〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(178)

2017年02月05日 16時33分19秒 | 小説
   和布刈神事(めかりしんじ)
 早鞆の潮薙ぎの藻に和布刈(めか)るかな    雲屏(うんぺい)
 その年の、旧暦元旦は二月七日に当たった。
 その前夜、午後十一時ごろから、門司市内のバスが臨時に動いて、しきりと、客を北西の方にある和布刈岬(めかりのはな)に運んだ。霙(みぞれ)でも降りそうな寒い晩だった。
 バスは三十分かかって狭い海岸通りを走り、海峡へ少し突き出た岬で客を降ろした。岬は関門海峡の九州側の突端である。
・・・・・・
「時間の習俗」松本清張 新潮文庫 昭和47年
                   富翁
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 拾い読み備忘録(165)

2016年09月11日 19時14分51秒 | 小説
「しかし先生、お金がなければ矢つ張り貧乏です」
「君、貧乏と云ふものを、さう手軽に考えてはいかん。貧乏と云ふのは、立派な一つの身分だ。君如き輩が差し当りのお金に窮したからと云つて、すぐに貧乏人面をしようと云ふのは、分を知らざるの甚だしいものだ」
「へえ、いけませんですかな」
「金がないと云ふだけぢやないか」
「さうなのです」
「金がなくたつて、金持は金持だ」
「解りませんな」
「貧乏人が金を持つたつて、貧乏人は貧乏人だ」
「はあ」
「貧乏人がお金を持つてゐると云ふだけの事だ。金持顔をしたつて、だれも相手にしない」
「贋作 吾輩ハ猫デアル」内田百閒 六興出版 昭和55年
                        富翁
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拾い読み備忘録(158)

2016年08月24日 19時11分56秒 | 小説
佐渡には何も無い。あるべき筈(はず)はないという事は、なんぼ愚かな私にでも、わかっていた。けれども、来てみないうちは、気がかりなのだ。見物の心理とは、そんなものではなかろうか。大袈裟に飛躍すれば、この人生でさえも、そんなものだと言えるかも知れない。見てしまった空虚、見なかった焦燥不安、それだけの連続で、三十歳四十歳五十歳と、精一ぱいあくせく暮して、死ぬるのではなかろうか。
(「佐渡」より)
「きりぎりす」太宰治 新潮文庫 昭和49年
                  富翁
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拾い読み備忘録(138)

2016年07月03日 16時48分22秒 | 小説
幾分多かれ、また少なかれ、人間というものはだれしも人生の多様な真理を顕らかにしてくれる特定の物語、小説につながっているのだ。時として大いなるおののきの中に読まれる、これらの物語のみが人間をその運命との関連において位置づけるのだ。それゆえにこそ我々はこれらの物語がいかなるものたり得るかを、さらにまたそれによってロマンが更新され、いや、というよりも永久化されることになる努力をいかに方向づけて行くかを情熱をこめて究めていかなければならないのだ。
「空の青み」G・バタイユ 伊東守男=訳 河出文庫 2004年
                          富翁
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拾い読み備忘録(109)

2016年05月16日 17時02分22秒 | 小説
 街灯はその夜、郵便局へゆっくりと近づいていきながら、一瞬ごとに立ちどまって耳をすますのだった。こわかった、ということだろうか?
………
(「溶ける魚」18より)
「シュルレアリスム宣言 溶ける魚」アンドレ・ブルトン著 巖谷國士訳 岩波文庫
1992年
                                富翁
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拾い読み備忘録(108)

