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街角の映像制作下請け零細業者のブログ




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映画「マイ・フェア・レディ」はアカデミー賞8部門受賞。名作中の名作と名高いミュージカルの金字塔でもある。昨年、アメリカの「永遠に残すべき映画」の1本として選出されたばかり。主演のオードリー・ヘップバーンの変身ぶりも見事で今見ても全然色あせない。が、やっぱりオードリー・ヘップバーンはほとんど歌ってないし、今見るとやっぱ「Just you wait 'enry 'iggins」とかいきなり歌声が変わって違和感あるし、これを名作と言ってしまっていいのか?と個人的には疑問符が浮かぶ。8部門も受賞した名作なのにオードリーはノミネートすらされていない。なぜなのかを調べたら興味深いビデオエッセイがアップされていた。

 

 

本当のマイ・フェア・レディの主演はジュリー・アンドリュース

映画「マイ・フェア・レディ」のオリジナルは、ブロードウェイのミュージカル。舞台でコックニーなまりの花売り娘を演じたのはジュリー・アンドリュース。知らない人はいない大女優だ。映画「メリー・ポピンズ」で爆発的に人気を博し、「サウンド・オブ・ミュージック」でドレミの歌を歌ったあのジュリー・アンドリュースである。

 

ブロードウェイ版の「マイ・フェア・レディ」はジュリー・アンドリュース主演で大ヒットし、当時としては異例の3年に渡るロングランを記録した。そうなると当然ながら映画化の話が持ち上がる。映画化の権利を取得したのはワーナー。当時、あらゆる人がジュリー・アンドリュースがElizaをやると思ったそうだ。

 

普通の頭の持ち主であれば、マイ・フェア・レディの映画化にあたりジュリー・アンドリュースをキャスティングするのは当然であろう。あのメリー・ポピンズのジュリーだ。あのサウンド・オブ・ミュージックのジュリー・アンドリュースだ。

 

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名作中の名作。最高の歌と音楽。最高の踊り。ちょっと悲しいエンディング。これを超えるディズニー映画はないと思う。

 

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 ミュージカル史上最高傑作に挙げる人も多い。ドレミの歌、エーデルワイズ、My Favorite Thingsなどなど、名曲がずらりとならぶ。

 

しかし、映画化権を買ったジャック・ワーナーはそうは思わなかった。なぜなら、ジュリー・アンドリュースはブロードウェイでは人気でも、当時まだ映画には1本も出演したことがなかったからである。

もっと有名な女優が演じるべきだと考えた。そこで選ばれたのがオードリーである。

 

オードリーもジュリーも不幸になったキャスティング

オードリー・ヘップバーンは、このミュージカルを演じるにあたり、相当歌の練習をしたそうである。実際いまでもオードリーが歌う映像が残っている。

 

ところが、ワーナーは最初から歌は吹き替えする予定だったそうだ。全曲吹き替えると聞かされたオードリーが怒りのあまり撮影現場から去ってしまい、翌日現場に戻ってきて「プロにあるまじき行為だった」とスタッフに謝罪したというのは有名な話。

一方のジュリー・アンドリュースは、映画版ではスクリーンテストまでしたのに結局主演に選ばれず、そうとう落胆したそうだ。

二人の大女優を不幸に陥れたキャスティングだった。

 

後にオードリーはジュリーに謝罪した

実はワーナーは、ブロードウェイ版でヒギンズ教授を演じていたレックス・ハリソンも「有名じゃない」という理由で別の俳優を立てる計画だったそうだ。

白羽の矢が立ったのが、ケーリー・グラントとピーター・オトゥール。ケーリー・グラントは「自分はコックニー訛りの出生だし、そもそもレックス・ハリソンが演じるべき」と断ったそうだ。ピーター・オトゥールはギャラが高すぎたそうな。

ワーナーは仕方がなくブロードウェイ版で演じたレックス・ハリソンをキャスティング。後にレックス・ハリソンはアカデミー主演男優賞を受賞したので、正しい選択だったと言える。

が、オードリーはケーリー・グラントのように断らなかった。後に、オードリーは「この役は断るべきだった。あなたがやるべきだった」とジュリー・アンドリュースに謝罪したそうだ。

ちなみに仮にオードリーが断ったとしても、ジャック・ワーナーの次善策はエリザベス・テーラーだったとのこと。つまりどう転んでも絶対にジュリー・アンドリュース版のMy Fair Ladyは作られることはなかったのだ。

 

ジュリー・アンドリュース主演のメリー・ポピンズが生まれた理由

映画「Saving Mr. Banks」に詳しいが、ウォルト・ディズニーはどうしてもメリー・ポピンズを映画化したくて原作者のパメラ・トラバースと20年以上に渡り交渉していた。パメラ・トラバースは「アニメはいやだ」と断り続けたため、ディズニーは「実写でやる」と説得。ついにパメラは了承。アニメではなく実写映画が作られることになった。

 

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この邦題は、この映画を売るためには仕方がないんだろうなあ、と思うんだけど、映画のテーマとはなんの関係もない、ただの「売るためのタイトル」。「Saving Mr. Banks」が正しいタイトル。もちろん映画「メリー・ポピンズ」未見だと意味不明な映画。トム・ハンクスがウォルト・ディズニー役。

 

では、誰がメリー・ポピンズをやるのか?

