結論から言うと僕の仕事で4K納品することは僕がこの仕事をしている間にはないだろうと思っている。撮影のみ4Kということはあるにせよ。。そんな状況で4K放送が1年半後に始まると聞いて「誰が作るの?」というのが僕がまず感じたことだった。しかもNHKならいざ知らずCSってありえないでしょ。もう最初はHDのアップコンしかありえないし、4K素材があったとしても新規コンテンツではなく映画の4K化(それも手間だけど)。新規コンテンツであれば、延々空撮とか、世界遺産系の風景1カット1分で28分を28カット、、、とかそんなレベルだと思われる。
制作する側からするとこんなに「予算ない予算ない」って言われてる現状において4Kでコンテンツ作るなんて「やめようよ~~~。HDでいいじゃん。。」
ハイビジョンに対する映像制作現場の声(2006年11月の記事)
正直2年前までCMはSD納品が当たり前だった。つまりSDアップコン。アナログ放送が終わる段階で駆け込み的にHD化になったけど、それまではほぼSD。なぜならCMにおいてHDかSDかの違いで明確に売上やCM認知度が変わるという調査結果などないから。であれば制作費やテープをコピーする価格が安いほうがいいに決まってる。
4Kならなおさらで、解像度が売上につながるならCMからどんどん4K化するだろうけど、そんなのありえないので僕らの仕事では今後も最大解像度でHD納品が続くだろう(いまだに一番多いのがDVD)。
そんな今、4Kがどうなっていくか最近つらつら考えてきたことを自分なりに備忘録的にまとめてみた。
1)SD→HD過渡期との決定的な違いは機材の安さ
現状、4K撮影出来るカメラの最安値はVictor GY-HMQ10だ。面白いことにちょうど10年前の2003年に世界初のHDV機、つまり皆が買えるハイビジョンカメラGR-HD1を初めて出したのもVictorだった(ただしフルではなくハーフHD)。VictorといえばVHSを作った会社。おもしろいねえ。
2013年1月現在、最安値=50万で買える4Kカメラ
世界初のHDVカメラGR-HD1。ビクターかっけー。
当時、合成素材をベーカムで撮ってて、「次回からHDVにしましょう!」って白組の方に言われて「そんなカメラ出るんだー」って感心したの今でも覚えてる。
そうは言っても10年前、ハイビジョンで撮影するとなるとHDCAMがあたりまえだったし、HDCAMなんてうん百万円したし個人が買うカメラじゃない。なにせスターウォーズ撮ったカメラだしね。
それに比べるとGY-HMQ10でいま50万円強。CANONの1DCで100万ちょい。RED Scarletが本体90万くらいだっけか。そして、HDCAMに相当するENG 4Kカメラが逆にないという。。ほんとに変わった。
※追記 C500とF55のこと忘れてました。あいつらがHDCAMに相当するカメラになるのかな?でも、レコーダー一体型じゃないし、「Cinema」とか「Cinealta」とついてるからENG用途じゃないよね。
2)4K素材を作るのは制作会社ではなく個人かも
そうなってくると4Kのアーリーアダプターは「稼がなくてはいけない映像業者ではなく個人になるかも」という気がするのだ。Vimeoなどは既に4Kのオリジナルデータを受け付けてくれるし視聴環境さえ整えば4K映像を見ることもできるし、プロではなく個人こそが4Kの担い手になるだろう、、と。
僕自身も一番最初に何を思ったかというと、「仕事で使うことはないけど子どもは4Kで撮っておきたい」という欲求だ。逆に言うと「仕事で4Kはやりたくない」。
3)HDに多大な投資をしていない身軽なところの勝ち
つまり、やっぱりHD化に大掛かりな投資をしたところは身動きがとれないのではと思う。フリーの僕らは言っても大したことないので、4Kに移行するのに必要なのは「デカいモニタ」「高スペックのパソコン」あとは伝送するケーブルくらい。
ソフトはもうノンリニア編集ソフトもAfter Effectsも4K対応してる。カメラもしくはレコーディングユニットはレンタルすりゃ済むし、正直買おうと思えば買える値段なんで、まあやろうと思えばいつでもできる。
などと考えるとHDってなんだったの?という気もしてくる。だってたった10年前じゃん、HDが実質始まったのって。それが「もう4Kです」って言われて誰が納得できるだろう?
