今月は高槻がモンゴルに行ったので、観察会は27日と遅くなりました。8人の人が参加してくれました。
鷹の橋のところにミズキがあります。初夏に白い花を咲かせていましたが、それが白っぽい果実になっていました。
「秋になると黒に近い紫色になって、果柄が赤くなるので、コントラストがあってとても目立つようになります。黒は人の眼にはあまり目立たないのですが、鳥は見える波長が違うらしく黒が目立つことが実験的にわかっています」
中央公園の脇を歩きましたが、あまり花はありませんでした。今年は8月に入って雨がよくふったせいかキノコがとても多く、また歩道にカビなのか白い模様のようなものもよく見ます。涼しくなったので秋になったのと間違えてキノコが出たのではないかという声もありました。
久右衛門橋のところはいつもなんかの花があるのですが、今日もヤブミョウガ、ミズヒキ、オニドコロなどが咲いていました。ミズヒキは去年も説明したのですが、次のような説明をしました。
「ミズヒキは赤い花ですが、実は花の下のほうは白いんです。だからこうなります」
と1本は上側を見せ、もう1本は下側を見せました。
「おお!ほんとだ」
「これを紅白のめでたさとして贈り物に添えたのだと思います。それを芸術心のある人が抽象化してあのデザインにしたんですね。すばらしいと思います。」
「それからタデ科の特徴として、葉や花の付け根が鞘になって茎を抱いています。このあたりにもあるイヌタデだと花がくっついて咲きますが、ミズヒキは離れてつくので印象がかなり違います。でもちゃんと鞘があります。」
そこにトクサがあったので、爪を磨いてみました。
その先は初夏にホタルブクロが咲いていた場所ですが、探すとアズマネザサの中に枯れた花がありました。見ると花筒はなくなっていましたが、萼が花の時期よりは大きくなってレースのように葉脈が見えていました。
ホタルブクロの萼(豊口)
ヒヨドリジョウゴの花が咲いていましたが、気の早いのは果実をつけていました。
「ヒヨドリジョウゴは果柄が段々構造になっていて、「モビール」のようです。小さい果実ですが、よく見ると萼がちゃんと5枚あって「ミニトマト」という感じです」
ヒヨドリジョウゴの果実(豊口)
そのあとはこれというものはありませんでしたが、津田塾大学の南側にムラサキシジミがいました。この蝶は幼虫がカシ類の葉を食べるので、シラカシが多いこのあたりにいるのは納得ができます。翅を閉じて裏側しか見えなかったのですが、表側は鮮やかな青です。
あとでムラサキシジミの翅を開いたところを見ました(豊口)
鎌倉橋を超えると柵の中に何ヶ所かマヤランが咲いていました。
マヤラン
キツネノカミソリとヒガンバナもありました。これらはユリ科で、花が咲く時に葉がないという点で共通です。ただしキツネノカミソリのほうは春に葉が出て枯れてから開花、ヒガンバナのほうは花が終わってから葉が出るという違いがあるそうです。
キツネノカミソリとヒガンバナ
すごいトゲトゲのイモムシがいました。ルリタテハの幼虫です。
ヒヨドリが枝にとまっていましたが、逃げようとしません。そのまま行こうとすると、飛び立ちました。同時に
「ひながいる!」
という声がします。見ると嘴(くちばし)の黄色いのが2羽、ぴったりとくっついています。さっきのヒヨドリはこのひなを見守っていた親鳥に違いありません。
ヒヨドリのひな
その先にヌスビトハギがありました。
「まだ果実にはなっていませんが、見てわかるように、いわゆるマメの花です。このメシベの子房が発達したのが鞘に入った「豆」なわけです。エンドウなどは数個の種が入っていますが、ヌスビトハギはこれが2つだけで、しかも鞘が大きくくびれています。これがドロボウの足跡だっていうわけですが、どうもよくわかりません。私はサングラスに似ていると思います」
ヌスビトハギの説明
