Operation Ragnarock
第一話『悪夢』
アメリカ合衆国の太平洋沖。その海中を一隻の大型潜水艦が航行していた。大陸間弾道ミサイル、
および長距離巡航ミサイルを複数発同時に発射することのできる、アメリカ合衆国海軍の新型艦だ。
現在、この新型艦『ニューオリンズ』は極東方面への派遣のために、日本へ向けて航行していた。
これまでの潜水艦と異なり、この潜水艦はGPSなどを使用して自立航行が可能になっている。
現在は、その自立航行システムを作動させたまま航行を続けていた。とはいえ、
非常時に備え、
全ての乗組員が配置についたままだった。
だが、突然潜水艦のモニタの画面が変わり、『Fenrir systemstarted(フェンリルシステム起動)』
という文字が表示された。そのとたん、艦内が大きくざわついた。
「艦長!フェンリルシステムが勝手に起動しましたっ!」
フェンリルシステムとは新しく導入された自動攻撃システムの名称だ。命令を受けると
自動的にその標的を補足、攻撃するという機能を持つ。しかし、暴走すれば手当り次第に攻撃をする事になる。
「システムを停止させろ!もしこのまま作動すれば、どこかの街が消し飛ぶかもしれん!」
すぐに担当の兵士が処理を開始したが、絶望的な結果になった。
「だめです!艦内の全システムがこちらからの操作を遮断しています!」
「馬鹿な!そんな事ができるはずはない!もう一度やってみろ!」
兵士は何度も処理を繰り返すが、その答えは全て同じものだった。そして潜水艦は航路を変更した。
攻撃目標は、アメリカ合衆国西海岸の都市、サンフランシスコ。
そしてその数時間後、潜水艦「ニューオリンズ」より2発の弾道ミサイルが発射された。
そのうち一発は発射を知ったアメリカ軍が迎撃したが、残りの一発は結局サンフランシスコを焼き尽くした。
そして、潜水艦はそのまま行方をくらませてしまった。
仮想空間治安維持軍のミーティングルームには軍の指揮官たちが集まっていた。緊急招集だ。
「皆知っての通りだと思うが、数時間前に現実世界で都市への攻撃があったそうだ。
しかも、その攻撃を行ったのは仮想空間上からだという報告が先ほど入った。
これは、今後も仮想空間上から現実世界に攻撃を仕掛ける事が可能だという事になる。
そのような事態は絶対に避けなくてはならない。そのため、部隊をその犯人のいる場所に
派遣するかどうかをこれから決議する」
すぐに一人の指揮官が手を上げた。その手には深い傷跡が一筋走っていた。
「その犯人についての情報はわかっているのか?特に操作を行った場所などが知りたい」
「場所についてはすでに特定された。エリア66内のBAI社が所有する土地からだ。
信じたくはないが、犯人はBAI社に関わる人間の可能性が非常に高いと思われる」
その言葉を司会が口にしたとたん、部屋の中がざわざわとうるさくなった。
「静粛に。真実がどうであるにしろ、われわれ軍の使命として犯人を確保あるいは殺害しなくてはならない。
いまのところ、一個中隊をすぐにでも発進できるようにしている。決議が終わり次第、出撃させる」
そこでまた一人が手を上げた。そして一言こう言った。
「私は出撃に賛成だ。相手は軍事企業、ぐずぐずしていると事態が深刻化する」
それに続くようにして次々と賛成意見が出てきた。そして採決の結果、満場一致で攻撃を決めた。
「すぐに出撃できる部隊には拠点攻撃装備で出撃するよう伝える事。以上」
指揮官たちは一斉に席を立つと敬礼した。そしてすぐに部屋を出て行った。
エリア66の敷地には、なんとも奇妙な構想構造物が突き刺さっているかのごとく建っていた。
一見変わった高層ビルのようにも見えるが、外壁には窓らしきものがまったく見られない。
