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四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

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鱪しいら ほうぼう

2016-10-22 23:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第12回021 しいら


シイラの話題が出たのは過去に一度か二度だったと思います。
店が終わってから主人に「さっきお客様と話してた“シイラ”って、シーラカンスのこと?」と訊ねた覚えがあります。
「ちがうよ、シイラっていう魚。シーラカンスと全然別のもの」
と呆れられてしまいました。
「築地ではまず見ないなー、オレも使ったことないし。‥あ、子供の頃オヤジがカンパチの代わりに仕入れたことがあったような‥」
「シイラってポピュラーな魚なの?」
「う~ん‥シイラって知ってるけど関東ではあんまり見ないよね。関西の方が食べられているんじゃない?」
かつてそんな会話がありました。

先日受けたさかな検定の問題にシイラが出てきました。
【関東ではなじみがありませんが、北陸や山陰、九州でよく食べられるこの大衆魚は、刺身や切り身で売られています。ハワイでは“マヒマヒ”と呼ばれるこの魚を選びなさい】
と。
後日送られてきた解説集には
【体長が2m近くにもなり、脂が少なく、水分が多いため、ムニエルやフライなど油を使う西洋料理に向く。卵も珍重される】
とありました。
旬は調べてみると夏から秋のようです。
いつか食べてみたい、と思いました。


わたしの魚(ウォ)キペディア 第40回 ほうぼう010
十年近く前のことです。テレビを点けたら、さかなクンがホウボウについて話しているところで、たしかこんなことを言っていたと記憶しています。

・ホウボウという名前は全国のいろんな場所、『方々』でとれるというところからきているという説や、浮き袋を使って鳴く時に『ボー、ボー』っていうのが転じてホウボウになったという説、その他いろんな説がある

・胸鰭の下の方が足のようになっていて、砂地を泳ぎながらエビや貝などを捕獲し、食べている

・気が弱い魚で、砂地を歩いていてバッタリ敵に出くわすと青い胸鰭を開いて正面から見た時に大きい魚に見えるように相手を威嚇し、それでも相手が逃げていかなかったら自分がヒレをたたんで逃げる

それからしばらくして魚のことが載っている食物事典でホウボウを調べると、似た魚のカナガシラとともにブイヤベースの具材に使われていることがわかりました。
過去に二度ほど食べたことのあるブイヤベースの思い出を辿ると、頭をぶつ切りにしたものが入っていたような気がして主人に伝えました。
「歩留まりのよくない魚だからね、ホウボウは。頭がでっかくて身はそんなに取れないし。ブイヤベースみたいに魚を丸ごと使う方が賢明だよ」
と主人は言いました。
寿司屋で白身といってホウボウを使う人はめったにいないそうです。
じゃあどうして仕入れるのと訊くと
「美味いから」
と答えが返ってきました。



鯔ぼら 鰹かつお

2016-10-21 23:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第46回 ぼら



015



ボラの身は美味しくないと決めつけて日々を過ごしていました。



ボラの切り身を初めて食べた日、主人が言っていたことを思い出しました。



「スズキもそうだけど、湾に入ったものは身に臭いが付いちゃってダメなんだよ。沖で獲れたのはボラでもスズキでも美味いよ」



食べさせてもらったのは寒ボラと言われるもので、太平洋側からの仕入れだったと思います。一切れ、わさび醤油でいただきました。



すっきりとした白身に鮮やかな血合いの赤が映えるボラのお造りは、何のクセもなく本当に美味しかったです。


わたしの魚(ウォ)キペディア 第39回 かつお

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カツオのお刺身をニンニク醤油で食べるのが好きな小学生でした。
“さしみ醤油”なんてものを見たことがない時代、小皿にふつうの醤油をタララー‥そこにすりおろしたニンニクを大量に、そして分厚く切られたカツオを小皿の中でまみれにまみれさせて熱いご飯にのっけてガバッと食べる。私は熱さとうまさとニンニクの刺激で興奮し、汗ばんでいました。今思えばそれは初ガツオが出回る頃、ちょっと動くと暑いけれどもまだ扇風機を出すには早いというような季節だったからかもしれません。
「目に青葉じゃないぞ。目には青葉、山ほととぎす、初鰹。目に“は”、だぞ」
食卓にカツオが出るとこの句の話題になりました。間違って覚えてはいけないと親にしっかりと正されました。
時は経ち。
寿司屋を始めて間もなくの頃、カツオを仕入れてきた主人は言いました。
「目に青葉じゃないよ。目には青葉、山ほととぎす、初鰹。目に“は”、だよ」。
そんなに私は間違って覚えそうに見えるのでしょうか。
ラーメン『青葉』に行っても主人は「目には、青葉だから」と言います。
おかげですっかり初夏のイメージだった初鰹ですが、店を始めてからどうも様子が違うことに気が付きました。
一月下旬~二月初旬の、節分前後に入ってくるカツオはもう初鰹と呼び、青葉の時期よりすごく早いのです。



