すべての事象に終わりがあるように、そして生まれた命がいつか息絶えるように、物事の全ては一度終わりを迎えるだろう。しかし、それは新たな始まりに過ぎないのだ。
~ある哲学者の言葉~
Operation Ragnarok
最終話『そして・・・』
蒼達の作り出した『時限爆弾』が滅びの時を刻むなか、紅とクリアの戦いは最高潮に達していた。二人が戦いを繰り広げているその場所一帯が、まるで別の次元のごとく不気味に広がり、その中央で黒と白、そして透明の輝きが激しくぶつかり合っていた。紅の刀がクリアの腕を浅く切り裂き、それとほぼ同時に紅の首筋に細い切り傷が走る。お互いの実力はほぼ同等、一瞬でも隙を見せればそこで勝敗、すなわち生死が決するのだ。
「いい加減くたばったらどうだぁっ?」
「そういう貴様こそ、ここで地に伏すがいい!」
どちらも長時間の戦いで満身創痍なのだが、それでも剣の勢いは衰える事を知らない。その上、お互いが戦いを楽しむ事に情熱を抱くが故にまったく手加減する事もなく、狂気さえ一種の幻覚となって現れるような高まりが永遠に続くはずだった。
が、はるか彼方にある巨大な構造物で爆発が起こったのに気づくと、クリアはとっさに攻撃の手を止めた。
「しまった!一刻も早く蒼様の元へ行かねば」
彼は顔色を変えて構造物の方へと走り去った。紅はそれを追いかけようとしたものの、彼のありえない速さには追いつく事ができず、結局つまらなそうに彼の去った方角を見つめた。
空中では、対地攻撃部隊とあのAAとは違う別のAA一体と激しい戦いを繰り広げていた。それは、データ分析上はホッシュ系のAAであるはずだが、その姿は一頭の巨大な猛禽類だった。それこそが、4賢人の一人raptorの特殊能力だった。猛禽類は、攻撃ヘリの尾部を足の爪で破壊すると、本来ならそれで墜ちるはずのヘリを掴み、別のヘリに追突させた。押しつぶされたミサイルが次々と爆発を起こし、二機のヘリはたちまちひとつの火球となって地表に落ちた。
「相手は一体だ!ちゃんと狙って撃ち落せ!」
「りょ、了解!」
ヘリの一機から空対空ミサイルが発射されたが、猛禽類の放った小さい火球を誤認してそちらへと飛んでいってしまった。そして、猛禽類は空高く舞い上がると、その口から機銃弾をヘリに向かってばら撒いた。
「コクピットが!うわぁ!?」
機銃弾はコクピットとパイロットを貫き、さらにはミサイルやロケット弾を貫いて大爆発を引き起こした。猛禽類は巨大な構造物を背に、まるで攻撃隊を阻止するかのごとく、いや蒼を守護するために立ちはだかった。
「これ以上先には行かせない!」
ミングは、廃棄された装甲車の陰で目を覚ました。aaaとかいう軍のエースが率いていた一人にやられるとは。改めて気絶する前の事を思い返すと、彼の中では苛立ちが増した。彼は上体を起こし、そして隣でぐったりとしているルクスに気がついた。彼の腹部には、かなり大型の銃弾、しかもホーローポイント弾か何かを食らったらしい巨大な銃創が、痛々しく残っていた。とはいえ、四賢人は全て蒼の研究のおかげで並外れた治癒力を持っている。このような大きな傷でも、もう既に塞がっていた。
「どうやらあなたも負けたようですね・・・」
ミングがつぶやくと、ルクスはゆっくりとうなずいた。
「俺が戦った奴は・・・、強い執念を持ってた。俺はそれに負けた」
「執念・・・。私もそんな奴と戦って打ちのめされましたよ」
二人はそれぞれ思い返しながらつぶやいた。というよりは現在のところそういった声しか出なかったといった方が正しいだろう。ルクスはミングに言った。
「おそらく他の2人は奮戦してるはずだ。できれば俺達も加わりたいが・・・」
「ええ、どうやら囲まれたようですね」
