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シェイクスピア「コリオレイナス」を読む

2023年04月28日 | 読書

シェイクスピアの戯曲はほとんど読んだが、まだこの「コリオレイナス」は読んでなかった。本は新潮社のKindle版にした。シェイクスピアの作品はほとんど福田恆存氏の翻訳で読んでいるからだ。

この物語を簡単に述べれば

コリオレイナスはローマの武将、数々の戦果をあげローマを危機から何度も救ってきた、その功績を認められて執政官に登用されることになった。登用には民衆の前で演説し同意を得る必要があるが、日頃何もしない民衆を見下し、それを隠すことができない性格のコリオレイナス、彼に不満を持つ民衆代表の護民官が民衆を扇動しコリオレイナスをローマから追放する。怒ったコリオレイナスが敵のオーフィディアス軍に寝返りローマを攻めるが、陥落一歩手前でローマから派遣された母と妻の涙の説得に折れて和睦を提案したらオーフィディアスの軍から裏切り者として殺される。

この物語の示唆するもの(主題)は何か、例えば

  • 民衆は為政者に何を求めるべきか、能力か人格か、どちらか、両方か
  • 為政者はどう振る舞うべきか
  • 民衆の代表が民衆を策略で扇動するその危険さか、民衆の扇動されやすい愚かさか
  • 民主主義が良いのか貴族主義良いのか
  • 強い男も最後は母親の涙の説得には弱かった、これは立派なことか愚かなことか

巻末の解説を書いている翻訳を担当した福田恆存氏の説明では、シェイクスピア作品では他の作品と同様、主題を重視することは危険であり、コリオレイナスの行動力と筋の展開の力強さを見るべきである、と説く。

私はどちらかと言えば、コリオレイナスに同情する。戦いにはめっぽう強いが、おべっかを使えず、処世能力のなさ、母親や妻の哀願に弱い、この生き方が下手な人間くさい男に同情を感じるのだ。コリオレイナスの以下のような怒りもわからないわけではない。

  • 貴様たち民衆の人気を頼りに右往左往するのは槲(かしわ)で泳ぎ、細かい藺草で檞の大木を切り倒そうとするようなものだ。畜生め等! 貴様らを信じるだと? 猫の目の様に気が変り、今の今まで憎んでいた奴を褒めそやすかと思うと、檞の冠を戴いた勝利者を忽ち悪党呼ばわりする。一体、どうしたいと言うんだ、町中あちこちに群れをなし、元老に罵声を浴びせ掛けるとは、こともあろうに、神々の名により貴様らの心を鎮め、さもなくば直ぐにも敗れる治安を守ってくれる元老を責めるとは?
  • お気に入りの党派を強くするのには力を貸すが、虫の好かぬ党派ときたら、自分たちの破れ靴で踏みにじって顧みない。
  • 誰かいないか、不名誉よりは身を捨てることを選ぶ男は、卑劣を生きることより勇敢に死ぬことを選ぶ男は、自分自身より国を愛する男は
  • 母上、自分の生き方を守って大衆の従僕になりたいのです、大衆の流儀に寄り添ってその支配者になるよりは
  • そうです、ギリシャでは民衆にもっと大きな権力を持たせていたのだ、その結果、民衆は手に負えないものとなり、ついに国家の滅亡を招いたのだ
  • 一方は名分のもとに相手方を軽蔑し、他方は何らの理由なくして傲り高ぶる、これでは、身分、栄誉、分別を以てしても何の解決もできない、衆愚が否の応のと文句をつけるからだ、それでは緊急の場合、必要な対策は全く取れず、いたづらに時を空費し、些事に心を奪われて右往左往するばかりだ。どんな政策にも横やりが入り、一向成果は挙がらない、こうなったら、皆にお願いするしかない、智よりもむしろ勇なきを恐れる人たち、法の改正を躊躇(ためら)うよりは国体の大事を重んずる人たち、このままでは死を免れぬと思えば、どんな荒療治の危険の冒そうという人たち・・・構うことない、直ちにあの大衆の代弁者ずらをしている男たちの舌を引き抜いてしまうがいい

政治家や軍人には能力だけでなく高度な人格も求める、それは無い物ねだりというものだ、能力ベースで選ばないと国家は滅亡すらすると思う。確かに、そのだけでは国民の理解は得られない場合が多いだろうから理想を求め批判をするのは良いだろう、だが、程度はわきまえるべきだ。日本でも国会で議員のスキャンダル追及に時間をかけすぎるのは如何なものかと思う。

コリオレイナスは執政官などにならなくてもよかったのではないか、軍人として成果をあげ、軍神、守護神として民衆から崇められればそれで良かったのではないか、と思うがどうだろう。執政官への登用は彼が望んだものなのか、それはこの本ではハッキリしないと思うが。

さて、民衆を扇動した護民官のブルータス、シシーニアス。現代日本ではその役割を演じているのは誰だろう、それは間違いなく反安倍が社の方針だったと思われるあの(以下省略)。



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