トシの読書日記

読書備忘録

食べることは哲学すること

2019-04-16 14:41:37 | た行の作家



武田百合子「ことばの食卓」読了

本書は平成3年にちくま文庫より発刊されたものです。


ずっと以前FM愛知の「メロディアスライブラリー」で小川洋子が紹介していて気になっていた作品でした。本作家は前に「富士日記」「犬が星見た」を読んで、普通の作家とは違う視点、感じ方をしていると思っていた人なのでした。


本作品も期待に違わず、エッセイとは言うものの、一般的なそれとはまたちょっと違う味わいになっています。


匂いの描写がすごいですね。例えば…


<「いかがすかあ。おとうさん用のホットウィスキーとビール」生温かいお酒の蒸気をふりまいて、売子がやってくる。黒革ジャンパーの兄(あん)ちゃん風のとうさんが「おう」と、めざましい声をあげて呼びとめ、ホットを二つ買い、友達の赤ジャンパーのとうさんに一つ奢った。おでんとうどんとソーセージの匂いに、ウィスキーの匂いが混じる。うしろの席で袋をまわし食べているポプコーンの匂いも加わる。>(「後楽園元旦」より)


また、


<いろんな匂いがしてきた。匂いがだんだん濃くなってきた。この匂い、―ゆで玉子に日本酒におでんに海苔に御飯に夏みかん、まだある、―靴と靴下の関係の匂いに頭の匂い。>(「上野の桜」より)


決してかぐわしい香りではなく、外でハレの場所であるのに生活に密着したような、ちょっと汚らしいとでも言いましょうか、うまい表現が見つからないんですが、そのあたりの書き方がうまいですねぇ。


野中ユリさんという方がさし絵を描いてるんですが、これがまたちょっとシュールな感じで武田百合子の文章に素晴らしくマッチしているんですね。感心しました。


また、解説の種村季弘氏も、さすが、我が敬愛する諏訪哲史氏がリスペクトする作家だけあって鋭い文章を披露しています。この解説だけでも本文に負けず劣らず読む価値があると思います。


このあと、村上春樹の「海辺のカフカ」を読んでから武田百合子の本、もう一冊買ってあるので、それを読むつもりです。そのあと、例の「伊丹十三選集」にとりかかろうかと思っております。



来週はちょっとよんどころない事情がありまして、多分ブログの更新はできないと思われます。その翌週、4月30日は今年は祝日ということで、お店は営業するのでここも更新できず。ですので、つぎの記事は5月7日になると思います。悪しからずご了承くださいませ。

クミコの孤独

2019-04-09 17:53:54 | ま行の作家



村上春樹「ねじまき鳥クロニクル第三部鳥刺し男編」読了



第一部、第二部でいつもの書き出しを忘れていました。本書は平成9年に新潮文庫より発刊されたものです。


この壮大な三部作を読み終えて、大きなため息をついています。いえ、決して悪い意味でのため息ではありません。すごいですね。すごい作品です。自分なりに考えるんですが、本作品のテーマは「愛」と「暴力」ではないかと思います。


ノモンハン事件という史実を脚色して「皮剥ぎボリス」という暴力に立ち向かう間宮中尉の物語、そこに現代の綿谷ノボルという悪(暴力)を叩き潰そうと立ち上がる岡田トオルのストーリーをオーバーラップさせるあたり、まさに手練れの技です。ほんと、うまいですねぇ。その岡田トオルの姿がクミコに対する強い愛を感じさせるわけですね。いやいや読ませます。


第二部でギタリストにバットで殴りかかられ、その男を何回も殴ったというエピソードも第三部を読み終えて、ようやくその意味を飲み込むことができました。


綿谷ノボルとクミコとの間に何があったのか、例によってそういった部分ははっきりとは明かされずじまいでしたが、しかし充分に読みごたえのある、素晴らしい長編でした。

3月のまとめ

2019-04-02 16:31:34 | Weblog



3月に読んだ本は以下の通り


多和田葉子「献灯使」
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル 第一部泥棒かささぎ編」
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル 第二部予言する鳥編」
平松洋子「そばですよ」


以上の4冊でした。多和田葉子の「献灯使」、ちょっとどうかなと。平松洋子にも考えさせられました。まぁそれよりなによりねじまき鳥です。「世界の終わり」とか「ダンス・ダンス・ダンス」なんかとはまたちょっと毛色の違う作品で、大いに楽しんでいます。つぎは、第三部、最終編です。どんな収束を見せるのか、まぁ村上春樹ですから回収されないエピソードとか山ほど残して終わるんでしょうがね。


この「ねじまき鳥」を読み終えたら「海辺のカフカ」を読んで、村上春樹祭り、一応の終了とすることにします。それ以降の「1Q84」とか、まぁいいかなと。最近、なんやかやと本を買いあさってしまいまして、読みたい本が山ほどあり、姉から借りた本もたまる一方なので。


いずれにしても村上春樹は「カフカ」で終ったと思っております。



3月買った本 3冊
  借りた本 5冊   

平松洋子とは何者か

2019-04-02 15:56:46 | は行の作家



平松洋子「そばですよ」読了



本書は平成30年に本の雑誌社より発刊されたものです。

 
雑誌「本の雑誌」に掲載されていたものをまとめたものだそうです。紹介されている立ち食いそば屋は全部で25店。まぁ全部東京都内の店なのでちょっと行ってみようかということもできませんが。


読みながら、なんだかこそばゆい思いにとらわれてしまって、それはなんだと考えてみたら、各々の立ち食いそば店に対する平松さんの思い入れというか、そのほめそやし方がなんだかこそばゆいんですね。出汁、天ぷら等の種物に対する真剣な態度ということをさかんに言うんですが、ほんとかいなという思いをぬぐいさることができません。もちろん噓ではないと思うんですがね。


ちょっと、この平松洋子という作家の文章が鼻についてきたのかも知れません。平松洋子の食のエッセイをそれこそ何冊も読んできたんですが、こうして人は平松洋子にはまり、その後卒業していくんでしょうかね。


そんなことを考えながら読んでしまいました。平松洋子、もういいかな…。