二人は何とか立ち上がり、円形状に二人を取り囲んだ兵士達を見やった。治安維持軍の歩兵一個中隊が、小銃や機関銃、そしてハンドガンを二人に向け、言葉で言わずとも無血での投降を呼びかけていた。
「ここで俺達の戦いも終わりだな」
ルクスはそう言って両手を掲げて降参した。ミングも、一瞬ためらいはしたが同じように降参した。こうして、四賢人のうち二人が戦闘不能となった。
「ギコ君、もう全身ボロボロだね。いい加減諦めたら?」
しぃは自らの剣を再構成しながら言った。目の前のギコは、至る所に傷を受け、血が止まることなく床に滴り落ちている状態だった。何度もしぃの急所を突いたはずだったが、彼女がもはや普通のAAではないことは確かだった。いくら身体がダメージを受けて破壊されようとも、彼女に組み込まれた再構成プログラムが自動的に修復し、完全な状態に戻ってしまう。一方のギコは、覚醒状態といえども根本的には普通のAAと変わらないため、ダメージが次第に蓄積し、いまや十分に戦えない状態にまでなっていた。
「諦めてたまるか・・・っ!」
「諦めなよ。どうせこの世界は滅びちゃうんだからさ」
しぃがそう言って剣を構えたときだった。ギコの小さな声が辺りに響いた。
「・・・なんでだよ」
「?」
「・・・なんでしぃの真似をするんだよ!?お前はしぃじゃないのに!!」
ギコは彼女に向かって叫んだが、彼女は顔色一つ変えずに言い返した。
「真似?今更何言ってるの?ギコ君が勝手にしぃだと思い込んでるだけじゃないの?」
オモイコンデル?ギコの中でその言葉が深く突き刺さった。俺がしぃだと勝手に認識していたって事かよ?呆然としたギコを、しぃは冷酷な表情で見つめながらつぶやいた。
「お休みギコ君。もう、私の亡霊に苦しまなくてもいいよ」
そして彼女の剣が赤黒い光を放ちながらギコを貫こうとした。が、その直前で障壁にぶつかったかのごとく止まった。ギコの身体の周囲を包み込むように、白い光の壁が出現し、しぃは舌打ちして一旦後方へ下がった。
「これは・・・!?」
ギコ自身も、一体何が起こったのか理解できていなかった。と、突然ギコの耳にしぃの声が聞こえてきた。それは、目の前にいるはずのしぃではなく、あの戦いでギコをかばって死んだしぃの声だった。
『私はここにいるよ、ギコ君。いつも、あなたの中に』
俺の中にいる・・・。ギコは自らの剣を見つめた。俺がこの力を使えるようになったのは、しぃが俺の中にいたから・・・。
「でも、どうやってあいつを倒せばいい?今の俺の力じゃ無理だ」
『ギコ君、私とあなた自身の力を信じて。あなたは、信じる事で本当の力を発揮できる』
信じる事・・・。俺を、そしてしぃを信じる事・・・。ギコは目をつぶって精神を統一した。そうだ、俺たちの力を信じよう。力を合わせれば、きっと目の前の敵を倒せる。
『いくよ、ギコ君』
「ああ」
その途端、光の防壁はギコの手元に吸い込まれるようにして消え、彼の剣は光の弓へと変化した。しかしそれは、かつてしぃが使っていたものよりも強く輝き、そして巨大だった。ギコが弓を引くと同時に巨大な光の矢が形成されていった。
「お前はしぃじゃない!しぃは、俺の中にいる!!」
「そんな大雑把な攻撃で私を倒せる?これで何もかも終わらせてあげるよ、ギコ君」
「終わらせたりしない、絶対にな!」
そして、しぃの赤い光とギコの白い光がほぼ同時に放たれた。二つの光はまっすぐにぶつかり、しかし、赤の光は白の光に打ち砕かれ、白い輝きがしぃ、いや正確には『複製品』の身体を焼き尽くした。そして、しぃが消滅すると同時にギコの開放状態が解け、彼はよろめいて壁に寄りかかった。
「これで・・・これで良かったんだよな・・・?」