そして、外壁には至る所に人工的な溝が走っていた。その溝が白く光を放っている。
そして構造物の中では、蒼と四賢人が向かい合っていた。
「先ほどのテストは何事もなく成功した。だが、本題はこれからだ。今度はそれよりもはるかに
たくさんの兵器を操作する事になるのだからな」
蒼は興奮した面持ちで四賢人たちに言った。その一人、一番落ち着いた様子のAAが口を開いた。
「それはそうと、奴らにはもう感づかれているはずでしょうね。まもなく兵を送ってくるでしょう」
すると、隣にいたフサギコ系のAAが口を挟んだ。
「そのときはそのときだ。俺が片っ端から奴らを片付ける」
「防御も破られる事はない。今度のファイアウォールシステムは無敵だ」
その下にいる毬藻のような灰色のAAも、そう言ってサングラスをかけた。
ただ一人、半透明のAAだけが憎悪を煮えたぎらせて黙っていた。その彼に蒼は声をかけた。
「クリア、何が気に入らないのだね?・・・もしやこの前のあの事か」
クリアは蒼の言葉に反応した。そしてかみ締めるようにこう言った。
「今度奴らが現れれば、俺が奴らを絶対に殺す!それだけはわかってくれ」
「わかってるさ。俺は邪魔な奴を一掃して気分をスッキリさせるからな」
そのとき、モニタ画面の一つが赤く点滅した。すぐに毬藻のAAが駆けつけ、キーを叩き始めた。
そして暗号のような文字の羅列を彼は読み取り、声に出していく。
「こちらに向かってくる10機のヘリコプターを確認。熱源から戦闘ヘリ六機、輸送ヘリ四機と
断定。おそらく治安維持軍の所属部隊だ」
「ちっ、もう来やがったか」
フサギコ系のAAはそう言いながら、そばにあった大鎌を手に取った。
「俺一人で十分な戦力だ。他はのんびり見学してな」
そして颯爽と暗闇の向こうに消えていった。蒼はモニタを見つめながら笑みを浮かべる。
何をしようと我々を止めることなど不可能だ。地獄を見るがいい、軍の虫けらどもめ。
一方、輸送ヘリのうちの一機には衛生部隊の「第27衛生小隊」が乗り込んでいた。
今回の任務では、この部隊は後方に陣を敷いて活動する事になっていた。そのため他のヘリよりも
一足先に着陸する事になっている。隊員たちはそれぞれ医療器具と拳銃を持ち、着陸に備えていた。
その中の一人、さくら上等衛生兵は胸元のネックレスを握り締めていた。彼女の同僚が声をかける。
「おい、さくら。いったい何をしているんだ?」
「ちょっとお祈り。無事に帰還できますようにって・・・」
彼女は少し恥ずかしそうに言い返すと、ネックレスから手を離し、代わりにザックを掴んだ。
そのとき、機内にパイロットの声が響いた。
『まもなく着陸する。各員備えよ』
彼女たちは機体に手をかけ、着地の際の衝撃に備える。まもなく、軽い衝撃が伝わった。
そして数秒後に停止。ヘリの後部にあるハッチが開いた。そこから彼女たちは荷物を持って外に出た。
ヘリが着陸した場所は街の跡のようだった。ちょうど広場の辺りだったのか、周囲が円く開けていた。
直ちに医療テントなどを張り、その中に医療機材と自動小銃などの武器類を運び込んだ。
「各員は周囲の警戒を怠るな!負傷者が運ばれてきたら速やかに処置しろ!」
「了解」
一方、ほかのヘリ九機は蒼たちのいる構造物へと接近していく。
「こちら一番機、目標補足。いつでもミサイルを発射できる状態だ」
『指令機了解。空挺部隊が降下する直前にミサイルを発射し、敵の注意をそらせ』
「一番機了解。空挺部隊降下まであと十秒ほど」
そのとき、構造物から小型の熱源が出てくるのをヘリのセンサーが捕らえた。
「こちら三番機、熱源がこちらに急速接近中!温度からしてAAです!」
『空挺部隊を下げろ!20mm機銃を目標に発砲せよ!』
三機の輸送ヘリがその場から離れると同時に、戦闘ヘリが熱源に向けて機銃を連射する。
