ツレヅレグサ

雑記と愚痴と、時々小説

第四話公開です

2007-04-29 20:51:44 | 日記
なんだかんだで四週間連続更新。結局文章が以前の倍以上という恐ろしい量。読む際には適度に休憩を取りながらがお勧めです。

というわけで今回のダイジェストを。前半はシルヴさんと砂漠のお話(イミフ)。まあ、設定集を読んだ方にはすぐに察しがつくと思いますので、ここで詳細は述べません。彼らの会話を聞いている限りでは、砂漠に住む民間人にしては物騒な輩です。それはいずれ明らかになるという事で、お楽しみに。後半は主にマスカレードの話で、セレスさん陣頭指揮にあたってます。それでもってある人が乱入(?)ですが、描写からしてあの中が酷い状況になっているのは明らかですね。きっとぶちまけちゃったんですよ。日ごろのストレスなんかを力に変換してね。さて、そんなこんなで次回に続く!ですが、次回はやっとまともな戦闘が見られる予定になってます。それにしても、シエルはいつになったら首都に帰るんでしょうかね・・・。もちろん、その内帰る予定なんですが。

設定イラスト関連もラフで色々描いたりしてます。とりわけシエルとサラのデザインがよく変わるのでその数は凄いです。つか、今の状態で昔のイラスト見たらかなり変わったなと思った。昔はあんな程度で少し満足していたんだけど、今となってはここまでやっても納得がいかない、という感じになってきた。こういうのは意識の違いなんだろうか・・・。少しはそういったプライドを持つようになってきたのかもしれない。まあ、まだまだ人に自慢できるようなレベルに到達しているわけでもないので、今後も精進していくしかないな、と。パソコンでラフを起こしてそこから描く、というのもやれるようになりたいと思ってるし。正直絵板でちゃんと描けない状態だからね・・・。

最近勉強も難しくなってきました。というより、教師の説明が完全にレベルおかしい。教師自体は理解できてるからそれでいいんだろうけど、そういうのがあまり理解できてない俺達にとってはかなり辛い。といっても、それを指摘して変わるというわけでもないので、自分でやっていくしかないんだな。とりあえず、この連休中に色々と勉強しておこうと思ってます。部活の方もかなり忙しいけどな。

というわけで今日はこの辺で。またその内更新するかもしれない。

ではでは。

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CyberChroncle(4)

2007-04-29 20:16:15 | 小説
 ・・・雨。雨が降りしきる中立ち尽くしている自分。その周囲にはかつてAAであったものが四体転がっている。その姿にしたのは自分だ・・・。機械の翼を背に纏い、右手には刃の部分が光り輝く剣を握っている。その光が、禍々しい赤色の光が彼らの返り血を連想させる。光を放つ頬の刺青を雨粒が流れ落ちて・・・違う。これは涙・・・そう、涙が頬を伝い落ちているのだ。何故・・・?
『・・・っ』
何かつぶやいたが、それは雨音に掻き消されて聞こえる事はない。やがて翼を広げ、灰色の空へと飛び上がった。そして雨雲の上に出た瞬間、光弾が右頬を掠めた。その場で急旋回し、振り向いた先に一体だけ敵がいる。その翼は自分のそれとよく似ているが、全くの別物のような気がした。その左の頬には、緑色に輝く『Ⅵ』の刺青がある。敵はライフルを構えると、再び自分に向けて撃ってきた。眼前に来た光弾を剣で弾きながら、一気に敵との間合いを詰めて剣を振り下ろす。が、その攻撃はあっさりとかわされ、代わりに敵の剣が右肩から左脇腹にかけての一直線を斬りつけられた。熱で焼きついた傷口から、血が堰を切ったように溢れ出す。痛い・・・熱い・・・。バランスを崩し、地表へと落下していく自分に敵は銃を向け、そして、躊躇う事無く引き金を引いた。光弾は自分の頭部へと急速に接近し、そして・・・。
 「・・・夢、か」
レオンはベッドから起き上がり、一人つぶやいた。この夢を見るのもこれで三度目だ。これが一体何なのかは理解できない。ただ一つ言える事、それは・・・それは実際に体験していた気がする事だった。まるで、記憶を追体験しているかのようだ、と彼は思う。それが真実なら、俺は。
「一体何を・・・」
窓から差し込んでくる朝の光に視線を向けながら、彼は小さくため息をついた。

 CyberChronicle

  第四話『楽園の聖女』

 『・・・セレス・マークヘルトさん襲撃から一週間が経過しましたが、今もなお詳細は不明です。国家防衛省側も、今回の事件については一切コメントできないという事です・・・』
蒸し暑いテントの隅から、無線通信でニュースが聞こえていた。この一週間という期間中、主な話題はこれだけだ。無論、他の話題もないわけではないはずだが、首都で起きた事件とあって、かなりの騒ぎになっているようだ。それを聞きながら作業をしていた女性がつぶやいた。
「首都も物騒になったもんですね。・・・そういえば、もう『あれ』から十年以上経ってるんでしたっけ?」
彼女の質問に、同じくテント内で作業をしていた男性がうなずいた。彼の額を、汗がスーッと一筋流れていく。彼の着ている白のシャツも、汗で大きな染みが広がっていた。扇風機があるといっても、それでしのげるような暑さではないのだ。彼女も首に掛けていたタオルで汗を拭い、足元に落ちたドライバーを拾い上げた。合成樹脂製のパネルを固定しているネジを手際よく分解しつつ、彼女は彼に向かって再び話しかけた。
「何もかも変化して、私達の存在なんて既に忘れ去られているんでしょうね。少なくとも・・・、もう死亡扱いになってると思いますが」
「その方が安心できるのも事実だ。いつ政府の連中が来るかわからない状態を長引かせたくないだろう。きっとあいつもそう思ってるさ」
彼はそう返すと、水筒の水で喉を潤した。彼女は傍らに置かれた時計を確認して、ゆっくりと立ち上がった。そして、彼の横を過ぎてテントの外へと歩いていく。彼女は入り口で一度立ち止まると、振り返らずに言った。
「じゃあ、子供達の様子を見てきます」
ああ、と彼は一言返事を返すと、再び作業に取り掛かった。
 外では、炎天下にもかかわらず子供達が元気よく走り回っていた。そのほとんどが雑種で、どの子供も身体に痛々しい傷跡が残っていた。彼女は走り回る集団から離れた木陰で座っている子供の傍まで行くと、その隣に座った。その、雑種の少女の右脚は膝より下の部位がなく、手元に松葉杖が置かれている。少女は彼女に気がつくと、小さな声で話しかけた。
「みんな楽しそう。私も走れたらいいのに」
「そうだね・・・。そのうち、叶えてあげるからね」
現状では無理だと十分承知しながらも、彼女はそう言い返した。せめて義足が手に入れば、少なくとも歩く事はできるのに・・・。そのとき、走り回っていた子供達が彼女に気づき、一斉に走ってきた。そして、彼女を取り囲むように集合すると、彼らははしゃぎながら口々に話しかけた。
「ねえ、聞いてよ!僕サッカーで3点も入れたんだよ!」
「俺なんか5点入れたんだ。凄いだろ」
「ねえ、何かお話して!この前話してくれたのが聞きたい!」
彼らの頭を撫でながら、彼女は彼らをなだめた。
「わかった。じゃあ、お話しするわね?・・・昔々、あるところに・・・」
 彼女の話を興味深そうに聞いている子供達を遠くから眺めながら、AAが一人タバコを吸っていた。口から煙を吐き出し、彼は独り言をつぶやいた。
「血生臭さがなくていいな、この場所は・・・」
そう言いつつ、彼は昔の事を思い出していた。昔はこんな平和な匂いなど嗅いだ事もなかった。いつも臭ってきたのは血と、火薬と、腐った肉の臭いだった。その臭いを生み出していたのも俺自身だ、と彼は心の中でつぶやいた。それにしても、平和ってのはいいものだな。あの臭いを生み出す理由も義務もないんだからよ・・・。
「またタバコっスか?」
突然背後から声をかけられ、彼は驚いて振り向いた。その先に、青年が一人半ば呆れた表情で突っ立っていた。なんだお前か、と言い返し、彼はタバコを口に咥えた。
「なんだは酷いっスよ。それにタバコを吸ってると早死にするって噂っスよ?」
「人の勝手だ、口出しするな。・・・それより、何か用があるみたいだがどうした?」
彼が尋ねると、青年は小型の輸送用コンテナに腰を下ろし、話し始めた。
「例の訪問者の件でちょっと。奴が証言したとおり、奴はフリーのジャーナリストらしいっス。護身用に麻酔弾を装填した拳銃を一丁所持、後は仕事の機材と食料、衣料品。身分証明証も政府が発行した正規のものっス」
「奴の目的は何だ?」
彼が尋ねると、青年は持っていた数枚の写真を彼に手渡した。そこに写っているのは、廃墟に佇む一人の老人や、半分破壊された壁にもたれた子供達の姿だ。写真を見つめている彼に、青年は簡単に説明した。
「どうやら戦争後の世界の状況を取材してるみたいで、ここも一通り見て回りたいと」
写真を見終わり、彼は青年に写真を返しつつ言った。
「最終決定権はあいつにある。あいつがいいと言うなら、俺も反対しねえ」
「わかったっス。じゃあ、やばい物は隠しといて下さいっス」
彼がああ、とだけ返すと、青年はすっと立ち上がり、コンテナの山の奥へと消えた。彼はタバコの火を消すと、携帯用の灰皿入れに吸殻を入れた。
「今日吸えるのはあと1本か・・・」
吸殻の数を数えた後で小さくつぶやくと、彼は灰皿入れをしまった。さて、久々に力仕事でもやるかな・・・。

 シルヴは装甲戦闘車の砲塔部分だった残骸の上に腰掛け、物思いに耽っていた。日除けの白いスカーフから、薄桃色の髪がはみ出している。彼女は目を瞑り、過去の音を頭の中で再生していた。こことは違う場所であった、ある出来事の音を。
『・・・悪いがこれも政府の命令だ、悪く思うな』
『早く行け・・・俺に、構うな!』
『自ら危険に飛び込むとは無謀だ。こっちとしては手間が省けたが』
『安心しろ。すぐに大好きな隊長の元に送ってやる』
『これが・・・これが覚醒種・・・の』
『・・・行こう。追っ手が来る』
『覚えておけ・・・!俺は、絶対・・・お前を討つ!政府の、世界の為に!・・・』
・・・しばらくして、彼女はゆっくりと目を開けた。そして、今自分のいる場所が砂漠の真ん中にあるオアシスだという事を再認識し、残骸から下りた。まだ『彼』は生きている。おそらく近いうちに、再び『彼』と再会する事になるだろう。『自らではない意思』が、そう告げている。
「その時は・・・。いや、おそらく戦う事はない」
彼女は独り言を言った。『彼』と戦う事はないが、しかし戦いは起こる。私はそこへ赴かねばならない。戦いを沈め、偽りの聖者に裁きを下さねばならない。私でない意思が、私にそう命じるのだから、と彼女は心の中で思う。だが、裁きを下すという事は、再び力を使わねばならないという事でもある・・・。力は全てを傷つける。可能な限り誰も傷つけずに力を使う事などできるだろうか・・・。その時、遠くから呼び声が聞こえた。
「シルブ!話があるから戻ってこい!」
わかっている、と小さくつぶやき、彼女はほんの少しだけ歩調を速めた。
 彼女が居住区画兼会議室としているやや大きめのテントの前まで来ると、がっしりとした体格のフーン族が入り口で待ち構えていた。彼女はすまない、と一言だけ言うと、すぐにテントの中へと向かった。唯一空調装置が設置されたテント内は快適な温度・湿度に保たれている。彼女が円形に並べられた椅子のひとつに腰を降ろすと、椅子に座っていた一人が、では、と言って話を始めた。
「先日ここに来た訪問者だが、取材がしたいと言っている。どうする?」
「重要物を全て例の場所に隠した後、取材を許可する。彼には案内役と称し、見張りを一人つける。それが実行可能なら許可する」
「わかった。運搬には半日ほどかかるから、許可するのは明日以降という事になるな」
議題を出した一人が言うと、彼女は黙ったままうなずいた。
「それと、近隣のエリアでオラクルの連中が活発化している。おそらくここには来ないだろうが、しばらくは監視体制を強めよう」
別の一人が言うと、彼女はまたうなずいた。そして思う。今はこの場所を、この場所にいる全員を守る事に専念しなければならない。二度と目の前の全てを失わぬように。

