状況を教えてくれ」
『いや・・・実は目の前にAAが突っ立ってる。まだガキだ。どこから入ったのか知らないが、このまま置き去りというわけにもいかんだろう』
「そうだな・・・。とりあえずそいつを路肩に誘導・・・」
彼がそう言いかけた時、ドゴンッという音とともに、前方車両のボンネットが一瞬でスクラップになった。そして、今度はフロントとサイドのガラスがほぼ同時に割れ、破片が辺りに散らばった。
「おいおい、何があったんだ・・・?」
慌てて車両から飛び出した護衛達を見ながら、彼は一体何が起こっているのか理解できないでいた。しかし、助手席のレオンは車両の前方を指差して叫ぶ。
「ジェストさん!あれ見て下さい!」
「あれって何だよ?言わなきゃわからねぇだろうが」
彼はそう言って彼の指差す先を見た。サラもまた、気になってそちらへと視線を向けた。そして、それを見るや否や表情が一変した。
「ぽろろ・・・しかも暴走中ときた」
「しかもあの腕。人工的に改造が加えられてる・・・!」
二人は車両を見下ろすようにして立っている捕食形態のぽろろを、驚いた顔で見つめた。全体的に黒色のその身体からは幾つもの腕が現れ、その先端から中ほどにかけて、大きく鋭い刃物上の突起がひとつずつ付いている。ぽろろは無人になった車両を真っ赤に光る目でギロッと睨みつけると、それに向かって圧し掛かるように前方へと倒れた。その刃物が車両の屋根を貫通し、さらに重さでフレームがひしゃげ、完全に潰される。そして、エンジンにも刃物が突き刺さり、まだ稼動していた燃焼室を破壊して爆発を引き起こした。
さらにぽろろは慌てて後退した残りの二台に狙いを定め、地面を這うようにして接近してくる。レオンは拳銃を抜き、窓を開いて銃口を化け物の眉間に向けた。
「止まれっ!」
パアン、と銃声が一発響き、銃弾が化け物の頭を掠める。更にもう一度銃声が聞こえ、今度は化け物の額に見事な穴が開く。化け物は怯んだように立ち止まり、その頭が地面にゆっくりと下がっていく。
「今のうちに車を退避させろ。ここは俺達で引き止める」
ジェストはそう言ってレオンに合図し、車両から降りた。そして、上着の内側から一丁の大型拳銃を取り出した。小まめに手入れされたそれは、新品同様のきれいな黒光りを保っている。同じく車両から降りたレオンに、彼はすぐさま指示を出した。
「まだくたばってないな。今のうちに止めを刺すぞ」
「はい」
再びゆっくりと、顔を上げて二人を睨みつけるようにして見つめるぽろろに、レオンとジェストはありったけの銃弾をお見舞いした。その頭部を、目を、首筋を血を撒き散らしつつ抉り、そして貫通して彼の脳髄を破壊し、それの生理的現象を強制停止させる。化け物の身体はゆっくりと地面に崩れ落ち、そして動かなくなった。
「やった・・・?」
「ああ、ここまでやれば流石に・・・」
彼がそう言いかけた時、インカムから悲鳴が聞こえた。そして、すぐにノイズで何も聞こえなくなる。彼は慌てて背後を振り返った。そこに映し出されたのは、炎上する最後尾の車両と捕食形態のぽろろ。
「くそっ!もう一体いやがった!」
「このままじゃサラさんとセレスさんが・・・!」
二人は口々に叫ぶと、そちらへと全速力で向かった。破壊された車から逃げた護衛達もその後を追う。
「あはー。やっぱり簡単に倒されちゃったね」
せっかくの実験体を倒されてしまったというのに、白衣の男性は殆ど気にする事無く、むしろその自体を楽しんでいるかのごとく声を上げた。そして、更につぶやきをもらす。
「でも一台丸ごと『壊しちゃった』くらいだから、結果は上々かな。それに死んだと思っていた『彼』も確認できたし」
その顔が、狂気に満ちた笑いを浮かべる。あの時僕の命令を拒絶し、大切なマウスを何体も殺して姿をくらましてしまった『彼』が、こんな場所で偶然見つかったのはラッキーだよ。
『あの・・・マークヘルト嬢は本当に殺害しても構わないのですね?この場で言うのもなんですが、私も彼女のファンでして・・・』
