白樺小舎便り(しらかばごやだより)

北信濃の田舎暮らしの日々

思い出に残る山  ***信州百名山82座目堂津岳 83座目東山

2018年06月21日 20時44分31秒 | 登山

 

 

 

1時間以上の藪漕ぎの末、東山の山頂に立った。

百の頂に百の喜びあり。

大変だっただけにその達成感は半端ではない。

ここでもまた白馬の大雪渓が見えた。

この山頂も小さな平で背の低い草が生えていた。

三角点に腰を下ろし、360度の展望を楽しんだ。

風もなく穏やかで、とてものどかだった。

山が快く僕を受け入れてくれている。

無条件でそう感じる。

残雪期以外ではほとんど登る人もいないこの山のことを、信州百名山の著者清水栄一はこう記した。

『その山頂を遂に踏み得た時の歓びは大きかった。頂は全く人の手に汚されていない処女の峯だった。~(略)もうこんなに風格のある、こんなに清純な山は日本には数少ないのではないかしらと、つくづく思いながら、その静かな山頂から、うすもやに霞む後立山の連嶺や、堂津にはじまる頚城山塊の山々の眺めを楽しんだ。~(略)眼下に拡がる小谷の村里や、白馬三山の眺めに私は時の過ぎるのを忘れた。』

これ以上何を語ることがあろう。

僕は本だけで言えば、日本百名山よりも信州百名山の方が数倍も好きだ。

さて戻ろう。

 

 

 

 

 

 

藪の中にも楽しみはある。

 

 

あの稜線を越えていく。

 

 

 

 

登りでタケノコ採りのおじさんと出会った下山口のT字路まで戻った時に、下から一人の女性が登って来た。

シラネアオイを見たいという。

滋賀紫山方面か、堂津岳方面かまだ決めてない。

東山方面には長い藪漕ぎの末二株ほどしかなかった。

それも完全な花びらはなかった。

シラネアオイを見るなら堂津岳直下の藪の中しかない。

そのように伝えたが、時間は既に1時半だった。

日が長い時期とはいえ、さすがにこれから行くのは大変だろうと思った。

それでも、こんな山に一人で登ってくる以上、それなりの力量はあるのだろう。

距離は長いですよ、気を付けて、とだけ伝えた。

 

 

稜線から少し下ったところに水場があった。

とても冷たくて何度も飲んだ。

 

 

裾花自然園の入り口に着いた。

ここからは2キロのアスファルト歩き。

 

振り返ると堂津岳が別れを惜しんでいるように見えた。

 

 

 

2時27分に駐車場に着いた。

歩行距離27.19キロ。

 

これまで登った信州百名山の中でも、佐武流山と並んで特に思い出に残る山となった。

 

 

鬼無里の湯に立ち寄り、朝の熊との遭遇から始まる今回の山旅を反芻しながら温泉に浸かっていた。

 

さあ、次は餓鬼岳にでも行こうか、それとも霞沢岳がいいか。

残る17の山は、どれも貴重な宝物だ。大切にしよう。

 

 


僕は至福の時を過ごした***信州百名山82座目堂津岳 83座目東山

2018年06月20日 22時05分42秒 | 登山

 

『堂津岳というのは、全く目立たない山である。それは高妻・乙妻という圧倒的に鮮やかな高峯の隣に位置するためもあるだろうが、里からほとんど見えないということもその原因だろう。~(略)すべて奥深い人跡稀な山の相を示していた。こんな静かな山がまだ人の群がる北アルプスの対面にあるというのは、本当にうれしいことだと思った』

信州百名山の著者清水栄一はこう記した。

その堂津岳がすぐそこにある。

500メートルほどの藪漕ぎの後、ようやく山頂に達した。

時間は7時39分。駐車場を出てから約3時間。

 

そこはちょっとした広場になっていて、真ん中にひっそりと三角点があった。

ダケカンバの樹に堂津岳の看板が括り付けられていた。

ここからの眺望は申し分なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲海が次第に形を変え、高く上がり始めた太陽の光の中で、山々はその輪郭をはっきりさせて行った。

僕はその様を酔ったように見つめていた。

山頂、1,927メートルで僕はそこから見えるすべてのものと一体になっていた。

8時には次の東山へ向かうために元来た道を引き返し始めた。

この藪の中に入っていくのだが、様子が分かっている分、帰りの方が楽だ。

藪の中に咲く花。

藪を抜けると、すっかり晴れ上がった高妻・乙妻が見えた。

奥西山を8時57分通過。

9時半には下降点であるT字路まで帰り着いた。

その時、藪の中でガサゴソと大きな音がした。

僕は慌てて手に持った熊鈴を大きな音で鳴らし続けた。

早朝に大きな熊の姿を見ているだけに、熊だと思った。

熊もタケノコを食料にしている。

何とか、向こうへ逃げてくれればいい。だが、音は反対の登山路の方に近づいてくる。

いよいよ、熊と格闘せねばならない時が来た。

だが、不思議と恐怖心はなかった。

この自然の中で、熊が自ら争いにやってくるとは思えなかった。

それでも身構えていると、姿を現したのはタケノコを手にしたおじいさんだった。

少し話をして、東山へ向かって出発した。

 