しかし、熱源はそれを巧みに回避してヘリのコクピットの前に現れると、
手に持った大鎌を袈裟に振り下ろした。ヘリのコクピットが一刀両断され、爆発が起こった。
「二番機ロスト!熱源、こちらに向かってきます!」
「ミサイルを発射しろ!奴をどうにかして落とせ!」
五番機から空対空ミサイルが発射され、熱源へと飛んでいく。しかし、ミサイルは熱源を
スルーし、飛んでいってしまった。そして熱源から何かが飛ばされてくる。
「熱源より何かが飛んできます!これは針・・・!?うわああああ!!!!」
パイロットの叫び声とともに五番機の至る所に針が突き刺さった。そのヘリが真っ二つにされる。
「強化ガラスを貫通だと!?そんな馬鹿な!!」
一番機のパイロットは絶句した。ヘリが生身のAAに撃墜される。そんな事があってたまるものか。
「この化け物め、食らえっ!」
一番機は空対空ミサイルを放つと同時に機銃を連射した。弾がミサイルに当たり、爆発する。
装甲に包まれた戦闘ヘリはともかく、生身のAAなら怪我くらいは負うはず。彼はそう思った。
しかし、爆炎の中からそのAAは飛び出し、一番機の尾部を切り離した。当然一番機は落下する。
そしてヘリの本体が地表に落下すると、ヘリは爆発して炎上した。残るは二機の戦闘ヘリ。
『くそ、ここは退くぞ!』
「りょ、了解」
二機は構造物から離れ、はるか先にいる輸送ヘリの近くへと向かっていく。しかし。
「何だ、これで終わりか」
という声とともに二機のヘリは一瞬で切り刻まれ、爆発を起こした。そしてAAだけが向かっていく。
「来るな、こっちに来るなっ!!」
一番後方のヘリのパイロットが叫ぶ中、尾部のローターが真っ二つになり、推力を失う。
「残りは二機、か。まったくもって骨のない奴らだぜ」
AAはそう言いながらヘリの前方に出た。そして手に持った針状の武器をヘリに向けて放った。
「これでも食らえ、飛針(ひばり)!」
飛針がヘリの防弾ガラスを突き抜け、パイロットに突き刺さった。さらにエンジンも破壊した。
ヘリは兵士たちを乗せたまま、地表へと落下して爆発する。もう一機も大鎌に切り刻まれた。
かろうじて生き延びた兵士は破壊されたヘリの隙間から這い出し、空中に浮かぶAAを見上げた。
そのAAの背には翼も何もない。空を浮かんでいる、いや、歩いているといった感じだ。
彼は空中で兵士たちを見下ろしながら、蒼と連絡を取った。
「ヘリは片付けたぞ。残りの敵はどうする?」
『一応蹴散らしておけ。後方の部隊も一緒にな』
「はいはい。ったく、そういう仕事は面倒なんだよなー・・・」
彼はそうつぶやきながら鎌を構えなおし、兵士たちに向かって急降下した。
兵士は手に持った拳銃で応戦しようとしたが、鎌で上下を一刀両断され、血が噴出した。
「さあ逃げろ、はるか遠くにな。なるべく逆らうなよ?」
彼は楽しそうにいいながら鎌を振り上げた。兵士たちが後方の医療テントへと逃げていく。
その後ろから彼が追ってきて、ときおり威嚇で飛針を兵士たちの足元に飛ばしてくる。
そのうち彼は医療テントの近くまでたどり着いていた。
医療テントでは、さくらたちが先ほどたどり着いた生存者たちを中に運び込んでいた。
そのとき、見張りをしていた一人が医療テントに向かって叫んだ。
「敵が向かってくるぞ!総員戦闘に備えろ!」
その声がしたかしないかのうちに、その見張りが上から落ちてきた。その胸には針が
深く突き刺さっていた。彼は口から血を吐くと、すぐに息絶えた。
「銃を撃てる状態にしろ!敵が来たら落ち着いて発砲するんだ!」
さくらは隊長の声を聞くと、腰のホルスターから拳銃を抜き、安全装置を外した。
ヘリ部隊の生き残りたちも、自動小銃を構えて敵を待ち構える。
「なんだ、こんなところで一休みか?」
