テレビの劇団温泉ドラゴン公演「悼、灯、斉藤(とう、とう、さいとう)」を録画して観た。2023年2月の東京芸術劇場シアターイーストでの公演。
【作】原田ゆう(温泉ドラゴン、45)
【演出】シライケイタ(温泉ドラゴン、48)
番組の説明では、劇団ドラゴンは2010年結成、現在5人のメンバーで活動している、原田ゆうは2016年から温泉ドラゴンに加入、2022年には文学座から依頼を受け文学座の分裂騒動を描いた戯曲「文、分、異聞」を書く、今回の作品は彼の母が2020年に突然亡くなり葬儀に追われながらも俯瞰的にその状況を見ているところがあり、その時に起きた出来事とか感じたことなどが作品になると思って脚本を書いたと述べている。
演出のシライケイタは演出家、劇作家、俳優としていろんな団体の演出を手がけてきた実績がある、2022年だけでも演出家として劇団民藝「ルナサに踊る」、青年劇場「殺意」を手がけ、劇作家として劇団青年座「ある王妃の死」、結城座「変身」のために脚本を書いた。
【出演】
阪本篤(温泉ドラゴン、三男和睦なごむ)
筑波竜一(温泉ドラゴン、長男倫夫みちお)
いわいのふ健(温泉ドラゴン、次男周二)
大森博史(父親吾郎)、大西多摩恵(母親佳子)、林田麻里(泰菜)、宮下今日子(奈美恵)、枝元萌(小田切萌)、東谷英人、山﨑将平、遊佐明史
物語は、2020年6月、母の急死で5年ぶりに実家に集結した斉藤家3兄第。喧嘩をしたりいがみ合いながらも諸々の手続きを進めていく中で互いの思いを知り、絆を紡ぎなおしていく姿を描くもの。
長男は料理店を始めたが失敗し6ヶ月前から仕事をしていない、妻の働きで生計を立てる、次男は安サラリーマンで妻はダンサーだがコロナで収入が激減、三男は独身で売れない映画ライターで金がない。父親は年金生活、母親は年金をもらっているが介護施設で働いている。そんな中で、深夜勤務をしていた母が勤務中に倒れてなくなってしまう。
親兄弟それぞれいろんな問題点を抱えているが当面必要な葬儀代、お墓代などの工面をどうするかで悩む、母が生命保険に入っていた筈だた保険証が出てこないなど混乱する。そんな状況で母が生前、父とどんな会話をしていたのかと言う場面がフラッシュバックするように再現される。この場面転換、時間の逆戻りの演出がうまかった。一瞬、舞台が暗くなり、その間に場面転換がなされるのはうまい仕掛けだと思った。演出家の工夫であろう。この場面転換が何回もあったが違和感を覚えなかった。
劇では両親、兄弟のそれぞれの抱えている問題をじっくりと語らせて物語が進行していく、段々とその状況が観客の理解するところとなる。そして最後の方になると子供思いの母の秘密が明らかにされていき、兄弟を感動させ、観客も感動する。親兄弟お互いにそれぞれの置かれている状況や今までの人生の経過を知り理解を深めていく。なかなかうまい脚本だと思った。
出演者の中では大森博史(父親吾郎役)が良い味を出していたように思う。渋い演技が目立った。