鮹たこ 鰤ぶり

2016-10-19 23:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第26回 たこ039


たこ焼きに入っているタコ、お正月の食卓にあがるようなタコ、寿司桶一人前〈並〉もしくは小僧ずしチェーンのお持ち帰り一人前に入っているタコのにぎり。昔、タコと対面する機会はこのくらいでした。
成人してからタコわさびを食べた時には感動しました。チェーンの居酒屋さんだったと思います。お酒がすすみました。
他にもタコぶつ、タコ刺し、タコの唐揚げ、天ぷらと出逢い、茹でた頭の部分を薄く切ってタマネギのスライスと混ぜておかかがドバッのったものを初めて見た時はおいしそうで醤油の分量を失敗しちゃいけないと掛ける手が震えました。

「兄弟弟子の店だけど、カメちゃんも一緒に行くか」
主人の修行先の親父さんに声を掛けてもらいました。たしか1997年か1998年だったと思います。
昔一緒に働いていたという後輩の板前さんが閑静な住宅街に店を出したということで、板前である主人と顔を出すからもしよかったら‥ということでした。
有難くお受けして、当日は自分なりにおしゃれをして出掛けました。
渋谷から何駅か離れたその場所は四~五年前に歩いたことがありました。
「あ。この道一回だけ来たことあります、あれ、その時はここにお寿司屋さんはなかったなぁ‥」
出来たばっかりの店だもんそりゃないさというツッコミを親父さん主人どちらからともなく浴びながら店の暖簾をくぐると、威勢のいい短い声がいくつも飛んできました。
「いらっしゃいませぇッ!」
カウンター御主人の正面、どうぞと勧められ左から親父さん、主人、私と並んで座りほどなく出てきたお通しは青柳のぬたでした。
小ぶりの器は何焼きかわからないけれどすごそうで、お箸を置いてそれとなく店内を見渡してみました。
新しい内装の輝きと御主人の熟練した雰囲気と若いお弟子さんのテキパキとした感じに圧倒されて、また目線を自分の席に戻しました。
「ね、これ見てみ」
と主人が敷いてあるテーブルマット風の布の右端を少しめくりました。
「ガラスの下がディスプレイできるようになってんだよ」
自分のマットを少しだけめくってみると、分厚いガラス板がカウンター兼ディスプレイスペースの蓋になっており、中には桜をモチーフにした手ぬぐいが二枚と水色のガラスのオブジェと同じ色の砂が飾られていました。
カウンター全部がそうなっていました。
初めて見るデザインのカウンターにクラクラしていると、次のお料理が出てきました。
「タコの桜煮です」
御主人の言葉に頷きながら慣れない長い割り箸でひとつ口に入れると、こっくりとした濃い旨味がひろがりました。
「おいしい‥」
こんなにおいしいタコの煮ものを食べたのは初めてでした。
また何焼きかわからないけれど黒いすごそうな足の付いた小ぶりな器に盛られたタコは木の芽で飾られていました。
「これ、どうやって煮るんですか」
と私は御主人に質問しました。
いろいろ教えてもらったのですがすっかり頭に入らず、唯一覚えているのが「小豆を色付けのために少し」という言葉でした。
帰り間際、もう一度失礼にならない程度にマットをめくりました。
ガラスケースに飾られた手ぬぐいの桜の花びらはほんのりあずき色で、タコの桜煮と少し色が似ているな‥と思いました。

ちなみに主人のタコのやわらか煮はお茶を入れて煮ています。



わたしの魚(ウォ)キペディア 第31回 ぶり


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冬、主人はブリ大根を作ることがあります。ブリのアラを細かく切って、大根と一緒に炊きます。10kgを優に越えるブリの頭は硬く、梨割りにしようとしてもなかなか大変で、主人の出刃包丁では割るべきポイントに刃が入っていかないのだそうです。「マダイやイナダは半分に割れるけど、ブリくらい大きくなると仲買さんの持っているでっかい出刃と熟練した技術に頼ったほうがいい」と主人は言います。


そこまでやってもらってからは主人の領分です。さらに切り分け、湯掻き、灰汁や細かい口にあたるものを取り除き、醤油・酒・砂糖だけで味を付けます。じっくり火を入れ、どれくらい待つでしょうか。