というとみんなが
「そのころ、サングラスがあるわけない」
ともっともな意見。
リーさんが
「泥棒が地下足袋を履いた足で、音を立てないように爪先立ちして歩くと、先だけの足跡が地面についてこういう形になるということじゃない?」
「そうか、なるほど、そうかもね」
ヌスビトハギの花と果実(豊口)
商大橋の近くにセンニンソウがありました。ヘクソカズラ、オニドコロなども。つる植物が多いのは林縁の多い玉川上水の特徴といえます。
「センニンソウはClematis属のつる植物で、クレマチスという園芸植物があるし、テッセンというのもありますが、あれもClematisです。」
リーさんが
「果実の毛が仙人のヒゲみたいって言うんでしょう?」
「そう、種子の先に鳥の羽みたいな毛が生えていて、これがひとつの花に4本あって、たくさんの花があるから、光があたったとき、とても印象的に輝きます。それが仙人のヒゲみたいだというわけです」
センニンソウの果実(2016.12.4, 玉川上水)
「センニンソウはキンポウゲ科ですが、同じ科にオキナグサというのがあります。これで思い出すのは、関野先生がグレートジャーニーのときにモンゴルで出会ったプージェーという少女のことです。その子ははじめ関野先生をきらいで、無視するんです。<私は羊の世話が忙しいの、邪魔しないで>という感じです。そのプージェーが<この花にはかわいそうだけど、でも羊が元気になるためにはしかたないの>と言うんです。長い冬のあいだに体力をなくしている羊が春の最初に食べるのがこのオキナグサなんです。とてもきれいな花です。それを知っている少女はきれいな花だけど、羊が生き延びるためには食べられてもしかたがない。羊が生きるということはそういうことなのだとわかっているわけです。羊がいなければ自分たちの生活もない。
モンゴルのオキナグサ2種
それは都会住まいの私たちが忘れがちなことだけど、私たちだって同じこと。生きるということはほかの命をもらうこと。プージェーのあのことばは忘れられませんね。最終的には心を開いて関野先生と仲良くなるんですよね」
関野先生はいつものように微笑みながら聞いていました。
「そのオキナグサという名前も、センニンソウと同じように花が終わると果実に長い毛があるので、それがおじいさんの白髪のようだというわけです」
オキナグサの果実(2006.6.15, 八ヶ岳)
センニンソウとオキナグサの説明(豊口)
その後、野草保護観察ゾーンに着きました。ここで今日の調査の説明をしました。昆虫は8群に分けることにし、それぞれの説明をしました。
訪花昆虫のタイプわけ
花はシラヤマギク、ワレモコウ、ツルボ、ヘクソカズラ、センニンソウ、ノアザミ、オミナエシ、ツリガネニンジンなどが咲いていました。今日は訪花昆虫の調査を予定していたので、その意味の説明をしました。花はさまざまな昆虫を受け入れる皿形、長い吻(口)をもつ昆虫限定の筒型に分けられます。皿形はワレモコウ、ツルボ、センニンソウ、オミナエシ、筒型はヘクソカズラ、ノアザミ、ツリガネニンジンで、シラヤマギクは筒型ではありますが、筒が浅いので吻の短い昆虫も吸蜜できるようなので、中間型としました。
ここまでで、だいぶ時間が経ってしまったので、8種の花を選んで10分間の記録をとってもらいました。
記録する参加者(豊口)
記録としては短時間でくりかえしもとっていないのですが、それでもクサギにはガやチョウが来て、ツルボにはハエが来るなど、筒型の花には長い吻(口)の昆虫、皿形の花にはハエなど吻の短い昆虫が切る傾向は垣間見えました。
皿形の花
アキカラマツ・ハチ(クマバチ)(豊口)
オミナエシ・ハチ(豊口)
オミナエシ・ハチ(豊口)
オミナエシ・ハエ
中間的な花
シラヤマギク・甲虫(クロウリハムシ)(豊口)
シラヤマギク・ハチ(豊口)
筒型の花
