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読書の森

小説 月よりの使者 その3

幸人は一気にしゃべって疲れたのか、一息ついた。
「お疲れみたいね。どう、お茶でもいっぱい?21世紀ブランドものの紅茶があるけど」
妙に打ち解けた気分になってサナは言ったが、幸人は哀しげに首を振った。
「僕もう月の世界に居着いてしまって、体が地球の食物受付ないんですよ」
「、、、(ガックン)」


幸人の話は続いた。

僕は地球で結構SNS なんか利用して自由に意見を述べていた。その為睨まれてたのか、それは定かでないけど、陽性判定が出るとほぼ同時に彼を月での冬眠治療に送る事が決まってしまった。
月への移住は本人と親族には通知される以外は極秘になっている。
僕は悲壮な決心で両親と弟に別れを告げた。

弟には、「僕が感染症で社会復帰出来ない身体になった」と真奈さんに伝えるように依頼したのだが。

そして、それから後は言いたくない。急過ぎる月への移住。そこで悪夢のような治療が待っていて。
とうとう手術によって大量の麻酔を打ち込まれ、に凄まじい眠気が襲ったのだ。それから冬眠カプセルに入れたらしい。

「それで、今まで?」
サナはおずおず聞いた。
「そう、約60年間だ。目覚めた時は取り返しがつかない程年月が過ぎていた。
僕と同じ治療を受けて何人生き残ったか全く知らない。
ただ、それから月での文字通り暗ーい生活を送った。光の届き方も景色も地球と全く異なる。
僕はひたすら地球に戻るチャンスを伺っていたのだ。
そして、
今が2102年なのは、君が持つスマホみたいのを盗み見て知った。ハッキングは月で覚えた技術さ。
ただし、もう今は絶望してるよ。一瞬君が真奈さんだと見えたから、多分真奈の時も僕みたいに止まってたんだと錯覚したんだ。とても嬉しかったけど。現実はシビアさ、もう今は21世紀に戻れないのを思い知ったから、だから帰る」
「どこへ帰るの?帰るとこなんてあるんですか?それにあなたはどうやってこの世界に戻ってきたのですか」

幸人は声を落とした。
「早く言えば密航だ。
通信の為に使う自動操縦の地球行きの宇宙船の地球人をもっともらしい理由をつけて騙して頼み込んで乗り込んできた」
「へええ^ ^嘘みたい」

(小説だから嘘に違いないけど、です)


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