グレアム・グリーンはわたしの好きな作家なので、さっそくH氏訳の『権力と栄光』(新潮文庫昭和34)を買って調べてみた。この訳がどんなものか、各行について調べるまでもない。次の一例だけではっきりするであろう。
「彼らは即座に彼を銃殺するであろうか?もしかしたら無事にすむかもしれないという当てにならない見込みが彼を誘惑した。」(119ぺ)
原文をウィリアム・ハイネマン(William Heinemann)社版(1949)から引用しよう。
Would they shoot him out of hand? A delusive promise of peace tempted him.(p95)
彼を誘惑したのは「死による平和」であって、「生きて無事にすむ」ことではない。「死によるごまかしの平和が彼を誘惑した。」が正しい意味だから、訳文の意味はちょうど正反対である。これが「へたくそな原文を直して訳した」結果だろうか。
「誤訳」W.A.グロータース/柴田武 著 三省堂
富翁
「彼らは即座に彼を銃殺するであろうか?もしかしたら無事にすむかもしれないという当てにならない見込みが彼を誘惑した。」(119ぺ)
原文をウィリアム・ハイネマン(William Heinemann)社版(1949)から引用しよう。
Would they shoot him out of hand? A delusive promise of peace tempted him.(p95)
彼を誘惑したのは「死による平和」であって、「生きて無事にすむ」ことではない。「死によるごまかしの平和が彼を誘惑した。」が正しい意味だから、訳文の意味はちょうど正反対である。これが「へたくそな原文を直して訳した」結果だろうか。
「誤訳」W.A.グロータース/柴田武 著 三省堂
富翁