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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

高槻研 ×「伝える」 奥津

2015-03-07 20:55:17 | つながり
奥津 憲人

 私は今教員として働いている。動物園の飼育員や自然科学の番組作成に興味を持った時期もあったが、教職に就こうと決心したのは高槻先生と出会ったからだ。
 私が高槻先生と出会ったとき、高槻先生は「教育に興味がある」とおっしゃっていた。大変失礼なことだが、私は、大学教授は研究者であるため「教育」に強く関心を持っている方はそうそういないと思っていた。だからこのことは私にとって衝撃であった。そして同時に嬉しかった。教職に就こうと考えていた当時の私にとって、自分の選ぶ道を肯定してくれたような気がした。だからこそ、私は高槻先生の下で学びたいと思った。
 私が教職に就くことを決心したのは、野生動物学研究室で研究の「面白さ」だけでなく、「伝えることの大切さ」を感じたからだ。もともと生物のことが好きだった私は、野生動物の研究をし、生態などを知ることに魅力を感じていた。そして、野生動物学研究室で活動を続けて行く中で、面白さだけでなく、知ったことや解明したことを「伝える」ことの重要性を強く感じるようになった。研究を続け、何かを解明することはもちろん重要である。しかし、その解明したことを人に伝えるということは、まるで研究結果に息を吹き込むように、その意義をさらに高めるとても重要なものであると感じたのだ。
 それを最も強く感じたのは、大学3年時に「日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場生態モニタリング調査報告会」で講演をしたときである。私が卒業研究の舞台としていた「日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場(以下、谷戸沢処分場)」は、東京のごみを埋め立てているごみ処分場の跡地であった。ごみの埋め立ては10年以上前に終わっており、廃棄物の上にシートや土をかぶせ、自然環境を回復させる取り組みがおこなわれ、現在では絶滅危惧種を含め様々な動植物が生息している。しかし「処分場」という施設の性質上、地元住民の中には谷戸沢処分場の存在に対して強く反対する方もいるようだった。そんな中、私は卒業研究について、谷戸沢処分場で長期にわたっておこなわれてきた生態モニタリング調査の報告会で講演をする機会をいただいた。この講演は私にとって初めて大人数の前でおこなう講演で、とても緊張したのを覚えている。報告会当日、会場には「処分場反対派」の方も聴衆として参加しているということを耳にした。そのことで私はさらに委縮してしまい、結果的には非常に粗末な講演だったように思う。講演の最中に聴衆の一人から「もう少しゆっくり話してほしい」と言われてしまうほど、上手くいかなかった。私は深く落ち込むとともに、「伝える」ことの難しさを痛感した。ところが終わってみると、とても驚くことが起きた。終了後に参加者に話を聞いてみると、処分場に反対していた方からも「大学生がこういった場所を利用して研究をすることはいいことだ」「報告会をやってよかった」という肯定的な意見をいただいたというのだ。このとき、私は「伝える」ことの重要性を強く感じた。私の研究は、人間の管理と野生動物との関係を調べたものであり、社会に伝えて活用しなければ何の意味もないものだ。うまく伝わっていないかもしれないが、誰かに伝えようとしたことで研究に意義が生まれたように思えたのだ。そう思ったのは、私が保全に関して研究をしていたからだろう。保全は地元住民の協力が不可欠である。だからこそ、今まで反対していた方が私たちの取り組みを評価して下さったことは、とても意味があると思った。また、それと同時に、私はとても嬉しくなった。自分の説明で、もちろん他の方々が素晴らしい講演をされたからだとは思うが、そういった考えをしてくれるということは、ムズかゆいような気持ちと同時に、達成感があり、実に楽しいものだった。だからこそ私は研究する立場ではなく、「伝える」立場である教職に就こうと決心した。
 今私は教員として、改めて伝えることの難しさを感じている。生徒にとって、私が伝えることは人生に関わる。その責任は大きく、どんなことを伝えたらよいのか日々頭を悩ませている。また、全員が関心を示すわけではないということも難しさの一つだ。しかし、だからこそ「面白い」と感じる部分がある。どのような生徒に育っていくのか、どのような人生を歩むのか、どのような社会にしてくれるのか、そんな想像しながら生徒たちと向き合うことは、とても面白い。正解はなく、ゴールもないことであるが、大きなやりがいを感じている。
 野生動物学研究室で学んだことは、どれも今の私にとって不可欠のものだ。自然に対する興味のもちかたやその調べ方。ただ調べ、知るだけではなく、その成果を伝えることの重要性。そして何より、教員という職業を選べたこと。どれも高槻先生に出会えたからだ。高槻先生の下で学べたことを、とても幸せに思います。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
(2011年 麻布大学卒業)
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