彼は、姿こそ失ったけれども、自分自身の中に今も生き続けているはずの彼女に向かって、静かに問いかけた。いずれにせよ、もう俺が戦うことはないだろう。ギコはそう思いながら深い眠りの中へと落ちていった。
滅びの時を刻む死の時計の針は、終末の時に近づいていた。その、蒼達というよりは、管理人が長年の研究の成果をつぎ込んだこの巨大な全自動兵器遠隔操作装置『トライデント』は、構造物の頂上で起動準備を開始していた。既に、二つの世界の全都市を破壊しつくすだけの兵器のアクセス権を一方的に掌握し、一都市を犠牲にしての『テスト』も上々の結果を残している。後は、設定した審判の時に自動的に起動するだけだった。
aaaは、傷ついた翼で何とかトライデントの整備用ブリッジに降り立つと、中枢部分を破壊するために中央の『目』へと向かった。あと残されている時間は、もう多くはない。たとえ行く手を阻む者が現れても強行突破を図るしかないのだ。彼は、ボロボロの身体を引きずるようにして『目』へと繋がる一本の通路を走った。
と、目の前に黒と青の物体が降り立った。こんな時に敵か、と彼が思ったとき、それは黒い翼をしまいこんだ。通路脇の照明に照らされ、蒼の顔がくっきりと見える。彼はaaaの顔を厳しい表情で見つめながら、はっきりとした口調で言い放った。
「この戦いは、他の意思とはいえ私の引き起こした戦いだ。最後にけじめ程度はつけさせてもらわなければ死んでも死に切れないのでな」
「何の演技だ、蒼?」
「演技ではない。お前と同じように、これ以上誰かの苦しむ姿を見たくはない。だから、私の手でこの仕組まれた終末を変える。命に代えてもだ!」
強い口調の蒼に、aaaはかつて彼が上官であったときの事を思い出した。あの時以前の蒼は、いつも責任を一人で負っていた。しかも、俺達が連帯で負おうとすると、『これは俺の義務だ。お前たちまで背おう必要はない』といって止めていた。結局、あんたはまた自分だけで背負うつもりかよ。彼は心の中でそうつぶやくと、毅然とした態度で装置を睨み付ける蒼を見つめた。
「覚醒能力を強制的に臨界状態にし、自分ごとこの装置を吹き飛ばす。おそらくそれでしか破壊できん」
「要するに死をもって未来を変えるって事か。あんた自身はそれで良いのか?」
彼が尋ねると、蒼は一言、未練はないとだけ言った。そして再び彼の方に視線を向けると、かつてと同じ笑いを返した。
「だが、私の弟にはこの事を一応話してほしい。どう話すかはお前に任せる」
「わかった。・・・なあ、こういう時はどう別れを言えばいいんだ、蒼『大佐』?」
彼がそう言うと、蒼は視線をまた装置の方に移し、彼に背中を向けたまま言った。
「一般的ではないが、『地獄で会おう、戦友』でいい」
その言葉を噛み締めながら、彼は蒼に背中を向けて最後の返事を返した。
「ああ、そのうちな」
そして、白い翼を広げて空へと飛び上がった。蒼はその姿を一度も振り返ることなく、ただ黒の衣を翻しまっすぐに『目』へと向かった。
フォトリィは中層部の巨大な空間でtカラと合流し、何も知らぬまま上層部にあるはずの装置へと歩みを進めていた。
「全員急いで!早くしないと手遅れになる」
その時、上から大きな振動が起き、周囲が激しく揺れた。そして、戦闘によって脆くなっていた上層部が崩れ落ち、下の階層を落下の衝撃で破壊していく。
「クソ!上でなんかが爆発したんじゃないのか?」
「ということは、もしや装置の破壊に成功したのか?」
隊員とtカラが話している間にも、周囲は徐々に破壊されていく。そして、ついに彼らの立っている床が崩れ落ちた。ほぼ全員が瓦礫とともに下へと落下し、やがて見えなくなった。そして、取り残されたフォトリィと隊員数名は下に落ちたメンバーの名を必死で叫んだ。その返事が帰ってくる前に、彼女達のいる場所も崩れ、彼女たちもまた、瓦礫の山と共に下へ消えていった。