ブリのアラは煮汁がしみておいしくなり、大根はブリの旨みを存分に吸収し完成です。


001_7 能登半島・蛸島の寒ぶり、アラの部分をブツ切りにして、大鍋で煮ました。






鱸すずき 鱵さより

2016-10-18 23:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第10回 すずき



019



スズキの小さいものをフッコと呼ぶことは、店を始めてから知りました。
二年目か三年目の春頃だったと思います。
おしながきを書く際「今日はフッコね」と主人に言われ、何を言っているのか解らなくて
「え、復興?“戦後復興”とかの復興?」と訊き直しました。
「フッコ、フッコ。カタカナでフ・ッ・コ」
メモ用紙に『フッコ』と書いてみると、フッコという名前に思えてきました。
ゆきこという名前の自分がユッコと呼ばれることがあるように、ふみこさんあるいはふさこさん、ふのつくお名前の方はやはりフッコさんである可能性が高いのだろうか‥などと思いつつ「フッコ」と発音してみました。
「フッコじゃないよフッコだよ」
「フッコ‥。名前っぽいというか‥、レベッカのNOKKOみたいな感じでフッコかなーと」
「違う違う、フッコ。平らにフッコって発音するの」
タイかスズキかの区別はなんとなくつく、くらいしかスズキのことは知らない私です。そこにフッコという耳馴れない言葉が登場して、フッコより小さいものはセイゴと言うんだとさらに主人は教えてくれて
「セイゴ、フッコ、スズキ、セイゴ、フッコ、スズキ」
と唱えながら憶えたのでした。



わたしの魚(ウォ)キペディア 第29回 さより


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サヨリはダツ科で、主人の握るサヨリの寿司=酢〆か昆布〆にしたサヨリ半身に大葉をのせ、ぐるぐる巻いて真ん中から割って丸い模様がふたつ並んだにぎりはおいしくて、生のサヨリの引いた皮とそぎ落とした胸の骨のところは焼くとお酒のおつまみになって、調べないと自分の持っているネタはこのくらいしかありません。


あと、二年魚みたいです。


サヨリに関するうんちくでは「姿かたちはスッとして格好よく、でも腹黒い人のことを“サヨリみたいだね”という」というのがよく出てきます。 


主人に腹の内側が黒いのはサヨリだけかと訊ねたら、たくさんの魚が黒っぽいとの答えでした。「アジもイワシもサンマも、それこそコハダも、うーん…魚のお腹の膜ってけっこう黒いのが多いよ。あ、でもハッキリ身が透明な白で、腹が濃い黒っていうメリハリのある魚はサヨリの他には思いつかないな」とのことでした。


さっぱりとした味わいの身は、最近なぜか当店で人気が高まっています。



鮑あわび 鯒こち

2016-10-16 17:35:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第11回 あわび


020

アワビのにぎりを自主的にオーダーしたことがあるのは回転寿司くらいです。
二十代前半、普通皿の何倍も高いプラスチックの伊万里柄皿にビビりながらも二~三度頼んだ記憶があります。
そして今。
ほかの寿司屋さんに行ったとしても「アワビください」とは言わないです。たまたま出てきたら、食べます。
中華料理のテーブルがぐるぐる回るようなお店でもそうです。たまたま出てきたら、食べます。
私にとってアワビとは『偶然出会う賜りもの』のようなものです。たとえるならば幼稚園の折り紙あそびの時間にひとり二枚ずつ配られる紙の一枚が金か銀だった、みたいな感じです。目の前にするとちょっと舞い上がるところも似ています。

わたしの魚(ウォ)キペディア 第5回 こち


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コチと聞いただけで白身の魚だと判断できるようになるのは、店を始めてしばらく経ってからのことでした。
十六~七年前のこと、ふと見ていたテレビ番組『TVチャンピオン・~魚通選手権~』にはまだ高校生くらいだったさかなクンが出ていました。
出題は“これから一貫ずつ出てくるにぎり寿司のネタは白身魚で、その名前を当ててください”というものでした。
さかなクン(当時宮沢君)は自分の番が来ると他の出場者がじっと眺めたり食べたりしてゆっくり答えを出すのとは対照的に、目の前に出た一貫をパッと見ただけで「わかりました!」と即座に正解を出してしまうのでした。
ソイ、ハタ、ムツ、メジナ…。私にとって馴染みのない白身の魚の名前が次々に挙がっていきました。
ひょっとしたらその中にコチも入っていたのか…それすらハッキリしない、そんなコチにまつわる初めての記憶でした。