(承前)
Ⅲ 日本人の美意識はどこから来るのか
漢字と日本語
- 西洋では絵と文字は別物だが、東洋では書画と「書画」というように交差し融合したもの
- これは東洋では絵と文字ともに筆を使うこと、文字が造形性に富んでいるから
- 漢字が難しいというのは誤り、アルファベット一文字は意味を持たないが漢字は持つ、アルファベットは組み合わせて語彙にして意味を持たせるから漢字より難しい
- 中国から漢字を取り入れたが、中国にはない仮名文字と「やまとことば」の訓読みを導入した



余白の美学
- 余白という言葉は英語やフランス語に訳しにくい、西洋画に余白はない
- 余白は「余計なものは排除する思想」で日本人の美意識の一つ、光琳の「燕子花図屏風」や等伯の「松林図」、京都御所の紫宸殿の庭は花壇や噴水はなく白い砂礫を敷きつめただけのもの、「燕子花図屏風」や「洛中洛外図」の金地の背景や金雲は余計なものを排除するために利用されている


名所絵葉書
- 西洋のは凱旋門の絵葉書のように余計なものは切り捨てているものが多く、日本の名所絵葉書は「桜の清水寺」や「高雄の紅葉」のように自然景色やそれと一体となっているものが多い、浮世絵も同様だ、モニュメントは建造物ではなく富士山や東山など自然のものだ
(コメント)
先の余白の議論と真逆の日本の特徴となっているのが理解できなかった


受け入れられなかった雅楽
- 日本は模倣が得意で外国のものを何でも巧みに取り入れるが独創性に欠けると批判されるが、そうでもない、例えば、山本七平氏は日本が中国から模倣しなかったものとして「科挙、宦官、族外婚、一夫多妻、姓、冊封、易姓革命」などを挙げている
- 宮中の雅楽もそうだが、このような「受け入れなかったもの」の検討を積み重ねることによって日本の、日本人の徳性を明らかにできるし、それが日本の独自性というものだ


実体の美と状況の美
- 西洋の美はギリシャ彫刻のように実体物として美を捉えるが(永遠不変の美学)、日本人は季節の移り変わりや時間の流れなど自然の営みと密接に結びついている、そしてそれは満開の桜や秋の夕暮れのように長くは続かない(うつろいの美学)


伝統主義者福沢諭吉
- 諭吉が西洋文明の摂取を主張したのは、近隣諸国が植民地化されているのを見て、日本が本来の姿で独立して西欧諸国と相対するためだと信じたからであり、それは西欧を視察してそれぞれの国が過去の歴史が生み出した貴重な芸術遺産を大切にし、そこに郷土への愛と誇りを謳い上げているのを眼の当たりに感じ取ったからだ
(コメント)
諭吉の西欧文明摂取の考えの背後にある思想に同意する、そして、本書には書いてないが諭吉は脱亜入欧を言い出す前にアジアの近代化を支援していたことも忘れてはなるまい


解釈は作品の姿を変える
- 20世紀の芸術においてはシュルレアリズムのように作者の意図に加え、音楽なら演奏家や聴衆、絵画なら観客の解釈が作品を最終的に完成させる、謎めいた不可解なイメージを提示することによって見る者の想像力に働きかけるという手法、この背景にはキリコの存在がある、日本では昔から俳句のように作者の提出した句をいろんな解釈をしている
(コメント)
キリコは展覧会を昨年鑑賞した(こちら参照)、また、最近の欧州のオペラの新演出などはまさにこの路線なのでしょう、「解釈はまた一つの創造行為に他ならない」とは高階氏の言葉であり、うまい表現だと思った


きらめく朦朧体
- 明治期の日本画は日本美術院さえあればよい、日本美術院は菱田早春一人いればいい、早春が果たした歴史的役割は、過去の伝統を受け継ぎながら新しい時代にふさわしい清新な表現を達成した点にあった、日本画の革新である、盟友大観と手を携えておし進めた「朦朧体」がその例である、朦朧体は見る者に深い感慨を呼びさますような暗示性を具えている
(コメント)
少し前に読んだ土方定一「日本の近代美術」でも早春や大観が進めた朦朧体を多く取り上げ、好意的に書いていたが、高階氏も同じ評価だと思った、この動きに異を唱え、狩野派の伝統をかたくなに守ったのは澤田瞳子が小説にした河鍋暁斎・暁翠たちだった(こちら参照)





たいへん参考になった本である、上に記したのは高階氏の美術に関する知見であるが、この本にはそれ以外の日本と他国との比較文化論に及ぶ論文がある、例えば「襲名の文化」、「旅の東西」、「東京駅と旅の文化」、「ロボットと日本文化」、「世界文化遺産としての富士山」などだ、そこにおける論評も示唆に富み、いろいろ啓発されるところが多かった





なお、本書の体裁などについては少し不満が残った、例えば、①引用している絵画がすべて白黒であること、②ⅠとⅡの体裁とⅢの体裁が異なること、前二者は縦書きのページの下部(ページ全体の4分の1くらい)を引用絵画のためのスペースとし本文は上4分の3としているが、下の4分の1の部分に余白が多くページが有効利用されてない、写真も小さくて見にくかった
(完)


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