司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

「法定相続情報証明制度(仮称)」の問題点

2016-08-23 12:23:16 | いろいろ
 導入が検討されている新しい制度の最大の問題点は,省令の改正(不動産登記規則の一部改正)によって行われようとしている点であろう。仮に導入を進めるとしても,本来法律マターであるべきだからである。

 「法定相続情報証明制度(仮称)」は,被相続人を「本籍,最後の住所,氏名,生年月日及び死亡年月日」で特定した上で,その法定相続人全員について「本籍,住所,氏名及び生年月日」及び「法定相続分」を記載した書類を,法務局が認証文を付与して証明するものであるようだ。

 いわゆる戸籍謄本又は戸籍事項証明書等,住民票の写し又は住民票記載事項証明書等で公的に証明されるべき事項に関して,新たな「証明書」を創出するものなのである。

 戸籍法は,「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する」(第1条第1項)とし,「前項の事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする」(同条第2項)と定めている。

 法定受託事務には自治事務に比して国の強力な関与の仕組みが設けられているが,自治事務と同様に地方公共団体の事務であり,「受託」という名称に関わらず,国の事務が委託の結果,地方公共団体の事務になったと観念されるわけではない,と解されている。

 戸籍事務は,「第1号法定受託事務」であり(戸籍法第1条第2項),これは,「法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」であるが,事務の主体は,あくまで地方自治体である。

 したがって,戸籍の記載事項や住民票の記載事項に関する新たな「証明書」制度を創出するのであれば,戸籍法や住民基本台帳法の改正又は特別法の制定によるべきであって,省令,しかも不動産登記規則の改正によるというのは,妥当ではないであろう。


 百歩譲って,不動産登記規則の改正の線があるとすれば,相続登記を複数の登記所に申請する必要がある場合に,最初の登記所が相続戸籍関係書類を審査し,相続関係説明図に認証文を付与した場合は,後続の2か所目以降の登記所においては,当該認証文付き相続関係説明図を添付することで足りる(相続戸籍関係書類の添付は要しない。),という取扱いをすることは可能であろう(ここまでは,構想の内であるが。)。

 しかし,その後,金融機関等が,預金の払戻しに際して,相続戸籍関係書類を要求せず,当該認証文付き相続関係説明図でOKという取扱いを自己責任で行う分については,どうぞ御随意に(法務局は関知しない。),ということになろう。


 「相続登記の促進」という国家的目標に向けて,様々な施策が講じられるのはよいことであると思うが,今般の「法定相続情報証明制度(仮称)」については,上記のとおりの「法律マター」問題以外にも様々な問題があり,原則に立ち返って,戸籍法や住民基本台帳法の改正又は特別法の制定によることとした上で,制度設計を見直すべきであると考える。
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