突然後ろから声が聞こえ、次の瞬間鎌を持ったAAが目の前に現れた。
「でも休憩は終わってるんだろ?」
「テ、テェッ!」
誰かがそう叫ぶと同時に、大小さまざまな銃が火を噴いた。しかし、弾が届く前に既に勝負は
決まっていた。飛び散る鮮血の中で立っていたのはそのAAと、数人の兵士だけ。
さくらは発砲寸前に誰かに引っ張られて、彼からは見えない場所に倒れていた。
しかし、倒れるときに頭を強く打ったのか、彼女は気を失っていた。
彼が再び鎌を振り上げたとき、蒼が彼を止めた。
「そろそろ時間だ。戻ってこい」
「・・・ちっ。せっかくいいところだったのにな」
彼は一言そう言うと、再び空中に浮かび、そこから去っていった。
残されたのは数人の生存者と、おびただしい量の血の池と、兵士の死体の山だった。
・・・。しばらく時間がたって、さくらは目を覚ました。いつの間にか地面に倒れていた。
「・・・ん。何が起きたの・・・?」
確か敵が目の前に現れて、私が銃を構えようとしたら後ろに引っ張られて・・・。
彼女はそこで自分の意識が途絶えていた事を思い出した。みんなはどうなったのだろうか。
彼女はかすかに痛む頭を押さえながら起き上がった。と同時に目が釘付けになった。
「何・・・これ・・・っ!?」
そこにあったのは切り刻まれた隊員たちの死体。そしてぐったりとしている数人の兵士。
ショックで血の気が一気に失せ、倒れそうになりながら、彼女は兵士のそばに歩いていった。
「いったい何が起きたの?なんでみんな殺されちゃったの?」
彼女が兵士に尋ねると、彼は震えながらつぶやくように答えた。
「・・・あいつが、・・・鎌を持った死神が、隊長や他のやつらを・・・」
「俺たちはその後ろにいたから何とか・・・でも大部分は、こういう事だ・・・」
死体の山を指差して言った彼の頬には、涙の流れた跡が残っていた。
「・・・とにかく、どうにかして助けを呼ばなきゃ」
さくらはそう言ってヘリの操縦席へと向かった。そして無線機を掴んでしゃべった。
「こちらは特別任務中隊所属、第27衛生小隊所属さくら上等衛生兵。状況は最悪です。
繰り返します。状況は最悪。生存者は私と数名の兵士だけです」
しばらくはノイズばかりが聞こえていたが、しばらくして返事が返ってきた。
『・・・こちらはエリア66管轄司令部。詳しい状況を説明してくれ』
「はい。ヘリコプターはこの機体を除いて全機体が大破。この機体も飛べません。
生存者の怪我は軽度のものです。こちらで治療します。それと司令部に伝えてください」
彼女はそこで一息置いた。そして一言落ち着いて言った。
「『私たちは一体のAAによって壊滅されました』、と」
『・・・了解。出来る限り速やかに救援をよこす』
彼女はその言葉を聞いたとたん、やっと落ち着いた気分になった。これで大丈夫。
と同時に、彼女の視界がぼやけた。頭に手を当ててみると、どうやら出血しているらしかった。
とりあえず手当てをしないと・・・。そう思いながらも彼女はヘリの床にうずくまった。
数分後に兵士たちがヘリの中に行くと、そこにはさくらがぐったりとして倒れていた。
「大丈夫か!・・・どうやら怪我はひどくなさそうだが気を失ってるのか・・・」
その兵士はそうつぶやきながら彼女の怪我を手当てし、ヘリの床に寝かせて上着をかけた。
とりあえずはこれでいいだろう。おそらく彼女は助けを呼んだだろう。
それならあと一時間もしないうちに救援が来て、俺たちを助けてくれる。
それまでは外を見張っていよう。彼はそう思いながらヘリの外に出た。
次回予告
そして、それぞれの思いは戦いへとつながる。
次回「砲火の予兆」
ひとこと
これを書いてて死にかけました。マジで。
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第一話『悪夢』