2016年05月15日 19時31分25秒 | 小説
 夏は叫喚と太陽で港をみたしていた。十一時半だった。一日がその中心から中身をさらけだし、その熱気の重みで波止場を押し潰していた。アルジェの商工会議所の倉庫の前では、黒い船体と赤い煙突の≪シアフィノ号≫が小麦の袋を陸揚げしていた。そのこまかい埃の匂いが、熱い太陽で果肉のはじけたコールタールの、あの吐き気をもよおさせる匂いとまじり合っていた。ニスとアニス酒の香りがたちこめる小さなバラックの前では、男たちが酒を飲み、赤シャツを着たアラブ人の軽業師たちが、光が弾む海を前に、燃えるような舗石の上で彼らの肉体をくりかえし回転させていた。そうした彼らを見ようともしないで、袋をかついだ波止場人足たちは、波止場から荷揚げ甲板に渡された弾力的な二枚の板の上を、往ったり来たりしていた。………
「幸福な死」アルベール・カミュ 高畠正明訳 新潮社 1972年
                           富翁
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拾い読み備忘録(106)

2016年05月13日 15時00分37秒 | 小説
「というのも」とコルムリイが続けた。「私が若くて、たいそう愚かで、しかもたいそう孤独であったとき(アルジェでのことを覚えていらっしゃるでしょう?)、あなたは私の方を向き、そんな様子も見せずに、この世で私が好きなすべてのもののドアを開いてくれたからです。」
「ああ!君には才能があった。」
「確かにそうです。でもどんなに優れた者でも、手引きをする者を必要としています。いつの日か人生の途上であなたと歩みを共にする者、その人はいつまでも愛され、尊敬されるはずです。たとえその人からでたことではないにしても。私はそう確信しています!」
「最初の人間」カミュ 大久保敏彦訳 新潮文庫 平成二十四年
                         富翁
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拾い読み備忘録(102)

2016年05月09日 16時38分55秒 | 小説
二人の借りてゐる二階の硝子窓の外はこの家の物干場になつてゐる。その日もやがて正午ちかくであらう。どこからともなく鰯を焼く匂がして物干の上にはさつきから同じ二階の表座敷を借りている女が寝衣の裾をかゝげて頻に物を干してゐる影が磨硝子の面に動いてゐる。
「ちよいと、今日は晦日だつたわね。後であんた郵便局まで行つてきてくれない。」とまだ夜具の中で新聞を見てゐる男の方を見返つたのは年のころ三十も大分越したと見える女で、細帯もしめず洗ひざらしの浴衣の前も引きはだけたまゝ、鏡臺の前に立膝して寝亂れた髪を束ねてゐる。
「永井荷風 ひかげの花」永井壯吉著 中央公論社 昭和二十一年
                           富翁
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拾い読み備忘録(98)

2016年05月05日 20時49分36秒 | 小説
男が狩りをし、戦っているあいだ、女は策を練り、夢を見る。つまり、女は幻想の母、神々の母なのだ。女は自らに備わる第二の目と翼で、果てしない欲望と想像の世界へと飛びたってゆく…・。神々は男に似てひとりの女の胸で生まれ、死んでゆく…・・。
  ジュール・ミシュレ
(「アウラ」より)
「フェンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇」木村榮一訳 岩波文庫 1995年
                                 富翁

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拾い読み備忘録(77)

2016年04月01日 18時07分38秒 | 小説
「露地裏住まいの身なのですよ」と彼女はこたえましたが、この言葉はわたしの脳裏にこびりついて離れませんでした。
「路地裏の隣付き合いほど結構なものはありませんよ。わたしたちが寂しい時、お隣さんは一緒に寂しがってくれます。けれど、憎しみを掻き立てられたり、甦らせたりすることもありますね」
わたしはあえて彼女の言葉を訂正してやりました。
「憎しみってほどのものではないよ」わたしは彼女に言いました。「誤解だよ」
(「日向で眠れ」より)
「日向で眠れ 豚の戦記」ビオイ=カサーレス 高見英一・荻内勝之訳 集英社 1983年
富翁
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拾い読み備忘録(75)

