1日始まったばかりの『あいちトリエンナーレ』で、ある展示が波紋を呼んでいます。慰安婦問題をめぐり日本と韓国の間で論争となっている「少女像」や、昭和天皇をモチーフにしたとみられる作品です。

 河村名古屋市長は税金が投入された芸術祭である点を問題視して、展示の中止を求める考えを表明しました。表現の自由、表現のもたらす影響…様々な問題をはらんでいます。

 波紋を呼んでいるのは1日から始まった芸術祭、『あいちトリエンナーレ』の展示。

 2日、名古屋市の河村市長が会場へ視察に訪れました。

河村名古屋市長:
「日本国民の心を踏みにじるものだねこれは、これはいかんと思いますよ」

 いったいどんな展示なのでしょうか…。

 会場の一角に展示されている「平和の少女像」。韓国人彫刻家が製作した元慰安婦の人権回復を訴える作品です。韓国・ソウルの日本大使館前に支援団体が建て、日本政府は「在外公館の安寧を損ねる」と、撤去を求めてきましたが、今は韓国の国内外に設置が広がっています。

 企画展のタイトルは「表現の不自由展・その後」。過去に様々な理由で展示が見送られた20点余りの作品を紹介しています。政権批判の記事を使い、強い政治的な主張を込めた作品もあります。

 そのうちの一つ、「焼かれるべき絵」という肖像画。隣にはその作品を焼いていく過程の写真があり、顔の部分など半分ほどが焼かれた状態の作品が掲示されています。顔ははっきり描かれていませんが、軍服から昭和天皇と推測されます。

 企画展の趣旨については、「『慰安婦問題』や『天皇と戦争』など、公共の文化施設でタブーとされがちなテーマの作品が、当時いかにして『排除』されたのか展示する」としています。

 今回の企画展の入り口には、「写真や動画のSNS投稿禁止」という注意書きがあります。著作権法に抵触する可能性に触れ、私的な使用に限定。文章での投稿は自由としています。このような注意書きはトリエンナーレの中でも、この企画展のみの対応です。

 芸術監督を務める津田大介さんは、SNSへの画像投稿の制限について…。

芸術監督・津田大介さん:
「いちジャーナリストとして思いを持っている一方で、芸術監督は全体をみて、全体の安全管理、運営の責任を負う立場でもある。今も県の問い合わせ電話が鳴りやまない状況になっているらしいですけれども、そういう状態は容易に想像できる企画である」

 実際、愛知県には1日までに電話やメールで400件の意見があり、ほとんどが「なぜ税金を使った芸術祭であのような作品を展示するのか」などの抗議。2日も批判が殺到したそうです。

『あいちトリエンナーレ』は愛知県が主体となって3年おきに開催している芸術祭。今回の事業費13億7000万円のうち、愛知県が6億円、名古屋市が2億1000万円あまりを負担。文化庁の補助事業にもなっている公的なイベントです。

 名古屋市の河村市長は「おととい(31日に)展示の事実を知った」としたうえで…。

河村名古屋市長:
「即刻展示を中止していただきたいですね。表現の自由って…自由ってなんで認められるかというと、『自由の相互承認』といいますけど、どう考えても日本国民の心を踏みにじるものだね、これは。日本人の税金を10億も使った場所で、あたかも公的にやっているように見えますわね」

 河村市長の会見には多くのメディアが。中には韓国のテレビ局もいました。韓国メディアは、河村市長の発言について、「表現の自由の話、作者の趣旨や意図を聞いての発言ではなく、自分の政治観で言うのは理解できない。政治の考えは政治の場で議論してほしい」と話していました。

 菅官房長官は2日の会見で、『あいちトリエンナーレ』が文化庁の補助事業になっていることについて…。

菅長官:
「審査時点では具体の展示内容についての記載はなかったことから、補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査した上で適切に対応していきたいと思います」

 名古屋の街でも意見を聞いてみました。

女性:
「やっぱり今、韓国とモメたりしているじゃないですか。私は結構、韓国が好きなので…でもトリエンナーレはトリエンナーレで楽しみたいので、政治的なことはできればもってきてほしくない」

別の女性:
「その作品を置くことで人の考え方が変わるなら、そういう伝え方もありなのかなと思います」

男性:
「(政治とアートを)切り離して考えること自体が無理ですよね、それは」

女性:
「もともと県や市が運営しているわけだから、最初から考えておくべきだったんじゃないかなと思います」



(最終更新:2019/08/02 19:26)