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四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

12月〜4月が旬の貝もGW頃には食べ納めとなりそうです。山椒のジントニック仕込んだ分は完売、次の仕上がりをお待ち下さい。

出前桶のラップ

2007-02-13 22:15:00 | 04 どんこ・しいたけ

子供の頃、一番の贅沢といえば寿司屋の出前だった。

チャイムが鳴ると玄関まですっ飛んで取りに行っていた。

母が代金を支払っている間、上がり端にうず高く積まれた

出前桶の隙間から漂ってくる酢飯と海苔の混ざった匂いが

好きだった。

「ねぇねぇ、早く食べようよう」

「我慢しなさい。お客さんがお帰りになったらね」

来客用の湯呑みと父の湯呑みに交互にお茶を注ぎながら母は言った。

一番上は中身が見える。

竹か梅か覚えていないが、松ではなかったと思う。

早く食べたい・・どの順番で食べよう。最後に何を食べよう・・

にぎり6~7カンと細巻きが入った桶を見つめながら何度も

シミュレーションをした。

それにしても、なんでこのラップはこんなにシワがなく張れるのだろう。

寿司はとてもおいしそうに輝いていた。



「そろそろあがるよ」

お義母さんが割り箸を数えながら言った。

つけ場を覗くと直径80cmくらいの大きな出前桶に盛り込まれた

お寿司が見えた。四台ある。板場では義父がガリの水気を切って

桶の隅に押し込めているところだった。

主人は集金袋と車のキーをわしづかみにして地域の地図を

見ながら私に言った。

「ほら、一緒に行こう、上の二台、早くラップして」

業務用の長いロールに巻かれたラップを手渡され、戸惑いながらも

その寿司が盛り込まれた大きな桶にかぶせてみた。

すると、ラップはモヤモヤーンとかぶさるだけで、あのピーンとした

感じになってくれない。

あっちをひっぱりこっちをひっぱり悪戦苦闘していると

義母が一旦ラップを外して、きつく絞った手拭いでサーッと桶の

フチを拭いた。

「こうするとピタッとするのよ」

わずかな水分でフチに吸い付いたラップは憧れのピーンと張った

状態になった。

「これこれ、これなんです!あー、スゴイ!!」

「ラップはね、1本でもシワがあったらダメなの、いくらいいお寿司でも

 おいしく見えないの。少しの違いなんだけど見栄えがうんと変わるから」

なるほどと頷いていると主人が言った。

「ラップを長めに切って、下の桶の胴体に貼り付けるようにして。

 そうすると重ねたところがズレにくくなるから」

おぉ、なるほど。寿司屋に嫁に来たって感じだなぁ。

後部座席に積んだ寿司桶を見守りながら、もれてくる酢飯の匂いを

クンと嗅いだ。


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