クサギ・蛾(オオスカシバ)(豊口)
クサギ・蛾(ヒメクロホウジャク)(豊口)
クサギ・蝶(カラスアゲハ)(豊口)
クサギ・蝶(ナガサキアゲハ?)(豊口)
それにしても豊口さんの撮影はすばらしい。
最後に少しまとめのような話をしました。
「いま私たちは玉川上水花マップ作りという活動をしています。もともと40キロあった玉川上水はいまでも30kmあります。ここに100ほどの橋があります。ここを毎月分担して歩いて代表的な花を撮影して、どの橋とどの橋のあいだにあったかを記録してきました。それは膨大なデータで松岡さんに手伝ってもらって冊子を作ることになりました。この活動はとてもおもしろく、やりがいがありますが、でも、あったことを示すだけです。それに比べると今日のような調査はその、存在する花がどう生きているか、どういう花の構造をもって授粉のためにどういう昆虫をひきつけているか、という生き物のつながりをあきらかにします。それは、ただあることを示すのとは大きく違い、深い意味があります。そのほかにも種子をどう広げるか、種子ではなく地下茎などで増えるなどのこともあります。そうした生き物の生きているようすを示したいと思っています。
そもそも、こんなに自動車がびゅんびゅん走っている五日市街道沿いにこんなに豊富に野草があって、昆虫がいるということ自体が驚きなわけです。そのことを多くの人に知ってもらいたいと思っています。」
今日は虫媒花にくる訪花昆虫を調べたのですが、私は少し時間をとってオミナエシを観察しました。そのとき、花と花のあいだにクモの巣があり、クモがいました。もちろん吸蜜ではなく、吸蜜にくる昆虫を待ち伏せしているわけです。ハチが近づいたとき、すばやく反応していました。ここにも生き物のつながりがあります。豊口さんもワレモコウにクモがいるのを撮影していました。
オミナエシで待ち伏せするクモ ワレモコウで待ち伏せするクモ
記念撮影
今回も豊口さんの写真を使わせてもらいました。ありがとうございました。
追記 訪花昆虫の結果
訪花昆虫は観察会で9セットのデータをとりましたが、その後豊口さんがひとりで7セットをとってくれました。下の表がその結果で、表の上に筒状の花、下に皿形の花を、それから左側に吻の短い昆虫、右側に吻の長い昆虫をまとめました。筒状の花とは、花に細い筒があってその奥に蜜があるので、吻の短い昆虫には蜜が吸えない構造になっています。皿形の花はそうではありませんから、誰でも吸蜜できますが、吻の短いハエやアブにはありがたい花ということになります。
そうすると、予想されるのは筒型には吻の長いハチやチョウが多く来るだろう、皿形にはおもにハエやアブが多く来るだろうということです。
表には種ごとに結果を示していますが、下に強引ではありますが、合計値を書きました。そうすると短吻の昆虫はたしかに皿形の花に多く来ていました。甲虫は筒型のほうが多いですが、いずれもキク科で、シラヤマギクは筒状ではありますが、筒が短いタイプなので、甲虫も吸蜜可能ではないかと思います。一方、長吻の昆虫は筒型にも皿形にもよく来ていました。ハチは皿形のほうが多く、チョウは筒型のほうが多いと、まちまちな結果でした。吻が短いほうは、筒型は吸蜜できないが、長いほうはどちらでも吸蜜できるのでありうることですが、それだけではなく、吻が短いほうは、筒型は吸蜜できないが、長いほうはどちらでも吸蜜できるので、この結果はありうることですが、それだけではなく、ハチにもいろいろいるので、もう少し細かな類型が必要なのかもしれません。
実感としては、同じ花でも、空が曇ると昆虫がパタッと来なくなるなど、なかなかデリケートでした。ですから10分間の調査だけでは結論めいたことはいえないなという感じがしました。それでも短吻昆虫が筒型に来ないで、皿形に来るということは十分に読み取れるようです・