 「神を信じ、聖戦に命を捧げる戦士達に告ぐ。神は首都に対し総攻撃を仕掛けよ、とお告げになられた」
廃墟となった都市。その広場に集結した兵士達に向かって、司令官は声を張り上げた。
「我らはそのお告げに従い、明日首都に攻め込む。勿論、敵も相当の兵力を周辺に展開しているだろう。だが!我らは正義だ!神の御加護を受けし者達だ!愚かで悪に染まった奴らを恐れる事は無い!」
彼が叫ぶと、兵士達はともに狂気の声を上げた。その心を、聖戦の二文字が支配し、周囲を全く見えなくさせてしまっているのだ。兵士達の声が収まると、彼は再び叫ぶように呼びかけた。
「戦士達よ、武器を手に取れ!今こそ奴らを討ち、正しき世界に戻すのだ!全ては我らが神の為に!!」
「我らが新世界の為に!!」
呼びかけに応えるように、兵士達は口々に叫び声を上げる。その場が異様な統一された空気に包まれ、狂信者達は手に持った銃を空に掲げ、合言葉を叫び続ける。その騒ぎが多少落ち着いた時、敵が接近している事を告げるアラームが広場に鳴り響いた。司令官は兵士達に向かって、大声で指示を出した。
「全駐留軍に通達する!各員第一級戦闘配備!敵部隊を見つけ次第、殺せ!」
「了解!」
兵士達は返事を返すと同時に、すぐさま自分の持ち場へと移っていった。広場に残った兵士と司令官も、兵士達と入れ替わるようにして現れた大型戦車に搭乗し、広場の中央に陣取ると指示を出し始めた。全部隊の配置が済んだ事を確認すると、司令官は一瞬だけ笑みを浮かべて思う。さあ、どこからでもかかってくるがいい。そして神の裁きを受けるがいい、と。
 敵陣が慌しくなっているのを遠くから眺めつつ、セレスは冷静に思考を巡らせていた。索敵レーダーの構造があまりにも旧式なのか、無人のデコイ(囮)程度に反応してしまっている。この分だと、敵は急対戦時代の旧式兵器しか保有していないかもしれない。もちろん、それは最初から把握していた事だ。彼らのような過激派に最新鋭の兵器が渡る機会は少ない。そして、入手したとしても本来の性能を引き出せない連中の寄せ集めだ。とはいえ、油断は禁物か・・・。
『各員指定場所への移動を完了。隊長、攻撃開始の指示を』
僅かにノイズの入る無線機から、隊員の声が耳に入ってくる。さて、そろそろ奴らのお祭り騒ぎも終わらせた方が良いようだ。彼女は無線機のチャンネルを全隊員への通信帯域に切り替えると、一呼吸おいて指令を出した。
「総員に通達、作戦を開始せよ」
その数秒後に廃墟の外縁部で爆発が起こり、火柱が上がった。それがまるで連鎖していくように、次々と爆発が起こる。先程まで暗闇に閉ざされていた荒地は、今は激しく燃え盛る炎によって、赤と橙に染め上げられていた。この一撃だけでも、敵の大半が戦闘不能に陥っているのは明らかだった。もちろん、これも敵が囮に警戒して防衛陣形に展開するのを見越しての策だ。
「包囲網を狭めつつ前進せよ。一人たりとも逃すな」
『了解』
彼女の命令に従い、黒一色の装甲服を身にまとった兵士達が廃墟へと接近していく。やがて、広範囲における爆発で混乱している敵陣に向けて、緑の輝きを帯びた光弾が無数発射された。光弾は敵兵と旧式の装甲車両を容赦なく抉り、燃料や火薬を次々と誘爆させていく。そして、別の兵士が混乱した敵兵をエネルギーブレードで切り裂き、装甲服を返り血で赤黒く染めた。旧式のみの敵を近代兵器で包囲しつつ進攻する、それはもはや戦闘ではなく、一方的な殺戮だった。瞬く間に敵の守備隊が次々に壊滅していく。
『Point-α制圧完了。Point-γにて敵部隊の後退を確認』
「Point-γ制圧後総員その場にて待機。敵将の始末は私が行う」
彼女は無線でそう伝えると、傍らにいた数名の兵士に指示を出した。そして、彼女自身も中距離型のライフルを右手に展開すると、廃墟へと歩き始めた。
『了解。ヴァンガード-αは隊長を護衛せよ』
『ヴァンガード-α、了解』
 漆黒の翼を背負ったAWが彼女の左右上空を飛行する中、彼女は廃墟の縁に辿り着くと全周波無線に切り替えた。そして、広場の中央に陣取っている大型の戦車に銃を向けながら呼びかけた。
「オラクルの残党に勧告する。直ちに降伏し、車両から降りて武装を解け。さもなくば、全方位からの攻撃を行う。もう一度勧告する。直ちに降伏し、車両から降りろ」
彼女は勧告を終えると、隊員達に一歩後退するように指示を出した。そして、しばらくの間沈黙が続き、しかし戦車からは誰一人として降りてくる者はいなかった。彼らの事だ、おそらくは車両を自爆させ、我々を巻き添えにしようと考えているに違いない。彼女はそんな事を考えつつ、部隊に指示を出した。
「各員、『イージス』を展開。私の指示と同時に攻撃し、すぐに後退せよ」
『了解』
ブンッという特異な音とともに、兵士の手の甲から楕円状の光の盾が広がっていく。その隙間から銃口を覗かせるようにして、兵士達は指示通り戦車を光の壁で取り囲んだ。彼女は多少離れた場所に立ち、右手に持った懐中時計の針をじっと見つめていたが、短針が12を示した瞬間、無線で攻撃の指示を出した。
「・・・てぇっ!」
それとほぼ同時に兵士が引き金に手をかけ、しかし引かずに戦車の方をじっと見つめた。命令に従わない兵士達に、彼女は首をかしげた。一体何をやっている?何故命令を聞かない・・・?早く撃て、と彼女が言いかけた瞬間、車体側面のハッチが内側から強引に蹴り開けられ、程なくして彼女と同じ軍服を着た女性が一人、車両から降りてきた。黒字に赤いラインの入った軍服は返り血を浴びて赤みを帯び、女性の浅黒い肌にも、白っぽい小さな欠片-かつて司令官の脳の一部だったもの-が血とともにこびり付いていた。彼女は周囲を一度見渡した後で、その後方で驚愕している彼女に向かって声をかけた。
「あたしまで蜂の巣にする気かい、セレス?」
「サルカ副参謀!?別のエリアへ向かっていたはずでは?」
彼女が驚いた表情で尋ねると、サルカは頬にこびり付いた血を手の甲で拭い取ると、彼女に向かって言い返した。
「部隊を指揮する立場になって以来、ずっと運動不足でネ。あんた達を回収してから向かえって指令も出ていたのもアル」
彼女は、そうですか、とだけ返事を返すと、兵士達に『イージス』を格納するよう指示を出した。そして、兵士の数人が左右に退くと、サルカはその中央を抜け、彼女の傍に立った。
「輸送艇が指揮所に到着しているはずダ。一通り探索を行った後、速やかに帰還シロ」
「・・・わかりました。ところで参謀は」
彼女が言いかけたところで、サルカはそれを遮るようにして小声で言った。
「『あの子』を本部へ輸送する為に自ら向かわれた。もしかしたら・・・、あんたの部隊に入れるかもしれナイ」
それだけを真剣な表情で言い終えると、彼女は急にいつもの調子に戻り、セレスの肩をポンッと叩いて言った。
「とにかく、ダ。速やかに任務を完了し、指揮所に帰還シロ。あたしは先に戻って休憩してイル」
「了解・・・しました」
彼女が敬礼すると、サルカは一瞬だけ礼を返してその場を立ち去った。彼女はその場に立ったまま、重苦しい表情で何事かを考えていたが、すぐに元の表情に戻り、兵士達に向かって指示を出し始めた。だが、その様子はまるで、悩みを無理矢理吹き飛ばそうとしているかのようにも見えた。

 夜の静けさの中、二つの影が首都上空で静止していた。そのどちらの背にも金属製の翼が生え、その翼端から青色の光がわずかに噴出していた。黒のバイザーで隠された目が相手の方を見やり、互いにうなずく。そして、眼下の高層ビル群へと下降していった。
『・・・Ⅶ,Ⅷはともに目標へと接近中。今のところ異常は見られません』
ディスプレイに映し出された地図の上で、青く光る二つの点が赤い点に向けて徐々に近づいていく。それを眺めながら、彼は歪んだ笑みを浮かべていた。あの時、暴走して他の実験体を殺した挙句、研究を中断に追い込んだ彼。この研究が再開されるまで、どれだけの精神的な苦痛と時間の浪費をしてきた事だろう。僕が造り出したといえども、君だけは許せないんだ。だから、激しい憎しみ、怒りと最新鋭の技術を持って君を闇に葬ろう。
『博士、本当にやっちゃっていいんですか?このままじゃこいつらの実験データ取るための道具ですよ?』
今更何馬鹿な事を言っているんだ、と思いつつ、彼は返答した。
「敵がAWを持ってないとは限らないんだ。軍の馬鹿どもを説得するには、こういう実験も必要なんだってさ」
『ハハ、それもそうですね。・・・目標潜伏地点に到着したようです』
スピーカーから現地にいる研究員の報告が入った。それを聞き、彼は更に笑みを浮かべた。彼は通信機に向かって指示を出した。
「じゃ、早速始めよう。主武装を展開後、Ⅶは内部に潜入して目標に奇襲を掛け、暴走を起こして飛び出してきたところをⅧが討ち取る。ビル内にいる民間人はなるべく殺さないよう注意してくれ」
『わかってますよ。とはいえ、結構武器を持ってますからね。彼らが攻撃を仕掛けてきた場合は?』
研究員が訊くと、彼はそれがあたかも当然であるかのごとく言い返した。
「口封じという事でいいんじゃない?実験体も、その方が絶対楽しいだろうし」
『はあ・・・。まあ大丈夫でしょう、徹夜でもしていない限り、作戦に気づく者は少ないでしょうから』
「そうだといいね。とにかく、抜かりのないようにね」
彼はそう言い返すと、視線を別のディスプレイに移した。そこに映っているのは目標のいるビルの外壁-ちょうど彼の部屋がある階の周辺-だった。向かい側のビルに設置されたカメラからのその映像をじっと見つめながら、彼は、一人つぶやいていた。
「今度こそ死ね・・・今度こそ・・・」
その声だけが、静かな室内で不気味に響き続けていた。