当時、My Fair Ladyのブロードウェイ版が終演し、続いてCamelotで主演をしていたジュリー・アンドリュースを見たウォルト・ディズニーは「彼女こそメリー・ポピンズだ!」とぞっこんに惚れ込んだそうだ。

そこで、ディズニーはジュリーに交渉。しかしジュリーはMy Fair Ladyのスクリーンテストで選ばれなかった後遺症から「私は映画に向いてない」と自虐的だった。ディズニーは「スクリーンテストはしない。任せるからやりたいようにやってくれたらいい」と粘り強く説得。ジュリー・アンドリュースは「では、もしジャック・ワーナーの気が変わって私にMy Fair LadyをやらせてくれるってなったらMary Poppins役は降りて、Elizaをやるから」との条件で了承。

あとはすべて歴史の通りである。

 

同じ年に公開された因縁の2本の映画。アカデミー賞でジュリーは主演女優賞を受賞し、オードリーはノミネートすらされなかった。しかしそのジュリーの主演女優賞も、アカデミー会員からの同情票だったという憶測も流れた。長らくジュリーはオスカー像を屋根裏にしまいこんでいたそうだ。本当に不幸しか生まなかったキャスティングである。

 

ジャック・ワーナーへの感謝と、Eliza/Mary Poppinsコント

でもきっとジュリー・アンドリュースはMary PoppinsよりElizaを演りたかったんだろうな。歌ってないオードリーのElizaより、ジュリーが演じたMy Fair Ladyが歴史に残ったほうが世界には幸せだったと僕も思う。

 

ゴールデングローブ授賞式でのこんなジュリーのコメント。「Mary Poppinsを実現させてくれたジャック・ワーナーに感謝します!」

苦笑いしているのがジュリーをEliza役に選ばなかったジャック・ワーナー。こいつのせいだ。

 

そして究極はこれ。ジュリーのコント。

 

ちなみにヒギンズ教授を演じたレックス・ハリソンは、アカデミー主演男優賞の受賞スピーチで「二人のFair Ladiesへ捧げます」とコメントしたそうな。そのときカメラが抜いたのがオードリーではなくジュリーだったという。

 

うちのチビたちいわく「Returnsより1作目のほうが面白かった!」

 

Mary Poppins大好きのうちのチビっこたち。満を持してReturnsを見に行く。

 

 

こどもは正直。

 

※追記

Rex Harrisonの受賞スピーチありました。なんとプレゼンターがオードリーだったんですね!!!なんという皮肉。

「Deep love to... Well, two fair ladies I think」 そしてオードリーの微妙な笑い「yeah, by all means...」と、ジュリーを抜くカメラマン。ああああ、、、、、なんという空気。。



コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
笑い話か、クレイジーか。 (「出」の字で寝てみた)
2019-02-25 23:38:38
 今年初投稿です。3RD EYEさん、今年も面白い記事ご紹介下さい。
 レミ・マレックが受賞し、レディー・ガガが受賞を逃したアカデミー賞の夜ににはうってつけの投稿ですねえ。
 オードリーの歌声を吹き替えたマーニ・ニクソン(marni nixon, 2016年歿)についてはWOWOWがドキュメンタリーを作りましたね。『王様と私』や『ウエストサイド物語』でも影の主役は吹き替え歌手のニクソン。名前はクレジットされないなど恨めしさも抱いていたようです。
 初期OO7のボンドガールだって訛りがキツかったり声の通りが悪かったりして、同じ声優(Nikki Van der Zyl)がアフレコしています。同じ映画に出ている美女3人くらいがみんな同じ声で喋るなんて、今考えると笑い話かクレイジーか。

 オードリーは『ティファニーで朝食を』で"Moon River"を唄っていますけれど、出せる音域が狭い上に、声質も「ヤギ声(Goat Vocalists)」と言われ、楽曲の相性は当たり外れが激しい。映画はヒットしたのにね…偉い人のゴリ押しが多くの人を不幸にする。この国でも日々起きている事。でもジャック・ワーナーはまだマシというものでしょう。ウソついて逃げ隠れしたりゴマカさなかった分だけ。
 
 
 
蛇足 (「出」の字で寝てみた)
2019-02-25 23:49:03
 なお、旧『メリー・ポピンズ』はSodium Process(ナトリウム・プロセス)という合成技術を使っていて、ディズニーが持っていた技術で、前年(1963年)ヒッチコックの『鳥』も特撮合成シーンはディズニーに依頼されました。
 工程が複雑なのでブルーバッククロマキーに代わられてしまったものの、人物の顔色を損なわず、背景との馴染み方でも完成度が高いです。
 
 
 
