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日記・物語・エッセイ・感想その他

假面劇場 その⑮

2007-01-27 05:58:26 | 物語

 予想外のきっぱりとした口調に、いささか感情を傷つけられた娘は敵意を露わにして女を見据えた。
 「もう結構です。死人に口なしですから、少なくても家庭では母にも私にも優しくかけがえのない父でした」
 女はたじろぎもせずに娘の強い視線を見返した。
 「それを破廉恥というのです。いずれにしても娘さんであるあなたに私の気持ちを理解していただこうとは思ってもいません。事実だけは話しておくのが私の義務ですので一応お話ししたまでのことです。ところで、遺跡から救出されてユーブロンの病院で亡くなるまで、私は何度も病院を訪ねたのに、なにかと口実を設けて面会させてくれませんでしたね。口をきかなかったという彼が私との面接をどうして拒んだのでしょうね」
 ようやく、女の声の抑揚に余裕を感じ取った娘は、女の着用する香水のほのかな薫りに知らず好感を抱いた。
 「あれは病院の判断だったのです。私にさえ生きている内に会わせてくれませんでした。救出されるまでの三ヶ月間に孤独と不安にさいなまれて気が狂ってしまったということですが、奇病の伝染を怖れた病院の配慮だったのです。あなたよりも、本当は父の方が会いたかったかも知れませんね。いま突然そんな気がしてきました。ちょっとお待ち下さい。お見せしたいものがあります。あなたの手紙と共に、父が後生大事に遺跡から持ち帰ったものです」