ハイビジョンに対する映像制作現場の声

年末商戦が始まろうという今、多くの方がハイビジョン薄型テレビを買うか買うまいか迷っていらっしゃるだろう。安くなったとはいえハイビジョンレコーダーとセットで買うと３、４０万円程度の出費がかかってしまう。僕ら映像業界はもっと深刻だ。今まで揃えてきた機材を一新しなければならない。

ご存知のとおり現行の放送は640×480という画面サイズだ。これがハイビジョンになると1920×1080と7倍近い大きさとなる。

一気に７倍だ。これは恐ろしいほどの違いだ。

ところが、放送はまだ1440×1080という横幅がかなり狭いサイズを1920に横伸ばしにしているし、ソニーなどが出している民生HDVハイビジョンカメラも1440×1080な上に時間軸にも圧縮を加えている。先行しているテレビですら最近やっと1920×1080のサイズが出てきた程度で、それまでは1366×768という約半分の画面サイズのものばかりだった。しかも動画に弱いだの黒が見えないだの階調がまだらだの焼きつきだの、業務用モニタとしては全然使えないありさまだ（SEDが待ちどおしい。。）そしてなにより辛いのがパソコンの性能がハイビジョンに全く追いついていないのだ。１度だけ３０秒の劇場用CMをハイビジョンで作ったことがあるが、とにかく何をやっても寝てしまうほど待たされた。

つまり明らかにオーバースペック。今はみんな無理を強いられている。

先日ディレクター仲間と雑談していたらまったく同じ感想を持っていた。「やっとパソコンでストレスなく編集できるようになったと思ったら、いきなりまた5年前に逆戻りですよ。いったい僕らにいくら投資させれば気が済むんですかね！」　5年前といえばパソコンベースの映像編集は既に普及はしていたが、まだ「ストレスなく」編集できるレベルには達しておらず、スキを見せるとすぐ落ちる、ドロップアウト（※コマ落ち）はいっぱいある、音ズレはする、、つまり１００％の信頼はできない、そんな時代だった。今調べたらペンティアム４が発売されたのがちょうど5年前だそうだ。

現在のハイビジョン編集環境はもっとヒドイ。いきなり７倍の画面サイズだから、そもそもパソコンのデスクトップが小さすぎる。お手元のパソコンモニタをご覧下さい。きっと1280×960くらいのサイズに設定されているはず。そして今、CPUは処理能力より省電力・マルチコアの方に進もうとしている。5年前と同じような開発スピードで性能が向上していくとは考えにくい。こんなことで本当に２０１０年に現行の放送波を止められるのだろうか？？現場の実感として絶対無理だと思う。

一つだけ明白なのは、これだけの投資を映像制作者に強いているのに制作費はほとんど上がらないだろう。僕は「ハイビジョンで作りたかったらやりますけど予算を７倍ください」とクライアントを脅して防いでいる（笑）。まだ今はそれも笑い話で済むけどいつまでそういう逃げ方ができるのやら。。

※追記（06/12/6）
結構いいかげんなこと書いていたようだ。単純に画面サイズでは比較するのはナンセンスで、SDと比べHDのデータ量は約5倍だそうだ。画素数もSDは35万、HDは207万ということです。詳しくは専門書を読んでください。今後は「予算５倍ください」と言うことにします（笑）。