 次回予告
刺客は、遂に放たれた。
追い詰められる殺戮者。
そして、大切なものが消えていく。
次回『二度目の覚醒』
紅蓮の剣が、全てを切り裂く。

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ひとこと:ちょっと時間遅くなりましたが、何とか間に合いました。

CyberChroncle設定資料集(AW)

2007-04-25 16:04:38 | 小説関連設定
◎AWとは?
 一言で言うと、「兵器化されたAA」の事。具体的にはIWS(内蔵兵装システム)と呼ばれる機能を人為的に付加したAAの事。これは、兵器の情報を体内で格納できるサイズのデータ片に変換し、使用する際に再変換して展開するという体内格納庫システムで、これを使用する事により、今まで物理的に運ぶのが困難だった量の兵装が一体だけで輸送でき、しかも状況に応じて兵装を自由に変更できるので、直接的に作戦の幅を広げる事に繋がる、という先進軍事技術である。
 大戦末期から研究が開始されていた技術だが、実用化されたのはここ数年である。何故システムの実用化が遅れたのかというと、原因として再変換時のトラブルがあったからといえる。データ片への変換までは既存の技術を応用すれば良かったが、再変換して展開する際、その出現箇所がランダムになってしまうという問題が発生した。偶然手の届く範囲に兵装が展開されればいいが、そうでない場所に展開された場合は兵器を格納・再展開しなければならない。その間に攻撃を受けて死んでは意味がない、ということで実用化が見送られてきた。しかし、生体回路によってあらかじめ生成する箇所を何箇所か設定しておき、その箇所とコードを合致させる事で適切な箇所で展開するという技術が近年になって生み出され、やっと実現化される事となった。
 また、生体回路の応用によってエネルギー兵器の使用も可能になり、兵装選択の幅がさらに広がった。これがAWの実用性向上に繋がった、というのは言うまでもない。中央政府軍主導による量産化や新たなタイプの開発により、その種類も次々と増えている。

◎AW各種仕様と概略
・IWSE
 IWSの実動実験モデルとして開発されたタイプ。大まかに分けると、三種類のタイプが存在する。
*試験型Ⅰ~Ⅳ
生体回路実験の初期実験型モデル。出力が低いため、実弾兵器のみを使用する事ができる。また武装も二種類しか使用できない。Ⅴの暴走事故の際、Ⅴの迎撃に向かわせるも全個体が撃墜・死亡している。被験者の負担が軽かったため、動作は比較的安定的であった。
すべてがほぼ同時期に開発・試験開始されている。
*試験型Ⅴ~Ⅸ
生体回路実験の高出力多装備型モデル。出力レベルは格段に上昇し、エネルギー兵器の使用も可能になった。一方でⅤの暴走事故のように、個体の処理能力がシステムに追いつかずに過負荷がかかり、暴走する危険性も高くなってしまった為、回路の設計がほとんど共通しているⅥに対しては一度破壊処分命令が下されたほどである。Ⅶ以降のモデルについては、生体回路側で出力の調整の大半を自動的に行う補助デバイスを搭載する事により、個体の暴走をほぼ完全に抑える事に成功している。またⅥにおいても補助制御デバイスを使用する事で、暴走を完全に抑制できている。
開発開始順にⅤ,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ。
*最終試作・超高出力試験型Ⅹ~rex
生体回路を実装した実戦用の最終試験モデル。更なる出力の上昇とともに遠隔攻撃兵器などの使用をも可能にし、攻撃可能範囲および攻撃目標数を格段に増やす事に成功した。また、新たな兵装として『イージス』対実弾・対エネルギー兵器シールドシステムが搭載され、防御力も格段に上がっている。Ⅹは生体回路露出型、それ以降のモデルは完全な内蔵型となっている。特に、rexは戦略級大量殺戮兵器の使用も可能な超高出力型の生体回路を搭載し、戦場における迅速な拠点制圧作戦も一体のみで遂行可能なほどの性能を有する。
開発開始順にⅩ,Genesis(G-1),Genocide(G-2),Rex。

・量産型AW(政府軍製AW)
試験型の実験データより十分実戦での使用が可能と認められ、IWSは更なる生体回路の改良と整備性の向上がおこなわれた。そして、第13独立機動群の採用を皮切りに、中央政府軍各部隊において量産型のAWが採用される事となった。ここでは現用IWSのイヴィルレイと、兵装各種を説明する。
*イヴィルレイ
量産型AWとして高い整備性と汎用性を誇るモデル。内蔵兵装の種類によって高機動・近距離攻撃・重攻撃・後方支援・索敵の五種類に分かれる。また、特殊なタイプとしてイヴィルスナイパー(高高度からの精密狙撃特化)が存在する。
○高機動型
 主武装をビームライフルとエネルギーブレードとし、予備武装としてグレネードランチャー追加装備型マシンガンと対装甲アーミーナイフ二本を装備する。武装自体は大したものではないが、背部と脚部に高出力のスラスターウイングを展開し、空中を高速で移動できる。兵士の大半はこれを選択している。
○近距離攻撃型
 主武装を大型のエネルギーブレード二本とし、予備武装として投擲榴弾とエネルギートリプルクロー二本、対装甲アーミーナイフ二本を装備する。高機動型と同じくスラスターウイングが展開できるが、出力は多少劣る。しかし、至近距離においての戦闘能力は高い。
○重攻撃型
 主武装は四連装ミサイルランチャーと重ライフル砲。予備武装としてチャフディスペンサーと高性能小型爆雷を装備する他、特殊兵装として小型の巡航ミサイル搭載装備も積んでいる。質量的にも他のタイプと比べ重くなるため、スラスターウイングは大型・高出力化している。また、生体回路も他のタイプより耐久性が高い。
○後方支援型
 主武装は両腰にマウントして使用するタイプの高出力ビームブラスター砲二門と対空小型ミサイル。予備武装としてフレア・チャフディスペンサーと近距離戦闘用のマシンガンを装備している。重攻撃型よりは軽いものの、やはり質量があるためスラスターウイングは大型化している。ただし、重攻撃型よりは小回りが利く。
○索敵型
 主武装は通常のライフルのみ。予備武装もマシンガンとアーミーナイフ二本という貧弱な武装だが、エネルギー消費を極限まで削った結果、長時間の作戦遂行が可能になっている。また、完全内蔵・索敵特化型のAWローレライと同じく、特殊な広範囲索敵システムを搭載しているため、レーダー使用不可という条件下でも目標の補足が可能である。直接戦闘に関わるという事はなく、比較的戦闘の少ない高高度での活動のみ。スラスターウイングは燃焼効率が高く、エネルギー消費が少ない。
○イヴィルスナイパー
 イヴィルレイの発展形ともいえるタイプ。主武装はロングレンジレーザーライフルと光学望遠スコープ。予備武装として至近距離での戦闘用にエネルギーブレード一本と、通常ライフル、そして対装甲アーミーナイフ二本を標準で装備している。スラスターウイングは索敵型に近い低燃費型だが、出力はレーザーライフルへのエネルギー供給のために高出力化されている。索敵型と同じく、高高度域で作戦を行う。
*ラインゴルト
最新鋭の技術を投入し、さらに機能強化を実現した上位機種モデルといってもいいAW。イヴィルレイとは設計コンセプト自体が異なり、より強力で、より効率のよい回路設計になっている。中距離での戦闘を視野に置き、高出力ビームライフルとエネルギーブレードを標準の主武装としている。また、予備武装にも小型のビームガンを装備し、エネルギー兵器を追加。そして、最大の特徴はイージスシステムを試験的に投入した事であり、最大四方向の攻撃に対して自動で防御シールドを発生させ、無効化する事が可能になった。これによって使用している兵士の生存確率も格段に上がっている。主に独立機動群の隊長クラスが使用し始めている。現段階では普及率が非常に低いものの、今後イヴィルレイに変わる主力AWとなる可能性が高い。

・一部装備型AW
全身をAW化するのではなく、腕や脚といった身体の一部だけにIWSを実装し、元々戦闘能力の高い兵士に更なる能力を提供するタイプのAW。主流が全身型の為現段階ではあまり使用されていないものの、今後未開拓地での使用が期待されている簡易型でもある。出力は全身に装備するタイプと比べると低く、扱える装備も実装した箇所によって制限されるが、それでも確実な戦力強化には繋がっているようである。

・イルデーナフ製AW
中央政府が開発を進めているのと同じように、イルデーナフも独自にAWの開発、すなわちIWS技術の開発を進めていた。基本概念が共通しているとはいえ、中央政府製のそれとは全く異なった構造になっている。また、中央政府軍よりも一足先に量産化を開始している。現在『IWSヴァンガード』は戦闘用、およびイルデーナフメンバーの護衛として使用されている。特に注目すべきはイージスシステムの採用であり、全方位とまではいかないものの、ほぼ死角なしの防御機能を備えている事である。主武装はビームマシンガン(ビームライフル仕様もあり)とエネルギーブレード、予備武装は榴弾発射筒装備アサルトライフルと対装甲剣、そして二連装フックショットとなっている。
また、戦場においてヴァンガードとは異なる形態のAWが数種類確認されているが、その詳細は一切明らかになっていない。

(C)akkiy/akkiy_d/あっきぃ

眠い

2007-04-24 12:46:42 | 日記
さすがに睡眠時間6時間未満はきつかったか。ただでさえ疲労がたまっているというのに、ついついネットサーフィンしてしまったのが悪かった。

というわけで今日は10時頃に寝ようと思ってます。かなり早い時刻に寝るんですが、このくらい寝ておかないと明日以降もちそうにないという状況ですので。誤字脱字が増えるせいで執筆スピードが低下するのも困るので、そういう事にします。というわけで今日はチャットに行かないと思う。


さて、最近「羊たちの沈黙」を読んだわけですが。俺の予想に反してレクター博士がいい奴だったんで、少し驚きです。といっても、結局グロい事も平気でやれる人間なんで危険ですが。たまにこういうサスペンス系統の作品を読むと色々と勉強になりますね。いや、別に犯罪の方法がわかるとかそういうのじゃないから。それよりも、心理描写とか仕草とかが細かく書かれている作品は、小説を書いている人間にとってはいい参考書だと思いますよ。かといって、読んだ事でクオリティが上がったとは言えそうにないんですが、まあそれなりに役には立つでしょう。とりあえず、興味を持った作品なら何でも読んでみる事が大切だと思いますね。

