tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

晩鐘の鳴る里(4)

2007-09-08 18:49:57 | 日記
「私ね、仕事始めたの。翻訳の仕事」
こんな田舎の町でも、都会に本社を置く翻訳会社などと契約すればフリーとして働けるようだ。E-メールを活用して仕事の請負を行っているらしく、パソコンがないとどうにもならないらしい。収入は、原稿用紙1枚あたりいくらという出来高制と彼女は言う。
以前、タツヤの携帯に夜、久美子から電話が突然かかってきて驚いたことがあった。当時は、アルバイトで翻訳の仕事をしていて、訳せない部分があって困ってしまったとのことだった。
「機構の説明などで、『アームAは紙面と直交方向に動く』のような言い回しがよくでてくるでしょ。これを英文でどう表現するの?」
久美子が調べた範囲では、『電界に直交』とか『支柱Bに直角』というのはあったが、『紙面に対して~』というのは探しても見つからなかったらしい。
「”The arm A moves in the direction orthogonal to the plane of the illustration.”って訳したけど、合ってる?」
電話口で、久美子は泣きそうになりながら聞いてくる。たかがバイトなのに、そこまで真剣にやる久美子が彼女らしいといえばそれまでだが、相変わらずだなとタツヤは思った。
たまたま、国際会議で研究発表を予定していて、似たような表現を用いた資料をパワーポイントで作ったことをタツヤは思い出していた。たしか、教授にセリフをチェックしてもらって、表現を直してもらったはずだ。
資料を探してみたら、”The lengths of fiber lie perpendicular to the plane of the sheet.”と書いてある。
だから、『紙面に対して直角』は、
<”The arm A moves in the direction perpendicular to this figure of this paper.”でOKじゃねえか>
と久美子に伝えた。電話の向こうの彼女はすごく喜んでいた。だが、それでも翻訳はまだ半分も終わっていないようだった。
<いつも徹夜になる>と、そのとき久美子が言ったのを思い出していた。

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