ツレヅレグサ

雑記と愚痴と、時々小説

Red Sparrow(2)

2006-06-09 21:03:23 | 小説
  Red Sparrow -Akasuzume-

 第二話『死の仮面』

 ギコルが立ち去っってから少しの時間が経った。
「じゃあ、早速現場でも見に行くか?」
「了解であります!」
だからそれはやめろって言ってんだろ。だが実際にはそんなことは言わずに、
「その口調はやめとけ。軍人だってばれるぞ」
と一言だけ言い、そして
「服も私服に着替えろ。軍服じゃばればれだ」
とも言っておいた。もちろんドネットは出発する前までには私服に着替えた。
 部屋を出ると、そのすぐ目の前にエレベーターがあった。どうやらこの階のほとんどが個人のものらしい。
さすがギコルだ。こんなところは金持ちか上級士官しか買えない。
俺はドネットとともにエレベーターに乗り込んだ。すぐにエレベーターは1階に着いた。
俺がエレベーターを降りたそのとき。俺は誰かに見られている気がして振り返った。
もちろん後ろにはドネットがいる。だがこいつの視線ではなかった。もっと別の、戦い慣れた者の視線。
「どうかしました?」
ドネットは何も気づいていないようだ。不思議そうな顔で俺に聞いてきた。
「いや、なんでもない。誰かがこっちを見張ってる気がしたんだが」
「たぶん気のせいでしょう。自分、じゃなくて僕たちみたいな人間は狙っても意味ないですし」
そのとおりだ。事実殺されているのは少将以上の軍の高官。俺は退役してるし、ドネットは地位が低い。
まず狙う奴はいないだろう。というよりはそう思いたい。
俺たちはそのままエントランスを抜け、俺のボロ車に乗り込んだ。
「まずは第一の事件が起こった場所に行ってみるか」

 第一の事件現場。それは地下鉄の駅の構内だった。軍の資料によればここで軍の少将が殺されたらしい。
少将が倒れていたらしい場所に、まだ彼の血糊が残っていた。犯人の証拠品はなし。
「資料によれば、少将は背後から刺されて即死だったようですね。
 背中から胸部にかけて、貫通した切り傷が残っていたそうです」
ドネットはギコルからもらった調査資料を見ながら言った。貫通するほどの攻撃を正確にできる奴はそういないだろう。
ということは、犯人は軍人だったのかもしれない。少なくとも一般人ではないだろう。
「証拠が何も残ってないってのも変な話だな」
「そうなんですよね。普通なら1つぐらい何か残ってそうなのに・・・」
ドネットとそう話しながら現場を歩いていると、鑑識らしい軍人が近寄ってきた。
「なんだお前たちは?ここは一般人の来るところじゃないぞゴルア!」
どうやらこの鑑識は俺たちを一般人だと思ったらしい。まあこの服装では仕方がないだろう。
そのとき、ドネットがポケットから軍人証明書を取り出して掲示した。
「その手帳は!少尉とはつゆ知らず失礼しました!」
鑑識はあわててドネットに対して敬礼した。俺も見せてやりたいところだが、それはやめておいた。
「で、やっぱり犯人を示す証拠は見つかってないのか?」
「はい、今のところはですが。それどころか他の4箇所でも証拠が残っていないんです」
なるほど。コレは結構骨の折れる仕事のようだ・・・。俺がそんな事を考えているうちに鑑識の話が終わった。
「あまりたいした収穫はなかったですね」
ドネットはそう言ってこっちに戻ってきた。もうここで調べる事はなさそうだ。
俺たちはあちらこちらで鑑識が調べている駅の構内を抜け出し、外に出た。
 地下鉄の外は、ダークスーツを着込んだAAたちでごった返していた。ちょうど昼前だから、昼食にでも行くのだろう。
俺たちはその流れにのって歩き始めた。ここからは車で移動するよりも歩きの方が速い。
ビルにかかった大型のモニターでは、事件についての報道特集番組をやっている。
といっても、俺たちの持っている資料と同じ事を言っているだけだったが。
「次はどの現場に行きます?たぶんどこへ行っても同じでしょうけど」
「一応行って調べてみないとわからないこともある。ここからなら第三の事件現場が一番近いから、そこに行こう」
俺がそう言ったとき、背後に誰かの気配を感じた。少なくとも一般人ではなさそうだ。
「我々を探しているようだな」
背後のヤツはそう言った。声からすると、男か。
「お前たちに忠告しておこう。これ以上の詮索はやめておけ」
「もしやめなかったら?」
俺は背後の男に向かって言い返した。背後からはずっと静かな殺気が感じられる。
「やめない場合は、お前たちの同志のようになる、とだけ言っておこう。
 たとえお前たちが強いとしても、我々には手出ししないほうが身のためだろう」
「その好意だけは受け取っておくよ」
俺がそう言うと、背後の男は一言、
「やめなければ後悔するぞ」
と言った。そして俺がすぐさま振り返ったが、そこにはダークスーツの集団しかいなかった。
「さっきの、いったい何者でしょうか?」
ドネットは少し不安そうに言う。俺もさっきのヤツがちょっと気になった。
「さあな。少なくとも味方ではなさそうだがな」
俺たちはヤツの警告を無視し、次の現場へと向かう事にした。