活字で読むのが好きなんですけど、最近はネット小説なんかも時々読んだりするようになりました。とりあえず今まで読んでみて思った事は、取り上げているネタ自体は書籍化するにはきついような内容が多いけど、質自体は十分凄いレベルに到達しているものが多いですね。まあ、中にはとりあえずノリで書いてみた、という感じの作品もあるんですが。ネットが優れている点の一つが気軽に作品を公開できるという部分で、その長所をうまく活用している方法ではないかと思います。不特定多数の人間に見てもらえるので、それなりに評価がわかるし、たまにアドバイスなんかを貰う事もある。そうやって自画自賛にとどまらないって事は、小説のレベルを高めるいい要素だと思う。とりあえず読者側として、見事完結した作家は次回作の執筆、現在執筆中の作家は引き続き頑張ってほしいです。そして、俺もいつかはそういうレベルに到達できるよう頑張っていくつもりです。

そんなこんなで少しずつ更新頻度が上がってきた雑記。今日はこの辺で。

ではでは。


第三話公開

2007-04-22 20:42:43 | 日記
つーことでよろしく。

とりあえず第三話はそれほど面白くないかもしれない。今のところ第五話から本領発揮しようかなと考えているから。たった20話程度しか書けないので、いかにしてまとめようかと考えてるところ。ただし、大まかなストーリーは既に決まっているのでそれを拡張するだけ。それと、誰か応援イラストでも描いて送ってくれれば少しは筆が速く進むかもしれない。というわけで今後も連載続けます。

さて、最近パソコンで絵を描いたりしないわけですが。一番の理由は目が良く描けない。もうちょっとラフで練習してからパソコンでやろうと思ってます。どうやら不気味に見えるのは上まつ毛が細すぎるのと目の位置が近すぎるという事らしいです。それだけわかっていれば、後は練習して少しでも修正していくだけといったところでしょうか。まあサイトに絵をうpするときには少しだけでもまともになっているよう努力します。部活関連でこれから忙しくなりますが。

勉強関連はそれなりに理解できてる状態です。といっても、専門科目がほとんどなので教科書を読んでおかないと理解できなかったりもするんですが。まあ、今習っていることは今後習う事の基礎として使っていく事になるので、ちゃんと話は聞いていようと思います。そして、理解が出来るように予復習も少しはやっていこうと思ってます。とりあえず当分はイラスト関連より学校での事を重視してやっていこうと思っているので、そこのところは宜しく。それと今後はチャットとかも早めに落ちるかもしれんので。

さて、やっとID開放が回ってきてニコニコ動画が見れるようになったわけですが。β版以上に盛り上がってる気がするのは気のせいではないようですね。コメントできる動画配信というよりは、面白動画をコメントの弾幕で埋め尽くすサイトのような雰囲気なのは相変わらず、しかしやや落ち着いた感じがあるな、と思いますね。一発受け狙いの動画は勿論ですが、アニメMADや偽OP&EDなどのまじめに作っている作品も更にクオリティを増してますね。今後、ニコニコの運営も問題なく続いていけば日本最大の動画共有サイトとして盛り上がり続けるでしょうね。とりあえず、弾幕有りと無し両方楽しむのがお勧めですね。弾幕有りなら名言ならぬ迷言があるし、弾幕無しなら素の動画を楽しめるし。

というわけで今日の雑記はこの辺で。

ではでは。

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CyberChronicle(3)

2007-04-22 19:17:15 | 小説
 「・・・そうかイ。それなら計画は予定通り実行ダ。・・・ああ、お前の部隊はすぐに送るから心配するナ」
軍人らしき女性が一人機動輸送艇のブリッジに立ち、黒の携帯端末を耳に当てていた。中央政府軍でも治安維持軍のものでもない赤と黒の軍服を身に纏った彼女は、返ってきた言葉に微笑を浮かべる。
「・・・そう、それは興味深い話だネ。でもそれは後回しだヨ。・・・では、準備が出来次第再び連絡を入れル。それまで待機していろ、セレス隊長」
彼女はそう言って端末の電源を切ると、再び笑みを浮かべ、そして、無人の艦長席に視線を向け小さく呟いた。
「・・・さて、あの方が戻ってくる前に一仕事終わらせようカナ?」


  CyberChronicle

 第三話 -悪魔の記憶-

 「よう、やっとお目覚めか?」
うっすらと目を開けたレオンの傍に立ち、ジェストはややふざけた口調で声をかけた。はっとしたようにレオンは起き上がると、辺りを見回した。そこは、彼が住居として使っている事務所の一室。そう、一年半前からずっと住んでいる場所だった。
「何でいつの間に・・・?」
全く状況が飲み込めていない様子の彼に、ジェストは覚えてないのかよ、とぼやくと簡単に説明し始めた。
「あの後・・・お前が直撃受けた後に色々あって、んで俺達が、重症を負ったお前を事務所まで運んできたんだ。それが二日前の話だ」
「二日前・・・。そうだ、セレスさんは?」
彼が尋ねると、ジェストは無事だ、とだけ言って窓の外を見た。無機質な摩天楼が聳え立つ街並みを眺めつつ、彼は急に静かな口調になってレオンに言った。
「・・・ただ、別の会社の連中が何人か死んだ。全員即死だとよ」
「・・・」
その言葉を聞いてレオンは暗い表情になり、黙ったままうつむいた。と、彼の視界にベッドに寄りかかるようにして眠っているサラの姿が映った。随分と疲れた表情をした彼女を見つめている彼に、ジェストはやっと気づいたか、声をかけた。
「さっきまで一睡もせずにお前を看病してたんだぜ。サラが起きたら、感謝の言葉でもかけてやれよ」
「あ、はい。・・・ところで」
彼はそう言って、さっきから気になっていた事を質問した。
「部屋に戻らなくて良いんですか?クレアさんも・・・所長も心配しますよ」
「いや、今は戻るべきじゃないんだ・・・。ちょっとトラブルがあってな」
急に慌てた様子で返事を返しつつ、彼は昨日の事を思い出してため息をついた。まさかあの時一部始終がテレビ局に撮られていたとは思いもしなかった。そして、その中継をクレアがちょうど見ていたなんて事も・・・。俺達が帰ってくるなり重火器持って出てくるわ、勝手に依頼を請けていたと勘違いされるわ、挙句には駐車場で重火器ぶっ放されるわ・・・。ったく、いくら命があっても足りないぜ、と彼は肩をすくめた。そんな彼を、レオンは不思議そうに見つめていた。
 その頃、事務所の駐車場に一台の高級車が到着し、エントランスの前で停止していた。その後部サイドドアが自動で開き、黒スーツの護衛ではなく装甲服で完全武装した兵士に囲まれ、セレスはゆっくりと車を降りた。彼女はエントランスの前まで来ると、両側を護衛する兵士に待機しているよう指示した。
「大丈夫です、非常時には『緊急手段』をとります」
彼女はそう言って兵士達に念を押すと、たった一人でエレベーターに乗り込んだ。そして、上昇するエレベーター内で懐のサイレンサー内蔵型拳銃を手にとって確認し、到着前にサッとホルスターにしまった。やがてドアが開き、目の前に銀製の事務所の看板が現れると、彼女はいつも人前でとるような明るい表情に変わり、呼び鈴を鳴らした。すぐにドアが開いて所員が出てくると、彼女は満面の笑顔を浮かべながら彼に言った。
「この間はどうもお世話になりました。こちらの所長さんに直接お礼を申し上げたいのですが、宜しいでしょうか?」
「は、はい・・・。すぐにご案内します」
突然有名人が目の前に現れた事で動転している所員を笑顔で見つめながら、彼女は心の中で冷たく笑った。こんな偽りの存在に騙されるような者ばかり。だから純血主義を吠えるだけの知恵のない連中を崇め、その意のままに操られるという愚かさがある。といっても、その方が私達には有利ではあるが・・・。
 そのまま所長室に通され、案内役が去ったところで、クレアの目の前で彼女は頭を下げた。そして、笑顔のまま彼女に向かって話しかけた。
「あなた方のお陰で、無事に帰る事が出来ました。本当に感謝しています」
「いえ、セレスさんこそわざわざお越し頂いてすみません。・・・まだ『あの事』は正直信じられませんけどね」
「あの方・・・レオンという方の事ですか。私もあの時、何が起こったのか理解できませんでした」
彼女はそう言いつつ、この二日間に調査した結果を頭の中で反芻した。中央政府軍の極秘計画における第五試験型として約三年前に『開発』されたAWで、その一年半後に実験中の事故で暴走、旧式の試験型四機を一撃で破壊した後行方を眩ました危険な代物だとまではわかった。しかし・・・。
「彼、実は記憶障害があって、一年半前に私達が助けた時以前の事を覚えていないらしくて。だから・・・、彼がそれまで何をやっていたか知らないんですよ、私達」
そんなクレアの話を聞きながら、彼女はしばらく黙って考えていた。が、ちょうど彼女が話し終えたところで静かに言葉を返した。
「そう・・・ですか。・・・でも、大丈夫ですよ」
「え?」
驚いて彼女を見たクレアに、彼女はニッコリと笑って再び言った。
「過去を知らないからこそ幸せでいられる。もし彼が過去の自分を知ったとしても、それが本当に良いとも限りません。それよりも、今の彼でいる事の方が幸せではないでしょうか」
「・・・」
クレアは少し険しい表情になって黙り込む。確かにそうかもしれないけど、自分の事を知らないまま、これからも彼は不安なく過ごせるの?また『あれ』が起こるかもしれない、そういう不安を抱えていた方が幸せって・・・。そんな姿を見て、セレスは申し訳なさそうに言った。
「・・・すみません。勝手な事を言ってしまって」
頭を下げる彼女に、クレアは無理に笑顔を作って言い返した。
「いえ。・・・でも、できれば彼の過去について私達だけでも知っておこうと思います。また『あのような事』が起こった時に助けられるのは、私達だけですから」
「ええ。・・・そろそろ時間ですね」
 セレスは壁に掛けてある時計に視線を移して言うと、静かに立ち上がった。クレアも立ち上がると、彼女とともに部屋を出た。エレベーターに乗り込んだところで、彼女は閉ボタンを押しつつ彼女に話しかけた。
「セレスさん、あなたが隠し持っている拳銃は民間用じゃないでしょう?・・・護身用にしては強力ですね」
「やはり気づいてましたか。・・・でもここでは使いません」
そう言いながらも彼女は右手にグリップを握り、銃口をクレアの後頭部に向けた。この至近距離で発砲すれば回避不可能、そして確実に死亡する。クレアは銃を突きつけられたまま話を続ける。
「仰っている事と行動が一致していませんね。うっかり何か大切な事を喋ってしまったので口封じですか?」
「いえ、少し遊んでみただけです」
「そうですか。大富豪のご令嬢はそういう道楽がお好きなんですね?」
銃口を向けられた気配が消えると、彼女は振り返ってセレスを少し疑うような表情で見つめた。一方のセレスは変わらぬ笑顔を彼女に向けると、静かな口調で彼女に忠告した。
「そのうちレオンさんを狙って何者かが襲撃を掛けるかもしれません。どうかお気をつけて」
その時、エレベーターが地下駐車場に到着した。ドアが開くと、彼女は目の前に停車している高級車に近寄り、護衛とともに乗り込んだ。そして、クレアに向かって再び声を掛けた。
「また何処かでお会いしましょう、レーテル家のお嬢様」
「ええ。・・・その時はあなたの正体を暴いてみせます」
クレアが言葉を返すと彼女はニコッと笑いかけ、そしてすぐに車を発進させた。駐車場を出て行く高級車を見送りながら、彼女は中にいるはずのセレスを睨みつけていた。今度会う時はおそらく敵同士ね・・・、そう感じながら。