一方、ギコも眠ったまま彼のいる場所一帯が塊で下へと落下し、やがてその姿は大量の瓦礫によって覆い隠され、見えなくなった。全てが爆発によって破壊され、地面に降り注いでいく様を見届けながら、aaaは全員の安否を気にしつつも前線基地へ向かって双翼を羽ばたかせた。
「終わったか・・・」
構造物が崩れ落ちていく映像を見つめながら、総司令官は単調なつぶやきを漏らした。全戦力の半分以上という、非常に多くの犠牲を出しながらも、なんとか世界は救われた。それが良かったのかどうかはいずれ人々が決める事だ。今は多くの兵士を率いる司令官として、負傷した兵士たちの応急処置と搬送、あるいは死亡した兵士の遺体を可能な限り回収させる事に専念するしかない。
「衛生兵の大部分を負傷兵士の応急処置に当てろ。手が空いているもの、および健常な兵士には直ちに負傷兵士を捜索させ、基地まで搬送させろ」
「了解、指令より全攻撃部隊へ。戦闘は終結、各隊直ちに基地へ帰還せよ」
「怪我の軽い者は行方不明の兵士の捜索へ向かってください。こちらから通信が途絶えた地点を送信します」
「衛生兵で基地内での治療を行っていない者は輸送機および輸送ヘリコプターで負傷兵士の応急治療に向かえ」
戦闘が終了した事で、敵の攻撃がぴたっと止み、何の抵抗もしないまま次々と降伏していく。それを眺めながら、紅は物足りなさそうな表情で刀を鞘に納めた。彼としては、もっと戦いを楽しめると予想していたのだが、あの強敵は突然消えうせるわ、周りは雑魚過ぎるわで意外とつまらない戦いだったらしい。
「まあいい、また世界を放浪すれば幾らでも手応えの有る奴はいる」
彼は言い訳のようにそうつぶやくと、戦場を歩いて立ち去った。
すべての被害状況が把握できたのはそれから数日ほど経った昼頃だった。今回の戦闘で死亡した兵士の数は、投入した全戦力のほぼ50%、そして、生存した兵士もそのほとんどが何らかの怪我を負い、後の生活にも重大な障害を残すような傷を負った者はその30%。破壊された軍事車両、約一万台。撃墜された攻撃・輸送ヘリコプター3千機余り。すべてを合わせて考慮した結果、戦力の喪失は60%以上。それは単なる小規模な紛争とは、余りにもかけ離れた激しい戦いであった事を示していた。今回の軍事作戦における敵幹部との圧倒的戦力差が、今回の戦いにおける一番の課題であると説明書類には記載されている。その一方で、特務隊のフォトリィ、ドネット両中尉は果敢な活躍を見せ、戦況の打開に大きく貢献した事から、仮想空間中央政府よりシルヴィア勲章が授与される事となった。また、休暇中であったにもかかわらず戦場へと舞い戻り、世界崩壊の運命を変えたaaa特務隊大尉の功績を称え、少佐への昇進が決定された。そして、治安維持軍は今回の戦闘での課題を教訓に、中央政府軍の協力を得て、機械兵器に変わる新たな兵器技術の開発および改良に着手する事となる。それは、新たな力による新たな戦いの始まりでもあった。
※シルヴィア勲章・・・かつての仮想空間での大反乱にて、歩兵でありながら敵の戦車を20台以上も破壊し、鉄の車を引き裂く悪魔と恐れられたエース、シルヴィア=ノーベルの功績を称えて創られた褒章。主に紛争などで戦況を打開するような戦果を残した兵士に贈られる。ちなみに一説では、シルヴィアは現時点で確認されている最古の覚醒種だという。
「・・・、じゃあこの仕事明朝までに終わらせちゃってくださいね、ロゼリィ情報担当『補佐』官」
敵のサイバー攻撃によって滅茶苦茶になったサーバーシステムの復旧を試みているロゼリィに、丸メガネを掛けた情報担当官が嫌味たっぷりに言った。それも当然だろう、あの事件以前はロゼリィにこき使われていたのだから。ついこの間までの上下関係が逆になり、ロゼリィは連日の徹夜で隈のはっきり残る表情で画面を睨み付けていた。
