JR津田沼駅北口から二三分の繁華街の外れに、その大木はあった。残念ながら樹の名前は分からない。
細かな枝が複雑の伸びているに全体として変に人工的に枝が球状に収まっていて異様である。近くの公民館で例会を終えて、二次会への道順に当たり目を引いた。その球状の鳥籠の中で鳥目のはずの椋鳥の大群がときおり騒がしく囀り回っている。大木のある敷地をぐるっと囲った工事用鉄板を背後にして一軒の屋台が赤い提灯をぶら下げている。
〈焼き鳥〉
夢はこんな背景にちょっと手を加えただけと言ってもよかった。
おれ、M氏と屋台に腰掛けている。いつの間にか赤い嘴に黄色い脚の椋鳥が数羽ひょこひょこ寄ってきてなにやらついばんでいる。椅子の間まで入り込んできて、地面をつついている。蹴飛ばす真似をしても驚かない。
「まるで小型のイグアノドンだね」とおれ。
「鳥は恐竜に最も近いと言うからな」とM氏。
「なにをついばんでいるのだろう。なにも落ちいてないが」
「椋鳥はヨトウムシを食べているんだ」
足元を見ると、辺り一面に黒っぽい虫が穴からにょきにょき躍り出ている。
M氏、腰をかがめて、割り箸でひょいと黒い虫をつまみ上げた。虫の顔をしげしげと見て「これ、人間そっくりな顔をしていら」と言ってケケケケと笑った。それから、やけに真剣な顔つきになり、抜いた鼻毛を捨てるみたいに、ぽいと脇に棄てた。
その時、銃声のような一発。椋鳥は一斉に同じ角度で飛び立った。
ぬっと、シートの覆いを掻き分けて屋台の親爺が帰ってきた。くたびれたダスターコートの大きなポケットから、何か取り出して、おれの目の前に置いた。
二羽の椋鳥。
「さわってみなよ。気絶しているだけなんだ」と言う。
渋々触れてみると、なるほどまだ暖かい。
親爺、シートの端をからげて外を見せた。まだ明るさの留まっているテレビ画面のような空に巨大な電球形の大木が現れた。
「あそこに、一発ぶち込むんだ。そうすると椋鳥のやつ、慌てふためいて飛び回る。馬鹿なやつは天井に頭を打ち付けて失神するんだよ。今日は一発で二羽だから不猟だな」
「鉄砲は何処にあるんだ」とおれ。
「鉄砲なんかいらない」親爺、ぐいっと顔をおれの方へ突き出して、
「ばーん」と炸裂するように怒鳴った。
おれ、ぶったまげて飛び起き、置き去りにしてきたM氏をそっちのけにして、胸をなで下ろした。
ゴム毬のふやけたような親爺を今でも思い出すが、まったく心当たりのない未知の顔であった。