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読書の森

小説 月よりの使者 その2

サナは素早い動作で、怪しい人物が侵入してきたと緊急連絡しようとポケットの連絡機器(今のスマホの性能が良いもの)を取り出したが、なぜか不通になっている。

「あなたは!」
「そうです。僕は電波をキャッチして止めちゃうの得意なんです」
「冗談言わないでください。
あなたは不法侵入者で、しかも個人情報保護侵害する、立派な犯罪者なんですよ」
「それは地球人の間で通用するルールですね」
「何ですか?宇宙人なんですか。あなたは」

普段はお淑やかで涼やかな仮面を被るサナは、実は結構なイラチである。今は地を出して怒りまくっていた。

宇宙人は何とも言えない目つきでサナを眺めて「そうやって怒ってるあなたは真奈さんそっくりだね。時は流れても人は変わらないものだ」と言う。

真奈とはサナの祖母の名前である。
「ひょっとして祖母の知り合いなんですか?あなた」
「そうです」
急に哀しげな顔に男はなった。

「確かあなたのお婆さまは今年2102年に90歳になる筈だ。僕はそれより一つ上なんだ。ごめん、遅れて悪かったけど真田幸人と言います」
「、、、」(戦国時代の武将みたいな名前!でもどう見ても30代には入ってない。この人がなんで90歳のばあちゃんの一つ上なんだろ)

「つまり、僕はずっと歳を取らなかった。いや歳を取れなかったんだ。
真奈さんに会いたくて会いたくて仕方なかったのに、その間ずっと月の施設で眠ってる生活を強制されてたんだ」

危機怪々なこの男の話をサナが聞く気になったのは、男の身につけてる洋服が凡そ古風でまるで21世紀の世界から抜け出てきたようだったからである。

以下男の回想となる。


21世紀の最後の戦争で敵味方の兵士に感染症が急激に広がった。

医療を受けてる余裕もないのでバッタバッタと倒れるものが多くて、ついに宰相の身にも及んでしまう。自暴自棄になった彼が「死なば諸共とばかり禁忌のボタンを押して、原子炉を爆破、それと同時に信じられない同時噴火が世界各地で起こった。
つまり大原子炉の爆破がマグマの勢いを誘発して(活動期だった)火山の噴火を起こしたのだ。

もう敵味方などと、外交政策を練ってる場合ではない。全ての統治者は自国民を、もっと本音を言えば自分の命を守る為に懸命になった。結果、当時国の自滅というあまりに皮肉な形で戦争が終結したのである。

政治情勢が変化しようが、全国的に死者が増加しようが、心を持たぬ感染症は形を変えて無情に人間社会を侵食していった。

焦った統治者は感染症の根絶をする為には、陽性者を絶対的に隔離するしかないと閣議で決めてしまったのである。

考えられたのは、無菌状態の場所に急遽療養施設を設営して、患者を収容する事だった。

理想的候補地として開発途上の月が選ばれた。月の世界は無菌であるからだ。
施設自体はカプセルを大量に設営するとして、医師の数看護師の数は限られている上に、薬剤や食糧の不足は目に見えてる。

そこで、なんとも残酷だが、これも医学者が実験途上であるにもかかわらず、人工冬眠を試みる事にした。
動物実験では成功しているというだけの理由であった。

全国の統治者のその試みは、秘密裏に行われた。


「当時、僕も真奈も若かった。激変する世界情勢に心を痛めながらも、二人の間に芽生えた恋を大事にして、将来一緒になる幸せを夢見ていたんだ。
ところがある日僕は感染症に罹ってしまったのが判明してから、運命が一気に変わってしまった」

^ ^
物語の展開が急でごめんなさい。あくまでも想像上のフィクションでございます。

さて、上の美しい並木の写真は、かのウクライナの「恋のトンネル」という世界的絶景のひとつになるです。
どうか平和が蘇り、恋人達がこの小道を歩けますように❣️


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