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羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

無痛 1

2015-10-08 22:11:32 | 日記
為頼は久留米を寝台に寝かせた。神妙に老いた久留米の様子を『見る』為頼。「視力にも影響が出ていますね。呼吸も乱れています。在宅酸素を手配します」理由を問うと、為頼は久留米が直視が難しくなり呼吸も肩の筋肉等に頼るようになってるとスラスラと答えた。「さすが、天才的な『診察眼』だ」「そんなことはありませんよ」為頼が呟いていると、和代が為頼が診療所に忘れた薬品を届けにきた。「御加減いかがですか?」「楽な方だな」しかし辛そうな久留米に和代は為頼にモルヒネの量を増やすよう促す素振りを見せたが、拒否された。「わからなくなるよ、孫の声さえも。痛みを感じてる方が、人間らしい」久留米はそう言うのだった。
早瀬は太田と共に先日一家惨殺事件の起きた石川家を訪れていた。土足で血の跡の残る現場に入った早瀬。床一面血の跡。一際血の跡の濃い場所に来た。ちょうど四人分、壁にも跡がある。小さな跡もあった。拘束された一家は頭に布袋を被せられ、金槌で頭を躊躇無く大人も子供も同じ力で叩き割られ殺されていた。監察医は犯人の理性的な判断能力を疑っていた。花束を置き、手を合わせる早瀬は無言で顔を上げた。
帰り道、為頼は和代と別れた後、自転車に乗った男と擦れ違った。男の顔に異様な紋様が見えた為頼。振り返ると、鞄から刃物の柄が見えた。焦る為頼。男は和代の去った方へ向かっていた。知り合いとのおしゃべりに夢中の和代は電話の着信に気付かない。「まずいっ!」為頼は警察に刃物を持った男が広場で『暴れている』と通報した。男は怪しくはあるがまだ暴れてはいない。
為頼は走って広場まで来た。刃物男は花壇の縁に座っていた。近くで知り合いと話していた和代は少し驚いた。「どうした?」「あの男、危険です!」「診えたのぉ?」察する和代。5時の時報が鳴り、為頼達が男の様子を伺うと妊婦が一人、
     2に続く

無痛 2

2015-10-08 22:11:22 | 日記
刃物男の前を通り掛かった。男は刃物を取り出した。「皆逃げて!」和代は公園の人々に警告し、男は妊婦の前に立った。「え?」「こんにちはぁ」刃物を振り上げる男、為頼は駆け寄った。斬り付ける男。妊婦は倒れ込んだ。すぐ手当てする為頼。「大丈夫だ」男は妊婦に構わず、騒然となった広場で次の獲物を探して見回し始めた。気付かず男の傍を自転車で通り掛かった女も刺されそうになった。「逃げて逃げて!」必死で誘導する和代。「動かなければ、赤ちゃんも大丈夫!」為頼は妊婦を励まし、和代の知り合いも必死で人々を逃がした。
男が手近な母子を狙い、庇った和代が刺された!「和さんっ!」近くに人に妊婦の止血を頼み、対応に向かおうとする為頼。周囲の若者の一人がサッカーボールを男にぶつけた。男が刃物をもう1本抜き、若者に突進すると和代の知り合いが男の腕を取り、若者達を庇った。和代の応急手当をする為頼。手当てに夢中で男を止める発想に欠けてる為頼! 和代の知り合いも刺されたっ! 周囲の人々が押す等して、何とか男を止めようとし始めた。暴れる男。
「動くなっ!」巡査が銃を構えて現れた。が、へっぴり腰であった。男は両手を拡げ、余裕の表情を見せ巡査に近付く。恐れる巡査。サイレンが鳴る。その間に為頼と重傷の和代がいる。為頼は立ち上がって、男を見据えた。そこへ早瀬が駆け込み、「貸せッ!」巡査から銃を取り上げると、「どけッ!!」振り返った為頼をしゃがませ、躊躇無く男を『2発』(2発当てると致死率が格段上がる)撃った。素早く倒れた男の手元のナイフを蹴り払う太田。「止血しろ! このままにしておくと死ぬぞ?!」為頼はやはり躊躇無く、男の『手当て』を指示し始めた。救急隊が来ても的確に手当ての指示を出す為頼。「医者か」早瀬は呟いた。
和代を含めた被害者3名は白神の病院で受け入れられた。
     3に続く

