ツレヅレグサ

雑記と愚痴と、時々小説

Red Sparrow(7)

2006-06-26 22:21:54 | 日記
  Red Sparrow -AKASUZUME-

第七話 『討つべき敵』

 空はすっきりと晴れているのに 僕の心は分厚い雲が覆っている
 散らそうとすればするほど その雲は次第に厚さを増していった
 何が原因なのかも考えられず 僕は暗雲に埋もれていった
 今や僕の心に光は届かず 僕は暗闇の中に埋もれてしまった
 引きずり出したがすでに遅く その眼には死の色が浮かんでいた

                     ~作者不明・死人の歌より~

 仮面の刺客との戦闘が終了して数時間が経った。みなとターミナルビルの周囲は、軍の車両で埋め尽くされていた。
海からの人口の光に、先ほどの戦闘で破壊されたビルの壁面が照らされている。
今のところ、俺の呼んだ鑑識たちがビル全体をくまなく調べ回り、犯人につながる手ががりを探し回っていた。
そして俺たち三人は、当然ではあったが、軍の特別調査官に事情聴取を受けていた。
「・・・で、その殺人犯は一瞬のうちに逃げたというのか?」
「そういう事だ。・・・まあ信じられないとは思うかもしれないがな」
調査官は手元の用紙に俺の言った事の概要を次々と並べていった。ちなみにここは軍の機動装甲車両の中だ。
「とりあえず現場に残っていた血痕を調べてみるが、あまり期待はできない。指紋も残っていないようだ」
「指紋もなし・・・か。こりゃ参ったな、ドネッ・・・ト?」
俺はドネットが虚ろな目で隣に座っているのに気づいた。一体さっきの戦闘で何があったんだ?
「・・・、え?さっき何か言いました?」
ドネットはやっと気づいたらしく、あわてて俺の顔を見た。
「・・・いや、なんでもない。それよりお前疲れてるだろ」
俺がそう言うと、彼は無理矢理笑顔を作りながら、多少動転した口調で答えた。
「そんな事ないですよ。大丈夫です」
「いいから休んでこい。お前に何があったかは知らないが、かなり神経磨り減ってるぞ。
 確か仮眠スペースがあるはずだ。そこでちょっと休んで来い」
俺は奥の部屋を指差した。そこには仮眠用のベッドが一つ置いてある。
「大丈夫ですから」
「いいからお前は休め。これは俺の命令だ」
俺はかつてそうしたように、ドネットの目を一瞬睨んだ。彼の表情が一瞬こわばった。
そして何も言わずに軽くうなずくと、席を立ち、奥のスペースに消えた。
俺はそれを見届けると、特別調査官の方に向き直った。
「すまない。話を続けてくれ」
「了解。では、次の質問に移る」
まったく。たった数時間のうちにあいつは変わっちまったな。俺はそう思いながら事情聴取を続けた。

 一方、ドネットはというと、aaaに言われて仕方なく休む事にした。しかし、まったく眠気は襲って来ない。
まあ当然だろう、人に言われて休んだって休めるわけがない。ドネットは狭い天井を見上げた。
薄暗い闇の中で、ドネットはさっきの事を考えた。何でこんな事になったんだ・・・。
もし彼女と街で出会わなかったら、おそらくあんな事になっても俺は躊躇しなかっただろう。
それ以前に、この事件に関わらなかったら彼女とは出会うはずはなかった。
いや、むしろ僕自身が軍の特務隊に選ばれなければ、こんな事にはならなかったはずだ。
いや、もし僕が軍に入らなければ・・・。ドネットはそこで「もしも~なら」をやめた。
いや、そんなことを考えるのはよそう。こんな事を考えたところでもう変える事は出来ない。
彼は目をつぶった。脳裏に今までの過去が断片的に映し出されていく。・・・。
そういえば、僕が軍に入る事になったのは父さんのせいだったな・・・。

