キネマ旬報ベスト1に輝いた橋口亮輔監督7年ぶりの映画「恋人たち」を観賞
橋口監督は、身近にいながら、見落としがちな市井の人々に光をあてて作品を作ることに関して最も優れた監督だと思います。今回の恋人たちも、そんな人々の苦悩を見事に表現していて、静かに引き込まれていきます。
物語は、ある事件により恋人を失った橋梁点検をする男に、姑と会話のない夫との日常からある男と出会い心揺れる主婦に、親友への恋心を隠したまま生きるエリート弁護士の三者の恋人との関わりの中での日常を淡々と描いています。
物語の三人は新人俳優。篠原篤、成島瞳子、池田良で、この作品の中心的な主役である篤演じる篠原篤は、俳優らしくない雰囲気を持ち冒頭のインタビューでドキュメンタリーと錯覚するほどアマチュアリズムな良さを持ち、セリフの節々でリアリティが増幅される感じがありました。
彼らを新人をサポートする俳優陣も実力派が揃い、一味違う役作りでイメージを払拭していて監督により発掘された新人俳優とメタモルフォーゼしていきます。
登場人物と重なるように同姓同名の人物として登場するのが、篠原篤と会社の上司である黒田大輔。二人を切り取るだけでも十分に作品として成立する深さを感じました。
日常の中にある不条理を橋口流ともいえるユーモアを交えて展開する人間再生のドラマは、ひたむきに生きようとする人々への人生讃歌のように静かな感動の余韻を与えてくれました。