 現実でも、ネットでも、軍需企業というのは必ず存在する。軍需企業の代表格のひとつに、
「ブルー・アーマーメント・インダストリアル(BAI)」社がある。
軍の武器のほとんどがBAI社製であり、軍は毎年数千億もの金をこの会社の商品につぎ込んでいる。
そしてこの会社の最高経営責任者(CEO)が蒼氏だ。このCEOの下に「四賢人」と呼ばれる役員がいる。
会社の経営は、この「四賢人」と蒼氏たちで行われているという。
 俺たちが第一の現場にいたとき、蒼氏はちょうど自室で書類に目を通していた。
そのとき、電話が鳴った。蒼氏は受話器を取って話を始めた。
「ああ、お前か。奴らの動きは?」
「特務隊の隊員が一人と、一般人が一人動き出した」
「そうか。ではその二人に忠告しろ。『これ以上の捜査をやめろ、さもなくば殺す』と」
「了解。もし忠告をきかない場合はどうする?」
「かまわず殺せ。この計画が軍にばれたらおしまいだ」
「了解。通信を切る」
そして電話は切れた。蒼氏は口元に笑みを浮かべてつぶやいた。
「もうすぐ計画が実行される。そうすれば今の腐った社会は一掃され、新しい秩序ができる・・・」
蒼氏は椅子に座り直し、再び机に向かった。しかしその顔は静かな興奮で満ち溢れていた。

 街の中を、一人の青年が歩いていた。その左目には眼帯を着けている。
しかしそれは決して眼が悪いわけではない。他人にはわからない、別の理由がある。
そして腰のベルトには、二振りの刀が差してあった。片方は赤い鞘に、もう一つは青い鞘に収まっている。
「血の匂いがするな・・・」
彼はそうつぶやいた。人々がすれ違うたびに彼の方を一瞬振り返る。それにはまったく気にせず、彼は歩き続ける。
灰色の髪と暗いグレーの耳が風で少し揺れる。彼は戦いを求める者。そして負ける事は決してない。
「今度の敵は果たして強いだろうか・・・」
彼はそう言いながら雑踏の中に消えていった。果たして彼はどこへと向かうのだろうか・・・。

 そして、街のあるビルの上に二つの影があった。黒衣を着たその影は、手に細身の剣を握っている。
「・・・上からの命令だ。我々を調べる者を殺す」
一人が言うと、もう一人は何も言わずに軽くうなずいた。
「敵は軍の特務隊の一人と、民間人の一人。確実に仕留めるぞ」
「了解」
そのどちらの顔にも、白と黒で彩色された仮面が着けられている。それはあまりにも不気味な仮面だった。
「では、我らが敵に死を」
「我らが敵に死を」
二人の影はお互いに合言葉を言うと、そこからいなくなった。
そして静寂が訪れる。まるで「嵐の前の静けさ」のような静寂が。

  次回予告
ついに奴らが襲ってきやがった。
でもそのとき謎の青年が乱入。
一体何がどうなってんだ?
次回『刺客と剣豪』
なんかやばい事になってきたな・・・。

  作者のひとりごと

ふう。オリジナルって結構大変だ。何しろ参考にするものがないから、
自分の想像力に任せるしかないのだ。
とか何とか言いつつ第四話を書いている俺・・・。

(この作者は結局モノローグの多い人間なんです)

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