「・・・すぐにまた元の関係に戻してやるっ」
彼がつぶやくと、情報担当官はむっつりとした表情で彼に話しかけた。
「首の皮が繋がっただけでも感謝しなさい。それとこれ以上暴言を吐いたら減俸します」
「う・・・u」
権力を盾に仕返しをしてくる元部下に殺気を募らせながら、ロゼリィはいまだにブルーバックの画面を睨み付けた。
「・・・で、結局俺も休暇返上というわけか」
基地一階の廊下を歩きながら、aaaは面倒だという調子でため息をついた。彼の軍服の胸には真新しい少佐の階級章が取り付けてあった。
「休んでいたのは中隊長だけです。こっちは折れた片腕をギブスで固定しながら書類書かされているんですよ」
フォトリィはそう言いながら、三角巾で首から吊っている右腕を見せた。本来なら再生治療を使えば数日ほどで完治するのだが、シルヴィア勲章の授与式前に、上から『負傷している方が格好良く見える』というので仕方なくこうしているのだ。
「判ってるよそれぐらい。まったく、上の連中はどうしてそうくだらん見栄を張るのか理解できないな」
「ええ。・・・ところでドネットの方はまだ戻ってこないんですか?」
彼女の質問に、彼は少し間を置いて返答した。
「・・・意識が戻らないらしい。まあ衛生兵が駆けつけた時には死にかけだったんだ、癒えるまでしばらくかかるんだろうな」
そう話す彼の横顔は、少し暗かった。最悪の場合、もう二度と目を覚まさないという事だってありえる。もしそうなったら・・・、そう思うとやはり暗い気持ちになるのだ。
「そうですか・・・」
フォトリィもそう言ってうつむき、互いに黙ったまま廊下を歩き続けた。その先には特務隊のミーティングルームがあり、そこには喪失戦力の補完として急遽配属された隊員が待っている。上からは「かなりの天然だから指導を頼む」という無責任な説明があったが、今はそれよりもドネットの安否が気になっていた。
一方街では、うずたかく積み上がった瓦礫の中から何とか抜け出したtカラとギコ、そして街の住人達が、噴水のそばにある屋敷を使って帰還記念パーティーを楽しんでいた。全員がほとんど騒ぎの勢いで蔵から出してきた酒類を浴びるように飲み、グデングデンに酔っ払っていた。その片隅でだんだん暗くなっていく外を眺めながら、彼はついこの前自分の身に起こった出来事をひとり思い返していた。この街で激しい戦いがあったのも、あの場所でしぃの亡霊と戦ったのも、ついこの間の出来事でしかないのか・・・。なんだかんだあって、結局俺はあいつに死んでも助けられてるんだな。彼はそんな事を思いながら、目の前の炭酸が抜けたシャンパンをグイッと飲み干し、そこで酔い潰れて寝てしまった。それと反対に、tカラは全然酔い潰れる事無く酒に強い連中とともに夜遅くまで飲み明かした。二人とも次の日激しい二日酔いに悩まされたのはまた別の話である。
ここは・・・どこだ・・・。ドネットは長い夢の中を彷徨っていた。その目の前に彼女が現れ、彼に向かって微笑んだ。ドネットは彼女と抱き合おうとして駆け寄ったが、そこにあるのは無数の黒い槍で串刺しにされた彼女の残骸。そして、彼の手には彼女から抜き取った一本の黒い槍。僕は・・・彼女を助けられなかった・・・。その瞬間、残骸が散って彼に凄惨な光景を見せつける。化け物を切り捨てる彼、しかしその後には子供達の死骸が転がっていく。化け物は、実験によって姿を変えられた子供達。僕は・・・彼らを何のためらいもなく殺していた・・・。無意識のうちに目を強く瞑った彼の耳に、ひとつの少女の声が静かに響く。
「私を助けて・・・」
僕はどうすればいい?大切なものさえ守れない僕に、何ができる?彼は頭を抱えて叫んだ。
