高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

高槻先生との出会い~自然科学の面白さを伝える~ 清水海渡

2015-03-07 10:00:44 | つながり
清水 海渡
 私が、初めて高槻先生を知ったのは高校生の頃である。岩波書店発行の「歯から読み取るシカの一生」と岩波ジュニア新書の「野生動物と共存できるか」を読んだことがきっかけであった。本には、フィールドでの発見やその時の感動したことなどが鮮明に描かれており、研究がどんなことであるか、まだ分からず、この世界の入口に立ったばかりの私には、とても刺激となった。その後、私が高槻先生と直接お会いすることが出来たのは、大学3年生の時である。高校生の頃、共に地学研究部で活動しており、野生動物の調査・研究を始めた奥津憲人が、麻布大学野生動物学研究室へ在籍するようになった。私自身は東京農業大学に進学し、やはり野生動物学研研究室に在籍していた。
 大学3年生(2010年)のある日、奥津から電話があり「今度、カヤネズミについてのセミナーあるけど外部の人も聴講OKだから来ない?」と誘われ、当時、小型哺乳類ばかり追いかけていた私は喜んで出席させてもらった。また、私、奥津と共に高校生時代に、動物の調査を行い、当時、首都大学東京の動物生態学研究室に在籍していた松山龍太も一緒に参加した。高校生時代の野生動物三バカトリオが揃って麻布大学野生動物学セミナーを訪れた瞬間であった。
 2010年10月18日に行われた野生動物学セミナー“川原で遊ぼう会”の辻淑子氏による「カヤネズミと市民活動による野生動物保全について」のお話を聞くために、その時、初めて麻布大学野生動物学研究室へ伺った。辻氏のお話は、カヤネズミの魅力に始まり、市民活動の面白さと難しさ、カヤネズミの生態にあう草刈りの方法、行政との関係性、そして地元住民との関係性についてだったことを今もよく覚えている。特に印象深かったのはカヤネズミとその生育活動を保全する中で、行政と調整してやっと保全したカヤ場を地元の方が御厚意で刈ってしまい、川原という公共の場所で保全していく難しさに直面した話であった。私は、自然環境を抱える都市公園の管理運営に携わっているため、まさに今、この話を身に染みて痛感している。
 セミナー終了後、研究室で懇親会があるので参加しないかと高槻先生ご本人から誘っていただき、遠慮のない私と松山は喜び勇んで参加させて頂いた。私が、研究室に行って、まず驚いたのは“アットホームな雰囲気”であった。学生手作りの料理が机にズラっと並べられており、そこに先生と学生、講師の方達に加えて、私たちのような一般聴講者も混ぜて頂き、仲良く並んで懇親会が始まった。他大学のどこの馬の骨とも分からない私たちに高槻先生はとても気さくに話しかけて下さった。「どんな研究をしているのか。」「今日の話を聞いてどうだったか。」「高校時代と大学で研究がどう変わったか。」などなど、様々な話をさせて頂いた。特に、「高校生から野生動物の調査をやっている学生なんて少ないのだからがんばって研究しなさい」というお言葉が心に深く残っている。また、衝撃的だったのは、先生と学生の意見交換がとても盛んに行われていたことだった。セミナーのテーマについて、聞いてどうだったか、先生と学生が対等な研究者として意見交流を盛んにやっている光景を見て、私自身も参加させて頂き、非常に有意義であったこと、また、感動したことを覚えている。
 それから、私は東京農業大学を卒業し、一年間は(財)進化生物学研究所で研究補助員をしながら、ふらふらとしていた。その後、ひょんな事から県立津久井湖城山公園で自然解説員として勤めることになった。その傍ら、学芸員実習でお世話になった相模原市立博物館で秋山さんに声を掛けていただき、博物館の動物冷凍遺体の標本処理を手伝うことになった。2014年3月の終わり頃、秋山さんに「今度、麻布でセミナーやるけど来る?」と言われ、大学3年生の頃を思い出しながら「喜んでいきます。」と答えた。そして2014年4月15日、秋山さんによる50回記念「地域の鳥の記録を読み解く」セミナーに出席した。
 ほぼ4年ぶりに参加させて頂いた野生動物学セミナーと研究室での懇親会は変わらず、とても楽しく有意義な場であった。懇親会で話していると、高槻先生から、ふと、「6月に君のセミナーを予定しているのだけど何日にする?」と言われた。突然の話に私は焦り、振り返ると、してやったり顔の秋山さんがいた。断れるはずもなく(断る理由もないのだが…)、私なんかでよいのかと戸惑いながらも、承諾させて頂いた。2ヶ月弱の猶予を貰い、テーマを考えたところ、今博物館で手伝っている「標本の話」をしようということになった。まだまだ経験の浅い私に出来ることは何かと考え、標本の話と共に、野生動物の世界に入るのにどんなことに影響されてどんな道を歩んできたかをテーマとした。私自身、振り返りというものをあまりしてこなかったので、そういった点でも非常に良い機会をいただいた。
 いよいよ、6月10日に、セミナー本番を迎え「標本と語り合う~死体から見えてくること~」というなんとも不気味なテーマで話をさせてもらった。現役の学生や大学教諭達を相手に不気味なテーマで、経験の浅い私に何が話せるか、あまり自信がなかったが、話し終えて学生たちが標本を見ながら、とても楽しそうにしている様子を見て、ほんの少し“自然科学を研究する楽しさ”を伝えられたかなと安心した。また、高槻先生に「彼の様な若い人がこういったことに熱心に取り組んでいることは素晴らしい。」と身に余る言葉をいただき、たいへん嬉しかった。懇親会では、また変わりなく、学生手作りの料理で、もてなしていただき、熱心な学生たちと標本や動物について色々なお話しをさせてもらった。その時、大学院修士1年生の一人でフクロウの研究をしている落合茉里奈が標本作りをやりたいと声をかけてくれた。その後、博物館で標本作りをする際には、落合をはじめとした学生数名が博物館で共に標本作りをするようになった。共に標本作りをしていると、フットワークが軽く、興味あることに打ち込んでいる麻布大学の学生たちは自然科学の楽しさを教えている高槻先生と南先生の学生指導の賜物であろうと感じる。
 高槻先生には、私が学生の頃、現場で仕事を担う人から自然科学の楽しさを伝えてもらう機会を頂いた。次いで、私のような若輩者が学生たちに伝える側になる機会を与えて下さった。高槻先生は野生動物学研究室ご退任の後、麻布大学に残られ大学博物館について御尽力されると聞いている。ぜひ今後もそういった学生と自然科学の楽しさを共有する機会を創っていただき、私も巻き込んでいただけたら嬉しいと思う。そして、また、ご指導いただく機会を頂戴出来たなら幸いである。
(神奈川県立津久井湖城山公園)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高槻成紀さんと乙女高原 | トップ | 高槻成紀さんとの絆:日本の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

つながり」カテゴリの最新記事