 

多分向こうのとがったところが山ノ鼻なのだろう。

東山はまだその先にある。

 

振り返ると先ほど登って来た堂津岳が遠くに見えた。

 

 

 

前方から男性の登山者が現れた。

話を聞くと、山ノ鼻から先は藪がすごくて引き返してきたという。

うーむ、こちらもか。覚悟を決める。

稜線をいったん下ってその先を登り返すと山ノ鼻が近い。

高妻・乙妻がすそ野まで見えた。

山ノ鼻の先はまた下りになって、登り返した先のまたその先が東山。

それもずっと深い藪漕ぎの道。

それでも行くしかない。

手前の偽ピーク。

ようやく東山。

 

 東山、1,849メートル。

1時間余りの藪との戦いの末、ようやくたどり着いた。

時計は11時17分を指していた。

 

ここまで綴ってきたが、写真が多すぎるのか重くてサクサク動かない。

不本意ではありますが、続きはまた明日。

 

 

 


ガスが切れ絶景が姿を現した ***信州百名山82座目堂津岳 83座目東山

2018年06月19日 20時21分30秒 | 登山

 

 

堂津岳へ向かう稜線は根曲がり竹の切り株が竹槍のように地面から突き出ていた。

この根曲がり竹は、この時期がタケノコ鳥の適期。

方々に出ていたが、全行程標準コースタイム約14時間、先を急がねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な高山植物が短い夏を精一杯生きて花を咲かせている。

凝縮された命の輝きがある。

冗漫に生きている自分が恥ずかしくなる。

ここには厳しさと共に凛とした美しさがある。

 

稜線上の小さなピークに三角点がある。

ここは奥西山。

少しのアップダウンはあるが、ほぼ平坦な道。

ガスの切れ間が見え始めた。

突然姿を現したのは雲海の向こうの白馬連峰。

大雪渓も真正面に見える。

僕は基本的に、写真は選びに選んで少なくするようにしているが、今回ばかりは選べない。

 

 

次第に空が澄み渡っていった。

僕はただ言葉もなく立ち尽くしていた。

この絶景を見ただけで、苦労してここまで来た甲斐があるというものだ。

 

時間とともに姿を変えていく光と影。

朝の特別な時間。

目指す堂津岳もかすかに見える。

その先には乙妻から高妻へと続く戸隠連峰の最高峰が見える。

雲海の向こうに本院岳から西岳の、恐竜の背中のようなごつごつした岩峰も見え始めた。

 

 

 

 

もはや何の言葉もいらない。

かみさんは『よほど山の神様に好かれているんだね』という。

天気にしても、こうした景色にしても、僕は恵まれていると自分でも思う。

僕は山と自分が一体になったと感じる。

 

堂津岳手前の急な登りが始まる。

切り立った崖を過ぎると、猛烈な藪との戦いが始まる。

 

背丈をはるかに超える藪をかき分けながら道を探す。

この藪の中でも咲いている花がある。

 

 

 

 

 

 

こんな藪 の中でも花は咲く。

壮絶な藪漕ぎの中でほっと一息ついた瞬間だ。

もう頂上は近い、はずだ。

 

今日はここまで。 

 

 

 

 


