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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

高槻先生との出会い 光明

2015-03-07 09:44:13 | つながり
光明 義文
 高槻成紀先生のことを初めて知ったのは、あの『北に生きるシカたち』(1992年, どうぶつ社)であった。北のフィールドで展開されるシカとササとヒトの物語をとてもわくわくしながら読んだ。その当時、高槻先生は東北大のご所属だったが、なんと東大に異動してこられるというではないか。それも鳥類の研究者としてよく知られる樋口広芳先生とともに、農学部に新しい野生生物の研究室をつくられるという。ようやく東大にも動物生態学の風が吹いてきた。そう感じたのを昨日のことのように覚えている。
 高槻先生との最初の仕事は『保全生物学』(樋口広芳編, 1996年)だった。おかげさまでこの本は、保全生物学の教科書として好評となり、いまでも売れ続けている。つぎは『哺乳類の生物学[全5巻]』(高槻成紀・粕谷俊雄編, 1998年)である。このシリーズは、哺乳類学の教科書シリーズとして高槻先生と企画したものである。哺乳類をテーマにするのであれば、どのようなテーマを選ぶにしても、各分野の基礎としてひととおりの知識を身につけてほしいというのが刊行の趣旨であった。実際は、たとえば生態や社会など、自分の興味のある巻だけを読むという若い読者が多いようで、その点は少し残念ではある。そして、大著『シカの生態誌』(Natural History Series, 2006年)。この本は当初、約240ページの本として執筆をお願いしたが、ようやくできあがった原稿は予定の約2倍の量があった。しかし、原稿を読んでみると、いわば「高槻シカ学」とでもいえるような密度の濃い内容だった。そこで高槻先生と相談し、原稿量を削減することなく、たとえ高定価となっても、あえてこのままで勝負しようということになった。幸いこの本もしだいに売れ行きが伸びて、第2刷となった。さらに『日本の哺乳類学②中大型哺乳類・霊長類』(高槻成紀・山極寿一編, 2008年)である。このシリーズは札幌で開催されたIMC9を記念して、日本の哺乳類学のひとつの到達点を示そうということで、当時の日本哺乳類学会の会長だった大泰司紀之先生と次期会長の三浦慎悟先生を監修者にお願いして、全3巻のシリーズとして刊行したものである。高槻先生には、第2巻の中大型哺乳類・霊長類の巻の編者をお願いした。このシリーズでは、そのほかに第1巻は小型哺乳類、第3巻は水生哺乳類をそれぞれテーマとしている。第1巻と第2巻がまったく同じ売れ行きを示しており、第3巻がその少し後を追っている。
 このように、高槻先生には出版という仕事をとおして、たいへんお世話になった。それぞれの仕事には、ここではとても書ききれないような想い出がたくさんある。いまは、あっという間に時間が過ぎてしまったように感じている。高槻先生が東大に在籍されていたころは、しばしば研究室におじゃまして、自然や動物たちのことについて、たくさんのお話を聞かせていただいた。麻布大に移られるとうかがったときにはとても寂しい思いをしたが、まもなく麻布大もご退官されるという。大学人としてはこれで「卒業」ということになるのかもしれないが、高槻先生と自然や動物たちとのすてきなつきあいがこれからもずっと続いていくことを期待したい。
(東京大学出版会)
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