 話は数年前に遡る。ドネットの父は、軍で名将として働き、多額の財産を手に入れていた。
首都の郊外に巨大な敷地を所有していた彼は、そこに屋敷やさまざまな施設を建てた。
軍を辞めた後、彼は兵士の訓練を請け負う会社を設立。元軍人ということから、いくらでも需要はあった。
その仕事で成功を収めた彼は、さらにさまざまな軍需関係の会社を設立した。
そのため、ドネットは生まれたときから何一つ不自由なく暮らしてきたのだった。
ドネットの欲しい物は何でも手に入り、やりたい事はほぼすべて自由に出来た。しかし、彼は満足できなかった。
こんな事をしていても、まったくもってつまらない。どんな物をもらっても、どんな事をしても、つまらない。
不自由のない事が、彼自身を何かに縛り付けていた。そんなある日。
 軍の士官学校か、有名進学校に行く事が決まったドネットは、突然父親に呼ばれた。
「僕に話があると言われましたが、一体何の用ですか」
ドネットは父の座る椅子から数メートル離れた場所に立っていた。父は顔を彼に向けることなく話した。
「突然だが、お前は軍の士官学校に入れることにした。他の連中と同じ扱いで生活しろ」
「ちょっと待ってください。何でいきなりそんな事を」
「私はお前にあまりにも甘くしすぎた。お前は今の生活に満足する事もなく、日々を送っているそうだな。
 お前を進学校に行かせたところで、ろくな男にはならんだろう。それよりは、厳しい場所で強くなれ。
 つまらん日々を続けるぐらいなら、人生のたった数年でも苦しんで生きてみろ」
ドネットは当然拒否しようと思い、口を開いた。しかし、彼の父が再び話し始めた。
「恨むならいくらでも私を恨め。だが、嫌だからといってそれから逃げ出すようなら、私を恨む理由はない。
 たとえ嫌だとしても数年だけは耐えるのだ。その後はお前の好きにしろ」
その言葉を聞いたとたん、ドネットは父の言葉を拒否できなくなった。僕は逃げる様な奴じゃない。
ドネットのそういう強いプライドが、逃げるという事を許さなかった。数日後、彼は士官学校に進学した。
 学校では、ドネットは「名将の息子」ではなく、「一人の兵士」として扱われた。
誰も甘やかしてくれるものはいない。頼れるのは己と、そばにいる同志のみ。
数年の士官学校生活はすぐに終了したが、ドネットはそのまま軍に残った。どうしてかはわからない。
その後はいくつかの任務をこなす毎日。上官にはいつもどやされる。それでも彼はなぜか辞めなかった。
いつしか彼にとって、軍での生活は楽しいものになっていた。嫌だと思っていたはずなのに、だ。
軍人になって数年後。彼は突然上官に呼び出された。ドネットが上官の部屋に入ると、そこには特務隊の大佐がいた。
「特務隊の第二小隊を率いている蒼大佐殿だ。君を特務隊に引き抜きたいそうだ」
蒼大佐はドネットに向き直ると、軽い敬礼をした。ドネットはあわてて敬礼を返す。
蒼大佐の左頬には痛々しい傷跡が残っていた。おそらく戦闘で負った傷なのだろうが、聞くべきではない。
「やはり私の見込んでいた通りだ。君は私についてきてくれるか?」
「ハッ!当然であります」
ドネットはすぐにそう答えた。そして、数日後には特務隊に配属された。

 それから一年と半年が経った。蒼大佐はもうすでに軍隊を去り、軍事企業を立ち上げていた。
その業績はすでにドネットの父の会社のそれを抜き、仮想空間一の企業として有名になっていた。
しかし、そんな事はまったく気にせず、ドネットは次々と与えられる任務をこなしていった。
その結果、彼はその戦果を評価され、ここに来る一ヶ月前に少尉に昇進したのだった。
そして司令部からの命令でこの街に派遣され、軍高官連続殺人事件を調査する事になったのだった。
もしあの時つまらない人生を選んでいたなら、こういう事にはならなかっただろう。
ドネットは再び考えた。しかし、つまらない人生を選んでいれば、僕はまったく満足を感じなかっただろう。
ドネットは上半身を起こし、髪を整え直した。そうだ。彼女を殺さない方法が何かあるはずだ。
戦うことを避ける事はできない。しかし、相手を死なせないよう捕まえる事はできる。
ドネットの顔に再び生気が戻ってきた。まずはもう一人が言った『星の中心』について調べるか。

 俺と紅が数時間に渡る事情聴取を終えたとき、ちょうど奥からドネットが顔を出した。
表情はいつもの明るいそれに変わっていた。どうやら抱えていた問題が吹っ切れたようだな。
「どうだドネット、少しは疲れが取れただろう」
「ええ、おかげさまで。事情聴取は終わったんですか?」
「ちょうど終わったところだ」
俺が答える前に、紅が一言、静かに言った。彼はそばに立てかけていた二振りの刀を腰に差した。
「じゃあ早速行くか。まずは奴らの言ったあれについて調べるぞ」
「はい!」
「・・・。(まったく。すぐ元気になりやがって)」
俺たちは車両から出ると、すぐに紅の家へと向かった。

