トシの読書日記

読書備忘録

昭和を生きた作家

2019-07-30 11:00:15 | や行の作家



最近、なんやかやとありまして更新が滞りがちになっております。画面の左にPVとかIPとかあるのが何を意味しているのかよくわからないんですが、もしこれがこのブログを見にきている人の数だとしたら、何人かの方が見ているわけで、まぁこんなブログを楽しみにしている物好きな方はいないと思いますが、とにかく申し訳なく思っております。


それはともかく…


小玉武編「山口瞳ベスト・エッセイ」読了



本書は平成31年にちくま文庫より発刊されたものです。


ちくま文庫からいろいろな作家の「ベスト・エッセイシリーズ」として出版されたものの一環のようです。


山口瞳、時々無性に読みたくなるのですが、本書は様々な出版物から(主に「男性自身」)選りすぐりのエッセイを集めた、文字通りのベスト版と言えると思います。


裏表紙の文言にもありますが、清水幾太郎の論説「核の選択」に対する山口の反論がすごかった。これほど婉曲な表現を使いながら、清水氏の論を真っ向からから否定するという、まさに文筆家の面目躍如たる文章でありました。


絶筆となった最後の「男性自身」に掲載された「仔象を連れて」、これもよかった。山口氏が師とあおぐ高橋義孝氏のエピソードを披露しているんですが、本当にしみじみとした味わいがあります。


昭和の作家、山口瞳。僻論家としても知られた人ではありましたが、どこかのエッセイで自身のことを「無頼にして市民」と表現しているのを読んで、得たりや応と膝を打ったものです。本当に素晴らしい作家、随筆家でありました。



またまた姉から以下の本を借りる

コリン・ウィルソン著 中村保男訳「宇宙ヴァンパイア―」新潮文庫
ジェイ・ルービン編「ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29」新潮社



今日はこれからちょっと雑用を片付けたあと、豊田市美術館へ「クリムト展」を見に行ってきます。クリムト、遂に来名!です。

6月のまとめ

2019-07-16 16:43:24 | Weblog



6月に読んだ本は以下の通り


朝井リョウほか「作家の口福――おかわり」
池内万平編「伊丹十三選集三 日々是十三」
ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳「最初の悪い男」
村田沙耶香「殺人出産」


以上の4冊でした。伊丹十三選集、やっぱり買ってよかったです。いずれ松山の伊丹十三記念館を訪れたいです。

姉からミルハウザーの新刊が出たと知らされ、いそいそと買ってまいりました。短編集でした。今読みかけの本が終わったら次、読みます。また尾崎紅葉の「金色夜叉」を換骨奪胎(?)した橋本治の「黄金夜会」、これも楽しみです。それから中島義道、新刊が出るとついつい買ってしまうんですね。本書で70冊目の著作ということですが、40冊以上は読んでると思います。何の自慢にもなりませんが。


6月 買った本4冊
   借りた本14冊

蝉と殺人

2019-07-16 15:51:14 | ま行の作家



村田沙耶香「殺人出産」読了


本書は平成26講談社文庫より発刊されたものです。


姉から借りたものです。本作家の「授乳」という作品を5年ほど前に読んで、なかなか面白いんだけど文章がなぁ…という感想を持った覚えがあるんですが、本書も全く同じでありました。あ、芥川賞受賞作の「コンビニ人間」(なんというベタなタイトル!)も読んでました。


着想はいいんです。面白いことを思い付くなぁと感心するんですが、いかんせん文章が…。はっきり言って高校生の作文を読まされているような文章です。プロとしてこんな表現力の乏しい作家に芥川賞を受賞させるのはいかがなものかと。


残念至極でありました。



姉と恒例の「定例会」を行い、以下の本を借りる


荻原魚雷編「吉行淳之介 ベストエッセイ」ちくま文庫
安部公房「無関係な死・時の崖」新潮文庫
池澤夏樹編「池澤夏樹の世界文学リミックス」河出文庫
野谷文昭編・訳「20世紀ラテンアメリカ短篇選」岩波文庫
フリオ・コルサタル著 寺尾隆吉訳「奪われた家/天国の扉」光文社文庫
山尾悠子「歪み真珠」ちくま文庫
伊丹十三「問い詰められたパパとママの本」中公文庫
海老沢泰久「美味礼賛」文春文庫
穂村弘「君がいない夜のごはん」文春文庫
本谷有希子「異類婚姻譚」講談社文庫



