高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

あの頃の高槻さん 内山

2015-03-07 19:55:37 | つながり
内山 隆
 私は昭和51年4月(1976年)東北大学理学部生物学科の飯泉研究室の学部研究生として、生物棟6階北側の部屋に入りました。同室の辻村さんが「北地」と命名された部屋には、男性ばかりのH(穂積さん)、O(大久保君)、K(菊田君)、U(内山)、T(辻村さん)が居て、南側の部屋に居た高槻さんとお会いしたのは、金華山に出かけられていたためか他の方たちより少し後だったと思います。当時の飯泉研は、たくさんの教員・学生を抱えており(21名)、高槻さんは院生の筆頭でした。
 翌年、私は大学院に入学し、昭和57年3月に修了するまでの6年間と大学院研究生の半年を、あの青葉山で過ごしました。その間、高槻さんには公私にわたり大変お世話になりました。卒業後、お会いする機会があまりなかったのですが昨年(2013年)は、山形大の辻村さんの最終講義と、飯泉先生の墓参でお会いできました。1月30日山形に向けて乗り込んだ新幹線の中で「内山さん」とソフトな声があり、そばに高槻さんが立っておられました。「偶然ですね!」といいますと「必然だよ」との返事、あの頃の高槻さんが出現しました。
 いろいろな話のなかで、2011.3.11に触れた時、フィールドとしていた太平洋岸の人々への思いや原発事故後の変わらない現実への戸惑いを共感できたように思います。私の投稿論文と編集者とのやりとりの話に対しては、高槻さんご自身は査読者の要求を相手にせず、さらに審査の厳しい別の雑誌に切り替えて、受理されたとのことでした。高槻さんの戦う姿勢と前向きに問題を解決する能力の高さに敬服しました。
 あの頃の研究室セミナーで発表された高槻さんの資料に、「金華山島における野外セミナーの調査報告」があります。1976. 6.4の数字の9がギリシア数字のロー(ρ)に似た洒落た字体で書かれています。また、シカの利用する植物の説明に集合のベン図を利用されていました。同年、10月28日のセミナーでは「ナガバヤブマオとハンゴンソウとの種間関係に及ぼすニホンジカの影響」とあり、春に食害を受けたヤブマオが、晩夏には再生芽によって優占種であったハンゴンソウを凌ぐようになることが、高槻さん自作のシカの押し印付きの資料に記されています。(このレジュメは添付しました)。流れるような字体と簡潔な記載、上から4行目の修正部分「ある場合には」には丁寧さも感じられます。



 飯泉研のセミナーは発表内容が多岐にわたっており、私にとって毎回、理解が及ばない経験が続いていたように思います。今、振り返ってみてもモーリッシュ*の肖像画が睨んでいる会議室でのセミナーは、緊張した雰囲気に包まれていました。その中、高槻さんの発表資料はセンスの良さと、ほんとうに好きな研究をしている者のしなやかさを感じたものです。
 岩手県の五葉山のシカの調査に参加した時、山小屋で地図を照らしていた私に、懐中電灯の位置を変えるよう「もっと光を」、「ゲーテ最後の言葉だよ」と言われました。また、コンサイスの英語辞書にある「pony tailのイラストが可愛い」とか、何気ない会話にも博識さと親しみやすさを感じたものです。
 山形大学の辻村さんの最終講義では、大教室の前列中央に高槻さんと座ってしまいました。辻村さんもやりにくかったと思います。講義の後で、高槻さんはしつこく?質問をされましたが、あの頃の「タカツキ」「ツジムラ」と呼び合う信頼関係が再燃していたのではないでしょうか。あくまでも前向きで、弱音とは無関係な姿勢は昔と変わらず、お会いしてもしなくても、高槻さんが醸し出す雰囲気は私の中で健在です。多方面に興味をもたれ、動植物以外にも音楽、イラスト、書道などの技能や博識ぶりは『唱歌「ふるさと」の生態学』に結晶しているようです。
(1981年 東北大学大学院博士課程修了)

*モーリッシュというのはハンス・モーリッシュで、東北大学の初期のオーストリアから来た「お雇い教授」です。彼が来日したとき、文部省の役人が「先生、仙台などに行ってもろくな文献もないので、東京大学におられたほうがいいですよ」と言ったとき、「私は文献を勉強するために来日したのではない。私は自然そのものから学びに来たのだ」と言って仙台に来たという話が伝説のように伝わっている。私はこの話がとても好きだ。生物学教室の会議室にはこのモーリッシュ先生の肖像ががあり、威厳のある顔で睨むように部屋を見おろしていた(高槻)。


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