無痛 3

2015-10-08 22:11:12 | 日記
白神も見ただけで為頼と全く同じ診断をして対応に当たったが、救急隊員から現場に自分と同じ診断した『医師』が居たことを聞くと、白神は興味を示した。空きの手術室ではマスクに帽子姿の男が掃除をしていた。そこへ白神が入ってくると、男は帽子とマスクを慌てて取り、頭を下げた。髪も眉も無い。「イバラ君、ここを使います」「見学してもっ、いいですか?」「もちろん」白神はイバラに笑い掛けた。
早瀬の聞き込みの結果、通報時に男が暴れていた事実は無く、通報後に男は暴れていた。通報内容と一致しない。男が暴れるのがわかっていたかのようだった。通報者が為頼であることは太田の調べですぐに割れた。為頼が『変わっている』ことは地元でも知られていた。
当の為頼は白神の病院で、事件のニュースをテレビで見ていた。と、廊下に座り込んでスケッチブックに絵らしいものを描いている少女がいた。フードを目深に被り、長髪は染めている。少女の元へ若い女医が小走りでやってきた。「サトミちゃん、ここに居たんだ」サトミは反応しないが、女医がスマホのSNSでメッセージを送ると始めて気が付いた。食事の時間を過ぎてるが、すぐにゆくという。SNSでは普通の会話が成立していた。「為頼先生ですよね?」女医はこちらを見ていた為頼に話し掛けてきた。「高島です」胸のIDを見せる高島菜見子。臨床心理士だった。診断学実習で、かつて為頼の診断を見学したことがあるという。為頼はよく覚えて無かった。SNSでサトミに促された菜見子は「また改めて」と一礼し、サトミを連れて去って行った。
入れ替わりで早瀬が現れた。「先程はどうも、早瀬といいます」名刺を受け取る為頼。通報に関し問われたが、「よく覚えてないですねぇ」為頼ははぐらかした。犯人と知り合いでもないとも応える。「(通報は)犯人が暴れる前だったんですよ」
     4に続く

無痛 4

2015-10-08 22:10:59 | 日記
問い詰める早瀬。「無関係です」「調べさせて貰いますが、構いませんね?」「どうぞ」早瀬は去った。
白神の方針で和代の手術は手術室の外から見学できた。手元もモニターで見れる。鮮やかな白神の手捌き。イバラは手術室の端で食い入るように見学していた。感心する為頼。手術後、廊下で白神と顔を合わせると「ご家族ですか?」「義理の弟です」「あなたが為頼英介ですか。初めてですよ、僕以外であれ程精度の高いトリアージュ(識別救急。初見の見立て、応急手当、優先順位等を決める)をした人に出会ったのは。では失礼」白神は手短に話して去って行った。
太田の調べで為頼の経歴がわかった。通り魔と接点は無かったが、為頼は以前、刑務所の診療所に勤めていた。ここで「早瀬!」上司の仁川がオフィスに入ってきた。「お前何でいきなり狙撃してん? 威嚇射撃やろぉ?!」関西弁。「余裕はありませんでした」「それでもやっ! お前は度が過ぎんねんっっ。何でここに異動になったんか、忘れたんちがうやろなぁ? それから、石川一家殺人事件も深追いすんなよ?! 聞き込み先から苦情きとるわっ!」「俺は解決の為に情報を!」「お前の担当やないねんっっ。早瀬、あっ? 交番勤務したいかぁ?」敬礼ポーズを取ってくる仁川だった。
和代の意識が戻ったことを見届けた為頼は自宅兼診療所に戻った。家の鍵の鎖を婚約指輪に通していた。昨夜から何も食べていなかったが冷蔵庫にロクな食べ物が無く、ガッカリしていると、和代から電話を受けた和代の友達がお握りや唐揚げを少し持ってきてくれた。「頂きます」ありがたがって食べようとすると、患者が来てしまった。「いいですか?」「どうぞ」愛想よく応える為頼。サラリーマン風の男はやたら癌かもしれないと心配するが、サプリと頭痛薬の飲み過ぎだった。
     5に続く

無痛 5

2015-10-08 22:10:49 | 日記
飲むのを止めるよう言って、診察代もいらないと言うと男は怒り出した。「何だよ、もういいよっ」男は帰って行った。為頼がようやくお握りにありついていると、いつの間にか早瀬が来ていた。「検査もしないのに、普通あそこまでわかりませんよね?」事件現場での明らかに普通では無い見立ての正確さを指摘する早瀬。
「見ただけでわかるんですか?」「別に特別なことじゃない。同じような患者を『たくさん』診れば、判るようになるよ」これになぜ、犯行前に犯行がわかったの蒸し返してくる早瀬。「まさかその能力使ったら、犯人わかったりとか?」笑う為頼。迫る早瀬。「先生、刑務所の診療所に勤めてたんてすよねぇ? 犯罪者を『たくさん』診てるんじゃないですか?」答えずにいると、太田から電話で事件の報せが入り、早瀬は出て行ったが、為頼は構わずお握りと唐揚げをパクついた。
白神の病院では横井の案内で取材に来た記者をオペ室の手術台で寝て迎え、記者を驚かせた白神は、理想の医療論を語り出し「『痛み』は医療が取り除くべき対象でしょう。私がイメージしているのは、根本的なことです」手術室のマジックミラーに向かって話す白神。「言わば、完全な『無痛』です」ミラーの向こうではイバラが聞き入っていた。
病棟のソファではサトミがスケッチブックを黒く塗っていた。大きな人らしいのが二人、小さな人らしいのが二人、並べて座らされている。石川一家殺人事件と同じ並び。隣で見ていた菜見子がSNSでそれは家族かと聞くと、サトミは激しく首を振って否定した。その様子をイバラが見ていたが、不意にイバラの足にベビーカーがぶつかった。「ごめんなさい」母親は慌てて去ったがイバラは何も感じていない様子で戸惑っていたが、自分を菜見子が見ていることに気付き、イバラはその場を去った。
     6に続く