また、所用で名駅まで出たついでに高島屋の三省堂に寄り、以下の本を購入


橋本治「黄金夜会」中央公論新社
スティーブン・ミルハウザー著 柴田元幸訳「私たち異者は」白水社
中島義道「死の練習――シニアのための哲学入門」ワニブックスPLUS新書
残雪(ツァンシュエ)著 近藤直子訳「蒼老たる浮雲」白水社

妄想・共犯者・疑似家族

2019-07-02 15:17:39 | さ行の作家



先週は更新をさぼってしまいました。昼過ぎに映画を見に行って、そのまま飲んで帰って来てしまいました。「エリカ38」というのを観てきたんですが、まぁ観なくてもよかったですかねぇ。浅田美代子主演、樹木希林プロデュースという触れ込みだったのでちょっと興味があって、足が向いたんですが、浅田美代子が生き生きと悪事を重ねて動き回るところは、もっと若作りのメイキャップにし、捕まったあとは、ぐっと老け込む感じの雰囲気にするなどしてもっとメリハリを利かせないと面白くないんじゃないですかね。タイだかフィリピンだかの若い男に貢ぐところなども、なんだか必然性が感じられませんでした。


全く違う映画なんですが、もう少し前に観たクリントイーストウッドの「運び屋」。これはよかったです。



それはともかく…



ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳「最初の悪い男」読了



本書は平成30年に新潮クレストブックより発刊されたものです。ミランダ、初の長編小説とのことです。


以前、同作家の「いちばんここに似合う人」を読んでこの人面白い!と思った記憶があるんですが、今、自分のブログをひっくり返してみたら、なんと7年も前に読んでるんですね。たしか、洗面器一杯の水で老人に水泳を教える女の子の話とか、そんなのがあったような。「孤独」というテーマで、なんとも切なく、そして温かい世界を作り上げていた作品という記憶があります。


さて本書です。


主人公はシェリル・グリッグマンという43才の独身女性。これがミランダ・ジュライの得意とするキャラクターで、シェリルが9才の時にクベルコ・ボンディという赤ちゃんに出会い、この子が自分の運命の子供だと信じ込み(実は全く赤の他人)、街で見かける赤ちゃんに誰彼構わず話しかけ(脳内会話)、その子がクベルコ・ボンディかそうでないか見分ける、とまあほかにもいろいろな妄想癖があるわけですね。このシェリルが同じ職場の65才の男に片想いするんですが、このあたりのくだり、さすがミランダ・ジュライという筆致でユーモアたっぷりに描かれていきます。


そしてある日、職場の上司夫妻の娘、20才のクリーを預かることになるんですが、ここから話は大きく展開していきます。クリーは超のつく美人、巨乳の持ち主なんですが、衛生観念ゼロ、家は散らかし放題、おまけに凄まじい足の臭いもあり、シェリルは閉口します。クリーは、シェリルの築いた、家で快適に過ごす「システム」をいともたやすく壊していきます。


かなり話を端折ってしまうと、しかし、やがて二人は最後にはレズビアンの関係になってしまうんですが、ここにも二人の孤独、というものが浮き彫りになっているわけです。


そしてクリーは父親の分からない子供を身ごもり、シェリルの家で出産します。クリーは子供を残して他のアパートに移り、シェリルはクリーの子供を育て始めます。ここでシェリルは母性にも目覚めるんですね。


最後の方はそれまでにまき散らかしたエピソードの回収にかかるわけですが、このあたりのちょっと取って付けた感、少し興ざめでした。


全体にどうなんでしょうか、感動の大巨編というほどでもないんですが、「いちばんここに似合う人」同様、都会に住む孤独を抱える人達の悲しくもおかしい物語と、なんだか紋切り型の表現になってしまいましたが、とにかくミランダ・ジュライの独特な世界をたっぷり味わうことができ、読後感は悪くなかったです。


蛇足ですが、「エピローグ」はそれこそ蛇足だったかな、と思いました。