ジュリ〜! (raitank)
2019-02-26 01:42:33
ジュリー・アンドリュースさんといえば、その後、「ティファニーで朝食を(1961)」や「ピンクパンサー(1963)」とそのシリーズ、「グレートレース(1965)」など、ヒット作を連発していたブレーク・エドワーズ監督と結婚しましたね。

で、その旦那様、エドワーズ監督の「S.O.B.(1981)」というコメディ映画をご存知でしょうか? 我らがジュリー・アンドリュース嬢、なんと!この映画の中で、純白のドレスを自らはだけ、とっても綺麗なおっぱいを披露してくれています。感動します。必見です。
 
 
 
記憶ってやつぁ…(泣) (raitank)
2019-02-26 02:23:52
> 純白のドレスを自らはだけ

と書きましたが、今確認したらドレスの色は白ではなく真紅でした(汗)。ドラスの形状はけっこう正確に覚えていたのに、色は白だと思いこんでました。記憶ってホントいいかげん。。。(>_<)
 
 
 
面白いですよね! (3RD EYE(管理人))
2019-02-26 14:38:32
「出」の字で寝てみたさん

どもです!今年もよろしくお願いします!


そうそうMarni Nixon!絶対に吹き替えだとバレないように歌うのが誇りだった、とインタビューで答えてたの見ました。そのWowowのドキュなのかな、、、彼女はアメリカ人でマイ・フェア・レディの録音にあたってコックニー訛りを特訓したという話も読みました。

当時、トップシークレットだった吹き替えがなぜか噂で流れていて、マーニがバラしたのではないかとワーナーのプロデューサー陣から批判されてたそうですね。

アカデミー賞でオードリーがノミネートされなかったのも、関係者以外誰も知らないはずの吹き替えが公然の秘密になってしまったから、という。。。Marniは濡れ衣だと抗議したそうですが。


Marni Nixonはサウンド・オブ・ミュージックで修道女役で歌っているというのも、今回のこの件を調べていて初めて知りました。

いやー映画のメイキングってそれ自体がドラマですよね~ 面白い。

> Sodium Process

いや、ほんと、メリー・ポピンズは今見てもすごいです。あれが50年前に作られたという事実がもうなんというか、映画って不思議です。

ちなみにSaving Mr. Banksでいちばん面白かったのが、トラバースが「このペンギンのシーンはどうやってペンギンを訓練するのかしら?」という疑問からアニメを合成することを知り、ウォルトを嘘つきだと罵倒してイギリスに帰るシーンです(笑



 
 
 
知らなかった! (3RD EYE(管理人))
2019-02-26 18:12:34
raitankさん!

SOB、知りませんでした!そしてそれは拝まねば!!が、チビっこたちには見せられない!!!


どんな映画なんだろう、、とRotten Tomatosを見に行ってみたら、視聴者からのコメントで、「I mostly watched this to see Julie Andrews 45 yr old boobies. 」って書いてあって、笑ってしまいました(笑


そういえば、Despicable MeのGruのママがジュリー・アンドリュースだよ、とチビたちに言ったら誰も信じませんでした。。

> 記憶ってホントいいかげん

ほんとですね、真っ赤なドレスですね(笑

いやあ~ 昔見た映画をチビたちに見せようと名作めぐりをしてますが、ぜんっぜんっ覚えてないです、、、

スジすら覚えてないんでほんと2度おいしいくらいです。

猿の惑星のエンディングも忘れないかな、、
 
 
 
Unknown (nakahata)
2024-06-20 12:07:51
定着してますが、アンドリュースではなくアンドルーズが発音にちかいようです。
 
 
 
オードリーがイライザを演じたからこそ (オードリーファン)
2024-07-25 03:37:28
マイ・フェア・レディはスペクタクルになったのだと思います。トランシルバニア女王主催の晩さん会の前に、ヒギンス教授の居間の階段に降り立った時のあのゴージャスなこの世のものとも思えないオードリーの美しさ、あでやかさ、しかしそこはかとない寄る辺のなさ、これこそスペクタクルであり、これを見る為に人はわざわざ映画館に足を運ぶのではないでしょうか。50年代60年代において、出て来るだけでスペクタクルを体現できる女優はオードリーとエヴァ・ガードナーとリズしかいませんでした。ジュリー・アンドリュースがイライザを演っていたら映画の完成度は高くなり、後世にミュージカルの名作と伝えられたと思いますが、「映画の名前は誰でも知っているのに誰もあんまり見たことのない」という類の映画になっていたと思います。他の映画のジュリーを見て思うのは、「ジュリー・アンドリュースは確かに根っからの芸人で歌も踊りも達者だが(ただ少々利己的に私には思える)、演技だけしているときのジュリーは良くも悪くも「普通の人」だと思います。不思議なのはこのギャラが世界一高かった女優のメイクアップが雑でカメラマンもあまり綺麗に取ろうとしていないことです。と、脱線してしまいましたが、オードリーは花売り娘時代からの意表を突く威風堂々の演技で吹替えのハンディキャップをはね除け、貴婦人になってからは(ガルボ以外は)誰にも到達できない高みに上り、「マイ・フェア・レディ」を制圧したのだと私は考えます。
 
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