 「ドネット中尉、中隊長がお呼びですよ」
自室で次の作戦内容を確認していたドネットは、ドア越しに聞こえてくるフラメルの声に気づいてドアを開けた。と同時に、例のごとくフラメルがドアと正面衝突し、尻餅をつくとともに資料を周囲に撒き散らした。またか、とため息をつきながらも彼は資料を拾い上げて彼女に手渡す。
「ありがとうございます、中尉。・・・えーっと、中隊長が」
「わかった、すぐに行く。それと・・・その資料、ちゃんとページを揃えておいて」
彼はそう言ってドアを閉め、中隊長の待つ執務室へと向かった。ドアをノックすると、入れ、といつもの調子で返事が返ってきた。
「失礼致します」
彼が部屋に入ると、中隊長は椅子に掛けて彼の方をまっすぐに見据えた。ドネットが敬礼すると、彼は座ったまま軽く敬礼を返し、彼に腕を下ろすよう指示して話し始めた。
「ちょっと国防大臣に呼び出されたんだが、他の用事が入って行けそうにない。というわけでドネット、お前が代理として会ってきてくれ」
「何で僕なんですか?この場合フォトリィ大尉に任せるのが普通でしょう?」
彼が尋ねると、中隊長はいや、確かにそうなんだが、と頭を掻きながら答えを返した。
「実はフォトリィにも別の仕事を頼んでいてな、ちょうど日程が重なっているんだ。というわけで、お前に任せる。作戦とは被らないから安心しろ」
「そういう問題ですか?僕だって仕事が・・・」
「そういう問題だ。正直、他の連中では大臣と喧嘩になりそうで頼めない。お前なら礼儀正しいし、目上との会話にも慣れてるだろ?というわけで頼む。特別手当も出るから心配するな」
彼はそう言い返し、机の上に置かれたマグカップを取った。そして中身を一気に飲み干すとドネットに立ち去るよう言った。
 帰り道、ドネットは一人文句を言いつつ廊下を歩いていた。中隊長は最近頻繁に用事で軍を抜けている。それだけならいいとしても、仕事を僕とか僕とか僕に押し付けるのはいい加減にしろよ・・・。フォトリィが大尉になってから何かと忙しいのはわかってるけど・・・でも、と呟いたところで中央政府軍の軍服を身にまとった女性とすれ違った。通り過ぎたところで彼は立ち止まり、振り返って彼女の行く先を見つめた。
「何で中央政府軍の奴が・・・?」
理由が気になりながらも、彼は再び歩き始めた。
 「どうも。こっちがいつもの報告書だ。それと・・・こっちは局長からの指令だ」
渡された二通の封筒を受け取り、中隊長は助かる、と彼に一言だけ言った。さっきまで開けっ放しだったドアは、今内側から鍵が掛けられている。封筒を渡した兵士は敬礼を返しつつ再び口を開いた。
「ところで、中央政府軍にはいつ復帰するんだ?今の立場での『任務』は終了したんじゃないのか?」
「当分戻る気はない。少なくとも・・・、奴が姿を現すまではこのままだ」
中隊長はそう言うと、封筒を机の上に置いた。兵士はそうか、とだけ答えると内鍵を開け、ドアノブに手を掛けた。と、そこで思い出したように言葉を付け足した。
「他の連中には知られてないだろうな?もしそのような事態なら・・・」
「心配するな、今のところ誰にも知られていない」
「そう、か。・・・では失礼する」
そう言って部屋を出ていく兵士を見送りながら、彼は黙って封筒を開いた。

 『・・・IWSE-07およびIWSE-08の各兵装、ともに異常なし。これより浮遊標的を敵と想定した戦闘実験を開始します』
オペレーターの指示とともに、地下施設内の模擬戦闘区画の壁面の一箇所が開き、電磁式カタパルトシステムの機構が展開される。その、上下からカタパルトの腕が挟み込むような形状の滑走路が完全に展開されると、その奥にある発進地点に装甲服を着た兵士が姿を現した。兵士は台座のセットされた場所まで向かうと、一般兵が使用するものとは異なるブーツを履いた足をその上に乗せた。
『発進位置への移動完了を確認。ユニットリンクシステムオールグリーン。背部・脚部スラスターウイング展開開始』
バイザーを着用した兵士の、左頬についた刺青状の模様が赤色に輝き、同時に背部から四枚の金属の翼、そしてブーツ上に小型の翼が何枚も展開されていく。その灰色の翼は、一度広がった状態から折り畳まれ、背部でひとつの塊になった。そして兵士は右手を開き、そこから出現したライフルのグリップを握った。左手もまた、別のグリップを握る。
『ビームライフル展開完了。これより発進フェーズに移行します』
『カタパルト出力調整、角度調整完了。リニアシステム起動。安定台座地上固定解除。射出までのカウント、2・・・1・・・』
台座が浮き始め、ストッパーがレール下部と接触する。そして姿勢が安定した瞬間台座が急速に前進し、レールを滑走した後にブーツの拘束を解除した。慣性でカタパルトから飛び出した兵士が翼を展開すると、兵士の身体は落下から上昇に転じ、そして空中で静止した。中央指揮所でその姿が映し出されたディスプレイを眺めながら、例の男はニヤッと笑みを浮かべた。
「よし。Ⅷの発進が完了次第、戦闘実験を開始するんだ。・・・これで満足できる結果が出れば言う事なし・・・」
「そうなればいいんだがな・・・。これが成功したら実戦配備に移行しても良い、そう考えていいのだな?」
傍らに立つ技術将校が尋ねると、彼は大きく頷いて答えた。
「戦力として通用する段階までは達したからね。それに、実戦配備に移れば君のお偉いさんも煩くなくなる。僕としては研究に没頭したいからね」
そう答えながら笑みを浮かべている彼に、将校は多少嫌気がさした。科学者の連中は皆この調子だ、この技術を新たな戦力にと考えている我々とは違い、この輩は更なる兵器を・・・そう、もっと強力な兵器を研究する目的で造る気なのだ。しかも、我々が研究資金を出し渋ればすぐに裏切り、狂った思想を持つ敵勢力とも手を組む。いや、こういう輩自体が狂っているのだからおかしくはないのだろうが・・・。ふつふつと湧き上がってくる感情を隠しながら、将校は再び口を開いた。
「いずれにせよ、あなたが今後も我々に協力して下さるなら、研究投資は今後も継続する事を約束しよう」
「そりゃどうも。・・・さて、Ⅷも所定位置に到着したから早速始めようか」
同じくバイザーを装着した兵士が、また別のタイプの翼を展開してホバリングしている映像を見ながら彼は指示を出した。すぐにオペレーターが兵士と指揮所の見学者に対し、作戦概要の説明を開始した。
『今回の実験では非武装型浮遊標的10基、および機銃を装備した浮遊標的10基を任意の箇所に配置し、IWSに格納された武装を使用してこれらを撃破します。今回、機銃に装填されているのは模擬弾の為、この実験による墜落はないと思われます。今回、IWSE-07およびIWSE-08はそれぞれ単独で実験を行います。実験の時間制限はそれぞれ150秒です』
「150秒・・・たった二分半で遂行可能な性能を有するというのか?」
将校がつぶやくと、彼はもちろん、と得意げにうなずいた。
「それ程の性能を求めたのは君達なんだ、驚く事もないでしょ」
「む・・・」
彼にそう言い返され、将校は何も言い返す事が出来なかった。確かに、戦場で使い物になるだけの性能を要求したのは軍の方だ。そして、あの事故以降は暴走を抑制し、さらに高性能なものを求めてきた。だが、将校の前で実験中の試験機の性能は、軍が要求する性能をはるかに超えているのだ。戦闘時のスピードも、運動性能の高さも、そして搭載武装の威力もすべて要求値以上だ。一種の恐怖すら感じる・・・。Ⅶが背部に格納していたハサミ形状の武装を射出し、機銃を撃つ標的を握り潰したところで実験が終了した。Ⅶはハサミの尾部に接続されたワイヤーを引いて武装を回収すると、実験区画外へと移動した。入れ替わるようにして、Ⅷが開始地点へと移動する。
『続いてIWSE-08、模擬戦闘実験を開始します』
オペレーターが指示を出すと、Ⅷの両腕を外側から覆う盾状の兵装が展開され、その先端部が開いて扁平な砲門が姿を現した。Ⅷは盾の内側に突き出たグリップを握ると、はるか遠くの標的にその砲口を向けた。と同時に、砲から一筋の閃光が走り標的を消滅させる。
「ビーム砲か」
将校が驚くと、彼は凄いでしょ、とまるで子供がはしゃぐように言った。
「Ⅴの数倍の出力で砲撃可能なんだ。ヴァンガードとかいうAWの一個小隊分が、たったの一機でまかなえる」
「これは凄い・・・。エネルギー消費が気になるがいい装備だ」
瞬く間にほぼ全ての射撃標的を破壊したⅧの映像が流れる中、将校も納得したような表情でうなずいた。これだけの性能を持った兵士が揃えば、イルデーナフにも対抗できる。やがては、奴らを消し去る事も可能になるだろう。そうなれば、我々は仮想空間を本来の形で統治する事ができる・・・。手の甲に展開した反りのあるエネルギー刃で、目の前の標的を容赦なく切り刻むⅧを見ながら、将校はニヤッと笑みを浮かべた。最後の標的も一刀両断されたところで、オペレーターの戦闘停止指示が入った。
『実験終了。二機とも時間内にミッションを達成しました。IWSE-07,IWSE-08は帰還して下さい』
指示とともに、二体は再び開いた壁面の穴へと飛び去っていった。と同時にディスプレイの映像が遮断され、代わって『軍事防衛技術研究所』のロゴマークが一面に表示された。
「さて・・・これを元に量産型を開発すればいいんだよね?」
彼が訊くと、将校はああ、とうなずいて答えた。この性能なら、量産化に問題はないはずだ。それに、これ以上計画を先延ばしにするわけにもいかないのだ。将校は彼に命じた。
「早急に量産型の開発に移れ。この性能なら、上層部も必ず納得するはずだ。・・・それと平行して、さらに高性能なシステムの開発を進めるように」
「当然でしょ。まあ、君達が指定する期限には十分間に合うよう開発を進めるから心配ない、とお偉いさんに伝えといて」
彼はそう言って指揮所を立ち去った。将校は彼の姿が見えなくなった後で舌打ちし、そしてその場を立ち去った。地上に上がる側のエレベーターに乗り込み、彼は一人愚痴をこぼした。何が当然だ、研究資金がなければ何もできない貴様ら研究者に何がわかる・・・。しかしながら、あの計画を順調に進めている事はどうしても評価せざるを得なかった。まあいい、と彼は考える。奴に利用価値がある限り、奴らがどんな態度をとっても気にしない。重要なのは、これからも使えるか、そうでないかという事だけだ。もし要らなくなれば・・・。