4)4Kがもたらす演出への影響
技術ではなく、演出、、というか見せ方の変化でいうと、4K解像度のテレビ放送が始まったとき一番魅力的なのはサッカーや野球の中継だろうなと瞬時に思った。いままで球場全体が見渡せるフルショットの絵は見ることがほとんどなかったが4Kだと隅々まで見渡すことが出来る上に、もしかしたら選手の背番号はもちろん表情すら見えるかもしれない。だとするとサッカーのオフザボールの戦略的なことも見やすくなるし、中継がおもしろくなるだろうな、と。
Pic By interbeat via flickr
広角レンズの問題があるにせよ、引きフィックスで十分精細に見えるはず。球場据え置きカメラでよくなる。
ただ、そうなったときに逆に「じゃあ今までプロ中のプロだったスポーツ中継のカメラマンって要らなくなるんじゃねーの?」ってこと。サッカー中継のほとんどの尺を使う引き絵のマスターショットのカメラワークは要らない。球場フルショットのフィックスでいいわけで。ボールを追いかけてたカメラマンは極端な話クビ。無人でOKになる。
野球の外野スタンドから望遠でピッチャーとキャッチャーを狙ってたカメラも望遠である必要ないよね、と。ホームランボールを追う超絶テクも要らなくなる。
ニュースやバラエティ番組もスイッチングする必要ある?4Kは観覧席で見てるのと同じ臨場感を味わえるなら、ワーク要らんやん引きFIXでええやん、って話。
カメラマンって職業は大丈夫かなとちょっと心配する。
5)とはいえさすがにドラマは、、でも美術とメイクと特殊効果のコストは?
映画はもともとからハイビジョンよりデカイ解像度だったから、4Kになるからといってドラマの演出は大きく変わらないだろう。同じようにカメラワークやカット割りがあるだろう。でも、たぶん女優さんのアップは大変なことになる。間違いない。メイクさんは劇場映画並みに気を使わないといけなくなる。
それってコストや時間的にありえない。そうなるとやっぱアップは減るんだな、きっと。引き絵が多くなるに違いない。
今でも撮影してて「バストショット以上寄るな」とか「下からアオリはNG」とかいっぱいあるし。。横道にそれるがそういうのがないタレントさんは男前でかっけーなーーといつも思う。
いずれにしても、美術、メイク、VFXの技術力は相当に上がるだろうし、上げざるを得ないだろう。4K放送と聞いて戦々恐々としているメイクさん、、あるいは腕が鳴ってるメイクさんはけっこういるはず。
4K放送始まるってニュースで化粧品会社の株価は上がったのだろうか?
ああVFXの会社はバタバタ倒産してるけど。
というのが現状の4Kについて僕が考えること。10年前似たようなこと考えてたし似たようなこと皆で話してたな、、と思い出す。でもあの時は放送がアナログ停波&HDデジタル化するって大きな節目があったけど、今はないという絶大な違いがある。
海外のサイトでは「日本で4K放送始まる!」ってニュースが「なんぼなんでも早すぎない?」って捉えられてたし、、
さてどうなることやら。
HDが出たとき高解像度ゆえに撮影方法が変わるというのはよく言われたこと。
でも結果はアップも多いし手持ちで揺れ揺れのショットも多い。
大画面で見るとかなり厳しいけど映画もあまり変わらない。
っていうことは単にディスプレイが細かくなるだけで美術印刷が300dpiから600dpiになっても見方は変わらないようなことじゃないかと思ったりするんですよ。
どもです!むしろHDになって撮り方の酷さが目立ってしまってるという。。(笑 フォーカスとか!
でも仰るとおりHDのときとほぼ同じ状況なのかなという認識です。HDと大きく違うのは「こないだ換えたばっかじゃん!」っていうことかなーと。
あとHDだと足りないけど4Kまでいっちゃうと足りることってのはあるんではないかな、、、とも。。
でも、「撮り方は何も変わらない」ってことは大いにありうると思いますねえ、確かに。
見る側がズームやパンして楽しむってのは面白いですよね。
でもカメラワークしてたらそうもいかないし…止めてから拡大して見る?(笑)
難しいところです。
恥ずかしながら僕自身4K映像を4K解像度で見たことがないのでなんとも言えませんが、GoProで撮った4K動画をデカいテレビで見せられたらキツイだろーなー。。
簡単に撮れるカメラがあるっつってもフォーカスが甘いと1フレで分かるし、ハンドヘルドだと手振れが厳しいし、やっぱベタピンの肩載せ4K ENGカメラは絶対必要ですね。
ソニーがPDスタイルのは出すみたいだけど。
4Kで仕事かあ、、、鬱になるな。。
ただモザイクドットがなくなるというだけ。
家庭で100インチクラスのテレビを普通に見る時代は来るのでしょうか?