アメリカ合衆国の太平洋沖。その海中を一隻の大型潜水艦が航行していた。大陸間弾道ミサイル、
および長距離巡航ミサイルを複数発同時に発射することのできる、アメリカ合衆国海軍の新型艦だ。
現在、この新型艦『ニューオリンズ』は極東方面への派遣のために、日本へ向けて航行していた。
これまでの潜水艦と異なり、この潜水艦はGPSなどを使用して自立航行が可能になっている。
現在は、その自立航行システムを作動させたまま航行を続けていた。とはいえ、
非常時に備え、
全ての乗組員が配置についたままだった。
だが、突然潜水艦のモニタの画面が変わり、『Fenrir systemstarted(フェンリルシステム起動)』
という文字が表示された。そのとたん、艦内が大きくざわついた。
「艦長!フェンリルシステムが勝手に起動しましたっ!」
フェンリルシステムとは新しく導入された自動攻撃システムの名称だ。命令を受けると
自動的にその標的を補足、攻撃するという機能を持つ。しかし、暴走すれば手当り次第に攻撃をする事になる。
「システムを停止させろ!もしこのまま作動すれば、どこかの街が消し飛ぶかもしれん!」
すぐに担当の兵士が処理を開始したが、絶望的な結果になった。
「だめです!艦内の全システムがこちらからの操作を遮断しています!」
「馬鹿な!そんな事ができるはずはない!もう一度やってみろ!」
兵士は何度も処理を繰り返すが、その答えは全て同じものだった。そして潜水艦は航路を変更した。
攻撃目標は、アメリカ合衆国西海岸の都市、サンフランシスコ。
そしてその数時間後、潜水艦「ニューオリンズ」より2発の弾道ミサイルが発射された。
そのうち一発は発射を知ったアメリカ軍が迎撃したが、残りの一発は結局サンフランシスコを焼き尽くした。
そして、潜水艦はそのまま行方をくらませてしまった。
仮想空間治安維持軍のミーティングルームには軍の指揮官たちが集まっていた。緊急招集だ。
「皆知っての通りだと思うが、数時間前に現実世界で都市への攻撃があったそうだ。
しかも、その攻撃を行ったのは仮想空間上からだという報告が先ほど入った。
これは、今後も仮想空間上から現実世界に攻撃を仕掛ける事が可能だという事になる。
そのような事態は絶対に避けなくてはならない。そのため、部隊をその犯人のいる場所に
派遣するかどうかをこれから決議する」
すぐに一人の指揮官が手を上げた。その手には深い傷跡が一筋走っていた。
「その犯人についての情報はわかっているのか?特に操作を行った場所などが知りたい」
「場所についてはすでに特定された。エリア66内のBAI社が所有する土地からだ。
信じたくはないが、犯人はBAI社に関わる人間の可能性が非常に高いと思われる」
その言葉を司会が口にしたとたん、部屋の中がざわざわとうるさくなった。
「静粛に。真実がどうであるにしろ、われわれ軍の使命として犯人を確保あるいは殺害しなくてはならない。
いまのところ、一個中隊をすぐにでも発進できるようにしている。決議が終わり次第、出撃させる」
そこでまた一人が手を上げた。そして一言こう言った。
「私は出撃に賛成だ。相手は軍事企業、ぐずぐずしていると事態が深刻化する」
それに続くようにして次々と賛成意見が出てきた。そして採決の結果、満場一致で攻撃を決めた。
「すぐに出撃できる部隊には拠点攻撃装備で出撃するよう伝える事。以上」
指揮官たちは一斉に席を立つと敬礼した。そしてすぐに部屋を出て行った。
エリア66の敷地には、なんとも奇妙な構想構造物が突き刺さっているかのごとく建っていた。
一見変わった高層ビルのようにも見えるが、外壁には窓らしきものがまったく見られない。
