月イチ歌舞伎の「わが心の歌舞伎座」を映画館で観てきた。3時間近い映画だが面白かった。ただ、客はA列からK列まである室内で私ともう1人の2人だけであったのはさみしい。
新シーズンは4月から来年2月まで毎月1本放映される。今回はちょうど10年前に建て替えのため取り壊された旧歌舞伎座をめぐる物語だ。取り壊された旧歌舞伎座は4代目のものだ。1951年(昭和26年)開場で閉鎖されたのは2010年(平成22年)4月の公演終了後。約60年の間、いろんな役者により歌舞伎が演じられてきた。その軌跡を大御所たちの回想を交えて映画にした。出演した役者たちの歌舞伎や歌舞伎座に対する熱い思いが伝わってきた。
また、普段は見られない楽屋や裏方などもある程度紹介されており勉強になった。
いくつか気づかされた点を述べてみよう
- 歌舞伎の演出は主演役者がやる、これは知らなかった、役者により従来演じられてきた解釈が大幅に変るようなことはないだろうが、素人が気づかないところで主演役者が自分のその演目にかける考えや思いを他の役者に指導しているのだろう
- 舞台の道具、例えば背景などはその都度新たに作ると説明されていた、これも知らなかった、てっきり使い回ししているのだと思っていた、背景のきれいな絵、川辺や桜並木、町家の風景、店の店頭など、全部その都度作成しているのだろうか、オペラに比べれば演目もはるかに多いだろうから保管しておく場所も確保できないのだろう
- 舞台の稽古について歌舞伎座のロビーでやることがある、これも知らなかった、稽古用の部屋もあるのだろうが、ロビーが一番良いのだと富十郎が言っていたのでびっくりした
今の第5代歌舞伎座の設計は隈研吾氏が担ったが、彼がテレビのインタビューで、自分は現代の建築家なので何か新しい趣向を凝らしたかったが松竹から前のものと変えないでくれと要請されて戸惑ったと述べていたのが印象的だ。もちろん目に見えないところで新しいものが導入されているのだろうが、第4代歌舞伎座が評判がよかったので、変えない、というのも大英断で私は良いと思った。変らないから良いものもあるのだ。
歌舞伎の舞台といえば華やかさが一番の売りであろうかと思うが、谷崎潤一郎は「陰影礼賛」の中で、現代の日本は昔と比べすべてにおいて明るすぎて興ざめである、歌舞伎の舞台もその一つの例である、と述べているのは興味深い。確かにそういう面もあるだろう。蛍光灯が普及してからそれが激しくなったのではないかと思う。たまにホテルなどに泊まると部屋の照明がカバー付きのスタンドだけという薄暗い部屋に出くわすが、味があって良いと思うので、自宅の自室の照明を蛍光灯やLEDから電球色の照明やステンドグラスのカバーのついたスタンドに変えようと思っている。
歌舞伎座はヨーロッパのオペラ座に比肩し得る日本の誇るべき文化と芸術の殿堂である。未来永劫しっかりと残していってもらいたい。