ミゲル・ゼノン『Identities are Changeable』(Miel Music、2014年)を聴く。
Miguel Zenón (as)
Luis Perdomo (p)
Hans Glawischnig (b)
Henry Cole (ds)
Identities Big Band:
Will Vinson, Michael Thomas (as)
Samir Zarif, John Ellis (ts)
Chris Cheek (bs)
Mat Jodrel, Michael Rodriguez, Alex Norris, Jonathan Powell (tp)
Ryan Keberle, Alan Ferber, Tim Albright (tb)
ミゲル・ゼノンはプエルトリコ生まれ。ここでは、プエルトリコにルーツを持つNY在住者たちへのインタビューを行い、それを音楽の中に切り貼りするという試みを行っている。人の声や雑踏の音をサンプリングして都市の音楽を作り上げる方法は新しいものでもないのだが、ゼノン自身のアイデンティティを探る意思が直接的に出ていて、とても面白い。
1920年代以降、プエルトリコ人のNYへの移住が本格化し、最初はイースト・ハーレムやロウワー・イースト・サイドに、その後マンハッタン島の外に増えてゆき、いまでは約120万人にも及ぶという。この音楽のなかには、ピックアップされた声には、「最初の言葉は」、「スペイン語は、英語は」、「生まれは、育ちは」といった言葉がある。また、プエルトリカン二世・三世も自身のルーツや伝統文化を意識していることに、ゼノンはショックを受けたという。まさにタイトル通り、アイデンティティは単純に血や生まれだけで決まるものでなく、遷移し、二重にも三重にも持ちうるということを示し表現している。日本でもこの手法を使ってみてはどうかな。
ゼノンのアルトサックスは、M-BASEの流れを受け継ぐようなクールなものでもあり、だが、前面にそれを押し出すというより少し引いたような感覚と、強弱の付け方のうまさもあって、なんだかしっとりとしている。ビッグバンドの入れ方にもやや控えめな印象があって、聴いていてリラックスする。