そして、外壁には至る所に人工的な溝が走っていた。その溝が白く光を放っている。
そして構造物の中では、蒼と四賢人が向かい合っていた。
「先ほどのテストは何事もなく成功した。だが、本題はこれからだ。今度はそれよりもはるかに
たくさんの兵器を操作する事になるのだからな」
蒼は興奮した面持ちで四賢人たちに言った。その一人、一番落ち着いた様子のAAが口を開いた。
「それはそうと、奴らにはもう感づかれているはずでしょうね。まもなく兵を送ってくるでしょう」
すると、隣にいたフサギコ系のAAが口を挟んだ。
「そのときはそのときだ。俺が片っ端から奴らを片付ける」
「防御も破られる事はない。今度のファイアウォールシステムは無敵だ」
その下にいる毬藻のような灰色のAAも、そう言ってサングラスをかけた。
ただ一人、半透明のAAだけが憎悪を煮えたぎらせて黙っていた。その彼に蒼は声をかけた。
「クリア、何が気に入らないのだね?・・・もしやこの前のあの事か」
クリアは蒼の言葉に反応した。そしてかみ締めるようにこう言った。
「今度奴らが現れれば、俺が奴らを絶対に殺す!それだけはわかってくれ」
「わかってるさ。俺は邪魔な奴を一掃して気分をスッキリさせるからな」
そのとき、モニタ画面の一つが赤く点滅した。すぐに毬藻のAAが駆けつけ、キーを叩き始めた。
そして暗号のような文字の羅列を彼は読み取り、声に出していく。
「こちらに向かってくる10機のヘリコプターを確認。熱源から戦闘ヘリ六機、輸送ヘリ四機と
断定。おそらく治安維持軍の所属部隊だ」
「ちっ、もう来やがったか」
フサギコ系のAAはそう言いながら、そばにあった大鎌を手に取った。
「俺一人で十分な戦力だ。他はのんびり見学してな」
そして颯爽と暗闇の向こうに消えていった。蒼はモニタを見つめながら笑みを浮かべる。
何をしようと我々を止めることなど不可能だ。地獄を見るがいい、軍の虫けらどもめ。
一方、輸送ヘリのうちの一機には衛生部隊の「第27衛生小隊」が乗り込んでいた。
今回の任務では、この部隊は後方に陣を敷いて活動する事になっていた。そのため他のヘリよりも
一足先に着陸する事になっている。隊員たちはそれぞれ医療器具と拳銃を持ち、着陸に備えていた。
その中の一人、さくら上等衛生兵は胸元のネックレスを握り締めていた。彼女の同僚が声をかける。
「おい、さくら。いったい何をしているんだ?」
「ちょっとお祈り。無事に帰還できますようにって・・・」
彼女は少し恥ずかしそうに言い返すと、ネックレスから手を離し、代わりにザックを掴んだ。
そのとき、機内にパイロットの声が響いた。
『まもなく着陸する。各員備えよ』
彼女たちは機体に手をかけ、着地の際の衝撃に備える。まもなく、軽い衝撃が伝わった。
そして数秒後に停止。ヘリの後部にあるハッチが開いた。そこから彼女たちは荷物を持って外に出た。
ヘリが着陸した場所は街の跡のようだった。ちょうど広場の辺りだったのか、周囲が円く開けていた。
直ちに医療テントなどを張り、その中に医療機材と自動小銃などの武器類を運び込んだ。
「各員は周囲の警戒を怠るな!負傷者が運ばれてきたら速やかに処置しろ!」
「了解」
一方、ほかのヘリ九機は蒼たちのいる構造物へと接近していく。
「こちら一番機、目標補足。いつでもミサイルを発射できる状態だ」
『指令機了解。空挺部隊が降下する直前にミサイルを発射し、敵の注意をそらせ』
「一番機了解。空挺部隊降下まであと十秒ほど」
そのとき、構造物から小型の熱源が出てくるのをヘリのセンサーが捕らえた。
「こちら三番機、熱源がこちらに急速接近中!温度からしてAAです!」
『空挺部隊を下げろ!20mm機銃を目標に発砲せよ!』
三機の輸送ヘリがその場から離れると同時に、戦闘ヘリが熱源に向けて機銃を連射する。
