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『葬儀を終えて』 アガサ・クリスティー

2009年07月07日 | 推理小説
葬儀を終えて (クリスティー文庫)
アガサ・クリスティー
早川書房

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『葬儀を終えて』 アガサ・クリスティー (早川ミステリー文庫)

 しんどかった!

 推理小説って普通読み始めたら止まらなくなりますよね。
 もっとヒントを!
 もっと情報を!
 それで、次は誰が殺されるの?

 だけどこの話、展開が遅々として進まないのだ。
 そもそも事件が起こっているのか起こっていないのか、それすらも分からない。
 名探偵ポワロが登場しても、登場人物たちは好き勝手思い思いに行動するだけでまったく殺人の方へ意識が集中されないのである。
 で、結局何なんだ。
 殺されたの?
 殺されていないの?

 こういう話を書かせるとアガサは天才的にうまいなと思います。
 もし東野圭吾の『名探偵の掟』をアガサに読ませると、
「ふふ。私だったらもっとうまく書くけど」
 と微笑まれそうです。

 さて、この作品。
 大戦後7年目に出された本です。
 戦争でめちゃめちゃになったイギリス経済がやっと復興の兆しを見せ始めてきた……んだけどスエズ危機やら中東戦争やら植民地の独立やらでさらにめちゃめちゃになる寸前の時代です。
 ちなみに作品発表の前年にはジョージ5世が亡くなりエリザベス2世が即位しました。
 日本で言う昭和天皇ではないですが、イギリス国民が一時代が終わったと感じた年だったのです。

 私はこの作品の前に『ポアロのクリスマス』を読んだのですが、どちらもお屋敷を舞台にした作品で執事がかなり重要な役割をしています。
 ですが、執事の立ち位置が全く異なっています。
 『ポアロのクリスマス』の執事は年老いたとはいえどまだ現役バリバリの執事です。
 が、この作品の執事は懐古主義にとらわれ、ひたすら古き良き昔を懐かしがっています。
 戦争を境にしてお屋敷の風景がガラリと変わってしまったことが良く分かる描写です。

 アガサの作品は、こういったイギリスの中流社会の風俗を知ることができるのもポイントだと思います。


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