熊 猿 壮絶な藪漕ぎ ***信州百名山82座目-堂津岳 83座目ー東山

2018年06月18日 21時56分42秒 | 登山

眼の前を大きな熊が走っていた。

午前4時半過ぎ、狭い山道のカーブを曲がった時のことだ。

車の音に驚いて逃げ出したのだろう。

水芭蕉で有名な鬼無里の奥裾花自然園の駐車場少し手前だった。

熊の毛は固くてゴワゴワしているものだと思っていたが、近くで見るとふさふさしているのが意外だった。

体長1.5メートルといったところだろうか。

不思議と現実感がなかった。

車の中ということもあって、不思議と怖いとは思わなかった。

熊はしばらく車の前を走ってやがて枠の草むらの中へ消えて行った。

ここはそれほど奥深い山の中なのだ。

元々熊たちの住処だったところにお邪魔させていただいているのだということが肌で感じられた。

駐車場について身支度を整え、歩き出すときは、さすがに少しためらった。

だが、決心して歩き出す。

木の上では猿が沢山食事をしていた。

5時少し前は、もうすっかり明るくて、自然界では朝食の時間なのだろう。

用心にために熊よけ鈴を手に持って盛大に鳴らしながら自然園までの2キロのアスファルトの道を歩いた。

この時間、日曜日とはいえ、駐車場には他の車はなく、当然誰も歩いていない。

ここから水芭蕉園への道と分かれ、山道へと入っていく。

熊は用心深い動物だという。

だが、耳の遠い熊がいたらどうしよう、とか、好奇心旺盛な熊がいないとも限らない。

音の正体を確かめに来るかもしれない。

そんなことを考えながら登る。

予定は稜線に出て、右に行き奥西山から堂津岳、引き返して同じ稜線上を左に行き、中西山から東岳、引き返して下山する。普通のコースタイムは14時間30分ほど。

嘗ては藪山のため、残雪期にしか登れない山だったという。

数年前、夏道が開かれた。だが、あまり人が登らず、手入れも頻繁には行われていないらしい。

1時間ほどで稜線に出た。

周囲はガスが沸いて展望は利かなかった。

稜線上は緩やかな上り下りが続く。

根曲竹の切り株が沢山あり、うっかり転ぼうものなら竹やりになって体に刺さりそうだ。

ユウレイダケともいわれるギンリョウソウ。

野沢菜採りの仕事が一段落して、やっと山へ行けるようになった。

信州百名山の先輩は、『あと19も登る山が残っているなんて羨ましい』といった。

そういう見方があるのだなあ。今、自分はずいぶん贅沢な時間を過ごしているのだろう。

 

本日はここまで。

大阪で大きな地震があった。犠牲者の皆さんに心からお見舞いを申し上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


梅雨の晴れ間に

2018年06月09日 20時35分32秒 | 日記

志賀高原のシンボル的な山がある。

笠の形をした、その名も笠岳。国土地理院の地図には笠ヶ岳とあるが、この辺りでは誰もそうは呼ばない。

標高は2,075メートル。

年に数回は表敬訪問と称してこの山に登る。

1,900メートル付近にある峠までは車道がある。

峠の茶屋が登り口。

この峠を越えると山ノ内町になる。

笠岳の後ろ側は熊の湯スキー場がある。県外ナンバーの車が峠の駐車場にたくさん停まっている。

その脇にセローを停め登山開始。

ほとんどが階段状の道になっており、かなりの斜度がある。

後ろを振り返ってみると転げ落ちそうな斜度だ。

標高2,000メートルを超えるとさすがに涼しい。

両側には根曲がりだけがびっしり。今はタケノコ狩りのシーズンだ。

途中の道路脇にはタケノコ狩りの車がたくさん停まっていた。

僕はどうしてももっと高いところを目指してしまうので、タケノコ狩りはほとんど行かない。

毎シーズン、タケノコ狩りの遭難者が何人か出る。それだけ山が深い。

山を登っているとき、ほとんど何も考えていないが、風のにおいや花の色、雲の動きなどが敏感に感じ取れる。

もうイワカガミが咲くきせつになったんだな。

その名もゆかしいツマトリソウ。

白い花びらの中にかすかに緑の色がある。

自然は絶妙な配合を用意するものなんだな。

この自然の中に僕を置いたのも天の配剤なのかな。

とてもよく似合っている、多分。

山頂には誰もいなかった。

距離は550メートル。かかった時間12分55秒。

急な階段の途中で、多くの人は足が上がらなくなる。

僕は今でも恐怖の30日チャレンジスクワットを続けているので、そんなことはなかった。

スクワットは今日11クール18日目、185回。

すなわち、348日間続けていることになる。

毎日5回増える。30日経つと前回のスタート時より5回増えてスタート。

継続は力なり。

大きな岩の上に小さな祠がある。

この山頂に立つと360度の展望が楽しめる。

近くに横手山。

白根山や冬に噴火した本白根山、浅間山、岩菅山も見える。

北アルプスは霧の向こう側。

今回ジェットボイルというバーナーのデビューの日だ。

モンベルに行ってその都度物欲しげに眺めていた。

おいそれとは買えない。消費税抜きで20,000円もするのだ。

だた、収納性がすこぶるいい。

熱効率が革命的。

サーマルクッキングという余熱料理が可能。

それを見ていたかみさんが言った。

『年度末手当てが入ったら10,000円補助するから買ったら?』

そしてようやく手に入れたジェットボイル。

刻んだ野菜と明星チャルメラ、水を持ち山頂で調理してみた。

結果は大満足。

野菜がたくさん入ったチャルメラはとても美味かった。

これを持ち南アルプスの聖、赤石、荒川三山、三伏峠への縦走はいつできるのだろうか。

取り敢えず日帰りでもいい。餓鬼岳へでも行ってみたいものだ。

この山のふもとには山田牧場がある。

確か東洋のサンモリッツと呼ばれている。標高1,600メートル。

夏場は牛が放牧されて、冬はスキー場になる。

更に降ると雷滝という名所がある。

この滝は高さ40メートルくらいあり、滝の裏側を通ることができる。

別名裏見の滝。

この滝の写真をなかなか上手く撮ることができない。

縦構図にするといいのだろうが、天邪鬼の僕はそれが嫌なのだ。

音がすごくて雷のようだというのが雷滝の由来。

夏の暑いときなど水しぶきでマイナスイオンいっぱいで涼しい。

同じ村の中にこんな所があるのはすごく贅沢なのだろう。

田舎暮らしは悪くない。