YS Journal アメリカからの雑感

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Free: Chris Anderson

2010-02-28 09:59:53 | 書評
Free は、The Long Tail を書いた Chris Anderson の第2弾である。(日本語版は、フリーロングテール

The Long Tail を読んでない身としては偉そうな事は言えないが、間違いなくThe Long Tail の方が画期的な著作であると思われる。デジタルコンテンツは、倉庫スペースが無尽蔵でほぼコストがゼロになった事で、在庫をいつまでも持つ事が可能となり、特にニッチマーケットで末永いビジネス(The Long Tail)が可能になったという内容である。Free では、コストがゼロになる事を分析し、ビジネスモデルや社会的インパクトについて書いてある。

しかし、この本、面白くないのである。一月前に購入して、就寝前に読もうと努力したが一向に進まないのである。先週の出張の折に持参して、飛行機の中で無理矢理読了した。手際良くまとまっているとは思うが、インパクトが無いのである。

「フリー」は、基本的に IT 関係のものが圧倒的なのであるが、デジタル関係の技術革新が著しく、特に流通(アクセス)、在庫(データ保存)のコストが限りなくゼロに近づいている状況が大きい。

それでも最終的に採算が合わなくてはならないので、「フリー」とそれを支えるビジネスモデルという事になる。著者は大きく3つのモデルに分類している。

1. Direct Cross-Subsidies 何かが有料だと、それと直接関係するものがフリー。(例:通話料とフリーの携帯電話)

2. Three-Party, or "Two-sided" markets 種類の違う顧客の一方を有料に、片方をフリーにする。(例:ブログの広告主と使用者)

3. Freemium 一部の顧客は有料で、その他はフリー。(例:ブログのプレミアムメンバーとプリーメンバー)

ビジネスモデルとして考える限りは、プロモーションの一形態としか考えられず、目新しい事は無いのである。

一方で、インターネットの恩恵が一番あると考えられてた活字メディアは、危機的状況にある。アメリカでは新聞社は新聞を発行する事では、ほぼビジネスとして成り立たなくなってきた。フリーで情報を提供しているうちに媒体の本質的変化が起こり、採算の取れるビジネスモデルの確立が出来ていない。出版業界は、自分で eBook リーダーを開発しない(出来ない)こともあり、小売りを含めた流通の将来は暗いが、コンテンツに集中する事で転換を図りつつある。(私自身は紙媒体の存続については楽観的)

尚、個人レベルでのフリー、自己満足系の話も出ているが、個人的にはウィキペディアの投稿者減少に見られる様に、継続的な情報インフラとしては、成り立たないのではないかと思う。自己満足を求める人のねずみ講なので、いつか終わりは必ず来る。

私のような門外漢にとっては、インターネットを中心とした世界で何が起きているのかを系統的に理解出来たので役に立った。しかし、物理的に存在する商品を扱っている者としては、フリーを支えるビジネスモデルの応用を、と思うのだが、無理だろうなー。