「ああ、なるべく殺しちゃって。下手に証拠を残すと僕らの首が飛ぶ事になるから。それに、アイドルぐらいなら僕が幾らでも『生産』してあげるし」
彼はそう言ってマイク越しに笑いかけた。その口は、狂った感情に影響を受け、醜く歪んでいる。スピーカーから、部下の困惑気味の声が返ってきた。
『はあ・・・。ともかく了解しました』
「ああそれと、リミッターを解除しちゃっても構わないよ。むしろその方が面白いから宜しく」
彼はそう言って、視線をもう一体のぽろろがアップで映し出されている画面に移した。
腕から生えた砲身状のものから光弾を放ち、最後尾の車両を破壊したぽろろがその射線に最後の車両を捉えた時、セレスとサラ、そして運転手は車から離れていた。拳銃を右手に握るサラがセレスの目の前で庇うように立ち、小声で背後にいる彼女に下がるよう指示した。
「なるべく静かに、落ち着いて逃げて下さい。気づかれたら・・・お終いです」
「わ、わかりました・・・」
少し動転したような口調で返事をしつつ、彼女は、先程まで自分が乗っていた車両に向かって光弾を吐き出した化け物を観察する。ぽろろをベースにした殺戮兵器といったところか・・・。先ほど出現したのが至近距離戦用、そして今いるのが砲撃戦用。どちらも威力には優れているものの、そのスピードや防御能力からしてまだ完成には程遠いレベル・・・。おそらくこれは実験の為に作られた試験体だろう。彼女は考えつつ、サラの指示通りゆっくりと後退していく。
「セレスさん、何があっても私の後ろにいて下さい。残りがこの一体だけなら・・・」
「当たれぇっ!」
突然、彼女の声を遮るようにレオンが大きく叫び、銃を連射した。しかし、距離があるせいか全く命中はせず、ぽろろの表皮を掠る程度でしかなかった。そして、ぽろろが彼に気づいて腕の砲身全てを向ける。
「レオン危ない!!」
「そこから離れろ!死ぬぞ!!」
サラとジェストがほぼ同時に叫び、その直後全ての砲身から先程とは桁違いに巨大な光弾が発射された。
「うわぁっ!」
彼の叫び声が一瞬聞こえた瞬間、凄まじい閃光と爆発で破壊された車両が更に破壊され、粉々になって周囲に飛び散った。濛々と煙の立ち込める中、二人は先ほどの爆発に巻き込まれたであろう彼の姿を必死に探したが、直撃を受けたのか、その痕跡すら見つからなかった。ジェストはその場に呆然として立ち尽くし、
「嘘・・・だろ・・・?」
震えるような小さい声でつぶやいた。ちょうど駆けつけてきた護衛達も、何が起こったのか理解できない様子でその場に立ち尽くしている。ただ一人、セレスだけは別に驚きもせずに化け物をしっかりと睨みつけていた。あれだけの火力を持っているという事は・・・おそらくオラクルの兵器ではない。とすると、軍の実験体か。
「せ、セレスさん。私達がここで食い止めますから、その隙にここから逃げて下さい」
「は、はい」
彼女は他人と同じく混乱しているように装いつつ、誰にも聞こえぬよう軽く舌打ちした。くそ、今この状態で遭遇しなければ気にする事無く力を発揮できるのに・・・。ぽろろの視線がこちらへと向いた事に気がつき、彼女はゆっくりと後退した。
そのとき、ぽろろの斜上方から突然光弾が放たれ、それの腕のひとつを貫通した。一瞬の間を置いて腕が爆発を起こし、折れた砲身が落下しアスファルトの路面を陥没させた。そして、間を置く事無く次の弾が発射され、砲身を破壊していく。化け物はその巨体に似合わぬ高音の悲鳴を上げながら、自分が破壊されていく痛みに身を捩る。最後に、全ての腕が破壊された化け物の頭部に穴がひとつ開き、そして頭が急激に膨張し弾け飛んだ。爆煙が立ち込め、グロテスクな肉片が飛び散った路上で、全員が光弾の放たれた方向を見つめて叫び声を上げた。
「レオン・・・?」
空中で静止しているそれは、まさしくレオンだった。しかし、その背中からは金属の翼が六枚生え、そのスラスター部から青白い燃焼光が輝きを放つ。そして、彼の右手には大型の見慣れない形状のライフルが握られていた。彼はゆっくりと降下して化け物の目の前に着地した。
