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フランシスコの花束

 詩・韻文(短歌、俳句)

いかな十字架かは知らねど

2005-06-02 19:19:54 | POEMS-詩集『愛と癒しと』以前

     いかな十字架は知らねど   

   いかな十字架かは知らねど
   いかな苦しみとはわからねど
   人はみなその胸に
   その肩に その額に
   人それぞれの十字架を刻んでいる
    〈REF〉
   
   ヨブのように生きることなど
   このやせたこころにはかなわねど
   人はみな証しする
   生きること 愛すること
   人それぞれの行くべき道にあえぐ
    〈REF〉
   
   いかな十字架は知らねど
   いかな悲しみとは悟らねど
   人はみな生まれ落ち
   しあわせを 求め求め
   人それぞれのたたかいの繰り返し
    〈REF〉
   
   イエスの言葉信じてみても
   信じなくても生きられる世を
   寂しいこころで
   生きるのか こらえるのか
   人それぞれの貧しさ胸にかかえ
    〈REF〉
   

   〈REF=リフレインするフレーズ=以下の五行〉
   かの人の十字架のもとに
   ひとりたたずんでみても
   救いはない ゆるしはない
   ただひとり その苦しみを祈るだけ
   その悲しみを 差し出してみるだけ

            [POEM-詩集『愛と癒しと』以前の詩から]


アメージンググレース

2005-05-26 18:09:49 | POEMS-詩集『愛と癒しと』以前

     アメージンググレース

   蟋蟀(こおろぎ)の声すだく秋風の夜。
   陋屋のすり切れた畳の上に、
   ひとりひざまずいて祈っていると、
   耳の底に流れ出すよ。
   アメージンググレースの野太い声。
   神よ ぼくらを生みたまいし神よ。
   その賛美の言葉のなんと美しいこと。
   灯火を落として 闇に見るのは、
   深紅の炎に燃えている、
   主よ あなたのいのち。
   ぼくらを導く 光あるいのち。
   光ある呼び声。
   輝くかんばせ。
   こころ安らぐ 慰め 励まし。
   秋風に乗せて 蟋蟀の歌声に潜み、
   やがて この闇の一切となる、
   この闇の一切を抱きとめられる、
   主よ あなたの愛。
   主よ あなたのゆるし。
   すべてをうべなわれる神よ。
   ぼくらの 貧しい祈りを、
   つたない歩みを 支え、
   高めたまえ 静やかに。
   心静かに、
   アメージンググレース響く、
   この世の日々に。

          [POEM-『愛と癒しと』以前の詩から]


その者たちのために生きられるか?

2005-05-26 17:40:06 | POEMS-詩集『愛と癒しと』以前

    その者たちのために生きられるか?

   その者たちのために
   おまえは生きられるか
   この地球に捨て去られている
   幾千万の 満たされなかったいのちのために
   虐げられた女の目
   さげすまれて除かれた男の目
   怨嗟の声が聞こえる
   白日夢の光の中で
   ホルマリンにつけられた胎児が
   悲しげな涙をこぼしている
   生きられもせず
   愛されもせず
   この世から奪われた者の
   その思いに この心
   寄せて生きられるか
   その重さ その痛さ
   この弱々しき心に
   担えるのか おまえ
   その者たちのために
   生きることかなうのか
   絶望と憤怒とを抱きながら
   この地球に埋められている
   幾千万の いとしいいのちたちのために

        [POEMS-『愛と癒しと』以前の詩から]


理想は満ちていたのに

2005-05-23 04:53:23 | POEMS-詩集『愛と癒しと』以前

    理想は満ちていたのに
   
   夢のように学んできた
   思想という名の化け物たち
   夢うつつのように教わってきた
   愛という悲しい苛立ちの数々
   理想は心に満ちあふれていたのに
   力なく立ち止まった
   
   どうやってぼくら 
   ぼくら自身を組み立てたら
   いいのだろう?
   ぼくという素材
   きみという形
   ぼくらという力
   これほどこころあふれているのに、
   指導書もなく
   適切なアドバイスも得られずに
   
   この現実を この世界を
   変えたくて飛び出したと言うのに
   デザインだけを手に持って
   ぽんと押し出されたかのように
   とまどうばかりなのはなぜ?
   ボルトもナットも
   工具さえどこにあるのか
   知ることもなく
   なぜ? と問うばかりで。

         [POEM-『ぼくのブルーノートから』


八月十五日 憧れの青い空

2005-05-23 04:32:02 | POEMS-詩集『愛と癒しと』以前

     八月十五日 憧れの青い空

   憧れの青い空
   あの青い空
   八月十五日の 夏の真っ盛り
   一切の束縛から解かれた
   一切の自由を開いていた
   僕たちの瓦礫の上に横たわる
   絶対的な青い空
   厖大な苦しみをはらんでいるのに
   呆然とたたずむ
   徒労と無為の
   僕たちの空白の上に
   一切のこだわりなく
   張りつめていた
   あの青い空
   
   昭和二十年八月十五日 真昼
   完璧な静寂のなかの
   完璧な敗北の事実
   あのとき あの一瞬
   あの青い空は笑ったろうか
   明るい乾いた笑いを
   まだ何の屈託もない笑いを
   天皇日本という精神性の
   崩壊の上で 輝いていた
   すっからかんの空っぽの
   けれども
   絶対的に青い空
   
   あの青い空に見た
   僕たちの完全な希望
   雲ひとつない青さの
   絶対的な希望
   一切が崩壊し尽くして
   過去を消去された人々の
   その虚無の上に立つ 破壊の上の
   僕たちの自由への希望
   希望への希望
   けっして つぶれることのなかった
   僕たちの理想に生きる思い
   真実に生きる願い 
   その命をいま ここに
   生きたい
   生きたい とても
   
   いまもなお心に残る
   あの夏の 理想の空
   憧れは 絶対的に
   そこに広がっていたのだ
   八月十五日 御前放送の午後
   そのとき 僕たちは聞いていた
   ほんものの理想
   永遠の 絶対の理想が
   はじめて開かれたことを
   忘れられぬ 僕たちの憧れ
   僕たちの 約束
   いまもなお この胸にある
   その憧れに生きたい
   その激しいつよさを
   心に誓おう
   
   願い 願って
   もう一度 あの場面に
   もう一度 あの青い空の意識に
   僕たち 立ち返ろう
   あそこから もう一度
   歩き出そう
   八月十五日の絶対的な貧しさと
   絶対的な自由を持って
   手には ただ一つの理想
   愛と平和の実現を 握りしめて
   今度は 食うための
   妥協など けっしてしないで
   
         (『ぼくのブルーノート』から
         /1976年8月15日/2005年5月23日改稿)