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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

高槻成紀さんと乙女高原

2015-03-07 09:57:25 | つながり
植原 彰

■高槻さんとの出会い…の前に、乙女高原の紹介
新宿から中央線特急で1時間半。塩山駅に降り立つと空気感が違います。そこからさらに車で1時間走ると、そこはもう別世界。下界が40℃近い日も気温が30℃を超えません。涼しい風が頬を撫でます。

 私たちのフィールド乙女高原は山梨県の北部、秩父山塊の懐にあるプチ草原です。標高1700m草原部分の面積は10ha弱。古くから地域の採草地で、晩秋に地元民が草を刈り、運び出していましたが、1951年からはスキー場として整備するために、やはり晩秋に草刈りが行われてきました。草刈りによって遷移が阻まれ、亜高山性の多様な植物が花を咲かせる、美しい草原景観が保全されてきました。
 2000年にスキー場が閉鎖され、草刈りの継続が危ぶまれたとき、豊かな生物多様性が目の前で観察できる乙女高原の自然を次の世代にバトンタッチしていこうと、 ボランティアを募っての草刈りが始まりました。こうして行政と協働し地域の自然を守っていこうという乙女高原ファンクラブが誕生しました。現在会員数は660名です。

■高槻さんとの出会い…乙女高原フォーラムにて
 御多分に洩れず、乙女高原もシカの食害が顕著になってきました。乙女高原ファンクラブでは年に一度、「自然と付き合う達人」を招いて乙女高原フォーラムというイベントを開催していますが、現麻布大学の南 正人さん (2007) や東京農工大学の星野義延さん (2009) らを招いてシカにどう対処していったらいいかをみんなで勉強したり、小さなシカ柵を設置して (2010.5) その後の様子を見守ったりしていました。さらなる勉強が必要だと考え、高槻さんに講師をご依頼したところ、快く引き受けてくださいました。2011年2月6日、第10回乙女高原フォーラムで高槻さんが話の最初におっしゃったことがとても印象に残っています。「わたしにシカ問題解決の処方箋を期待しておられるとしたら、それはダメです。シカについて教科書的な勉強をしてノートにいっぱい取って帰ろうと思っても、それも期待に沿うことはできません。わたしのお話で、この問題はとても難しいということを理解し、どう難しいか、それを考えるきっかけにできればいいかなと思います」

※フォーラムでの高槻さんのお話、詳しくは…植原編著『乙女高原大百科』乙女高原ファンクラブ、2013、p316-

■高槻さん、乙女高原にハマる(?)
 高槻さんが「乙女高原を調査フィールドにしたい」と提案してくださいました。具体的に言うと、乙女高原のシカ柵内外の植生調査やシカの糞分析によって乙女高原のシカの生態を探り、乙女高原の保全に役立てよういうもので、研究室の学生さんが卒業研究として取り組む計画でした。今だから正直に言いますが、大学の先生ってご自分の研究や学生さんの指導が忙しくて、地域の自然保護団体と一緒のプロジェクトなんて二の次になるんじゃないかと思っていたのですが、違いました。高槻さんは言ったことはさっとやる先生でした。
 2012年5月14日、予備調査をすることになり、高槻さんが研究室の学生さん4人を連れて電車で塩山駅に到着。乙女高原ファンクラブの3人で出迎え、さっそく2台の車に分乗して出発しました。乙女高原へ初めて大学の先生をお連れするのですから、こっちも緊張しました。途中、サワラの学術参考林やら姥栃の清水やら、いわゆる見所で車を止めて案内するのですが、高槻さんはすぐにまわりをウロウロし始め、「お、このカエデは…」「ヤマエンゴサクが咲いているよ」…と、完全に自然観察モード。自然を観察するのが楽しくて仕方ない、休憩なんて時間がもったいないと、ほんとに生き生きしてました。
 びっくりしたのは「カラス・ダッシュ」。途中の森で、数羽のカラスが飛び立つのが見え、何やらやかましく騒いでいます。と、高槻さん、カラスが飛び立ったあたりを目指して猛ダッシュ。そこには大きなメス鹿の死体が横たわっていました。「いやー、金華山でよくあるんですよ」高槻さんは自然を「観る」だけでなく、「読む」ことができるんだと思いました。
 6月19日、初めて「大学の先生の調査研究最先端」を目の前で見られることになりました。まず、柵の中に入り、あらかじめ高槻さんがお決めになった10種類の植物について、1種類について10本ずつ番号札を付け、草高を測定しました。10本10種類ですから合計100本になります。次に、シカ柵の外でも同じ10種類の植物について10本ずつ番号札を付け、草高を測りました。その後、マークした200本の草高を定期的に測定するのは研究室の高橋和弘さんが行い、それを乙女高原ファンクラブのメンバーができるだけ応援することになりました。7月の調査では、草むらをかき分けて札付きの植物を探すのですが、なかなか見つからない札があり、踏みつけがやがて道のようになってしまい困惑しました。
 2012年の調査から加古菜甫子さんが加わり、自動撮影カメラの設置、方形柵(高槻さん考案)の設置など、より幅広い調査が行われるようになりました。
 2013年からは草刈り時期の違いが植生にどんな影響をもたらすかを調べるための刈り取り実験が始まりました。草原内に10 m四方のコドラートをいくつか設定し、それぞれ「6月のみ刈り取り」「9月のみ刈り取り」など草刈り時期を決めました。また、加古さんは花と昆虫のリンクという視点から、遊歩道を歩きながら出会った全訪花昆虫を記録するという調査も行いました。
 高橋さんと加古さんの研究成果は、それぞれ乙女高原フォーラムで発表してもらいました (2013、14)。「花の数がシカ柵の中と外で100倍も違う」というショッキングな事実も公表されました。研究が地域に還元されました。乙女高原の保全のための、貴重な裏付け資料になっています。

■高槻さんの魅力
 反応が早くて速いところです。メールにしても、レポートにしても、論文にしても。それは、使命感と誠実さに裏打ちされているんだと思います。
 研究だけではなく、その先にある教育や自然保護など「社会の課題」についても精力的に取り組まれているところです。東日本大震災への「がんばれナラの木」やスリランカ津波への「ゾウさん基金」、生きもの教育への取り組みもそうです。教科書会社が発行する雑誌などで生きもの教育についての論考を発表されています。2012年秋の「生きもの教育シンポジウム」にはニコルさんや大西さん、多田さんと一緒に私も出演させていただきました。2013年夏には、私が勤務する小学校で企画した「夏の自然観察クラブ」に幾人かの学生さんを誘って参画してくださり、雨の乙女高原で子どもたちに自然の魅力を伝えていただきました。
 乙女高原への取り組みもそうですが、大学を飛び出して活動しているところが高槻さんの大きな魅力です。
大学に職があるときからすでに大学を飛び出していたのですから、今後はますます(気兼ねなく?)外に飛び出ることができると思います。とはいえ、生物たるもの年齢には逆らえません。うまくバランスを取りながら、今後もますますご活躍ください。期待しています。乙女高原へも、いつでもおいでください。メンバーみんなでお待ちしています。
(乙女高原ファンクラブ代表世話人)

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