 「どうやらここだな・・・」
砂漠の真ん中に孤島のごとく存在する小さなオアシスの外縁部で、一人の旅人が居住区を見つめながらつぶやいた。首から一眼レフのカメラを提げ、砂嵐対策のコートを今は羽織るように着ている彼は、居住区の一角に座り込んだ女性を見つめながら、再び口を開いた。
「あれが・・・、あの人が」
その後の言葉は、突風で遮られ、聞き取る事ができなかった。彼は女性から視線を離し、オアシスに向かってゆっくりと歩き出した。

 次回予告
砂上の楽園で彼女は想う。
やがて来る戦いの時を。終末の光を。
そしてまた、血が流れ落ちる。
次回『楽園の聖女』

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最近のアニメのOPイマイチ。

2007-04-20 12:39:06 | 日記
質が下がってきたな、と思っているのは俺だけではないはず。プロが作ったものとは思えないレベルのOPまで出てくるようになったし。

正直MAD職人に負けるようなOP作ったら負けだと思う。特にサンライズの某アニメOPとか、差し替え前は曲とのズレが酷すぎた。そのせいとはいわないが、某アーティストが滅茶苦茶言われたりしてるし、差し替えなければならない程度のOPを作ってどうする、と思った。そもそも、質が下がってきたのはOPの期間がだんだん短くなっているからではないか、と思う。昔ならひとつのアニメで一年間同じOPとかが普通にあった。それがこの数年くらいで半年、3ヶ月と短期間になってきて、質より数で勝負という感じになってしまった。今のOPは、アーティストの曲を宣伝する方法だから仕方ないと言えばそこまでだけど、アニメのOPは家にたとえれば玄関だ。その玄関が雑な造りでは、せっかく来た人間も来たくなくなる。アニメを視聴している側としては、もっと魅力的なOPを目指してほしい。そのために同じOPが半年続いたとしても、文句はない。良いOPならみんなすぐに飽きないんだ。

というわけで、最近アニメを視聴してて思ったことを書いてみた。OPはもちろん、アニメの内容自体も徐々に落ちてきていると思うけど、それは脚本とか作画の問題もあるので詳しい事は言えない。それにしても、最近グロ表現を平気で使うアニメがほとんどだけど、これって本当に大丈夫なんだろうか。社会をよく理解していない小さい子達にそういうのを見せて、問題がないとは言えない気がする。かといって、アニメの冒頭でグロ注意のマーク(ゲームなどによく付いているあれ)を出すわけにもいかないと。年齢ごとに最適なアニメを一定数作った方がいい、なんていうと難しいし。とにかくアニメ好きな俺としては、くだらないバラエティがゴールデンを独占している状態にものすごく不満を抱いてるわけだが。子供向けアニメを深夜にやるとか、深夜枠だからどの漫画も大人向け表現使っていいや、という考えがこのまま通用していくのかな・・・。とりあえず、無垢な子供の精神を過激な色に染めないような方法だけはひとつでもとってほしい。小坊時代に見てたアニメは結構良かった気がするんだが。これも時代の変化ってやつなのか・・・。

ではでは。


久々です

2007-04-18 12:39:36 | 日記
久々に日記でも書くとするか。最近更新頻度が落ちているのは部活に専念しているという証拠です。

さて、月曜日に部活登録を済ませてきました。今年もまたロボット研究会です。役職は何か、と聞かれると答えようがないんだけど、とりあえずパーツ製作関係の部門で今年のロボコンに向けて活動していくつもりです。ちなみに、今年は一年が沢山入ってきたので部費が多少安くなるという事で、財布もそれほど軽くなるわけではなさそうです。来年以降がどうなるか微妙なんだけど・・・。とりあえず最近はそれなりの頻度で部室に顔出してます。ルールが発表されてから暫くは、マシンのアイデアを考えたりしなきゃいけないので更新が滞りますが、気長にお待ちください。

さて、昨日とんでもない事がありましたね。長崎で。そう、長崎市長が拳銃で撃たれて死にました。政治家が射殺されるという事件って、なんか嫌な予感が漂ってくるんですよね・・・。この後政治的に大きな変化が起こったりするかも。とにかく、市長のご冥福をお祈りします。それにしても背後から撃つのはちょっと卑怯ですよね。どうせやるなら正面から堂々とやれよ(マテマテ)、と思うのは俺だけかな・・・?卑怯な事はよくやるくせに、こういう事を平気で言うのが俺のような人間です。ごめんなさい。

とりあえずこの先一ヶ月程度の間にやらねばならない事。まず、CCを引き続き執筆する事。そしてその合間を縫って短編を一本書き上げる。それと公式サイトの改良なども検討した方がよさそうだし、今までに書いた小説の加筆修正を済ませなきゃいけない。後は、プライベートで勉強などがあるので、当分忙しい日々が続くようです。まあ、気ままにやっていきますよ。

そんなわけで結構短いですが、今日はこの辺で。

ではでは。

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CyberChronicle(2)

2007-04-15 18:35:24 | 小説
 『・・・次のニュースです。世界的に高い人気を誇る歌手、セレス・マークヘルトさんがエリア116での戦没者追悼コンサートを終え、本日昼前にマークヘルトグループ所有の専用機で首都に到着する予定です。セレスさんはマークヘルトグループ会長の長女で、幼少の頃から声楽等を学び、2年前のデビュー以降幅広い世代から多大な支持を・・・』
つけっ放しのテレビの前で、クレアは酷い頭痛のする頭を押さえながら、ソファーに寝転んでいた。無理もない、昨晩はシャンパンを最低でも5本たった一人で飲み、さらに他の酒も飲んだところで意識が飛んでいるほどだ。おそらく、最後まで残っていたであろう所員達の大半も、酷い二日酔いに悩まされているだろう。
「それにしても、あの三人はいつの間にかいなくなってたわね・・・」
日頃の睡眠不足の相乗作用で再び眠気に襲われながら、彼女は誰もいない部屋でつぶやいた。しかも、朝から姿を見ない所からすると何処かへ出かけたようだ。彼女は目を瞑りつつ、独り言を言う。
「どうせ買い物か何かでしょ・・・もうちょっと寝るか・・・」
彼女は足元に落ちていたブランケットを拾って掛け直し、そして、テレビの音声に混じって小さないびきが聞こえ始めた。

  第二話 -歌姫と野獣-

 首都郊外の空港には、国営、民間問わず多数の放送局の記者が集まっていた。その山を無理矢理押し退けるような形で、レオン達は護衛の控え室へと向かっていた。つま先を誰かに踏まれて転びそうになりながらも、そこを抜けた彼はジェストに尋ねた。
「別に関係者用の通路を使えばいいんじゃないですか?その方が早そうですし」
「あー、残念ながら無理だ。ここの通路は改装工事のせいで迂回路が多くて、今は普通に行った方が早いんだよ」
ジェストはそう言って、多少乱れた服装を正した。そして、黒というよりは茶色に近い色のレンズが入ったサングラスを着用した。レオンとサラも、同じようにサングラスを取り出して着用する。こういう関連の仕事では、なるべく顔がわからないようにしなければならないからだ。
 控え室に着くと、他社から派遣されてきた護衛数人が煙草を吸っていた。彼らは三人が入ってきたのに気がつくと、そのうちの一人が片手を差し出し、握手を求めた。握手をしながら、ジェストは今回の依頼についての詳細な情報を確認した。
「運が良かったな。俺達はあの歌姫の車に乗れる」
握手を終えて振り向くと、彼は二人に向かってそう言った。その途端、レオンは少し焦ったような表情になった。
「え・・・!?ど、どうやって接したらいいんでしょうか?」
「いつも通りでいい。いつもの依頼のように、相手が官僚だと考えれば楽なもんさ。・・・それとも憧れの人に会えて嬉しいってか?」
彼がそう言って軽く冷やかすと、彼はますます慌てた様子でブンブンと首を横に振り、部屋を飛び出した。
「まったく・・・仕方ねえな。じゃあ俺とサラは後部座席に、レオンは落ち着いて仕事ができるよう助手席にするか」
彼が笑いながらつぶやくと、サラもつられたように笑った。そのとき、ジェストのポケットから彼女の歌が流れ、彼は慌てて端末を取った。
「はい、こちらはレーテルセキュリティエージェンシーの・・・、はい、了解」
端末の電源を切り、代わりにインカムを取り出して耳に装着すると、彼は部屋にいる全員に向かって指示を出した。
「依頼主の旅客機が到着したそうだ。行くぞ」
そしてドアを開けると、緊張を必死に抑えようとしているレオンの肩を叩き、声をかける。
「行くぞ、作戦開始だ」
「え?・・・あ、はい」
彼は慌ててインカムを装着し、彼らの後を追った。
 誘導路をゆっくりとタキシングする小型の旅客機の中で、セレスはコンサートの時とは異なり、やや軽めの服装で窓の外を眺めていた。
「今日もマスコミの方々が沢山待っておられるのでしょうね。私としては早く屋敷に戻り、くつろぎたいのですが」
彼女がつぶやくと、傍にいたマネージャーが優しく声をかけた。
「大丈夫です。今日を含め数日間は、プライベートな時間を過ごせると思いますからね。報道関係の方も、あなたが疲れておられるのが多少なりともわかっている筈ですし、記者の数も前回よりは少なくなっています」
「そうだと良いのですが・・・。この前の事もありますし、あまり期待できそうにありませんわね」
機体がターミナルの傍に停止し、タラップが取り付けられるのを見つめながら、彼女はまたつぶやきを漏らした。そして、マネージャーが立ち上がった後に自分も席を立ち、乗降用ハッチへと向かった。
 タラップを降りてきた彼女の目の前には、黒塗りの高級車が三台停車していた。その、中央に止まっている車両の後部ドアを開き、ジェストは彼女を丁寧な手つきで乗せ、自分も乗った。ドアが閉まると、三台はそのままターミナルビルの正面玄関まで向かい、そこで一旦停止した。マスコミが円状に囲む中で、ジェストは車を降りてドアを開け、彼女をゆっくりと降ろした。そして、彼女は大量のカメラとマイクを向けられつつ、追悼コンサートや、滞在中の話などをいつもの明るい調子で喋った。
「この映像、クレアが見てたりしてな」
ジェストが小さくつぶやくと、助手席で待機しているレオンはインカムを通して、そうですね、と相槌を打った。30分ほどの間、彼女はマスコミに向かって延々と喋り続けた後で再び車に乗り込み、やがて車列は再び走り始めた。
 三台が空港を抜け、首都の中心部へと向かう幹線道路に移る中、ジェストは隣で疲れた顔をしているセレスをチラッと見た。よくここまで、人形のように明るい顔を固定していられるものだな、と彼は思いつつ、小型冷蔵庫からミネラルウォーターを出して彼女に勧めた。
「ありがとうございます」
彼女はそう言って、一口だけ水を飲む。口を潤す程度だけか、と彼は思った。
「ところで、歌手の仕事というのは随分と大変そうですね」
彼が尋ねると、彼女はグラスを置いて軽くうなずいた。
「ええ、見ての通りです。ですが、辛いだけではないので・・・」
「そうですか。・・・ご存知かと思いますが、俺達も結構危険な職業なので大変なんですよ。どの職種でも大変なものは大変、そういう事ですかね・・・?」
彼はそう言って軽く笑いながら、ふと窓の外を確認する。今のところ、不審な車両や人物はいないようだ。彼が彼女に視線を戻すと、彼女はつぶやいた。
「財閥の令嬢で人気歌手。時々この立場が嫌になる事もあります・・・。他の皆にとっては憧れでも、私にとっては苦痛に思えるんです」
「・・・」
彼は黙って彼女の顔を見つめた。そこにあるのは上流階級の表情でも、人気歌手の表情でもなく、憂いに満ちた一人の女性の表情だった。車内にしばしの間、沈黙が流れる・・・。ただ一人、助手席に座ったレオンだけが緊張して喋れなかったのだが。車列は、徐々に都市部へと入ろうとしていた。