しかし、熱源はそれを巧みに回避してヘリのコクピットの前に現れると、
手に持った大鎌を袈裟に振り下ろした。ヘリのコクピットが一刀両断され、爆発が起こった。
「二番機ロスト!熱源、こちらに向かってきます!」
「ミサイルを発射しろ!奴をどうにかして落とせ!」
五番機から空対空ミサイルが発射され、熱源へと飛んでいく。しかし、ミサイルは熱源を
スルーし、飛んでいってしまった。そして熱源から何かが飛ばされてくる。
「熱源より何かが飛んできます!これは針・・・!?うわああああ!!!!」
パイロットの叫び声とともに五番機の至る所に針が突き刺さった。そのヘリが真っ二つにされる。
「強化ガラスを貫通だと!?そんな馬鹿な!!」
一番機のパイロットは絶句した。ヘリが生身のAAに撃墜される。そんな事があってたまるものか。
「この化け物め、食らえっ!」
一番機は空対空ミサイルを放つと同時に機銃を連射した。弾がミサイルに当たり、爆発する。
装甲に包まれた戦闘ヘリはともかく、生身のAAなら怪我くらいは負うはず。彼はそう思った。
しかし、爆炎の中からそのAAは飛び出し、一番機の尾部を切り離した。当然一番機は落下する。
そしてヘリの本体が地表に落下すると、ヘリは爆発して炎上した。残るは二機の戦闘ヘリ。
『くそ、ここは退くぞ!』
「りょ、了解」
二機は構造物から離れ、はるか先にいる輸送ヘリの近くへと向かっていく。しかし。
「何だ、これで終わりか」
という声とともに二機のヘリは一瞬で切り刻まれ、爆発を起こした。そしてAAだけが向かっていく。
「来るな、こっちに来るなっ!!」
一番後方のヘリのパイロットが叫ぶ中、尾部のローターが真っ二つになり、推力を失う。
「残りは二機、か。まったくもって骨のない奴らだぜ」
AAはそう言いながらヘリの前方に出た。そして手に持った針状の武器をヘリに向けて放った。
「これでも食らえ、飛針(ひばり)!」
飛針がヘリの防弾ガラスを突き抜け、パイロットに突き刺さった。さらにエンジンも破壊した。
ヘリは兵士たちを乗せたまま、地表へと落下して爆発する。もう一機も大鎌に切り刻まれた。
かろうじて生き延びた兵士は破壊されたヘリの隙間から這い出し、空中に浮かぶAAを見上げた。
そのAAの背には翼も何もない。空を浮かんでいる、いや、歩いているといった感じだ。
彼は空中で兵士たちを見下ろしながら、蒼と連絡を取った。
「ヘリは片付けたぞ。残りの敵はどうする?」
『一応蹴散らしておけ。後方の部隊も一緒にな』
「はいはい。ったく、そういう仕事は面倒なんだよなー・・・」
彼はそうつぶやきながら鎌を構えなおし、兵士たちに向かって急降下した。
兵士は手に持った拳銃で応戦しようとしたが、鎌で上下を一刀両断され、血が噴出した。
「さあ逃げろ、はるか遠くにな。なるべく逆らうなよ?」
彼は楽しそうにいいながら鎌を振り上げた。兵士たちが後方の医療テントへと逃げていく。
その後ろから彼が追ってきて、ときおり威嚇で飛針を兵士たちの足元に飛ばしてくる。
そのうち彼は医療テントの近くまでたどり着いていた。
医療テントでは、さくらたちが先ほどたどり着いた生存者たちを中に運び込んでいた。
そのとき、見張りをしていた一人が医療テントに向かって叫んだ。
「敵が向かってくるぞ!総員戦闘に備えろ!」
その声がしたかしないかのうちに、その見張りが上から落ちてきた。その胸には針が
深く突き刺さっていた。彼は口から血を吐くと、すぐに息絶えた。
「銃を撃てる状態にしろ!敵が来たら落ち着いて発砲するんだ!」
さくらは隊長の声を聞くと、腰のホルスターから拳銃を抜き、安全装置を外した。
ヘリ部隊の生き残りたちも、自動小銃を構えて敵を待ち構える。
「なんだ、こんなところで一休みか?」