現状50インチのテレビだとフルHDで充分ですから。
かといって今の放送はヨコ1440しかないしmpeg2の粗~い映像です。
4Kの前にもっとやることありそうなんだけどね(笑)
結局新しくテレビを売りたいという経済政策が先に立ってるだけでユーザーにはほとんどメリットがない。
でも4Kで撮って編集時にズームやパンして加工したいというのはあります。
まぁ4Kより今ならまだ3Kくらいでいいんですが。
PCがついてこなさそうなんで(~_~;)
そそ、結局小さいテレビで4Kって意味がないって話はよくされてますね。あと何メートル以上離れるとHDどころかハーフHDですら違いがない、、とか。
デカい画面で、近くでみないと4Kの最大の恩恵はない、、などという論説はあちこちで見ます。
まあ今がHDのときの2003年頃だという認識でいます。2023年には4Kも普通で見てるかも。僕はそのころ映像作ってないでしょうけど!
4Kへの移行は当分先でしょうね。
CS波と言う事は電波とデータ量の多さなのかも知れません。
さしあたって有料のスポーツ番組とかでしょうか?
売れてない家電メーカーも必死なんでしょう。
多分、3DTV的な末路ではないでしょうか。
LGなんかが格安で対抗して国産が売れないかも?
大分前ですがソニーはメガビジョンをサッカー等の
中継用に開発しましたが今はどうなってるのかな?
HDは某国営放送もスペシャル番組等で力を入れていたので
すが4Kにはどうなんでしょう?8Kのスーパーハイビジョンの
開発はしてるのかも知れませんが。
その某国営放送ですが最近750を追加機材で発注したらしく
まだまだテープ式HDの路線は変わらない様です。
撮影の仕方は4Kだろうが変わらないと思いますよ。
映画でも異業種の方々の参入が多く
アップショットに対する考え方が違うので、、、
大型画面でのカメラの揺れはIMAXでも
同じ事なのでどうなんでしょう?慣れですかね?
あとメイクね、メイクよりもライティングが重要ですね。
ベタ明かりを必要とする女優さんは映画に出る必要なしですよ。
映画サイドバイサイドではフィルムかデジタルかが
テーマなんですが4Kデジタルシネマの方向性が見えて来るので
興味深い物がありました、4K、8K、フィルムは
マテリアル的な感じではないかと思います。
4Kの前にテレビはやる事が沢山ある様な気がしますけど。。。
酒が何杯も飲めますね~~
> 撮影の仕方は4Kだろうが変わらないと思いますよ。
僕もそう思うんですが逆に変わらないとほんとのほんとにますます4Kの意味がないのでは、、と考えたのが発想の源なんです。
HDではまだスタジアム全景フィックスは意味がない絵でしたけど4Kくらいになれば、それも有効な絵なのかなとか思ったり。
4Kへの流れに意味を持たせるには4Kだからこその撮り方見せ方を演出側としては開発する必要が出てくるんじゃないかなあ。。。と。。
これが「電機メーカーの売上のため」に終わらせないためには。。。
> アップショットに対する考え方が違うので、、、
それだけでもう一晩飲み明かせますね、ほんと(笑
たとえ、4Kになったとしても、DVDからBDになるには、まだまだ、時間がかかります。こんな時代です。消費者の皆さんがどれほどの高画質映像を望んでいるかです。確かにDVDとBDの画質の違いは明らかですが、この違いさえわからない人も、まだ大勢います。4K購入を考えている方々も業務で仕事をしている人たちの事故満足でしかないように思えてならないのです。
たまたまさっき見たブログでもやはり4Kはパネルとギアを売りたいためで、質を向上させるためのものではない、とバッサリでした。
解像度を上げるより色深度やビット深度を上げたほうが質向上につながると。4K 4:2:0 8bitよりHD 4:2:2 10bitのほうが価値があるとのことでした。
http://www.philiphodgetts.com/2013/10/thoughts-4k-for-production-and-distribution/
4K、、、、ほんとに普及するかな。
最近こそ家電での再生機器の販売はBDが多くなりましたが、まだまだ私達の業務販売ではDVDの方の根強いです。民生用カメラもだいぶ高画質となりました。BDにすると、われわれの制作したものと変わらないくらい向上しました。だから、需要も減少しています。こんな時代に4Kだなんて、ついこの間某大学では8Kの開発の成功したとまでのニュースが伝わって来ました。私が生きている内は4K導入はないと思う。
8Kはいざしらず、4Kは、この日本にいるかぎり否応なく巻き込まれてしまうんだろうなあという覚悟ではいます。
正直、需要はないんだとは思うんですが、「掘り起こす」ということは映像制作者としての我々としてもしていったほうがいいのでは、、と思わなくはない。。。
でも、やっぱ作業負担と作業費のバランスを考えるとやっぱり「やってらんねー」というのが正直な気持ちだし。。。
僕自身は、仕事ではなく趣味で4K導入したいと思ってます!!