「あれは・・・!?」
セレスはその特異な姿を見て驚嘆した。馬鹿な、何故ここに『政府によって始末されたはずの』IWS試験型がいる・・・?しかし、そんな彼女の驚きには気づく事無く、サラは彼に向かって恐る恐る声をかけた。
「レオン・・・何でそんな姿に・・・?」
「ワカラナイ・・・オレハ・・・コロサナイト・・・スベテ・・・」
彼は途切れ途切れにつぶやきながらサラに銃口を向けた。その瞳は、彼女を仲間として認識していなかった。彼は狙いを定めると、躊躇う事無く引き金に指をかけた。が、そこでビクッと痙攣を起こして意識を失い、彼は前のめりに倒れた。同時に、ライフルと金属の翼が吸い込まれるようにして姿を消した。
「レオン・・・?レオン!しっかりして!」
彼女ははっとしたように目の前の青年へと駆け寄り、抱き起こした。そして、彼が無事なのを確認すると、彼女は緊張が一気に解け、その場にへたり込んだ。ジェストも二人の傍に駆け寄り、怪我が無い事を確認して立ち上がった。そして、少し離れた場所で二人を眺めているセレスに近寄ると、落ち着いた口調で声をかけた。
「ご無事で何よりです。すぐに別の車でお送りしますので・・・」
「それなら大丈夫です。もうすぐ迎えが来るそうですから」
「そうですか。しかし一般車は通行禁止になっている筈ですが」
彼がそう言った時、遠くからヘリコプターのローター音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる音を聞きながら、彼女は笑顔で答えを返す。
「車ではありません。私の場合移動手段の殆どがヘリコプターです。車だと、どうしても記者の方々が追いかけてきますから」
なるほど、と彼はつぶやいて空を見た。マークヘルトグループ所有の中型ヘリコプターが空中を旋回しつつ、道路にゆっくりと降下していく。そして、彼らから少し離れた場所に無事着陸した。
「サラ、レオンを頼む。俺は依頼人を送ってくる」
彼はインカム越しに指示を出すと、拳銃をしまって彼女の右側に立った。そして、ヘリの止まっている場所に向けて、ゆっくりと歩き始めた。
「あーあ。また暴走を起こして滅茶苦茶にしてくれたよ」
崩壊しつつある二体の試験体の映ったディスプレイを眺めながら、彼は妙に明るい笑顔でつぶやいた。そして、騒がしいスピーカーの音声の元に向かって指示を出す。
「実験体の残骸は『アレ』ぶち込んで完全消去して。それと、『彼』に監視をつけるように」
「了解しました。それにしてもよく作動しましたね、生体回路」
スピーカーから声が響くと、彼は笑いながら答えを返した。
「チャージしなくても、日常生活を続けていれば自然とエネルギーは蓄積される。サバイバルの為の機能なんだけど、それが偶発的な暴走に繋がったみたいだね」
「再暴走の可能性は現段階で5%未満と思われますが・・・」
「出来れば早い内に消去しないとね。それと、新型のテストを前倒ししよう。早くIWSの部隊配備に移りたい、と国防省が煩く言ってくるからね」
彼がそう言った時、実験体にライフル弾が数発撃ち込まれ、直後に急激な崩壊を起こして消滅した。後に残ったのは三台の高級車の残骸と、そして護衛達に混じった『彼』だけだった。まだ気絶したままの『彼』を眺めながら、彼は一人、残酷な笑みを浮かべていた。さあ、お楽しみはこれからだ・・・。
次回予告
それはまだ予兆でしかない。やがては全てを巻き込む事となるのだ。
それぞれの意思が、それぞれ形となり動き始める。
そして、いずれ激突する運命にあるのだ。そう、殺戮者も。
次回『悪魔の記憶』
解き放たれるはその悪しき力か、それとも。
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コノリンクオシテクダサイヨォ~(ペリー提督の懇願
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