「止めてくれ・・・!僕は・・・、僕は・・・!」
「何で逃げるの?」
誰かが目の前にいる事に気がつき、彼は顔を上げた。そこにいるのは、全身に幾何学的な文様を刻まれた黒い衣の少女。彼女は彼の濡れた頬に手をやると、彼に抱きついて震えた。
「助けられるのはあなただけでしょ・・・?」
タスケラレルノハアナタダケデショ・・・?その言葉が、彼の中で何度も何度も響く。僕にしか助けられない・・・。彼は、彼女を抱きしめながら言った。
「そうだ。僕が絶対に君を・・・守ってみせる!」
彼の視界が白く暖かい光に包まれ、何も見えなく、そして何も感じなくなった。
ピッ。ピッ。ピッ。無機的な電子音の鳴る部屋で、彼は目を覚ました。首から下のほぼ全身が包帯に覆われ、身体中に点滴用のチューブが差し込まれている。そうか、僕はあの後気を失って・・・。彼はぼんやりと思い返し、そして脇のテーブルに何かが置かれているのに気づき、手を伸ばそうとした。が、ぎこちなく動いた腕はテーブルに届く事無く、すぐに力尽きてベッドの上に落ちた。今の状態じゃ無理か・・・。麻酔で痛みを感じない腕を見つめながら、彼は先程の夢を思い出した。あの夢で助けてくれと言ったあの子は、一体何者なんだろうか・・・。もしかしたらどこかであの子と会ったのかもしれないが、今すぐに会う事は無理かもしれない。でも、と彼は思う。彼女は助けを求めている。何から助けてほしいかは判らないが、それでも僕が絶対に彼女を救い出してみせる・・・!いつかきっと。
彼がその少女と出会うのは、皮肉にも一年後の戦場で、敵としてだ。しかしそれは、また別の話。
「結局『神の裁き』を下せなかったんだね・・・」
画面越しに、白い肌の少年は管理人に向かって言葉を投げた。彼はというと、人間が作った『偽りの存在』に負けたのが悔しいのか、悔しそうな表情をしていた。少年はさらに続けて彼に言った。
「作戦自体は良かったんじゃない?でも、焦り過ぎてたんだろうね、きっと」
「すまない『ノア』。この失敗は絶対に挽回してみせる」
管理人が申し訳なさそうに言うと、ノアはそっけない表情で言った。
「そう。でも、もういいや」
「え・・・?」
「勝手に世界を滅ぼしちゃう人間なんかもういいって事さ。つまり」
驚いて画面を凝視した管理人に向かって、ノアは冷酷な笑顔で一言だけ付け加えた。
「もう死んでいいよ、君」
管理人は冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、必死に弁解を図ろうとする。
「じょ、冗談だろ?確かに俺のやった事は過激だけど、でもそれぐらいやらなきゃこの世界は変わらないってノアも言ってじゃないか?」
「考えが変わったんだ。こんな世界を変えるよりも自分自身が変わればいいってね」
「自分自身が・・・変わる・・・?」
驚きをあらわにする管理人を尻目に、ノアは最後に見下したような笑顔ではなむけの言葉を放った。
「君に言う事はもうないよ。じゃあね、管理人。結構面白かったよ」
「なっ!?・・・おのれぇっ!!」
管理人がそう叫んだ瞬間、爆発音が一瞬聞こえて画面が砂嵐になった。彼は自分のいる場所ごと吹っ飛んで消滅した。そう思うと、ノアは肩の荷が下りたような気分になった。これでボクの障害物は消えた。後は、ボク自身が変わるだけ。
「ボクが・・・、君達を地獄に突き落としてあげるよ」
彼は誰に言うともなく、ただ一人つぶやいた。
まだ すべてが終わったわけではない むしろ これは単なる序章
一度幕が閉じようと やがてまた開く
それは 永遠に続く 物語の連鎖
END...
リンクオシテクダサイヨォ~(ペリー提督の懇願
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