読書の森

角田光代 『おかえりなさい』後編



彼は、インチキ商売のパンフレットを配りセールスするアルバイトにありついた。
門前払いが多い中、しもた屋の老婆が彼を招き入れてくれた。

そして、いそいそと食事の支度をして、チンと座って彼の食べるのを嬉しそうに見る。
家庭の匂いがする料理、ちょっと汚れた台所。
最初奇妙に感じた彼も、安らかな気持ちに満たされて帰る。
そして彼が訪れる度に小柄な老婆が彼に「おかえりなさい」と言ってもてなすのである。

やがて、老婆が彼の事を故人になった夫と思い込んでる事が明らかになる。
呆けていたのだ。
二階に住む老婆の嫁が気づき彼を追い出した。



彼には、呆けた老婆であろうと、老婆の示した日常的なもてなしが愛だと思えてならない。
それは心の毛羽立ちを優しく撫で、お腹が満たされて心が満たされる。

日々の何気ない習慣、「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」の笑顔。
それが愛ではないかと彼は思う。

情熱的な恋が終わっても残る、馴染んだ習慣や言葉を交わす事で愛は持続しないかと、彼は心の中で問いかける。
再び、かっての妻と会う事が出来たら、そんな普段の営みを共に出来たら、と思うのである。

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