2016年03月28日 18時14分36秒 | 小説
私たちは、ゾウゲヤシの畑から戻ってくる。いや、私たちは、ゾウゲヤシの畑から戻ってはこない。私と二人のホセファがゾウゲヤシの畑から戻ってくる。いや、私ひとりがゾウゲヤシの畑から戻ってくるが、そのころにはもう、日が翳りだす。この土地では、夜が明けないうちに、早ばやと日が暮れる。モンテレイはどこにいても、そうなのだ。朝起きて外を覗くと、もう暗くなり始めている。だからいっそ、起きないほうがいいのだ。
だが今、私はゾウゲヤシの畑から戻ってくるところで、時刻はすでに昼だ。かんかん照りの太陽がそこらの石ころをひび入らせる。きれいにひびが入ったところで、私はその石ころを拾い、瓜ふたつの妹たちを狙って投げる。いもうと、たちを。いもと、たちを。いも、たちを・・・・・。
「めくるめく世界」レイナルド・アレナス 鼓直/杉山晃訳 国書刊行会 1989年
                                  富翁

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拾い読み備忘録(57)

2016年02月26日 20時40分02秒 | 小説
例の、音についてのたわいない議論だった。聞く人の誰もいない森の奥で木が倒れたら、それは無音であろうか。聞く耳がない所に音はあるのだろうか。わたしは前に大学教授がこれを議論しているのを聞いたし、道路掃除夫が論じあっているのも聞いたことがある。……
(「叫べ、沈黙よ」より)
「まっ白な嘘」フレドリック・ブラウン著 中村保男訳 創元推理文庫 1962年
                                 富翁
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拾い読み備忘録(56)

2016年02月25日 17時40分06秒 | 小説
どだい、われわれアメリカ人は非常にゲルマン民族的だ――ということは、つまり、大ばかだということだ。これまで誤って解釈されてきたあらゆる観念が、彼らの頭にしみついている。正義という観念も、むろんそうだが、ほかにも、たとえば清潔という徳目もある。彼らは清潔を保つために大変な努力を重ねている。だが内面には臭気が充満しているのである。彼らは心のドアを決して開こうとしない。決して冒険を試みようとはしない。食事がすむと、すぐ皿を洗って戸棚に入れ、新聞を読み終えると、きちんとたたんで棚にあげ、衣服は洗濯してから、ていねいにアイロンをかけて、たんすにしまう。すべて明日のためなのだが、しかし、その明日は決してやってこない。現在は一つの橋にすぎず、彼らは、その橋の上で、世界じゅうの人々が苦悶しているかのような調子で、苦悶しつづける。どんな酔狂者も、その橋を吹き飛ばしてしまうことを考えつかないのだ。
「南回帰線」ヘンリ・ミラー著 大久保康雄訳 新潮文庫 昭和44年
                              富翁
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拾い読み備忘録(40)

2016年02月07日 17時21分23秒 | 小説
…・そこで人間のあらゆる智識、あらゆる学問の根本を調べて見るのだね。一番正確だとしてある数学方面で、点だの線だのと云うものがある。どんなに細かくぽつんと打ったって点にはならない。どんなに細くすうっと引いたって線にはならない。どんなに好く削った板の縁も線にはなっていない。角も点になっていない。点と線は存在しない。例の意識した嘘だ。しかし点と線があるかのように考えなくては、幾何学は成り立たない。あるかのようにだね。コム・シイだね。自然科学はどうだ。物質と云うものでからが存在はしない。物質が元子から組み立てられていると云う。その元子も存在はしない。しかし、物質があって、元子から組み立ててあるかのように考えなくては、元子量の勘定が出来ないから化学は成り立たない。精神学の方面はどうだ。自由だの、霊魂不滅だの、義務だのは存在しない。その無いものを有るかのように考えなくては、倫理は成り立たない。理想と云っているものはそれだ。…・・
「かのように」森鴎外全集3 ちくま文庫 1995年
                         富翁
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明日は文芸同人誌の合評会

2016年01月23日 15時57分17秒 | 小説
司会役を仰せつかりまして、あわてて指定部分を朝から読んでますが、疲れました。
もうやめた。

素人は これだから困る 疲れたな
安楽
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