突然後ろから声が聞こえ、次の瞬間鎌を持ったAAが目の前に現れた。
「でも休憩は終わってるんだろ?」
「テ、テェッ!」
誰かがそう叫ぶと同時に、大小さまざまな銃が火を噴いた。しかし、弾が届く前に既に勝負は
決まっていた。飛び散る鮮血の中で立っていたのはそのAAと、数人の兵士だけ。
さくらは発砲寸前に誰かに引っ張られて、彼からは見えない場所に倒れていた。
しかし、倒れるときに頭を強く打ったのか、彼女は気を失っていた。
彼が再び鎌を振り上げたとき、蒼が彼を止めた。
「そろそろ時間だ。戻ってこい」
「・・・ちっ。せっかくいいところだったのにな」
彼は一言そう言うと、再び空中に浮かび、そこから去っていった。
残されたのは数人の生存者と、おびただしい量の血の池と、兵士の死体の山だった。
・・・。しばらく時間がたって、さくらは目を覚ました。いつの間にか地面に倒れていた。
「・・・ん。何が起きたの・・・?」
確か敵が目の前に現れて、私が銃を構えようとしたら後ろに引っ張られて・・・。
彼女はそこで自分の意識が途絶えていた事を思い出した。みんなはどうなったのだろうか。
彼女はかすかに痛む頭を押さえながら起き上がった。と同時に目が釘付けになった。
「何・・・これ・・・っ!?」
そこにあったのは切り刻まれた隊員たちの死体。そしてぐったりとしている数人の兵士。
ショックで血の気が一気に失せ、倒れそうになりながら、彼女は兵士のそばに歩いていった。
「いったい何が起きたの?なんでみんな殺されちゃったの?」
彼女が兵士に尋ねると、彼は震えながらつぶやくように答えた。
「・・・あいつが、・・・鎌を持った死神が、隊長や他のやつらを・・・」
「俺たちはその後ろにいたから何とか・・・でも大部分は、こういう事だ・・・」
死体の山を指差して言った彼の頬には、涙の流れた跡が残っていた。
「・・・とにかく、どうにかして助けを呼ばなきゃ」
さくらはそう言ってヘリの操縦席へと向かった。そして無線機を掴んでしゃべった。
「こちらは特別任務中隊所属、第27衛生小隊所属さくら上等衛生兵。状況は最悪です。
繰り返します。状況は最悪。生存者は私と数名の兵士だけです」
しばらくはノイズばかりが聞こえていたが、しばらくして返事が返ってきた。
『・・・こちらはエリア66管轄司令部。詳しい状況を説明してくれ』
「はい。ヘリコプターはこの機体を除いて全機体が大破。この機体も飛べません。
生存者の怪我は軽度のものです。こちらで治療します。それと司令部に伝えてください」
彼女はそこで一息置いた。そして一言落ち着いて言った。
「『私たちは一体のAAによって壊滅されました』、と」
『・・・了解。出来る限り速やかに救援をよこす』
彼女はその言葉を聞いたとたん、やっと落ち着いた気分になった。これで大丈夫。
と同時に、彼女の視界がぼやけた。頭に手を当ててみると、どうやら出血しているらしかった。
とりあえず手当てをしないと・・・。そう思いながらも彼女はヘリの床にうずくまった。
数分後に兵士たちがヘリの中に行くと、そこにはさくらがぐったりとして倒れていた。
「大丈夫か!・・・どうやら怪我はひどくなさそうだが気を失ってるのか・・・」
その兵士はそうつぶやきながら彼女の怪我を手当てし、ヘリの床に寝かせて上着をかけた。
とりあえずはこれでいいだろう。おそらく彼女は助けを呼んだだろう。
それならあと一時間もしないうちに救援が来て、俺たちを助けてくれる。
それまでは外を見張っていよう。彼はそう思いながらヘリの外に出た。
次回予告
そして、それぞれの思いは戦いへとつながる。
次回「砲火の予兆」
ひとこと
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