コメントありがとうございます!僕らも画質がいいに越したことはないし、時間もお金もあればあるほどうれしいわけですが、4Kで撮影することのメリットとデメリットを比べると、まだデメリットの方が大きいかなと思います。ましてやRAWなどというものは個人や小規模案件で扱えるものではありませんね。
もちろんフッテージとして撮っておくのは今からだと4KやUHDですかねー
いずれにしても、何に対して警鐘を鳴らしたいかというと、「時代が4Kだからと金も払わず『簡単でしょ?』と難題を押し付けてくる人たち」ですね。そこは「4Kは大変だ」と理解してほしいというか。。。
でも仰る通り勝機でもあるかもとも思いますねえ。。ご報告お待ちしています!!!
ヒキでのフィックスは綺麗ですね。4kで見てみたいものです。
ただスポーツ中継を観る側にとってそれが面白いと思いますか?
そんなスポーツ中継なしだと思います。
お疲れです。
最近評判だったコレですね!
https://www.youtube.com/watch?v=MCfysQ1JSpA
僕らが目指してるのはこういうことです。
日韓W杯のスカパーであった、一人をずっと追っているコンセプトに近いものだと思います。
僕はサッカーは詳しくないですが、マスターショットがボールを追いかけてパンしている絵はツマンナイといつも思ってます。ボール以外で何が起こってるのか全体像を見てみたいといつも思う。
真俯瞰でピッチ全面を見下ろすゲームのような構図を4Kで見られる、となるとサッカーの理解が変わるような気もしていて、、
もちろんそれだけでは演出的には成立しないですが、4Kという「解像度」が活かせる演出とはそういうことなんじゃないかなあと思ってます。
どもです!コメントありがとうございます!
ですねー、今の機材やメディアの安さって隔世の感がありますよね。ちょっとしたテレビの撮影で、ベーカム10本回ったらそれだけで3万円ですしね。。事前に発注しておかないと手に入らないし、運ぶだけでも大変でした。。
それを思うと今の恵まれた時代はホントなんなんだろうと。
ただ思うのはそういう時代はそういう時代で、それを経験したのは貴重なことですが、今、そういうのをまったく経ずに、DSLRを手にして映像制作を始めている方たちを否定したり下に見たりするのだけはやめたほうがいいよなーーと思います。
で、本文で言いたかったのは4Kのほうがコストがかかる、というよりも、4Kのほうが手間がかかる、ということですね。
もし、その意味で人件費ということであれば、たとえ機材が安かろうとも、4Kのほうがコストはかかると思います。
本文にも書きましたが、HDに膨大な投資をしたところほど、4Kに移行しづらいというのはあります。こないだ面白かったのはHDCAMのデッカイカメラにSDカードレコーダーをつけてAVCHDで収録しているという現場に遭遇して、「あーこのカメラの償却をするためにはこれはこれで賢い使い方だな」と感心しました。。でも逆にいうと身動きがとり辛いというのはこういうことだな、と。僕が本文に書いたことは間違ってないと確信しました。
つまり、今から映像制作始める、というような人のほうが気軽に4K制作始められると。長年やってきた大きな組織にとってのほうが逆に敷居が高いのかなと。
最近の傾向でいいますと、4Kかそうでないか、というのはあまり重要視されていないと思います。ダイナミックレンジとグレーディング耐性が映像制作の重要なファクターだと思います。僕も最近は4Kかそうでないかはほとんど気にしていません。。最終完パケがHDのとき、4Kだからこそできる表現ってそんなにないな、と気づきました(笑