 その頃、蒼は会社の自室から外を眺めていた。そこには大量の建物と道路が、
一つの絵画を形作るようにして並んでいた。
そのコンクリートの絵画を見下ろしながら、彼は考え事をしていた。
ちょうどそのとき、彼の秘書が入ってきた。
「CEO。下の階で軍の方がお待ちですが」
蒼はそっちを振り返ることなく答えた。
「待たせておけ。すぐにそちらに伺う」
「はい。・・・何か考え事をされているようですが?」
秘書はやや遠慮げに言った。蒼はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「君はこの世界は単なる作り物に過ぎないと思ったことはあるかね?」
「ええ、たまにあります。しかしそれはこの世界では当然の事です」
「確かにそれはその通りだよ。こうして私が今見下ろしている物は、
 すべて人の手によって作られた物でしかない。いや、我々自身も作り物だ。
 そして我々を作り出した人間もまた、数種類の塩基によって作られた物でしかない。
 この世界も、人間の暮らす世界も、同じ作られた世界でしかないのだと、そう考えていた」
蒼は秘書の方に向き直ると、再び話し始めた。
「しかし、この作られた世界にはあまりにも大きい欠陥がある。例えば歪んだ理性や感情だ。
 これがあるがために、人もAAも戦い、他を殺し傷つけている。これは正しい世界ではない。
 この歪んだものを誰かが直さなければならないと、そう思わないかね?」
「その誰かとは、軍の事でしょうか?」
秘書がそう言うと、蒼は笑いながら首を横に振った。
「軍は軍事力で何でもできると思っている。それこそ歪んだものだ。もっと別の何かが変えるんだよ。
 そう、例えば絶対的な力を持ち、同時に理性と思想も持つような存在でないと」
蒼はそう言って口元に微笑を浮かべた。しかし、それは冷たい微笑だった。
秘書はその微笑に一瞬ゾッとしたが、それを悟られまいと普段の表情を保った。
「・・・さて、と。あまり客人を待たせるわけにもいかないな。今から会いに行くと連絡しておいてくれ」
「はい」
秘書が出て行くと、彼は机の上の書類を引き出しにしまい、鍵をかけた。そしてすぐに部屋を出て行った。

 次回予告
偶然出会ったあの人は私の敵だった。
でも、相手が誰であろうと私は敵を殺す。
敵を殺さなければ私が殺されるのだから。
次回『交差する思い』
任務を・・・遂行する。

  作者ひとこと
いやーすみません。楽しみにしていた方々に迷惑をかけてしまいました。
原因はこっち側にあるので、もう怒りをぶつけてもらって結構です。
それはともかく、第七話も何とか公開できました。
考えてみれば、この作品を終わらせるまであと三話。長いようで短かったなぁ。
というわけで、今回も制作秘話を。
実は俺の場合、書く前にあらかじめ大体の筋書きは決まってしまうんです。
後は細かい所を頭の中で考えていた要素を使ったりとか、漫画の一シーンに似せたりとかして、
一つの大きな物語を作り上げていくんです。
骨が既に固定されているので、大まかな部分を変えることはありません。
ただし、細かい部分は何回も手直しして、さらにいい表現に切り替えています。
そんなこんなで、この話が出来上がっていくんです。
以上、今回のひとことでした!


・・・満足したらクリックしていってね♪(ソフィリア)
日記@BlogRanking


皆様ごめんなさい!

2006-06-26 16:12:14 | 日記
皆様、更新できなくてごめんなさい!
実は「あ、更新できそうだ」な状態だったのですが、
間違って書き足していた分をあぼんするというアクシデントにより、
投稿ができなくなってしまいました。
今日中には公開する予定なので、気を取り直して見てください。

というわけで皆さんにひとこと。
皆さん絵を描きますか?
実は俺のチャット友達にイラスト描く人がたくさんいるんですよ。
レモヤとかARKとか誌とかtカラとかルクスとか紅とか・・・。
実は俺も書いているという罠w
ま、それはともかく、絵を描くことはいいことですよ。
創造意欲を掻き立ててくれるし。
無理に薦めるわけではないですが気晴らし程度にやってみてください。

というわけで今回はここまで。

ではでは。