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『ブルートレイン殺人事件』アガサ・クリスティ

2009年06月20日 | 推理小説
青列車の秘密 (クリスティ文庫)
アガサ・クリスティー
早川書房

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『ブルートレイン殺人事件』 アガサ・クリスティ (新潮文庫)

ヴァン・ダインの二十則

 3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。

 アガサで豪華列車の中での殺人といえば「オリエント」が有名である。
 が、まぁ、これも同じ豪華列車の中での殺人。
 なんでもブルートレインの会社から依頼されたというから、当時のイングランドでのアガサ効果がいかほどだったか分かる。
 きっとこの、「ブルートレイン殺人事件」をガイドブック代わりにロンドンからリヴィエラへと向かったアガサファンがたくさんいたのだろう。
 ポワロせんべいだとか「ハート・オブ・ファイア」のお土産品とか車内で売られたら飛ぶように売れたんじゃないかな。
 小説の事件さながらな出来事を役者が演じれば拍手喝采でしょう。

 さて、上記にあげたヴァン・ダインの二十則は、聞くところによると、アガサが書いたかの有名な『アクロイド事件』に大変激怒したヴァン・ダイン先生が定めたものであるらしい。
 だから、「ああ、アガサの小説をやり玉に挙げているなぁ」と思う規則がちょくちょくある。
 例えば、

 2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。

 これなんか、もろ「アクロイド」をやり玉に挙げています。

 ただね、言わせてもらえば、アガサ以降たびたび行われる叙述トリックはヴァン・ダイン先生のお叱りを受けてもいいと思うのだけど、アガサの場合はレベルが違う。
 というのも、「アクロイド」は叙述トリックの先達でもあり、代表作でもあるけど、同時に作者が読者をペテンにかけているところは一つもないのだ。

 他にも11項とか12項とか16項とか17項とか18項とかもうこれでもかと言わんばかりにアガサの作品を全否定です。
 が、アガサの作品はこれらの規則に抵触していても読む価値のあるものばかりだから、彼女は「ミステリーの女王」なのだろう。
 上記3項もアガサの作品がしばしば恋愛がメインに据えられることに対する批判だと思うのですが、アガサの場合どの恋愛も不必要ではないので、結局遠回しの賛辞なのかなとうがってみたくもなります。
(同じくノックスの十戒を定めたノックスは「アガサの作品はこの範疇にとどまらない」と賛辞を贈ったのだが)

 ただ、今回はちょっと不必要だったかな……?


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