 『・・・マウスを車両の1キロメートル先に配置しました。まもなく遭遇、戦闘に入る予定です』
薄暗く狭い空間で、白衣を着た一人のAAが壁に並んだディスプレイを眺め、スピーカーから聞こえる状況説明に耳を傾けていた。メガネをかけた彼の顔は、これからまもなく開始される『実験』に興奮した笑みを浮かべていた。
「それにしても不幸な子だね、彼女。あの素晴らしい声で恐怖の叫びを上げる事になるんだから」
彼が冗談気味に言うと、スピーカーから同じく笑い声が聞こえてきた。
『まあ、彼女には色々と疑惑もかかってますしね。噂では『彼』と関わっているという話もあるくらいですし』
「そうだったかな?僕は世間から遠ざかってるから詳しくなくてね。・・・さて、そろそろ開始の時刻だ」
彼はそう言ってディスプレイのひとつ・・・一体のぽろろが路上で立ち止まっている映像に視線を向けた。さあ、その無垢な身体を血で染め上げろ。

 「今のところ異常なし。このまま何事もなければ楽なんだが」
ジェストは他人には聞こえぬ小声でつぶやきながら、バックミラーに目をやった。あの後、車内は依然として静まり返ったままだ。といっても、殆どの依頼では護衛と依頼人が喋るという事自体が珍しい。だから彼女が黙り込んでしまっても、彼らにとっては別に問題ではなかった。むしろ仕事に集中できるのだから好都合といったところか。その時、前方の車両が急に減速した。彼の乗っている車両も、それに連動する形でどんどん速度を落としていく。事故でも起こったか。彼はそう考えつつ、前方車両にいる護衛と連絡を取った。
「何かあったのか?状況を教えてくれ」
『いや・・・実は目の前にAAが突っ立ってる。まだガキだ。どこから入ったのか知らないが、このまま置き去りというわけにもいかんだろう』
「そうだな・・・。とりあえずそいつを路肩に誘導・・・」
彼がそう言いかけた時、ドゴンッという音とともに、前方車両のボンネットが一瞬でスクラップになった。そして、今度はフロントとサイドのガラスがほぼ同時に割れ、破片が辺りに散らばった。
「おいおい、何があったんだ・・・?」
慌てて車両から飛び出した護衛達を見ながら、彼は一体何が起こっているのか理解できないでいた。しかし、助手席のレオンは車両の前方を指差して叫ぶ。
「ジェストさん!あれ見て下さい!」
「あれって何だよ?言わなきゃわからねぇだろうが」
彼はそう言って彼の指差す先を見た。サラもまた、気になってそちらへと視線を向けた。そして、それを見るや否や表情が一変した。
「ぽろろ・・・しかも暴走中ときた」
「しかもあの腕。人工的に改造が加えられてる・・・!」
二人は車両を見下ろすようにして立っている捕食形態のぽろろを、驚いた顔で見つめた。全体的に黒色のその身体からは幾つもの腕が現れ、その先端から中ほどにかけて、大きく鋭い刃物上の突起がひとつずつ付いている。ぽろろは無人になった車両を真っ赤に光る目でギロッと睨みつけると、それに向かって圧し掛かるように前方へと倒れた。その刃物が車両の屋根を貫通し、さらに重さでフレームがひしゃげ、完全に潰される。そして、エンジンにも刃物が突き刺さり、まだ稼動していた燃焼室を破壊して爆発を引き起こした。
 さらにぽろろは慌てて後退した残りの二台に狙いを定め、地面を這うようにして接近してくる。レオンは拳銃を抜き、窓を開いて銃口を化け物の眉間に向けた。
「止まれっ!」
パアン、と銃声が一発響き、銃弾が化け物の頭を掠める。更にもう一度銃声が聞こえ、今度は化け物の額に見事な穴が開く。化け物は怯んだように立ち止まり、その頭が地面にゆっくりと下がっていく。
「今のうちに車を退避させろ。ここは俺達で引き止める」
ジェストはそう言ってレオンに合図し、車両から降りた。そして、上着の内側から一丁の大型拳銃を取り出した。小まめに手入れされたそれは、新品同様のきれいな黒光りを保っている。同じく車両から降りたレオンに、彼はすぐさま指示を出した。
「まだくたばってないな。今のうちに止めを刺すぞ」
「はい」
再びゆっくりと、顔を上げて二人を睨みつけるようにして見つめるぽろろに、レオンとジェストはありったけの銃弾をお見舞いした。その頭部を、目を、首筋を血を撒き散らしつつ抉り、そして貫通して彼の脳髄を破壊し、それの生理的現象を強制停止させる。化け物の身体はゆっくりと地面に崩れ落ち、そして動かなくなった。
「やった・・・?」
「ああ、ここまでやれば流石に・・・」
 彼がそう言いかけた時、インカムから悲鳴が聞こえた。そして、すぐにノイズで何も聞こえなくなる。彼は慌てて背後を振り返った。そこに映し出されたのは、炎上する最後尾の車両と捕食形態のぽろろ。
「くそっ!もう一体いやがった!」
「このままじゃサラさんとセレスさんが・・・!」
二人は口々に叫ぶと、そちらへと全速力で向かった。破壊された車から逃げた護衛達もその後を追う。

 「あはー。やっぱり簡単に倒されちゃったね」
せっかくの実験体を倒されてしまったというのに、白衣の男性は殆ど気にする事無く、むしろその自体を楽しんでいるかのごとく声を上げた。そして、更につぶやきをもらす。
「でも一台丸ごと『壊しちゃった』くらいだから、結果は上々かな。それに死んだと思っていた『彼』も確認できたし」
その顔が、狂気に満ちた笑いを浮かべる。あの時僕の命令を拒絶し、大切なマウスを何体も殺して姿をくらましてしまった『彼』が、こんな場所で偶然見つかったのはラッキーだよ。
『あの・・・マークヘルト嬢は本当に殺害しても構わないのですね?この場で言うのもなんですが、私も彼女のファンでして・・・』
「ああ、なるべく殺しちゃって。下手に証拠を残すと僕らの首が飛ぶ事になるから。それに、アイドルぐらいなら僕が幾らでも『生産』してあげるし」
彼はそう言ってマイク越しに笑いかけた。その口は、狂った感情に影響を受け、醜く歪んでいる。スピーカーから、部下の困惑気味の声が返ってきた。
『はあ・・・。ともかく了解しました』
「ああそれと、リミッターを解除しちゃっても構わないよ。むしろその方が面白いから宜しく」
彼はそう言って、視線をもう一体のぽろろがアップで映し出されている画面に移した。

 腕から生えた砲身状のものから光弾を放ち、最後尾の車両を破壊したぽろろがその射線に最後の車両を捉えた時、セレスとサラ、そして運転手は車から離れていた。拳銃を右手に握るサラがセレスの目の前で庇うように立ち、小声で背後にいる彼女に下がるよう指示した。
「なるべく静かに、落ち着いて逃げて下さい。気づかれたら・・・お終いです」
「わ、わかりました・・・」
少し動転したような口調で返事をしつつ、彼女は、先程まで自分が乗っていた車両に向かって光弾を吐き出した化け物を観察する。ぽろろをベースにした殺戮兵器といったところか・・・。先ほど出現したのが至近距離戦用、そして今いるのが砲撃戦用。どちらも威力には優れているものの、そのスピードや防御能力からしてまだ完成には程遠いレベル・・・。おそらくこれは実験の為に作られた試験体だろう。彼女は考えつつ、サラの指示通りゆっくりと後退していく。
「セレスさん、何があっても私の後ろにいて下さい。残りがこの一体だけなら・・・」
「当たれぇっ!」
突然、彼女の声を遮るようにレオンが大きく叫び、銃を連射した。しかし、距離があるせいか全く命中はせず、ぽろろの表皮を掠る程度でしかなかった。そして、ぽろろが彼に気づいて腕の砲身全てを向ける。
「レオン危ない!!」
「そこから離れろ!死ぬぞ!!」
サラとジェストがほぼ同時に叫び、その直後全ての砲身から先程とは桁違いに巨大な光弾が発射された。
「うわぁっ!」
彼の叫び声が一瞬聞こえた瞬間、凄まじい閃光と爆発で破壊された車両が更に破壊され、粉々になって周囲に飛び散った。濛々と煙の立ち込める中、二人は先ほどの爆発に巻き込まれたであろう彼の姿を必死に探したが、直撃を受けたのか、その痕跡すら見つからなかった。ジェストはその場に呆然として立ち尽くし、
「嘘・・・だろ・・・?」
震えるような小さい声でつぶやいた。ちょうど駆けつけてきた護衛達も、何が起こったのか理解できない様子でその場に立ち尽くしている。ただ一人、セレスだけは別に驚きもせずに化け物をしっかりと睨みつけていた。あれだけの火力を持っているという事は・・・おそらくオラクルの兵器ではない。とすると、軍の実験体か。
「せ、セレスさん。私達がここで食い止めますから、その隙にここから逃げて下さい」
「は、はい」
彼女は他人と同じく混乱しているように装いつつ、誰にも聞こえぬよう軽く舌打ちした。くそ、今この状態で遭遇しなければ気にする事無く力を発揮できるのに・・・。ぽろろの視線がこちらへと向いた事に気がつき、彼女はゆっくりと後退した。
 そのとき、ぽろろの斜上方から突然光弾が放たれ、それの腕のひとつを貫通した。一瞬の間を置いて腕が爆発を起こし、折れた砲身が落下しアスファルトの路面を陥没させた。そして、間を置く事無く次の弾が発射され、砲身を破壊していく。化け物はその巨体に似合わぬ高音の悲鳴を上げながら、自分が破壊されていく痛みに身を捩る。最後に、全ての腕が破壊された化け物の頭部に穴がひとつ開き、そして頭が急激に膨張し弾け飛んだ。爆煙が立ち込め、グロテスクな肉片が飛び散った路上で、全員が光弾の放たれた方向を見つめて叫び声を上げた。
「レオン・・・?」
空中で静止しているそれは、まさしくレオンだった。しかし、その背中からは金属の翼が六枚生え、そのスラスター部から青白い燃焼光が輝きを放つ。そして、彼の右手には大型の見慣れない形状のライフルが握られていた。彼はゆっくりと降下して化け物の目の前に着地した。
「あれは・・・!?」
セレスはその特異な姿を見て驚嘆した。馬鹿な、何故ここに『政府によって始末されたはずの』IWS試験型がいる・・・?しかし、そんな彼女の驚きには気づく事無く、サラは彼に向かって恐る恐る声をかけた。
「レオン・・・何でそんな姿に・・・?」
「ワカラナイ・・・オレハ・・・コロサナイト・・・スベテ・・・」
彼は途切れ途切れにつぶやきながらサラに銃口を向けた。その瞳は、彼女を仲間として認識していなかった。彼は狙いを定めると、躊躇う事無く引き金に指をかけた。が、そこでビクッと痙攣を起こして意識を失い、彼は前のめりに倒れた。同時に、ライフルと金属の翼が吸い込まれるようにして姿を消した。
「レオン・・・?レオン!しっかりして!」
彼女ははっとしたように目の前の青年へと駆け寄り、抱き起こした。そして、彼が無事なのを確認すると、彼女は緊張が一気に解け、その場にへたり込んだ。ジェストも二人の傍に駆け寄り、怪我が無い事を確認して立ち上がった。そして、少し離れた場所で二人を眺めているセレスに近寄ると、落ち着いた口調で声をかけた。
「ご無事で何よりです。すぐに別の車でお送りしますので・・・」
「それなら大丈夫です。もうすぐ迎えが来るそうですから」
「そうですか。しかし一般車は通行禁止になっている筈ですが」
彼がそう言った時、遠くからヘリコプターのローター音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる音を聞きながら、彼女は笑顔で答えを返す。
「車ではありません。私の場合移動手段の殆どがヘリコプターです。車だと、どうしても記者の方々が追いかけてきますから」
なるほど、と彼はつぶやいて空を見た。マークヘルトグループ所有の中型ヘリコプターが空中を旋回しつつ、道路にゆっくりと降下していく。そして、彼らから少し離れた場所に無事着陸した。
「サラ、レオンを頼む。俺は依頼人を送ってくる」
彼はインカム越しに指示を出すと、拳銃をしまって彼女の右側に立った。そして、ヘリの止まっている場所に向けて、ゆっくりと歩き始めた。

