トシの読書日記

読書備忘録

現実の向こう側にあるもう一つの現実

2020-03-17 15:12:59 | か行の作家
アンナ・カヴァン著 佐田千織訳「あなたは誰?」読了



本書は2015年に文遊社より発刊されたものです。


アンナ・カヴァンといえばずっと以前に「氷」という作品を読んで、その冷徹で不条理な世界に息を呑んだ覚えがあるんですが、本書もそれに負けず劣らず濃い内容の長編でした。


その「氷」とは反対に今度は場所は特定されていないんですが、灼熱の南国が舞台です。うだるような暑さの中、無数のチャバラカッコウが「WHO  ARE YOU」と泣き叫び、夜になるとカエルが盛大な大合唱を始めるという、なんだか読んでいてこっちの頭がおかしくなりそうでした。


しかし、そういったシチュエーションとは裏腹に、カヴァンの筆致は極めてクールです。そこがいいですね。月並みな解釈かも知れませんが、女が男に屈服させられるという、性差別のようなものからの解放というものをテーマにしていると解するのはあまりに短絡的かも知れませんが、そんな風に読めるところは多々ありました。


いずれにせよ、このカヴァンの鋭利な刃物のような文章に酔いしれたのでした。


ネットで以下の本を購入

牧野信一「父を売る子/心象風景」 講談社文芸文庫

過去と未来を行き来して

2020-03-10 15:35:41 | た行の作家



高山羽根子「オブジェクタム」読了



本書は2018年に朝日新聞出版より発刊されたものです。


ずっと以前に中日新聞の「大波小波」で紹介されていて、最近、読みたい本のリストの中から見つけて買ってみたのでした。


これはちょっとしんどかったですね。読みやすいことは読みやすく、独特の世界を作っているところはうまいなぁと感心したんですが、どうも自分にはピンとくるものがありませんでした。


読後、アマゾンの本書のレビューを見ていたら、評論家の小谷野敦氏の記事がありました。この方、アマゾンの他の小説のところでも投稿しているのをちょいちょい見かけるんですが、本書のレビューで「何が言いたいのかわからない」とあったんですね。びっくりしましたね。小谷野氏の他のレビューを見る限り、結構鋭いところを突いていて、なかなかの論客だと思っていたんですが、この人はこんな小説の読み方をしていたんですね。


「何が言いたいのかわからない」小説なんてのは山ほどあります。思い付くだけでも村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」、吉田知子「ユエビ川」、小池昌代「怪訝山」、坂口恭平「けものになること」等々、枚挙にいとまがありません。自分が思うに、およそ小説というものは、「何が言いたいのか」ではなく「何をどう表したいのか」ではないかと思うんですね。そこに自分の感覚(生理的なものも含めて)やら感性にマッチするものを「面白い」というのではないでしょうか。


そういった意味で考えると本作品は自分にはちょっとどうだったかな、という感じです。しかし、併録されていた「L.H.O.O.Q](なんでこんなタイトルなのか、さっぱりわかりませんが)という短編、これは面白かった。不思議な空気が漂う作品で、「へぇー」と思いながら読みました。


最近は、なんだか、読書力というものがもしあるとするなら、それが落ちてきているようで、ジョゼ・ルイス・ペイショットの「ガルヴェイアスの犬」とか、カルロ・ロヴェッリの「時間は存在しない」(これは小説ではないんですが)なんかを少しだけ読んでどうにも読み進められず、放り出してしまってあります。以前の自分なら、多少面白くなくても、いつかこの苦境から脱出できるだろうと期待をもって頑張るんですが、辛抱できないんですね。困ったもんです。

2月のまとめ

2020-03-03 17:21:11 | Weblog



2月に読んだ本は以下の通り  


松家仁之「光の犬」
高橋源一郎「さようなら、ギャングたち」


以上の2冊でした。どちらも味わい深い小説でした。方向性は全く違う2冊でしたが。これ、どちらも小説なんだなぁと思うと、なんだか感慨深いものがあります。文学とは奥が深いものです。


新型コロナウイルスに関連して、全国の小中高校が休校になったことを受けて、我々の業種(宅配ピザ)も少しは忙しくなるのかと思っていたら、初日の昨日は全くそんな気配もなく、むしろいつもの平日より暇なくらいでした。まぁ、こんな事態で忙しくなるのだとしたら、少し複雑な気持ちですが・・・。


2月 買った本1冊
  借りた本1冊