 「あーあ。また暴走を起こして滅茶苦茶にしてくれたよ」
崩壊しつつある二体の試験体の映ったディスプレイを眺めながら、彼は妙に明るい笑顔でつぶやいた。そして、騒がしいスピーカーの音声の元に向かって指示を出す。
「実験体の残骸は『アレ』ぶち込んで完全消去して。それと、『彼』に監視をつけるように」
「了解しました。それにしてもよく作動しましたね、生体回路」
スピーカーから声が響くと、彼は笑いながら答えを返した。
「チャージしなくても、日常生活を続けていれば自然とエネルギーは蓄積される。サバイバルの為の機能なんだけど、それが偶発的な暴走に繋がったみたいだね」
「再暴走の可能性は現段階で5%未満と思われますが・・・」
「出来れば早い内に消去しないとね。それと、新型のテストを前倒ししよう。早くIWSの部隊配備に移りたい、と国防省が煩く言ってくるからね」
彼がそう言った時、実験体にライフル弾が数発撃ち込まれ、直後に急激な崩壊を起こして消滅した。後に残ったのは三台の高級車の残骸と、そして護衛達に混じった『彼』だけだった。まだ気絶したままの『彼』を眺めながら、彼は一人、残酷な笑みを浮かべていた。さあ、お楽しみはこれからだ・・・。

 次回予告
それはまだ予兆でしかない。やがては全てを巻き込む事となるのだ。
それぞれの意思が、それぞれ形となり動き始める。
そして、いずれ激突する運命にあるのだ。そう、殺戮者も。
次回『悪魔の記憶』
解き放たれるはその悪しき力か、それとも。

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集団心理による犯罪の正当化

2007-04-12 16:38:20 | 批評
 最初に言っておくが、犯罪という表現は過激かもしれない。だが、集団心理による行動は、時として犯罪さえも許してしまう危険性がある。その為、このような表現を用いた次第だ。

 まず、何故人が集団を作り、その中で生活していく事を必要としているかについてだが、それは言うまでもなく、個人の能力だけで全ての危機を切り抜けられなかったからだ。それは他の動物を狩り自らの食料とするにしても、獰猛な肉食獣から逃れるにしても同じ事で、それらをたった一人でこなすには限界があったからだ。もし少数の集団ならば、獲物を包囲しつつ攻撃を仕掛ける事が出来るし、誰かが囮になり、敵の注意を向けさせている間に敵を殺す事も可能になる。生命の進化の中で、生物は危機の経験から集団化するようになっていった。狩られる側は大きな群れとなって移動するようになり、狩る側は効率よく獲物を仕留める為群れを組むようになった。もちろん、生物の中には一匹で生活するものもいるが、それはごく少数であり、ここでは考慮しない事にする。
 さて、集団となったのはいいが、最初の内はただ集団になっているだけだったと思われる。つまり、誰も指揮を執らないので連携した行動が出来なかった。この問題を解決する為に生まれたのが、誰かが集団のトップとなり指揮権を独占する事だった。そして、命令を聞かない者は排除するという掟も、集団化するにつれ自然と発生した。これによって、集団としての進化が発揮出来るようになったと言えるだろう。また、集団の中に上下関係というものが生まれたのもこの頃だったと思われる。ただし、この頃の上下関係はただ単に個体の強さであり、一度でも敗北を喫すれば上下関係が入れ替わった。
 集団化が進むにつれ、縄張り意識というものも大きくなっていった。元々、個体毎に縄張りを意識していたとは思うが、集団となった事でそれが強調され、集団の外の存在に恐怖感を募らせ始めた。それがやがて、集団間の争いへと発展していった。敗北した集団は勝利者の集団に吸収され、その権力化に置かれる。それが続くうち、ある一定の地域を統一するような集団へと成長していく集団が発生するようになった。上下関係に個体の身体能力以外が関係するようになったのもこの頃からだろう。まず最初に『神』という存在、あるいはそれとの意思疎通が図れるとされる者が集団の頂点に君臨するようになった。そして、次第に地位の固定化と世襲が行われるようになっていった。そして、指揮官の言葉は『神』の言葉であり、従わない者には天罰が下る、という考え方も加わった。
 そのうち、集団の頂点に立つ者の必須条件が次々と追加されていき、神格性や私有財産、そして先祖の地位までもが必要となっっていった。それによって、頂点に立つ者は決して崩れることのない基盤を手に入れた。だが、それも維持できなければ意味がない。やがてその体制が崩れると、頂点に立っていた者達は投獄され、処刑された。そして、武力と民衆の支持を持った者が頂点に立つ時代が来た。彼らは、縄張りを外敵から守る事よりも近隣を征服する事を求め、やがて世界全体で戦争を、しかも二度にわたって引き起こした。そして、新たな条件も生まれていた。それが、情報を操作して民衆を操れる能力だった。

 情報操作といえば、某情報番組で捏造・情報操作が行われていたという話題で盛り上がったり、あらゆる業界での偽装・隠蔽事件が取り上げられているが、これもまた集団を操る方法だ。集団に属する人間が全て最高水準の知識・知能を持っていれば騙されはしないだろうが、現実にはそういう事はありえない。それらしく言うだけで、簡単に騙せるというのがほとんどだ。しかも、情報操作する側・あるいは操作対象に権威があれば、民衆は更に騙され易くなる。東大が偉いという認識、あるいはこれこれこういう章を取った学者が言ってるんだから間違いない、という考え方。これも騙されていると言えよう。この程度のレベルなら、(問題になるにしても)大した騒ぎにはならない。だがそれが悪用される事もある。
 たとえば、第二次世界大戦のナチスドイツ(第三帝国)では、ヒトラーによるユダヤ人迫害が正当なものだと信じられていた。すなわち、民衆はユダヤ人こそが悪の根源であり、優れた民族である自分達が退治しなければならないのだ、という思想に疑いを持たなかったのだ。今だからこそ異常だと言えるのであって、その当時はそれが正しいと情報操作されていたので、誰も悪いと思っていなかっただろう。
 日本でも情報操作は行われていた。真珠湾奇襲で戦争を開始した日本は、1942年のミッドウェイ海戦以降旗色が非常に悪かったのだが、国民に対しては『連日連勝!帝国の兵士は奮戦している!』という嘘の情報を流していた。これもまた、今の世だからこそおかしいと言えるのであって、当時それを指摘したらその時点で牢獄行き・拷問責めだった。もし、政府が本当の事を報道していたら、日本は民衆の暴動によって即刻降伏していた事だろう。あるいは、現代の戦争のように国内外から激しく非難を受けただろう。
 こうして考えてみると、集団心理が犯罪さえも正当化してしまう事に同意すると思う。あの人は・・・だから殺してもいいだろ、と言って殺人を起こしても咎められない世界、その可能性はゼロではないのだ。そして、集団の中では絶対に従うべき掟が『・・・という条件に当てはまる人間を皆殺しにする』などであれば、ナチスのユダヤ人迫害同様に迫害・暴行・虐殺が平気で行われる可能性もある。そして、それが咎められる事がない事こそ、まさに恐怖なのだ。

 今後も、集団の中で生きる事が必要な社会は続くだろう。それは仕方のない事だ。問題は、一人一人の行動が集団内の心理に依存し続ける事だ。この集団にいる限りは、皆と同じようにこれをやらなければならない、という考えに囚われ続ければ、歴史上の悲劇は必ず繰り返される。いや、今後もっと酷い事が起こりうるかもしれない。というのも、今の世界は全てが繋がっているのだ。珪素を主成分とする半導体素子の集合体を通じ、世界各国で情報のやり取りをする現代において、情報の操作がどれほど深刻な結果を生むかは大体想像がつくだろう。しかも、この繋がった空間上では、匿名の状態で、どんな人間であっても情報が操作できる。それを悪用すれば、気に入らない人間を指定して適当に罪を擦り付け、こいつを殺せと世界各国に送るだけで幾らかの人間が食いついてくる。世界の何処にいても、見ず知らずの人間に狙われる可能性があるのだ。そんな馬鹿なと思うだろうが、人気があり信用のおけるサイトにそういった記事があれば、それを見た人間のうち何人かは信じるのだ。そう考えると、これは単なる冗談では決して済まされないとわかるだろう。

 最後に、集団心理をそのまま飲み込んだ瞬間終わりだと言っておこう。これはどんな環境下においても同じ事だ。全てを純粋に信じ、忠実に遂行した瞬間殺戮が始まる。今は単に、昼のある情報番組の後で、スーパーマーケットの商品が陳列棚から消えるだけだが。

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